ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-49

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匿名ユーザー

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ニューカッスル城の客室では一人の男性が軟禁されていた。
彼は『マリー・ガラント』号の船長であり、船と共にここまで曳航されて来たのだ。
海賊の正体が王党派と知り、安堵と共に別の恐怖が込み上げる。
彼が取引していたのは優勢であった貴族派の連中だ。
だが別に彼等の味方ではないし、王党派が有利だったらそっちに売るつもりだった。
それでも理由がどうあろうと王党派にとっては完全な利敵行為だ。
他の交易船が易々と来れないよう脅す為に、
見せしめとして皆殺しにされ首を晒されるかもしれない。
惨状を想像して震える彼の前に一人の青年が現れた。
最初は貴族でもない使い走りか何かだと思っていた船長に、彼は自ら名乗ってみせた。
“アルビオン王国国王ウェールズ・テューダーだ”と。

「……………」
船長の目が驚愕に見開かれる。
一介の捕虜に過ぎない自分に国王自ら出向くなど考えられない。
だが現にこうしてウェールズはそこにいた。
そして非戦闘員の脱出船として『マリー・ガラント』号を使わせて欲しいと、
彼に提案を持ちかけてきたのだ。
それも脅迫ではなく対等な商談として。
「積荷の硫黄の代金と我が臣民の移送費は後日必ず支払う。
それまではこれを担保として預かって貰いたい」
そう言って差し出したのはアルビオンに伝わる国宝『風のルビー』。
城の内装を見ればどれほど窮しているか一目で判る。
だが、それでも彼等は国宝を売り払おうとはしなかった。
王家の誇りを守る為だったのかもしれない。
しかし今それさえも手放そうとしている。
臣下の家族や友人を逃がす為だけに…。
「たとえ我々が敗れても他の国に持っていけば相応の値が付く筈だ。
もしそうなったら…出来ればトリステイン王国に届けて欲しい」
若き王の心意気に胸打たれるも事は命懸け。
下手をすれば貴族派の艦隊に撃沈されるかもしれない。
自分一人ならともかく船員全てを巻き込む事は出来ない。
ハッとそこで船長は気付いた。
「…私以外の船員は今、どうなっている?」
「ああ、別室で待って貰っているよ。
もしかしたらアルビオン王国最後の客人になるかもしれないからね、
我々に出来る最高の待遇で持て成すつもりさ」
「……………」
捕虜にまで客人の待遇をするというのか。
自分達さえ満足食っていけるかどうか判らないのに。
ウェールズの立ち振る舞いに船長は己を恥じた。
船員の命を優先すると言っておきながら、
多くの人間を殺めると知ってて自分は貴族派に売り捌いていたのだ。
その中には無論ウェ-ルズにとって大切な家臣もいただろう。
だが彼はそれを咎める事無く自分に頼み事をしてきた。

過去はやり直す事は出来ない。
だが罪を償う事は出来る…いや、出来ると信じたい。
自分が冒した過ち、それを正す機会は今この場においてのみ。
人を殺める秘薬ではない、人の命を運ぶのだ。
それがウェールズ達への…そして自分が死なせた者達への贖罪。
「…その依頼、お引き受け致します」
承諾の言葉はまるで懺悔のようにさえ聞こえた。

客室の前でルイズ達はウェールズが出てくるのを待っていた。
船長との話が終わり次第、彼女達がどうするかを話し合う為だ。
それほど時間も経たない内にウェールズは部屋から出てきた。
交渉が決裂したのかと心配するルイズに彼は笑みで応える。
「話は付いたよ。君達は『マリー・ガラント』号で先に脱出してくれ。
ミス・ヴァリエールの使い魔は突入前に直属の竜騎士隊に送らせる。
上手くいったら今度は王宮のホールで再会しよう」
冗談めかして言うウェールズの言葉にアニエスは安堵した。
王党派の士気の高さも彼女の使い魔の実力も知っている。
だが、それだけでは何万という兵力の差は埋まらない。
ウェールズの策は成功する確率は1%にも満たない。
もし『マリー・ガラント』号の協力が得られなかった場合、
脱出する事さえ儘ならなかっただろう。
一番重要なのは『手紙』を持ち帰る事だ。
ここで戦っても何の意味もない、無駄死にだ。
しかしアニエスの思惑とは裏腹にルイズが声を上げる。
「皇太子殿下…いえ、ウェールズ陛下! 私も作戦に参加させてください!」

突然の彼女の発言に一同は驚きを隠せなかった。
ルイズの眼は真剣で、そこから彼女の覚悟が伝わってくる。
「いきなり何を言い出す! 任務はどうするつもりだ!?」
「そんなのアニエスが届ければいいじゃない!
私は戦うわ、貴族は決して敵に背を見せたりしないんだから!」

制止しようとするアニエスを振り解き、彼女は更に気炎を吐く。
その頑なな態度に苛立ちを覚えるアニエスを手で制し、
ウェールズは諭すように彼女に語り掛けた。
「残念だがそれは受け入れられない。
もし我々が敗れた時、次に危険に晒されるのはトリステインだ。
その時の為に連中の脅威を伝える者が生き残らなくてはならない。
それに君はアンリエッタの親友だ。彼女が悲しむ姿は見たくない」
「そうです! 私も陛下と同じです!
陛下を失えば姫殿下は必ずや嘆き悲しみます!
そんな姿など私も見たくはありません!」
ルイズの反論にウェールズも言葉が詰まる。
彼女の言葉には裏表がない、剥きだしの感情そのものだ。
どのような言葉を用いようとも説得など出来る筈がない。
ましてや彼女の使い魔の力を借りているのだ。
彼女の参戦を拒否する事は難しい。
頭を悩ませるウェールズにワルドが救いの手を差し伸べた。
「ご安心を。僕も戦場に赴き彼女を守りましょう。
僕のグリフォンならば何かあった時も即座に退避出来るでしょう」
「おお! ワルド子爵、君も加わってくれるのか?」
「勿論ですとも。これは貴族の名誉を守る戦い。
ここで背を見せる者は貴族とは呼べません…そうだろう、ルイズ?」
「…ワルド様」
ウェールズと会話しながら私に視線を向け同意を求める。
自分の我侭とも思える行動をワルドは認めてくれた。
思わず背を向けて潤みそうなった瞳を必死に隠し通す。
そして振り向いた先で私の使い魔が心配そうに見つめていた。
「べ、別にアンタの為じゃないわよ!
使い魔が戦っているのに、私が逃げたら格好付かないじゃない!」
口から出たのは本心とは違う言葉。
つくづく素直になれない自分に呆れ返る。
一人で戦う事がどんなに寂しい事なのかをルイズは知っている。
それは彼と出会う前のルイズであり、そして親友と呼べる者が出来る前のタバサだ。
彼を一人残して戦場を立ち去る事など出来ない。
「それに、貴方が私を守ってくれるんでしょう?」
「……ああ。主を守るのが使い魔の務めだからな」
代弁するようなデルフの答えにルイズの表情に笑みが戻る。
だが、それでデルフがついた嘘だった。
彼は何も口にしなかった…いや、出来なかったのだ。
その厚意が嬉しくて断る事が出来なかった。
ルイズが加わる事に拒否を示すべきだと分かっていながら…。

彼は自分に一つの枷を掛けている。
それは無意味に命を奪わない事。
生きる為でもなく自分を守る為でもない。
かつて決闘で無意識の内に自分が冒そうとした過ち。
それを彼は心の底から恐れているのだ。

そんな彼が戦争に加わる事自体矛盾している。
だがウェールズの提案通りにいけば彼は戦わなくて済む。
ましてや敵は人を操り殺し合いをさせる奴なのだ。
自由と命、その両方を弄ぶ。それは彼にとって最も許せない行為。
それにウェールズはいい人だった。
生きる事を決意した彼の目は輝いていて、
戦闘自体には参加しないという彼の条件も快く呑んでくれた。
彼を助ければきっとルイズは喜ぶ。
その喜ぶ顔が見たかったのかもしれない。

だけど彼女を守りながら戦う事になれば人殺しは避けられない。
森で襲ってきた連中とは質も数も違いすぎる。
一人なら矢も弾も避けれるがルイズには無理だ。
手加減していてはルイズの身に危険が及ぶだろう。
だからといって割り切れるものではない。
何よりも彼女にそんな自分の姿を見せたくない。
人を殺せば何かが終わる。
自分が怪物に変貌していくような恐怖。
恐らくは、その罪を一生悔いる事になるだろう。
後悔のない選択をしなければならないと分かっている。
だけど、彼には何が正しいかなど判別が付かない。
それでも誰かを殺さなければならない時には自分がやろう。
ルイズには…彼女にだけは罪を背負わせたりしない。
それが彼女に呼ばれた使い魔としての務めだと思っている。

彼が悲壮な決意を胸に秘める。
その刹那、背筋が凍るような殺気が走った。
振り向いた先には壁を背にしたワルドがいた。
腕を組みながらも手は杖に掛かり、いつでも抜ける状態にある。
その視界にルイズ達とウェールズを収めたまま微動だにしない。
いくら広いといっても廊下。戦場としては狭すぎる。
ここで戦えばルイズ達を巻き込むのは目に見えていた。
ワルドが顎で付いて来いと示す。
ルイズ達から引き離すのは彼にとっても望む所。
翻る外套の背を彼が追いかける。


背後から感じる使い魔の殺気を受けながらワルドは歩く。
なるべく人の多い場所を選び襲って来れないように仕向ける。
自分でも危険な橋だと自覚している。
だが、この機を逃せば二度とガンダールヴを捕らえる事は叶わない。
それどころか『レコンキスタ』の壊滅さえも有り得るのだ。

ウェールズは彼の実力を知るまい。
奴の存在は何もかも焼き尽くす爆弾だ。
もし接舷されたら…いや、竜に乗せて投下でもされたならば、
『レキシントン』であろうと巨大な棺に変わるだろう…!

そして、それだけでは終わらない。
奴の体を食い破り世界中に幼虫が広がれば聖地の奪還どころではない。
人もエルフも全ての生物は破滅の刻を迎える。
文字通り、数多の残骸を遺して世界は“虚無”となるだろう。
だが、そんな化け物さえも利用する我々はどこに向かおうと言うのか…?
早いか遅いかの違いで我々も破滅に向かって歩んでいるのではないか。
上の方針に反発するワルドはそう思わずにはいられなかった。

城の中庭を抜けて彼が辿り着いたのは巨大な地下空洞だった。
先導するワルドの背を追いながら辺りに視線を向ける。
ただの穴ではない、石で造られたそれは人工的なトンネルだった。
「ここはニューカッスル城に繋がる水道だよ。
普段は水が流れていて中庭の噴水などにも使われている。
そして、いざという時には篭城できるように水を溜め込んでおける。
実に理に適った代物だと思わないか?」
周囲に声を響かせながらワルドは語る。
しかし彼の言う事が本当ならここには水が流れている筈だ。
それなのに足元には水溜りが出来る程度の水さえもない。
その疑問を承知した上で彼は続ける。
「既に貴族派が上流を抑えて水を塞き止めたんだよ。
もっとも既に水の貯蓄は十分だったし、水のメイジもいる。
王党派にとってはただの嫌がらせにすぎないんだろうけどね」

かつんと石床を叩く靴音が止まる。
それに合わせて彼も足を止めた。
二人の間に緊張感を伴った静寂が訪れる。
そしてワルドは最後の疑問の問いを口にした。

「水圧に耐えれるように建造された内壁に固定化の魔法。
いくら僕達が暴れようとここが崩壊する心配はない」

彼は既に杖を抜いていた。
背を見せながら詠唱を終え、振り返りざまにエア・カッターを放つ。
だが殺気を感じ取れる彼には不意打ちなど無意味。
即座に身を翻し、風の刃を避ける。
それを当然のように受け止めながらワルドは告げた。

「さあ決着を付けようじゃないかガンダールヴ!
お互いの命運、世界の行く末、そしてルイズを賭けて!」

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