ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は引き籠り-7

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
オレはシエスタに案内された厨房で、今までの人生の中で間違いなく一番美味いと感じるシチューをかなりユルんだ面で食っていた。

「余り物で申し訳ありませんが・・・・おかわりでしたら言って下さいね、まだまだありますから。」
「あ、いや全然お構いなくおかわり。」
「はい、ちょっと待っててくださいね・・・・、ッ。」

慣れた手つきでお玉に手を伸ばしたシエスタは、一度掴んだそれを取り落とす。
「あ、あ、すみません・・・・!」
(――――そうだ、手。)
彼女は先刻、ナイフの上からオレの手を掴んでいる。
人間の皮膚って言うのはかなり弾力がある。それなりの力をかけないと深く切れるって事は無い。
だが、シエスタはメイド・・・・水周りの仕事は多いだろう。
「悪い、痛いだろ」
「だ、大丈夫です大した事ありません!」
「(凄くありそうだ・・・・)これぐらい自分でやるさ。傷はオレのせいだし・・・・明日からの仕事、大丈夫か?」

まあ、答えは大体想像がつく。
出会い頭にナイフを向けるような男を、それでも助けようってんだからシエスタは相当なお人よしだ。
ならば当然

「大丈夫です。」

こう来る。

「・・・・手伝える事、なんか無いか?」
「いえそんな!使用人の人数は足りていますもの、イルーゾォさんはお気になさらずに」
「暇なんだ、仕事でもしてないと潰せない。我が侭をきくと思ってさ」
「そう、なんですか・・・・?」

他人から受けた恩は返すのが当然、こんな放っておいたら面倒ごとを纏めて引き受けそうなお人よしには特に。
(『面倒ごと』本人が思うことじゃあないんだけどな。)
それにあくまで一般人の彼女がスタンド使いに楯突いているのだ。万一の時は、オレが守ってやる必要がある。
そこは最良スタンド『マン・イン・ザ・ミラー』、こと防御には抜群の安定性がある。が、問題は『引き込む』射程が短い事だ。
出来るだけ常に彼女のそばに居る必要が・・・・(下心なんて無いぜ!マジに!)
「あ、それでしたら明日の昼食で、デザートを配るのを手伝っていただけませんか?」
「――――ちょっ」
いやいやいや!あのっ、いや、その・・・・・
(お人よしな上に『天然モノ』なのか?大丈夫か?こいつ、明日にでも死にゃあしないか?)
「で、出来ればガキどもの前には出たくないな・・・・って思ってんだけど」
「何故?」
「見つかると困るから、かなあ」(自信なくなってきた)
「ああ、それなら大丈夫ですよ!これね、お渡ししようと思って借りてきたんです。」
天使の笑顔がぱあっと輝く。うへえ、凄い癒された。もう天然でも全然許す。
シエスタは厨房の奥の方に引っ込むと、何やら服をワンセットそろえて帰ってきた。
男性使用人の制服だ。(メイドばっかりって訳じゃない)これを着ろって言うのか?

「ミス・ヴァリエールの言う『イルーゾォさんの特徴』は『珍しい服装』と『髪型』でした。ですから、これを着れば」

得意げに渡されて、断る事も出来なくなる。
確かにこれから外に出るとき、こいつを着ていればいくらかマシかもしれない。
何か聞かれても「最近入ってきたばかりで、まだよく判らないです」とでも言っておけば自然だろう。
うん・・・・そう思えば悪くない。かもな。

「わかった。じゃあ・・・・ありがとう。」
「いいえ!お仕事を手伝っていただけるならお相子ですよ。賄いで良ければご用意いたしますから、いつでもいらっしゃって下さい。」
「ああ。おやすみ、シエスタ。・・・・あ。」
「?」

見るからに作業効率優先の髪型と化粧っ気のない顔が、こちらを向いている。
「一応聞くけど・・・・手鏡持ってないか?」
「更衣室に姿見ならありますけど・・・・」
「やっぱり気にしないで。じゃあな」

当然、使用人が自分の身なりを気にする暇など無いだろう。
だが・・・・若い女の子なんだし。好きなように綺麗に着飾ったら、とも思う。(女ってそういうのが楽しいんだろう?)
『貴族』と『平民』ってのにどれだけの差があるのかはわからないが・・・・
(オレはシエスタに、もっと何かしてやれないだろうか?)
そろりそろりと(今度は周囲に必要以上に気を配りながら)『自室』に帰るオレ。
鏡の中ならば、ドアがドアである限り『マン・イン・ザ・ミラー』は開けられる。
が、どうも『外』のドアには妙な鍵がかかっているらしく(声紋認証か何かか?)確実に『鏡』のあるガキどもの個室が空けられない。
此処からなら便所よりもルイズの部屋の方が近く――――そこも鍵がかかっていたら、便所より他は無いが――――鏡の中に帰る為には
再度外をうろつく必要があった。

そこでオレは本日二度目、さっと血が引くのを感じる。
ルイズだ。寝間着に裸足、蝋燭立てを片手に廊下をうろついている。オレにはまだ、気づいていないようだ。
だが声は小さいながらも強い調子で、「イルーゾォ?聞こえたら返事しなさい」と来たもんだ・・・・誰がするか。
(寝間着っつー事は待ってりゃあその内寝に帰るだろう。今度の持久戦は、オレに分があるぜ)
息を殺して観察する・・・・ルイズは廊下の端まで行くと、Uターンした。まずい、こっちに来やがる。
引き返さなきゃあならないか?いや、何処かに・・・・見つけた。(というか、さっきは何故気づかなかったのか)
一つ。ドアが半開きになっている個室がある。入るか?迷ってる暇は余り無い。どうする?

――――洗面所っつうもんがある以上、個室は『ゴール』だ。

オレはまた一つ小さな『覚悟』をして・・・・音も無く個室へ足を踏み込む。

ルイズの部屋と同じ間取り。家具や部屋の雰囲気は違うが大抵の物の配置は変わらない。
ただ一つ大きく違うのは・・・・

「こんばんは、ようこそ鼠さん。貴方は罠にかかったけれど、しょうがない事だわ。
 ・・・・・ちょこっと開いてる扉があったら、あたしでも入ってみたくなるもの。そうでしょう?」
褐色肌の勝気な女――――すばやくオレに近づき、何か棒のようなものをこちらに向け口を開く・・・・ッ!

「手厚い歓迎だな?」
何だか知らんがさせはしない。

腐っても、知らない土地で迷子になっていても小娘から逃げ隠れしていても、オレは『暗殺者だ』。
素人ごときがオレに向かって腕を伸ばすより早く、彼女の顎をナイフの腹で持ち上げる。
少し力を込めるだけで。水平方向にすべるように、喉の奥まで食い込むだろう。
女の微笑が引き攣る。「大人の男性って感じ。素敵ね」「グラッツェ。」

「デカい声は出すなよ――――あの小娘に頼まれたのか?オレを捕まえろって」
答えなんか最初から期待しちゃあ居ない。素早く部屋中に視線を走らせる。派手な化粧台を見つけた。鏡もある・・・・『ゴールだ』。

「それじゃあ――――」
「頼まれなんかしたら、誰がやるもんですか!あの子が梃子摺ってるって聞いて、先に捕まえてからかってやろうと思っただけよ」
女は(背格好は女のそれだが、まだまだ少女の様子だ)場違いにも頬を染め、視線を逸らす。
命のやり取りに対して不真面目すぎる――――当然だ。こいつらは、『平和ボケ』してて当然の奴らなんだ。
ガキで、学校なんざ通って、おまけに『貴族』ってんで不自由なくぬくぬく暮らしてる。

「お前、綺麗だな。」
「・・・・は、はあっ?!」
「自分の事を気にかけてる。やっぱ『女の子』ってのはそういう風がいいよ。そういう風が・・・・・じゃあな。」
『マン・イン・ザ・ミラー』、オレと、化粧台の上の『化粧ポーチ』を許可しろッ!
(恐らく、持っていると見た。手鏡だけ取ったら、『外』の適当な場所に捨てておくさ)


そしてオレは無事にゴールテープを切る。
一時はどうなる事かと思ったが、夜の散歩も中々悪くなかったな。『怯え』なければいい結果がついてくるもんだ。
今日のオレは勇ましかった。(部分的には。)
こりゃあ夢見がよさそうだ。それじゃあマン・イン・ザ・ミラー、明日の昼前に起こしてくれ。11時ぐらいがいいな。おやすみ――――

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