ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は引き籠り-8

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匿名ユーザー

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爪先から痛みが駆け上がる

動けない、息が出来ない

全身が燃える様に熱い

絶望的な浮遊感の中で視界は閉ざされ

動かない手足は切り離された

舌先から血液が凍りつき

脊髄が燃え上がり最期を悟る

そして襲ってくる――――痛み、絶望、無念、孤独感――――

そんな、そんな事って無いだろう?
肉体の終わりより先に精神が擦り切れた。全てに耐えられなかった。
目標が果たせない悲しみも、気高さを理解されない憤りも全て。
誰か居ないのか?忘れないで居てくれる奴は居ないのか。
無かった事になってしまうんだ、このままじゃあ、今までが――――



「『マン・イン・ザ・ミラー』ァァァァァアアアアあああああッ!!」


ハア、ハア、ハア。
目の前には色味の薄いベッドの天蓋があった。
酷く冷えた全身から汗をかいている。呼吸もぎこちなく、意識せず肩が上下した。
夢、夢だ・・・・・酷い夢を見た。『よく判らない夢だった』、苦痛ばかりで意味がわからない。
それにしてもいい年して、悪夢で跳ね起きるなんて全く恥ずかしい。誰も居なくって本当に良かった・・・・

(誰も?)

違った。マン・イン・ザ・ミラーがベッドの上のオレを覗き込んでいる。
オレは何だか凄くほっとして、同時に照れくさくなり
(マン・イン・ザ・ミラーがオレを笑うとは思えないし、そもそも笑った顔を作れるのかどうかもわからないが)
「おはよう。」と声をかけた。

そういえば今日は約束があるんだった。『許可』した制服は何処へやったかな?
『マン・イン・ザ・ミラー』、そこにある櫛を取ってくれよ、なんか髪形を変えなきゃいけないらしい。
咄嗟に浮かぶどの顔ぶれよりも、マトモだと思うんだけどなあ。
時間は――――『11時23分』――――バッチリ寝過ごしてるじゃねえかマン・イン・ザ・ミラー、お前、何とか言えよ・・・・

大きく遠回りして、使用人用の裏口から大食堂へ。そうっとシエスタ達平民の群れに紛れ込み、背中に声を掛ける。
「ようシエスタ。」
「あ!イルー・・・むぐぅ」無論口を塞がせて頂いた。

貴族のガキどもは、未だ揃いきっていないものの、あくせくと食器を並べる使用人と合わせれば随分な人数で、
これがまだまだ増えるのかと思うと目眩がする。
人の多い場所はどうにも好きになれない。
ルイズに見つかるのとは別問題で、安請け合いをしたと後悔するオレ。
室内の酸素濃度が下がっている気がする・・・・

「私は女性の皆様にお配りしますから、男性の方お願い出来ますか?」
「ああ、うん。」

デザートのトレイを幾らか乗せたワゴンを押してテーブルを回る。ワゴンのお陰で死角が出来、ガキどもからオレは見えない。
(シエスタもその辺は考えていてくれたようでありがたい)
席近くで盆を取り上げ、皿を並べる。隣同士と見比べて違いの無いように位置を整えてしまうのは、癖のようなものだ。

軽かった目眩は徐々に膨らんで、今朝の最悪な気分が帰ってくるようだった。
多過ぎる人間の気配、笑い声、足音、呼吸音。心の平穏を削り取られながら、それでも淡々と仕事をこなす。
いい気な貴族様どもは給仕を空気か何かのように気にもせず、勿論礼も言わない。
尽くされる事に慣れきって、当然の事だと思っているのだろう。 いい気なもんだ。
これが『平民』の、普段のシエスタ達の扱いだ。

周囲を見回す。
給仕もメイドも、足を休める事無く動き回り、それを気にとめる者は無い。
(上の為に働いてるってのに、この扱いは何だ?下の奴を馬鹿にしてる)
シエスタこそ納得していたが、オレには無理だった。少しばかり、あの組織を思い出す・・・・

爪先にこつんと、硬い感触があった。
目線を下げればそれは小瓶で、中で色付きの液体が光っている。何故こんな所にこんな物が?
拾い上げてみて、その小瓶を目で追う人間が居る事に気がついた。ブロンドに妙なセンスの服を着た、派手過ぎるガキだ。
瓶越しに目が会うと視線をそらされる。
「あー・・・・(何だ?)この小瓶に、心当たりはございますか?」
「知らないよ」
親切心でこっちから声をかけているのに、お前こっち来るんじゃねえよ感を丸出しにした視線で追い払われる。
脳味噌の中で思う様悪態をつくオレ。犬だって餌を貰ったら尻尾を振るぞ。糞『貴族様』どもめ!
「そうですか。失礼致しました。」
硬い作り笑顔で引き下がる。よっぽど何か言ってやりたいが、人目につきたくないからだ。
後でシエスタにでも渡しておこうと小瓶をポケットに押し込もうとする。すると、先ほど確かに『知らない』と言ったガキが、少し驚いた様子で口を開いた。

「それをどうするんだい?」
「・・・・・・・・(何だってんだよ)後ほど持ち主を探そうかと――――」

「おい、それ!モンモランシーの香水じゃあないか?」
近くでだべっていたガキの一人が、急に声を上げる。
「本当だ。でもなんてこんな所にあるんだ?モンモランシーは向こうに居るぜ」
「おい、決まってるだろ・・・・ギーシュが落としたんだよ、な?」
「嘘よ!」

おい、何だ何だ?香水一個拾っただけで何でこんなにも五月蝿くなる?
厄介ごとの臭いがキツいんで、オレは『ギーシュ』と呼ばれた男のテーブルに問題のブツをおいて、そそくさと其処を離れる。
約2メートルも離れたところで早足で歩く巻き毛の女に肩をぶつけ、思わず振り返り――――振り返りざまに、小気味いいビンタの音が鼓膜に届いた。

「この嘘吐き!もう二度と顔を見せないで!」
ちょっと目を離したすきに立派な修羅場が出来上がっていて、鬼神の如き怒気を撒き散らす女に泣き喚く少女、
張られた頬を押さえて涙目のガキ(男の癖に泣くなんて、見っとも無い奴。)、
それを待ってましたとばかりに囃し立てるその他大勢。
詰め寄る女に要領を得ない返事をする『ギーシュ』は、うろうろと視線を彷徨わせ・・・・

「おい、そこのお前!」

まさかだろ。

「お前のお陰でたった今、二人のレディの名誉に傷がついた!どうしてくれるんだ?!」
傷がついたのはどう見てもお前の顔面だとか、バレたのが今ってだけだろういつから二股して居やがった?だとかはどうでもいい。
「酷い言いがかりでございます、『貴族様』。」
『貴族様』には思う様侮蔑の意味を込めて言ってやったがどうやら気づいてないようだった。
頼むぜマンモーニ、オレは目立ちたくないんだ。だからギャングに成り下がるような人間に、この手の忍耐を求めないでくれ。
そんなオレの気持ちは汲み取られる事無く、糞ガキは一方的に喚きたてる。

君が気を利かせないから悪いんだ根暗。
給仕ならそれぐらい察して、黙って手渡すなりするべきじゃないか地味顔。

要約すると、そんな感じ。

「気が回らず大変申し訳ございません、でし、たッ!」
びたん。
手に持っていた盆(デザート付き)を五月蝿いガキの面めがけて叩きつける。
ガキはそのままスッ転んでテーブルに後頭部を強かに打ち、クリームの潰れ飛び散る様を見て、ああこれは目立つな、と咄嗟に思う。
とりあえずマンモーニが泣き出す前に盆の上から顔面を踏みつけた。これで声は出ないだろ、息も吸えないが。
「頭が冷えたら後で彼女様の『どっちか』に慰めてもらってくださいませ。」
スマンシエスタ、やっぱりオレに人込みは無理だった。撤退だ。
懐から手鏡を取り出して自分を写す。

「『マン・イン・ザ――――」
「レビテーション。」

物凄い力でオレの手が引っ張られ、有無を言わさず手鏡がもぎ取られる!
な、何だッ?!何が起きやがった!
マン・イン・ザ・ミラーはオレを掴みそこね、最高にザワついた大食堂から消える術が取り上げられた。
最悪だ・・・・!

「キュルケの手鏡。・・・・ルイズの使い魔、貴方?」

まっすぐに吹っ飛んで言ったそいつは、メガネのチビ女の手にすっぽりと収まった。
初日の、『モノを浮かせる』スタンド使いか?!畜生、何だってこんな時にッ!

「神妙に。ルイズ、来るから。」
「そりゃあ困ったな・・・・」

今日は最低の一日と見た。ルイズが来る?じゃあそれまでにこの状況をどうにかしなきゃあいけない訳だ。一体どうやって!

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