ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は引き籠り-9

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匿名ユーザー

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足の下でノビてる糞ガキの襟首を持ってぐいと引き寄せる。
盆が滑って落ち、見えたクリーム塗れの顔は鼻血垂れ流しで最高に滑稽だった。
こういうのは人質をとるみたいで全く好きじゃないんだが・・・・
ガキにナイフを突きつけないのは、ただオレの『尊厳』を守るためだ。

人込みをかき分けて、久々に見るピンク頭が現れた。

「イルーゾォっ!?」
こんだけ近ければ、問答無用で吹っ飛ばされる、って事は無い筈・・・・貴族のお友達まで一緒に吹っ飛ぶからな。
「ずっと見ないと思ったら・・・・何してるの?!ギーシュに何をしたのよ!」
「平民から貴族様に『いい気になるなよ糞野郎』ってアドバイスしただけだ。知ってたか?オレ達だって生きてる」

ルイズは息を呑む。初めて気づいたって顔だな?
そういえばオレに、『身の回りの世話をしろ』とかって言っていた。
「そんでもってもう少し生きて居たいんだ。帰りたいんだよ。だから『言う事聞かない平民は爆殺よ!』なんて色気は出すな」
何、偉そうに言ったってオレのしてる事は命乞いだ。仲間に知れたらぶん殴られる。
でもオレは何としてでも帰りたかった。オレの居場所は仲間の所だ。
仲間のためにオレは絶対に帰るし、何処に居たってやることは同じだ!

「労働の対価ってもんがわかってない連中に、長々付き合う気は無い」
――――『尊敬』出来ない上司の為に働いたら負けだと思ってる。 (職業:鏡警備員 男性)


「い、言いたいことはそれだけかよォ・・・・『平民』の・・・・生まれつきの下民の癖に・・・・」
「ギ、ギーシュ?!」
「貴族に、て、手をあげたなッ?!許されない・・・・事だぞ・・・・」

『ご主人様』の代わりに返事をしたのは、襟元からぶら下がってる糞ガキの方だった。
間髪入れずに再度地面へと叩きつける。
「よう、元気だったみたいだなマンモーニ!」
「何するんだよ!本ッ当に無礼な平民だな!お前、こんな事してどうなるか判ってるのかッ?!」
ガキは更にヒートアップして、何やらオレに薔薇を突きつける。
「や・・・・やめてギーシュ!」

畜生、コイツもスタンド使い・・・・いや、それだけじゃない。オレの推測が間違ってなければ、この食堂はスタンド使いだらけだ。
今でこそ突然の暴力に静まり返っちゃいるが、『貴族』同士の妙な連帯感でも感じて攻撃されれば、俺は骨も残らないだろう。
それだってな、やらなきゃあいけない事はあるんだよ。
今にも膝が笑い出しそうな最悪の状況でも、こればっかりは譲れない。
『信念』だけは譲れないッ!

「ごめんなさい、ギーシュ・・・・私から謝るわ。
そいつは私も知らないド田舎から来たもんで、此処のルールがわかってないの!ねえ、ちゃんと躾けておくから」
「いいや限界だ!『殺す』ねッ!
『決闘』だッ!貴族同士の決闘は許されちゃあいないが、こいつは平民だ。関係ないだろう?」
ギャラリーがザワつく。『決闘』だって?(どこまでも古風だな)

「『決闘』なら・・・・男と男の勝負なら、どっちかが死んだってしょうがない事さ。
僕はお前に『貴族の誇り』を侮辱された事が我慢ならない!お前だって何やら言い分があるんだろう?それとも素直に謝るか?」
「『死んだってしょうがない』?」

ふうん、決闘。本当に男と男、ようするに一対一の勝負なら、状況はグンと良くなる
(未知のスタンド使いとオレ。以前変わりなく劣悪な条件だが、最低ってよりはマシだ)
「ギーシュって言うのか?お前がどんなつもりで『死』を口にしたか判らないけどな・・・・」

相手の口から出た『死』が、オレ達のそれとはあまりにも重みが違って笑いが零れた。
『死』ってものはそんな風に、スカスカの軽いモノじゃあない。
人一人ぶんの人生をずっしり吸ったそれは、何時だってオレ達の右肩にのしかかる。

「殺っていいなら、オレは殺る。」

「で、出来るもんか、『平民』の癖に・・・・」
「やめて、やめてギーシュ!」
「五月蝿い!『ヴェストリ広場』だ、平民。逃げるなよ!
お前はすぐにでも、素直に謝っときゃあよかったって後悔する事になる。」
クリーム塗れのマントの裾を翻し、ギーシュはモーゼのように人込みを割って出て行った。

不味い事をした、という自覚はあった。
普段のオレならこんな状況、膝をガタガタ笑わせながら涙目で鏡を探してる。

ルイズは静かだ(オレもまだ爆発してないし。)ギャラリーのアホどもも騒ぐばっかりで
誰一人止めようとも加担しようともしなかった。今のところ危険は無いだろう。
だが、オレの命は未だルイズががっちり握っていて、今は気まぐれで生かされているようなもんだ。
『貴族の誇り』だとか言っていたから、あのガキの殺し合いごっこに付き合うまで、その気まぐれは続くかもしれない。

「『ご主人様』だったか?」
そういえばいやに静過ぎると思って、声をかけた。
ルイズは顔を伏せこちらを見ない。
「オレの言いたいことは判ったよな?オレは『貴族』を『尊敬』しない。」
「・・・・・・・・・なんで・・・・」
そうだろう。
今まで尽くされて当然だったコイツに、オレの言う事は判らない。今まで『判ろうと』しなかったからだ。
「『オレが自分だったら』?って考えてみな。」

ルイズは小さく呟いた。「私が、ゼロだから?ゼロだから『尊敬』出来ないの?」
意味はわからなかった。
だが、苦々しげに吐き出すところを見ると、その『ゼロ』には『貴族』の根本を揺らがせる特別な意味があるんだろう。
オレはこの少女に返事をしない。何故ならたった今から、『全てを行動で示す』からだ。
「黙って見てれば、わかるんじゃないか?」


静かな気持ちでギーシュとか言う糞ガキの背中を追う。
武器はナイフと『マン・イン・ザ・ミラー』。鏡ナシ。そうなるとオレのスタンドは、近くのものを人間に色がついた程度の力でぶん殴る事しか出来ない。
流石に生身よりは幾分硬いが、スタンド同士の戦いじゃあ碌な威力は期待できないだろう。
あのギーシュとか言うガキのスタンドが遠距離型なら、終わり。

じゃあ、こう考える事は出来ないか?
オレが今までこのナイフ一本で『仕事』をしてこれたのは、全部『マン・イン・ザ・ミラー』の力だといっていい。
オレの相棒は、何時だって至らないオレを助けてくれた。・・・・だから。
今回ばかりは、オレがこいつを守ろう。
オレの死は『マン・イン・ザ・ミラー』の死。死ぬわけには行かない。
『マン・イン・ザ・ミラー』に守られるばかりだった昔のオレを乗り越えて――――オレは成長しなくちゃならない。

ビビるな、逃げ出すな、心に『焦り』が現れたら、動揺したオレは必ず負ける。
心に『覚悟』を強く持て・・・・死なない。何が起ころうとも、オレはこの肉体にしがみつくッ!


「イルーゾォさんッ!」

呼び止められた。仕事を放り出してかけて来たんだろう、息を切らせてそれでも言った。
「行かないで下さい!・・・・殺されちゃう・・・・」
「『死なないさ』。」

シエスタは今にも泣きそうな顔でオレを見ている。
スタンド使いと、ほぼ無力なオレ。この歴然とした力の差に、誰よりも絶望しているんだろう。
その目に溜まった涙は、オレが死んだら零れるか?

「笑えよシエスタ。明日から平民の扱いが良くなる」


夢の中で体験した、八つの死を思い返した。
まだ何の事かもわからないそれは、オレの背中をそっと押す。

――――待っている人と、場所があるんなら。きっと勝てよイルーゾォ――――

背後の気配が小さく溢れた。『マン・イン・ザ・ミラー』がオレを応援してるんだ。そんな風に判断した。


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