ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-30

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
マザリーニは舞踏会の会場を駆け足で去った。
その内では思考が静かに、激しく渦巻き、新しく見つけた可能性を客観的に考察している。
そして考察が深まれば深まるほどに、自分の考えの正しさが立証されてゆく。
広間を出て、廊下を駆けるときでも思考は止まらない。

そんなバタバタと、慌しく駆ける彼の背中に声が掛かった。
「マザリーニさーんッ!」
ハッとして振り向くと、そこには敬愛する姫殿下の使い魔が自分を追いかけて走る姿。
「コーイチ殿!」

康一は多少息を切らして、マザリーニの元に駆け寄ってきた。
「コーイチ殿、何故ここに?それにアニエス殿はどうされました?」
康一がどうして同行しているはずのアニエスを連れずに自分の元に来たのか。
そもそも突発的な行動をしている自分の居場所を見つけられたのかを尋ねるマザリーニ。

少し息を落ち着かせた康一は答えた。
「いやぁ、何か僕の能力でそこらへん見回ってたら、マザリーニさんがスゴイ勢いで広間から飛び出て行くのを見ちゃって。
それで何かあったんじゃあないかと思って、アニエスさんに言ったら『ここはいいから、お前は様子を見にいってみろ』、
なんて言われたんでマザリーニさんを追いかけて来たんです」

なるほど。確かに広間の警備に当たっている彼が、自分の酷く慌てた姿を捉えたなら、追いかけてくるのは必然だろう。
アニエスも自らは広間の方に残り、康一を様子見に向かわせたのは悪くない判断だ。
ここまで考えたマザリーニは、まずどう答えるべきなのかと思う。
しかし今は時間が惜しい。ここは言葉より行動が第一。
「申し訳ありませぬが、コーイチ殿。今から資料庫へ向かわねばなりません。一緒に来ていただけますか?」

マザリーニの強い意思を感じさせる瞳。
普段の状況なら若干の迷いを持つであろう康一だが、その瞳にある力強さを感じ取って躊躇いも迷いも無く即決。
「じゃあ、行きながら何があったのか教えてくださいね」
康一の判断の早さに少々の満足感を得つつ、マザリーニは再び廊下を走る。
それ追随して康一も走り出し、並走。二人は城の奥深くの資料庫を目指す。


「一体なんだったのかしら?」
エレオノールは広間と廊下を繋ぐ扉を見つめながら呟いた。
先ほど酷く慌てた様子のマザリーニが広間から出て行ったのを、彼女はジッと見送っていたのだ。
一国の宰相があれほど慌てるような事態とは一体なんであろう?

聡明なエレオノールはどんな事であれ、それは相当な事態であるだろうと察した。
あのヤリ手の宰相の行動が、それをまざまざと物語っている。
フトして、エレオノールは思いついたように広間を見渡す。

ダンスをしている者、食事をしている者、集まって歓談している者達。
それぞれ自分達の方に目が向いてしまっていて、誰も廊下などに目を向けてはいない。
つまりこの場にいる、ほぼ全員がマザリーニが出て行った事に気付いていない。
もしくは気付いてはいるが、その事を気にも留めていないという事になる。

もちろん自分はたまたまマザリーニの行動に気が付いただけで、他の者が何をしていようが構わないが、
この舞踏会に集まる主だった貴族たちが誰一人それに気付かないとは、色々な意味でさすがに如何なものだろうかと思った。
どうしたものだろう。何かこの国にとって不都合な事態が起きたのかもしれぬ。そう考えた時、彼女の心は決まる。
エレオノールは国に忠義を尽くす者の一員としての行動を取った。

まず手に持ったワイングラスのワインを優雅に飲み干す。
そして彼女は歩き出し、途中進路にいた給仕にワイングラスを預けて更に進む。
行き先は、先ほどマザリーニが出て行った広間の外の廊下。
何事も無いやもしれない。だが、何かがあるのかもしれない。

ならば行かねば貴族の誇りを汚すこととなるだろう。それだけは何があろうと許せる事ではない。
彼女の人生が根底に築いてしまった、一方的ともいえる心がそれを欲する。
エレオノールはその心の欲するままに従い行動する。
それが自分の貴族の在り方であるが故に。


マザリーニと康一、そしてエレオノールの行動と時を同じくして一つ、城の地下で動きがあった。
城の地下。それはワインの貯蔵庫だったり、物置として使われる事が多い。
動きがあったのはその物置の中の一つ。但し置いている物の内容は、人である。

城の獄に繋がれた犯罪者は物として扱われる。
それは重大な事件を起こした犯罪者ばかりが集められるからだ。
そして現在、この牢獄に収監されているのは三つ。
先日に康一達と対峙して敗れ、ブチ込まれたメイジの三人だ。

当然ながら城の地下にある牢獄ともなると警備も厳重。
たとえメイジだろうと、杖なくして脱出する事は到底不可能だ。
つまり逆に言い換えると、メイジに杖さえあれば牢破りは可能という事になる。
それが中からでも、外からでさえも。

とりあえず牢破りは、あっさりとしすぎるほど簡単に済んだ。
見張りの衛士は「眠りの雲」で眠りに落ちて、その衛士が持っていた牢獄の鍵は楽に奪われる。
中からの魔法の攻撃はあり得ない、とタカをくくっていたツケがこれだ、とは言わない。
さすがの衛士も中からではなく、外から牢破りが現われるとは思いもしなかっただろう。

外。つまり城の内部に牢破りが現われたという意味である。
そんな尊大なマネができるのは、よほどのバカか、よほどの名うて。
そして今回は後者の方であったらしい。それほど手並みは鮮やかだった。
ところで、牢破りの目的とは一体なんだろうか?

それは罪人がよほど大切なのか、よほど牢破りにとって不都合な状況になる可能性があるという事。
つまり尋問を受けた罪人が何かを吐けば、その言葉から牢破りに繋がる可能性が出てくる事になる。
その不都合を打ち消す為に牢破りをした者は、力ずくで状況を打破する。
つまるところ、罪人の暗殺。しかし今回の牢破りは暗殺が目的ではなかった。

もちろん別に情けをかけようって訳じゃあない。
状況はもっと悪い方に動き始めている。もう、止めることは出来ない。
これが今から起こる、苦しい夜の本当の幕開けだった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー