ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-43

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匿名ユーザー

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明るくなってきた頃妙な重みを感じ目を覚ましたが、前。
「なんだこりゃあ…」
正確に言うと、視線の斜め下75°の先に黒い髪。
シエスタの頭があって本気でビビった。
おまけに顔をこちら側に向けているため、スーツの胸のあたりに思いっきり涎の跡が付いている。

普通に考えると、ちょっとばかりアレでナニな状況で人に見られたらモノ凄く誤解されそうだが
正直、今のシエスタさんには魅力もクソも何も無い。
素面でやってるのなら平均値を上回る胸が当たっているだけに効果はそれなりにあるかもしれない。
…が、ここに居るのは潰れた酔っ払いの成れの果て。
脱いだら結構凄いのにそれなりに重要な局面で悉く空回りしているのが勿体無い。
したがってプロシュートにとって、今現在のシエスタも手の掛かる弟分扱いである。不憫。

もっとも、この唯我独尊がデフォルトな元ギャングに目上として扱われる者はそう居ない。
暗殺チームにおいても、リゾットが唯一それに該当し、後はペッシを除いてほぼ横。
ましてリゾットが居ないこの地においては、表面上はともかく芯のとこでは『平等に価値が無い!』と言わんばかりに目上という扱いが無い。
ルイズはもちろんのこと、アンリエッタですらまだまだ甘ったれたマンモーニで、オスマンに至ってはただのスケベジジイという扱いである。
老若男女、生物であるならば一切合財の区別無く平等に老化させるというスタンド能力はここから来ていると見て間違いないはずだ。

首を曲げるとゴギャンと良い音がした。
妙な体勢で寝たというのもあるだろうが、人一人がもたれ掛かってる状態が続いていたのだ。
一瞬、どういう状況か理解できずに、頭の中にメローネがパク…インスパイアされて作った『生ハム兄貴』なる歌が流れたが、思い出した。
「ああ…クソッ…!こいつが潰れて離れなかったんだったな…」
さすがに、もう掴まれてなかったので引っぺがしてベッドに運んでやる。
本来なら放り投げるとこだが、寝起きは低血圧のため若干対応が柔らかい。
イタリア人的に考えれば、色々と何かやっててもおかしくないが
ご存知プロシュートはそういう方面では全く以ってイタリア人的要素を持っていないため、メローネのような事にはなりはしない。
ただ、ご存知兄貴気質のため、これが少なからずとも世話になっていたシエスタでなければ、問答無用で蹴りが入っているところである。

少しすると、苦しそうな寝息を立てはじめる。
「そりゃあ、潰れるぐらい飲めばな…」
床に転がっている酒瓶を見て呆れ気味に呟いたが、シエスタは何かうなされているような感じだ。
「…あうう…よ…妖精さんが……圧迫…祭り……」
「このヤロー…圧迫されてたのはこっちだってのによ」
まぁ、なんのこっちゃとも思ったが『圧迫祭り』という言葉に心当たりは無い。
ただ、妖精さんは心当たりがあるので、機会があればついでに聞いてみる事にしようと決めて部屋の外に出た。


「っはうあ!……今…おぞましいほどの悪寒が…何事!?」
襲撃を受けた暗殺者かというぐらいの速度で飛び起きたのはご存知エレオノールだ。
妖精さんは広まっていなかったが、新たな火種を抱えてしまいダブル・ショックである。
だがッ!鞭を振るっている時に僅かながらだが高揚感があったのも確かッ!
無論、『女王様』などという称号は頂きたくもないし、認めたくも無いので無かった事にしてしまっているが。
それでもッ!背筋にゾクッときたものがあるのも事実である。

グビィ
喉の奥の方で生唾飲み込むと、御愛用の鞭を手に取り振ると先端が中空を斬り風切り音が鳴る。
…が、今現在は何の感情も沸いてこない。
「気のせいね…まったく…それもこれも全部あの平民のせいだわ…」
重ねて言うが、一応あれでも貴族の子弟である。
とりあえず、まだ薄暗い時間帯だ。普段忙しい中での久しぶりの帰省である。もう少し寝なおす事に決めた。

なお、夢の中で『圧迫祭り』が開催されていたのは言うまでも無い。

「あう…いたた…」
プロシュートが出てからおよそ一時間後ようやくシエスタが目を覚ましたが、二日酔いであろう頭痛を感じ頭を押さえていた。
状況確認のために辺りを見回すと転がっている酒瓶が視界に入り、一応の理解はしたようだ。
「そう言えば…夕飯の時に一杯ぐらいならって思って…ど、どうしよう…もし失礼な事でもしてたら…」
失礼どころか一犯罪犯しかけたのだが、酔っ払いには二種類ある。
酔ってる時の記憶が綺麗に飛んで何も覚えていないタイプと、酔ってる時の記憶がしっかり残って起きてから後悔するタイプに分かれる。
シエスタは前者と見て間違い無い。
「でも、なにか良い事があったような…」
必死になって記憶を探ったが、思い出せそうにない。
一つだけ、誰かを掴んで一緒に居たような気はしたが。
「夢だわ…夢!……たぶん」
リアルでやってたらと思うと、顔から火が出る思いだったので夢だと思い込む事にした。
もっとも、現実だったらそれはそれで良かったのだが、相手は手の届かない所に行ってしまってるだけに夢としか思えなかった。
が、それはそれ。
未だ戻ってくると信じている。当の元ギャングがどう思っているかは知らないが強い子である。
ただ、シエスタの不幸は酒癖が悪い事であり、二日酔いになるまで飲んでいなければもう一時間ばかり早く起きれてご対面できたかもしれない。
まあ、その場合は説教確定なので運が良いのか悪いのか。

そうしているとシエスタが少しばかり悶え始めた。
どうも夢と思っている内容から妄想が発展気味になっているようだ。
「……や、やだわ、わたしったら…で、でも」
R指定一歩手前…もとい、突入していたのだが、まぁ例によってそういう小説を読んでいたのだから仕方無い。
妄想力(もうそうぢから)は、かなり高い方らしい。突っ走るタイプとみて間違いない。
生憎のところ部屋には一人。止める者なんぞいやしない。
もうスデに頭の中では幸せ家族計画まで構築されており、色んなデートプランが練られている。
本人が聞いたら説教間違いなしだが、突っ込む事ができるものは存在しないのだ。
自重という文字は今現在、存在すらしていない。多分、今のシエスタはエコーズACT3やヘヴンズ・ドアーですら止められない。
おかげさまでテンション絶賛上昇中でカトレアが扉をノックする頃には、タルブで二人してワインを造っているというとこまでに発展していた。

廊下を適当に歩いていると随分と騒がしくなってきた。
大体の事は分かっている。ルイズの親父、つまり、ヴァリエール家公爵が帰ってきたらしい。
「さて…あの頑固親父を説得できるかどうか見物だな」

まー無理だろうとは思うが、やらないよりマシというとこだ。
防御側が五万に対して侵攻側が六万。数の上では勝っているが本来、侵攻側が確実に勝つには防御側の三倍の兵力を要する。
急な侵攻計画で準備期間も足りず、学生を徴用するようでは無謀だとパパンは反対している。
プロシュート自身、戦略的に正論だと思わんでもないが
この際、やるからには精々ハデにやらかして陽動してくりゃあいいと思っている。
つまるとこ、説得できようができまいが、どうなろうとどうでもいいということだ。

だが、そこに一つ疑念というか気にかかるものが浮かんだ。
(おいおい…オレは何時からロハで仕事するようになったんだ?)
自分でもそう思わないでもないが無理も無い。
パッショーネに属していた時でさえ、一応の報酬はあった。
スデに恩義も返しフリーな身である以上実利的な面からしてクロムウェルを殺る理由が無いのだ。
ただ、感情的な面から言えば別だ。
アンドバリの指輪の件で大分ムカついているのである。

前ならば、報酬無しで動くなぞ考えられなかったし、基本的に感情に流される事無く一切の区別無く対象を始末してきた。
組織に敵対したのも、組織から不当な扱いを受けたからというチームとしての実利的な面から取った行動だ。
本来なら、アンドバリの指輪の件では、自分や借りのあるヤツが直接害を蒙っていないので感情のみで動く理由も無かったはずだ。
だからこそ、そこに生じた矛盾に多少戸惑っている感はある。
「やれやれ…考えたところで仕方ねーな」
そのあたりは変わったつもりは無いが、それは自分でそう感じているだけで外から見ればどうなっているか分かったもんではない。
リゾットあたりが、この状況下におかれていたらどうすっかなとも思ったがそんな仮定を考えても仕方無い。
とにかく今は、濃いオッサンのために掃除なんぞする気も無いので昼頃までバックレる事に決めた。
この元ギャング、雇われている身でありながら実に自由人(フリーマン)である。

空を流れる雲を寝ながら眺めているプロシュートだったが、未だ警戒は怠ってはいない。
場所は池のある中庭の小島の影。
城の中から死角でサボるには非常に適切な場所であるため、結構気に入っている場所である。
バレたらバレたで表面上適当に『すいませェん』とでも言っときゃいいと思っている。
まぁ、バックレると言っても特にする事もなく、何も考えてはいない。ただ単に空を見ているだけだ。
実際のとこ、ここまで空を見てみるのも久しぶりだ。
今までやる事成す事全てにおいて血の臭いが漂っていたが
こういうのも性には合わんがたまになら良いかもしれんと思ったとこで足音に気付き、軽くその方向を見ると思考を呼び戻し瞬時に行動させる。
ルイズが半泣き状態でこちらに向かってきているからだ。
さすがに、こいつにバレたら洒落にならんという事で身を隠したが、ルイズは小船の中に潜り込み毛布を被ると本格的に泣き始めた。

どうやら、パパンの説得は見事失敗したらしい。
放っておいてもよかったが、性分からして、こういうのを見るとつい説教しに出ていきたくなる。
「あー、クソ…鬱陶しいな。この腑抜けがッ」
遠い暗殺より目の前の修正…もとい教育。
一発殴って気合入れてやろうかとも考えたが、それをやると、今までやっていた労苦が水泡と帰す。
不測の事態でバレるのは致し方ないとしても、自分からバラすなぞ最たる愚考だ。
石で勘弁してやろうとし、適当な大きさの石を掴み投げようとしたが、また足音が聞こえた。

こちらも見知った顔だ。
昨日酒をくれてやったばかりのマンモーニ。
それが池に入り、ルイズが入った船の毛布を剥ぎ取りなにやら言っている。
細かい事までは聞こえなかったが、カトレアが馬車を用意したらしいが、何故かルイズが拒否している。
今にもドシュゥーーz___という音を出しながら投げようとしていた石を後ろに捨てるともう少し様子を見る事にした。

「いくら頑張っても、家族にも話せないなんて。誰がわたしを認めてくれるの?
  皆、わたしの事なんて魔法が使えない『ゼロ』としか思ってない。なんかそう思ったら、凄く寂しくなっちゃった」
ルイズはそう言ったが、一人だけ自分を相応に認めてくれていた者が居た事は知っているが
それは、もうここには居ない。
才人が着た時シルフィードの夢で見た内容と被って思わず頭を押さえたのだが
今になってみれば、まだ夢と同じように説教された方が良かったかもしれない。

「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから、ほら立てっつの」
さっきよりも小さくなったルイズを見て、何かに本格的に目覚めそうな才人がそう言ったが
自信とやる気がほぼ『ゼロ』になっているルイズにはあまり意味を成さない。
「何が『認めてやる』よ。上っ面だけで嘘つかないで」
「嘘じゃないっての」
「…汗かいてるじゃない。今回の戦だってどうせ姫様のご機嫌取りたいんでしょ。キスなんてしてたし」
非常に冷たい声だ。DISCが刺さっているのならホルスかホワイト・アルバムだろう。
「ばば、馬鹿お前、あれは成り行きで……」
「成り行きでキスするの?へぇ~そぉー。もう放っといてよ」
言い訳無用な感じで言葉に詰まった才人だったが、続くルイズの言葉にいきなりキレた。

ルイズが『主人をほったらかして何やってるのよ…』と小さく呟いたのだが、才人には妙に大きく聞こえたのだ。
ルイズを主人にするのは使い魔たる才人だが、それはここに居るから才人の事では無い。
ルイズは思わずそう思ってしまって口に出ただけだが、先代。つまりプロシュートの事だ。
いたがって対抗心全開の才人からすれば『こうかは ばつぐんだ!』である。

「バカか?お前は!」
「なによ!誰がバカよ!」
「じゃあ大バカだ!誰か好き好んでお前みたいなわがままでえったんこのご主人様の使い魔やってると思ってるんだっつの!」
「か…!誰が板よ!よ、よくも言ったわね!この…犬!」
「いや、板とは言ってない!でも何度でも言ってやる!
  正直な、俺だって戦なんて行きたくないし元の世界に帰りたいんだよ!そんなに前のヤツがいいなら、そいつと行けよ!」
「だったら帰ればいいじゃない!そうすればもう一度サモン・サーヴァントができるわ!」
売り言葉に買い言葉だが、二人とも似たタイプだけに止まらないし並大抵の事では止まらない。
ルイズとしてはポロっと口にしただけで、才人も先代の名前を出したからこうなっているが、両者とも本心ではない。

「……っかー、見てらんねぇ。痴話喧嘩じゃあねーか」
横で聞いている方からすれば、ガキ同士の喧嘩だ。それもかなりレベルの低いやつ。
思いっきり聞かれている事なぞ露知らず喚き散らす二人を見て呆れたものの
これ以上ここに居る気も無いので見付からないように中庭から離れたが、少し目が暗殺者のそれに変わった。
池の方を見るとカトレアを除いたヴァリエール家御一行とほぼ全ての使用人が池を取り囲むようにしている。
理由は分からんが、なんかやったのだろう。

体験した限りガンダールヴなら大丈夫だろうとも思ったが、考えてみれば才人は丸腰だった。
「こいつは…『HOLY SHIT』っつーんだったか?ありゃ死んだな」
武器が無ければ一般ピーポーである才人なぞ、まな板の上の鯉。まさに俎上の魚だが
あのウルセー剣を渡すつもりは無い。あんなのに知れたら一発でバラすだろうからだ。
回収するにしてもそのまま盾として使うつもりでいる。
無ければ向こうは困るだろうが、こっちだって困る。
一国のボスを殺るからには、それ相応の下準備というか、明確な弱点と能力特性があるだけにできる限りは伏せておきたいのだ。
ホワイト・アルバムやマン・イン・ザ・ミラーなら、こんな面倒な事せずに楽でいいのだが。

無論、ここで老化を使うと確実に巻き込んでバレるので、使う事はできない。
ルイズ達自身で乗り切って貰わにゃならんのだが、どうやらそうもいかないようだ。

何かが池に落ちた音がしたが、これはルイズが才人を突き落としたせいらしい。
続いて、やたら威厳のある声が聞こえてくる。
「ルイズを捕まえて塔に監禁しなさい。一年は出さんからな。
  で、あの平民な。えー、死刑。メイジ36人集めてウィンド・カッターで輪切りにして瓶に詰めて晒すから台を作っておきなさい」
「かしこまりました」
モノ凄く覚えのある処刑方法を聞いて、決めた。
殺しはしないが、そのうち一回シメると固く誓う。
直接手は出せないので、まず、前のように自身を老化させ、適当なやつから武器を奪う。
何か言いたそうだったが夢の世界へと無理矢理ご出席して頂く事で解決した。
ルイズは小船のなかで半分呆けているので丁度いい。
取り囲まれてパニクっている才人目掛け剣を投げた。

「やべぇかもな…」
淡々とギャング的処刑法を命じるヴァリエール公爵を見て本気でヤバイと思い始めたが
急ぎだったのでデルフリンガーは持ってきていない。
今にも『ズッタン!ズッズッタン!』というリズム音が聞こえそうだったが、そこに風切り音がして目の前に剣が一本抜き身のまま突き刺さった。
思わず飛んできた方向を見ると、昨日見たばかりの顔を見て少し躊躇したが目が合った。
そうすると、親指で自分の後ろを指差し、続いて同じように親指で首を掻っ切るように走らせ、それを下に向けた。
『さっさと行かねーと、オレがオメーを殺す』
意味合いは違うが、助けてくれたと判断して剣を引き抜くとルーンが光る。
放心しているルイズを肩に担ぐと走り出す。
すれ違う瞬間に頭を下げ侘び入れながら駆け抜ける。
元使い魔としては別段驚く速度ではなかったが、それを知らない連中はおったまげている。
「ななな、何しとるんじゃああああァーーーッ!」
一拍置いてヴァリエール公爵の素敵なシャウトが響き渡るが、もうスデに遠い所まで行ってしまっていた。

放心したところを背負われたルイズだったが、使用人の一人とすれ違い、顔を少し上げ、その背を見た時少し違和感を感じた。
何故だかよく知っている気がしたからだ。
だが、背負われているため、それはどんどん小さくなる。
「ま、待って!戻って!」
「無理言うな!」
戻って確認したかったが、戻れば『輪切りの才人』が出来上がる事になる。
諦めたのか大人しくなったが、やはり妙に気になっていた。

この前の雨で辛うじて生き残っていた煙草に火を付ける。
煙草を吸うときは、ムカついた時と一仕事終えた時であるから、一応ミッションコンプリートである。
公爵の素敵なシャウトが轟き、そっちの方に目をやるとプッツンした公爵と使用人連中が後を追い、蒼白を通り越して白くなった顔の公爵夫人がブッ倒れ運ばれている。
暗殺を達成したような気分で煙を吐き出すと、その煙の向こう側から良い感じに強張った顔のエレオノールが音を出しながらやってきた。

「…どういうつもり?」
「何がだ?」
「あの平民に剣を投げ渡した事よ!」
見られてたが、少し遠かったので老化してた事はバレていないようだ。
「アレか。言うだろ?オレは馬に蹴られて死ぬってのはゴメンなんでな。大体、妹の心配するより先に、てめーの方を心配した方がいいんじゃあねぇか?」
「くぐ…うるさい!今日という今日はどうなるか分かってるんでしょうね。父様や母様に知れたらクビじゃ済まないわよ」
「気にしなくてもいいぜ。今日で辞めるからよ。ああ、そうだ。ついでに一つ聞きたかったんだが…『圧迫祭り』って何だよ?」
どの道、これ以上ここに居ても得る物は何も無さそうだ。
そろそろ、別の場所で動くべきだろう。いっその事アルビオンへ乗り込んでもいいが、船が出ているどうか微妙なところだ。
「な…何故それを…!」
またしても息を吐き出し崩れ落ちたエレオノールだが、それを見て何かあるなと思い追撃を仕掛ける事にした。
「人それぞれだからな、知られても死にはしねぇだろ」
「ああ…あのメイド…よりにもよってこんなヤツに……!」
例によって聞いちゃいないようだ。
「まぁ気にすんな。強く生きろよ」
もう完全に勝ったと思いエレオノールに背を向け煙草を吸ったが、殺気を感じた。

後ろを振り向くと手に鞭を持ちゆっくりと立ち上がっている。
「ヤッベ…やりすぎたか?」
「フフフ…口封じしないと…そう、まずは…」
言うが否や鞭が振るわれる。
それに当たるプロシュートではないが、エレオノールの妙な迫力には若干引いている。
「おい、戻ってこい」
こいつも、ルイズと同じと判断したが、どこか意識がブッ飛んでいる感じがしないことも無い。

どこか意識が飛びながら鞭を振るうエレオノールだったが、あの時感じた高揚感を感じていた。
(これよ…!これでないと!!)
今はまだ鞭が当たっていないが、当たればそれが確証に変わるという事は分かっている。
理性の面では認めたくないが、その理性がブッ飛んでいるので止まりたくても止まらない。

半分トリップしたかのような顔で鞭を振るうエレオノールを見て、そういう事かと判断したが、このままされるままというわけではない。
「なんで周りにこんな面倒なヤツしかいねーんだよ…いい加減戻って…来い!」
「か…ッ!」
非常に良い音がしたが、それもそのはず。
重なるようにして拳がエレオノールの鳩尾に入っているからだ。
ギャングを辞めたとは言え、その力はまだまだ衰えてはいない。
「ベネ(良し)…ま…そのうち起きんだろ」
一呼吸置いて、今度こそ間違いなくエレオノールが崩れ落ちた。

寝ている面だけなら、何時もキツイ顔してるヤツには見えないんだがな。
そんな事考えていると跳ね橋が上がる音が聞こえてくる。
そこまで面倒見きれんとして、橋が上がる様を見送っていたが、鎖が変色し土に変化した。
『土くれ』ことフーケを思い出したが、そんなもんがここに居ない事は確認済みだ。
この屋敷であいつらに手を貸しそうなメイジと言えば一人しかいないので正体はすぐ分かったが。


街道の向こうに遠ざかる馬車を窓から見つめたカトレアだったが、激しく咳き込んだ。
遠距離で『錬金』を唱えたからで、遠距離型スタンドを無理に使ったような感じだ。
普通なら精神力の消耗だけで済むが、カトレアの場合肉体的にもかなり疲労する。

少し意識が遠くなって倒れかけたが、間髪入れず猫草が空気クッションでフォローしている。
「ありがとう、大丈夫よ。もう平気」
「ウニャン」
そう言って猫草に笑みを浮かべると丸まって寝始めた。
とことん自由な生物(ナマモノ)である。
完全にこの家に居付く気だ。まぁベースは植物なので動けないのだが。

そこにいつの間にか扉近くに立っていたプロシュートが壁にもたれながら声をかける。
ヴァリエール家の使用人が着ている服ではなく、お馴染みのスーツ姿だ。
一応才人の部屋も回ってきたがデルフリンガーは無かった。一応回収はされたらしい。
「よぉ、アレはお前か。中庭の場所教えたのもそうだろ?面倒見がよすぎるってのもどうかと思うぜ」
「あらあら、あなた程じゃないわ」
兄貴と呼ばれているだけの事はあって、面倒見のよさにかけては定評があるプロシュートだ。
笑いながらそう言ってきたがぶっちゃけ反論の余地が無い。
「ちっ…言い返せないってのが洒落なってねぇ」
一応、本人もその辺りは自覚しているが、最後まで調子を狂わせてくれるヤツだ。
天敵というのはこういうのをいうのだろう。
もちろん、殺ろうと思えば殺れる相手だが、顔見るだけで毒気を抜かれてしまうような感じだ。
なんというか、オーラそのものが違う領域で同じ生き物と思いたくない。

「あいつらはどうした?」
「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」
その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。
笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。
包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが
そうしていると、カトレアが窓から手を出し2~3語りかけると、空へと飛び立って行った。
布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。

「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」
「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」
例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。
「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」
今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。
仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。
そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。
「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」
そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。

「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど
  また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」
「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」
無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし
守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。
頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。
レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。
その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。

「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」
本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。
「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」
そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。
「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。
  誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」
出来て当然と思い込む。
精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。
病は気からという諺もある。
やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。

しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。
「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」
そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。
寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。
相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。
今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。
やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。

プロシュート兄貴―無職!
エレオノール姉様―『未』覚醒!
猫草―ヴァリエール家に根を張る


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