ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は引き籠り-6

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匿名ユーザー

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まただ!またやりやがったんだ、オレはッ!
『マン・イン・ザ・ミラー』はいつだって最良なのに、それでもしくじるのは『オレが臆病だから』だッ
ジリジリ迫る焦躁に耐えきれず、逃げ出しやがった!
「耐えてみせる」と誓ったオレの覚悟は偽物だったんだ!畜生、畜生!


「もしかして、イルーゾォさん・・・ですか?」


オレは頭の芯がスーッと冷えて行くのを感じた。
名前が知られてる。ルイズには仲間が居た・・・・だが、だから何だ?
もう考える必要は無いだろう。この女に『見られた』、ならば『始末する。』それだけ。
女がスタンド使いだろうと何だろうと、この距離で首をカッ切るんじゃあ関係ない。
手慣れた作業だ。何十回と繰り返してる。『仕事』でとどめを刺すのはマン・イン・ザ・ミラーじゃあない、オレの役目・・・・

その瞬間はいつも、オレの瞳はきょろきょろするのをやめて、汗はスッと引き、心臓は静かに一定のリズムを刻む。
多分此所へ来てから、今が一番落ち着いている。
この行為は『呼吸』と同じだから。他人の命を摘み採ることは、オレにはどうしたって必要な事だからだ。
それに、『自分がやった殺人』に怯えるなんて、救いようのない腰ヌケ野郎のする事だぜ。そうだろ?
だから静かに、ナイフを取り出して・・・・一度で終わらす。『喉』だ、声も上げさせないッ!


「探してました、イルーゾォさん。早くッ!『こっちへ逃げるんです!』」


なッ・・・・?!
女は間髪入れずに『ナイフを取り出す』オレの手を掴む、ナイフごと!
当然手はサックリ切れて、女は痛みに顔を歪ませた。しかし『手は離さずに』、毟ろ力を込めて引っ張っている!
どういう事だ?何が起こった?別に殺しちまうなら今でもいいが、『逃げて』っていうのは何なんだ?!

オレは女に、物陰に連れ込まれてやった。他に人の気配はしなかったからだ。それに女は、でかい声を出そうとはしない。
「お、お前。オレを探していると・・・・」
「はい、探していました。イルーゾォさんを、『助けたくて』」

懐疑心を丸出しにしたオレを真直ぐに見つめて、彼女は言い直す。

「あなたの力になりたくて。」
彼女はまず、私は平民です。と言った。『ルイズ達貴族とは違う』のだと。貴族だとか平民だとか、オレには良く分からないが
彼女は使用人そのものの衣服に身を包んで(そう、さっき「貴族様、ボタンを――――」って言っていたメイドと同じ服だ)
なんていうか、格差とか差別とか、そう言ったものを感じさせた。
それから、そう。自分は平民だからこそ、あなたを助けるんですよ、と念押しまでする。
確かにオレは貴族になった覚えはない。すると、平民って事になるのか?オレは?

オレはまだ、この女を信用しちゃあ居ない。一言一言搾り出す女の首筋を、『いつでも殺せるんだ』と思いながら冷めた目で見下ろしてる。

「平民は貴族に逆らってはいけません。これは当たり前の事で、私達も不満こそあれど、疑った事はありませんでした。」
「・・・・何故?不満なら抗えばいいじゃあないか。」(『オレ達』は、そうした。)
「出来ません!貴族の皆様のような『力』は私達にはありませんもの。何をしたって敵わないんです。
それにですね、出来たって、しません。私は此処の貴族様達のこと、好きですから。」

ふうん、これはつまり、『貴族』ってのは総じてスタンド使いで、『平民』はそうじゃあないと見ていい訳だな?
(でもオレは『平民』・・・・つまり貴族どもは全員、『生まれつき』だ。そういう奴も居るって聞いた。)
考えた事も無い・・・・イタリアじゃあ、こそこそしなきゃいけないのはスタンド使いの方だ。
鏡の中には世界がある!なんて言おうもんなら、間違なく頭の病院を勧められる。
だがどうやら此処は(何処だかは分からないが)逆らしい。スタンドの存在が認められ、スタンドの使えない一般人は家畜。
『そういう判断』をする選民気取りの下衆野郎はたまに居たが、国ぐるみで『そう』なのか・・・・
(オレ達のチームにそんな奴は居なかった。スタンド使いであろうと無かろうと、重要なのは『殺すかどうか』だ。)

オレは「人は皆平等であるべきだ!」なんて主張するほど聖人君子ではない。むしろ人間の『差』について、肯定的ですらある。
何故ならオレのスタンド『マン・イン・ザ・ミラー』は、そのあり方自体が『オレ』と『他人』を圧倒的に差別するからだ。
それだけじゃあない。オレのチームにはリーダーが居るし、オレの組織にはボスが居る。その『差』をなくしたら、組織は成り立たない。

だが。
『差』ってのは・・・・その・・・・どう言えばいい?下の奴が、上の奴を、尊敬できなくちゃあいけないと思うんだ。
自分より力が強いだとか頭がいいだとかって奴を『尊敬』するのが下の奴で――――
『尊敬できない』ならば、そこで『上の奴を乗り越える』義務が発生する。オレは、そう思っている。(黙って妬むだけの奴は根暗だ)
だからオレはリスクだらけの謀反に賛同した!『覚悟』をし、『死』まで体験したのはボスを尊敬できなかったからだ!
そしてそれとは反対に――――オレ達のチームが無事にボスを消し(今頃もう終わってるかもしれないな?)組織がオレ達の手に落ちて。
そんで、そんで何があっても絶対に・・・・リーダーのリゾットだけは、俺の『上』に居るべきだ。


「じゃあお前にとって『貴族』ってのは、やっぱりお前の上に居るべきなんだろう」
「え?は、はい。」
「じゃあ余計に判らないな。何でオレを助けたいんだ?裏切りか?」
「ち、違いますッ!そんな、裏切りだなんてそんな・・・・私はただ・・・・・」

女は目を伏せる。何と無くだが、彼女は嘘をついてはいない気がする。
彼女はオレと同じで、『格差』を肯定していて覆す気は無く、しかし――――


「あんまり酷すぎると思ったんです。いきなり呼び出して、有無を言わさず動物扱いなんて・・・・幾らなんでもおかしいです!
家族や友人が、居たんでしょう?そこに、そこに帰りたいって思うのは当然だと思います。
だからミス・ヴァリエールが『使い魔が逃げ出した』って言っていたのを聞いて、イルーゾォさんが『拒絶』を選択したのを知って・・・・
力になるべきだって思ったんです。同じ『平民』の、私が。他に誰が居るって言うんですか?」


小さく震える彼女から、『覚悟』を感じた。
逃がすわけでも、匿うわけでもなく『力になる』と言う漠然とした協力。ただそれだけでも・・・・
自分の無力を自覚するこのメイドは、強大な敵と戦う程の、強い『覚悟』をして行動に移した。

嬉しい?頼もしい?そんなんじゃない『温かい何か』が心臓の辺りからあふれ出して、全身を包む。
冷静に考えればメイドの娘の一人。スタンド使いでも何でもないただの女が一人味方についたところで、弾除け位にしかならないだろう。
それでもオレは!言うなればすぐ近くにチームの奴らが控えていて、『何も心配する事は無いんだぜ』と笑っているような、
そんな『安定感』みたいな物をひしひしと感じた。

鏡の世界には、いつだって『マン・イン・ザ・ミラー』がオレの側に居た。だから鏡の中はオレの世界だった。安心した。
そして今、外の世界に一人の味方が出来た。まだ名前も知らない女だ。
『鏡の外』は、敵しか居ないわけじゃない。
危険なばかりの場所じゃない。
此処へ来て初めて、初めて・・・・『外の世界』も、オレの世界になったんだ!


イタリアに帰って、仲間に「何してたんだ?」って聞かれたら、オレは迷わず答える。「天使に会ってきた。」
あいつ等は思う様オレを笑うだろうな。お前はスタンドからしてメルヘン趣味なんだよ、頭オカしいんじゃねーか?って。
それでも言うよ、オレは。だって間違いなく、『オレには天使に見えたんだから。』


「ど、どうしたんですかイルーゾォさん?!俯いて・・・・具合が悪いんですか?」
「なんでもない!ちょっと、アレだ。くらっとしただけだ。脱水症状で――――アンタ、名前は?」

天使の名は、シエスタと言った。

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