ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-48

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匿名ユーザー

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すっかり慣れた、しかしこの場にそぐわぬどこか甘い香りが鼻腔を
くすぐり――ギアッチョの意識はゆっくりと眠りの海から浮かび上がる。
「・・・・・・ああ?」
開ききらない瞳で仰向けのまま左右を探ったギアッチョの、それが
最初の言葉だった。


第三章 その先にあるもの


ゆるゆると上体を起こして、ギアッチョはいささかぼんやりした
視線を下に向ける。視界に入ったものは、見間違えようも無くルイズの
ベッドだった。そしてその持ち主は――
「・・・・・・」
ギアッチョの隣で、すやすやと寝息を立てている。
「ここにブッ倒れて・・・そのままっつーわけか」
「我ながら情けねーな」と呟いて、ギアッチョは小さく溜息をついた。
何とか途中で気力が切れずに済んだが、もしもガキ共の前で倒れて
いたらと考えると心底自分が腹立たしくなる。
「少々かったりぃが・・・鍛え直すとするか」
立ち上がろうと身体に力を入れるが、上着の裾が何かに引っ張られて
ギアッチョは再び腰を下ろす。何事かとそちらを見れば、ルイズの
小さな手が服の端を掴んでいた。引きはがそうと服を引っ張るが、
一体どんな夢を見ているものか、ルイズは頑なに手を離そうとしない。
「・・・おい」
声をかけてみるが、少女が眼を覚ます様子はない。
「・・・クソガキ、起き――」
頭を掴んで揺さぶろうと伸ばした手を、ギアッチョはピタリと止めた。
考えてみれば一日以上寝ていなかったのだ。自分と違って、ルイズは
そういうことに慣れてはいないだろう。そう考えると、無理矢理起こして
しまうことも少々躊躇われる。
「・・・チッ」
まあいい、特に急ぐ理由もない。相変わらずの凶相で一つ舌打ちして、
ギアッチョは再びベッドに背を預けた。

「・・・ぅん・・・」
浅いまどろみの中で、ルイズは一日ぶりの睡眠を噛み締めていた。枕に
頬をうずめて、毛布を胸に抱き締める。いつもと同じそれが、今日は
何故だかとても幸せに感じられた。そんなわけだったから、
「・・・・・・ギアッチョ・・・」
等とうっかり寝言を洩らしてしまっても、それは仕方のないことで。
「ああ?」
しっかり聞こえていたギアッチョに無愛想に言葉を返されてしまったと
しても、やはり仕方のないことだった。
ただ、ルイズ本人はそうは思わなかった。自分の言葉で微かに目覚めた
彼女の心臓は、ギアッチョの声で跳ね上がった。
「ようやくお目覚めか」
「えっ、な、ち・・・ちちち違うの!違うんだからね!!」
「・・・何か知らんが落ち着け」
「・・・う、うん・・・」
答えたところでギアッチョの服を掴んでいることに気付き、ルイズは
慌てて手を離した。ギアッチョはそれを眼だけで眺めると、もう用は
無いと言わんばかりにベッドから降りる。
「厨房行ってくるぜ」
「あっ・・・」
デルフリンガーを担いですたすたと扉に向かうギアッチョに一抹の寂しさを
覚えて、ルイズは身体を起こした状態のままその背中を見つめる。そんな
視線に気付く様子もないギアッチョがドアに手を伸ばした瞬間、
「・・・?」
ドアは外側から開かれた。
「あら、おはようギアッチョ」
ギアッチョが口を開く前に、キュルケは驚いた顔も見せずに挨拶する。
「昨日の今日で元気だなおめーは ルイズに用か?」
「ええ、それと貴方にもね ちょっと待っててちょうだい」
ギアッチョの肩越しに室内を覗き込みながらそう言うと、怪訝な顔の
彼をそのままにキュルケはルイズの前へとやって来た。
「おはようルイズ やっぱりまだ寝てたわね」
「お、おはよう」
「あら、ちょっと顔が赤いんじゃない?風邪でもひいた?」
「べっ、べべべ別にああ赤くなんかないわよ!」
わたわたと手を振って否定すると、ルイズは話を逸らそうと言葉を継ぐ。
「そ、それより何か用?」
「何って・・・忘れたの?」
呆れ顔のキュルケに、ルイズはようやく今朝交わした約束を思い出した。
「あ!」
「食事、行くんでしょう?タバサとギーシュはもう厨房で待ってるわよ」
「ごっ、ごめん!すぐ着替えるから――」
言いかけたところではっとドアに眼を向けると、ギアッチョは既に
廊下へ姿を消していた。

「私達でシエスタを送って行った時に、今日の昼食を厨房でって話に
なったのよ」
扉横の壁に背中を預けるギアッチョを見つけて、キュルケは問われる
前にそう言った。
「ま、そんなところだろうとは思ったがよォォォ~~~~・・・
そりゃ何だ、このオレも一緒に着いてくことになってんのか」
「当ったり前でしょう?あなたが主役なんだから」
「オレぁそんなガラじゃねーんだがな」
若干首をすくめて答えるギアッチョを面白そうに眺めて、キュルケは
その隣に背をもたれさせる。
「あなたが来ないとシエスタ泣いちゃうかも知れないわよ?あの子
随分あなたに感謝してるみたいだし・・・惚れられちゃったりしてね」
「こんな化け物に惚れる人間が一体どこにいんだよ」
「あら、いつもの自信がないじゃない あなたって結構イイ男だと
思うわよ?まあ私のタイプとはちょっと違うけどね」
半分茶化して笑うが、ギアッチョは詰まらなそうに首を振る。
「・・・そういう意味じゃあねーよ 得体の知れねえ力で無数の人間を
殺して来た野郎が化け物でなくて何なんだ?・・・全く今更だが、
オレは本来他人と関わっていい人間じゃあ――」
「ストーップ、ギアッチョ一点減点よ」
声と共に突き出されたキュルケの掌に、ギアッチョの言葉は中断された。
「いい?あなたが過去に人の命を奪ってきたこと、それは事実かも
知れないわ だけどね、こう言うと冷たく聞こえるかもしれないけど、
私達はそんなこと知らないの 知ってるのは、いつでも何度でも私達を
救ってくれたヒーローだけなのよ」
「・・・・・・」
「罪を認めることは勿論大切だわ だけど人を殺す一方で、あなたは
私達の命を、人生を救ってくれた・・・その重さも知っていいんじゃ
ないかしら?」
キュルケは小さく笑みを浮かべてそう言うと、躊躇いがちに開きかけた
ギアッチョの口にスッと人差し指を当てる。
「だからネガティブな発言は一切禁止!次に言ったら三点減点するわよ」
あくまでも茶化した態度のキュルケに小さく溜息をついて、ギアッチョは
諦めたように彼女を見た。
「・・・で、ポイントオーバーでどんな罰ゲームを頂けるんだ」
「そうねぇ・・・十点マイナスで三食はしばみ草ってのはどうかしら?」
「・・・・・・そいつは勘弁願いてぇな」
再度の深い溜息と共に、ギアッチョは両手を上げて降参の意を示した。

「ごめん、お待たせ!」
マントを胸に抱えて、ルイズは急いで部屋から飛び出した。確認する
ようにこちらに一瞥を向けて、ギアッチョは「行くぞ」という一言と共に
すたすたと歩き出す。
後を追おうとするルイズの頭に、スッとキュルケの片手が置かれた。
「頑張りなさいルイズ きっとチャンスはあるわ・・・多分」
「・・・へ?」
生温かい笑みのキュルケを、ルイズはきょとんと見返した。


「本ッ当に済まなかったッ!!」

厨房へ着いたルイズ達を出迎えたのは、マルトーの猛烈な謝罪だった。
シエスタから仔細を聞いたのだろう、「やりたくてやったことだから」と
首を振るルイズ達にマルトーはまるで懺悔のような表情で謝り続ける。
設えられた質素なテーブルにこっそりと眼を向けると、本を開いて己の
世界に逃避しているタバサの横でギーシュが苦笑交じりに肩をすくめた。
どうやら自分達が到着する前から、この大柄なコック長は大音量の謝罪を
繰り返していたらしい。マルトーに視線を戻すと、謝り続けるうちに
感極まったのか、彼はとうとう漢泣きに泣き出した。
「おっ、俺は誤解していたッ!あんたらみてぇな貴族がいることを
知ろうともせずに、この世の摂理を理解でもしたような気になって
いたんだ・・・ッ!!本当に、詫びのしようもねえ!!俺は、お、俺はッ!」
「・・・おいマルトー」
咆哮の如き大声のマルトーを見かねてか、ギアッチョが気だるげに声を
かけるが、マルトーはギアッチョに標的を変えて尚も喋り続ける。
「おおギアッチョ・・・お前さんにも一体何て謝りゃあいいのかッ!!
モットの野郎が悪魔なら、こんな傷だらけの人間を死地に向かわせた俺は
堕獄の罪人よ!!こんなもので償い切れるとは思わねぇが、どうか気の
済むまで俺を殴ってくれッ!!」
「ああ?」
「「コック長、それは・・・!」」
ギアッチョと外野、双方がそれぞれ声を上げるが、マルトーはそれに
首を振ると漢らしく両手を広げて怒鳴る。
「気にするこたぁねえ!これは俺の罪滅ぼしなんだ!!さあッ!
いくらでも殴ってくれ!!さあ!さあッ!早く!!はやげふゥゥウッ!!」
「「殴ったーーーーー!?」」
ギアッチョの躊躇無い一撃を顔面に受けて、マルトーは派手に吹っ飛んだ。
やれやれと言わんばかりに溜息をついて彼を引き起こす。
「眼ェ醒めたかマルトー」
マルトーをしっかりと立たせてから、ギアッチョはそう口を開いた。
「何度も言うがよォォ~~~ オレ達がやると決めたからやったんだ
謝罪なんぞ受ける気もねーし権利もねぇ そんなもんよりオレ達はメシが
食いてーんだがな」
「お、おお・・・ギアッチョ・・・!」
マルトーの顔に、明らかな感動の色が浮かぶ。様子を見守っていた
コック達を見回して、マルトーはいつもの威勢を取り戻した声で叫んだ。
「聞いたかお前達!真の英雄は己の行為に代償を求めたりはしねぇ!!
俺達がするべきはとびきりの御馳走を振舞ってやることだ!!さあ
お前達、調理を再開しようじゃねぇか!!」
「「おおぉおぉおーーーーーーーーーっ!!」」
ていうか殴れと言われたから殴っただけだろうなと思うルイズ達を
よそに、マルトー達は大盛り上がりで料理にとりかかった。
ほどなくして、テーブルに種々の料理が運ばれて来た。肉や野菜、色
とりどりの果実が惜しみなく使われたそれらは、正に御馳走と呼ぶに
相応しい代物であった。ルイズ達にはさほど珍しいものではなかったが、
ギアッチョにとってはそうではないようで、先ほどからルイズの隣で
小さく感嘆の声を上げている。
料理が運び終わるまでの間、キュルケ達としばし談笑していたルイズ
だったが、ふと気付いて顔を上げた。と、手馴れた様子で配膳する
シエスタと眼が合う。
「もうすぐ全部運び終わりますから、もう少々お待ちくださいね」
シエスタは普段着では無く、いつものメイド服を着ていた。にこりと笑う
シエスタと対照的に、ルイズは少し心配げな顔を見せる。
「シエスタ、休んでなくて大丈夫なの?」
その言葉に場の視線がシエスタに集中するが、シエスタは笑みを絶やさず
応じた。
「いえ・・・自分のことなんかよりも、私は一秒でも早く皆さんにお礼を
したいんです 私に出来るのは、少々の料理の手伝いぐらいですから・・・」
「それに」シエスタは少し厨房を見渡して言葉を継ぐ。
「またここで働くことが出来るんだって思うと、休んでることなんて
出来なくって」
「シエスタ・・・」
屈託の無い笑顔を見せるシエスタに、ルイズ達はこの娘を助けてよかったと
改めて思う。互いに顔を見合わせて、つられるように笑った。

「・・・おいしい」
口に運んだ料理は違えど、彼女達の感想はみな賞賛の一言だった。
「いつもうめぇが・・・今日はそれ以上だな」
ギアッチョまでが珍しく素直な賛辞を口にする。
「俺にも使える魔法がある」いつかマルトーが言った言葉だが、成る程
こいつは確かにその通りだとギアッチョは柄にも無く独白した。
「そうかい、そいつぁよかった!こんな料理でよけりゃあいつでも食いに
来てくんな!あんたらにならいつでも御馳走を振舞わせてもらうぜ!」
マルトーはガキ大将のような笑顔を見せる。その隣で、シエスタも
クスクスと楽しそうに微笑んだ。
「・・・次ははしばみ」
「却下だ」
誰よりも旺盛な健啖ぶりを現在進行形で発揮しているタバサの提案を、
ギアッチョは一瞬で棄却する。
トリステイン魔法学院――その厨房を、わだかまりの無い笑いが満たした。

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