ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

条件! 勝利者の権限を錬金せよ その⑤

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匿名ユーザー

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条件! 勝利者の権限を錬金せよ その⑤

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承太郎の『もう一本の腕』がギーシュの腕を掴んでいる。
相当の力がかかっているのか、ギーシュは痛みに顔を歪めて右腕を震わせる。
「貴族の決闘ってのは……横槍を入れていいもんなのか? ギーシュ」
「うっ、うぅ……うわっ!?」
右腕を捻り上げられ、ギーシュは薔薇の造花を落とした。
「ゆ、許してくれジョータロー! 僕は、ただ……」
「…………」
無言の圧力にギーシュは口を閉ざした。
何を言っても、何と言い訳しても、ただじゃあすまされない……そう思った。
助けを求めるようにギーシュはルイズへ視線を向けたが、
ルイズはいつしかうつむき、震えていた。
「る、ルイズ……」
「ねえ、ギーシュ……。私、昨日の夜、成功したわよね……『錬金』」
「あれは、えっと」
左手をポケットに入れて、ルイズはゆっくりと昨夜錬金した青銅を取り出し、
承太郎とギーシュによく見えるよう頭上に掲げた。
「私……『錬金』できたわよね? ……正直に答えて」
「あ、う……あの、ルイズ、つまりだね……えっと」
ビュン、と音を立ててルイズの杖がギーシュの胸に向けられる。
「ゼロの私でも、爆発だけは起こせるんだから」
ルイズの口調は静かで、怒っているようには聞こえなかった。
しかしギーシュは本能的に、正直に答えないと自分がどうなるかを悟った。
もう自分に逃げ場は無い、真実に気づいた二人を前にどんな言い訳も通用しない。
『正直に話す』というもっとも恐ろしい事が、一番被害を小さくする方法だった。

「すす、すまないルイズ! 昨日の晩、君が倒れている間に僕が錬金したんだ!
 君が持っている青銅は、僕が錬金した物なんだァーッ!」
左手の指が開いて、ルイズの持っていた青銅が地面に落ちる。
自分が錬金したと思っていた青銅、本当はギーシュが錬金した青銅。
一生の大切にしようとさえ思った輝かしい宝物が、一瞬で屑石に変わる。
杖を握った右手が震え、ギーシュが身をよじって逃れようとする。
だが承太郎が彼を逃がさなかった。
「やれやれ……ルイズの手助けくれーなら文句を言うつもりは無かったが、
 代わりに錬金して俺達を騙そうとしてたってのは……やりすぎだぜ、ギーシュ」
「ぼ、僕はただ! ルイズがあまりにも不憫すぎて……」
「それに俺を追い出すチャンスだと思った訳だ」
「それもあるけど……で、でも!」
「もういい」
ルイズが言った。声が震えていた。
「る、ルイ……」
「喋らないで!」
怒鳴って立ち上がり、ルイズは杖をしまう。
釣り上がった眼差しは怒りの炎で燃え、同時に悔しさで濡れていた。
「私を……私を『ゼロ』と呼ぶのは勝手になさい!
 でも! こんな侮辱は二度と許さない! 絶対に!」
焼け焦げた手袋に包まれた右手が、ギーシュの頬をぶん殴る。
承太郎より力は劣っていたが、酷く心に響く拳だった。
殴った拍子に手袋がズルリとめくれるように破れ、
火傷がまだ癒え切らぬ右手の甲があらわになった。
痛みのせいか、それとも醜い傷跡を隠すためか、
ルイズはすぐ左手を右手の甲に当てた。


痛々しいルイズの姿を前にしても、承太郎はその表情を崩す事をせずに言う。
「……今の錬金はギーシュの横槍が入った。
 おめーにその気があるならもう一度、錬金をしてもいいぜ」
これが正真正銘のラストチャンス。
しかし、ルイズは――。
「この勝負、私の負けよ」
潔く己の敗北を認めた。
そしてマントをひるがえし、その場から立ち去ろうとする。
ギーシュは呼び止めようとしたが言葉が見つからず、口ごもってしまう。
だが、承太郎が呼び止める。
「待ちな! おめーが負けを認めたって事は、勝利者の権限は俺にあるって事だ。
 俺が勝ったらどうするか……それをまだ決めてねーぜ」
「……あんたの、好きになさい」
「そうかい。だったら好きにさせてもらうぜ」

ルイズがヴェストリ広場を去っても、承太郎とギーシュはまだその場にいた。
解放されたギーシュは右腕をさすりながら、恐る恐る訊ねる。
「……じょ、ジョータロー。さすがに酷すぎるんじゃないか? 相手はレディだぞ」
「フンッ……。言いたい事はそれだけか? おめーは俺達の決闘の邪魔をしたんだぜ」
「……信じてくれなくてもいいが、本当にルイズが不憫だったんだ。
 ゼロのくせに、あんなボロボロになるまで練習をして……。
 た、確かに君に出て行ってもらいたかったって下心があったのは認めるよ!
 でも! 君も見ただろう? 治癒の魔法をかけたのにルイズの右手は爆発でボロボロだ。
 確かにズルいやり方だったけれど、女の子を泣かせるような真似は……」
「やれやれ。二股をかけた男の言うセリフじゃねーぜ。
 だがルイズの心配より……自分の心配をしたらどうだ? ギーシュ」
「ううっ……な、殴るなら、殴るといい。僕はそれだけの事をした……」
「覚悟は……できているようだな」
ギーシュは恐怖で目をつむって、歯を食いしばりながら殴られる瞬間を待つ。
恐怖に立ち向かった訳じゃない。覚悟だなんてもってのほか。
絶対殴られると確信してあきらめただけで、前向きな気持ちは一片たりとも無かった。

ルイズは部屋に戻ると、爆発で汚れた服を脱いでネグリジェに着替え、
ベッドにダイブしてそのまま動かなくなった。
眠った訳ではない。
疲れはあったが、ついさっきまで気絶していたおかげか眠気は無かった。
「……どうしよう」
錬金は結局成功せず『ゼロ』のまま。
成功なのか失敗なのかは解らないが、とりあえず召喚できた使い魔は、
決闘でギーシュに勝ち、さらに自分との賭けにも勝利して自由の身。
こんなダメダメメイジ、古今東西聞いた事がない。
多分自分は世界でもっとも劣っている出来損ないのメイジなのだ。

魔法を使えるようにと努力した。
魔法が使えないならしっかり勉強しようと努力した。
でも、どんなに努力しても……自分は報われない。
報われない。

自分を卑下する言葉が呪詛のように次々と浮かんでは消えた。

ふと、窓の外を見る。
ふたつの月が色あせているように思えた。
それでもぼんやりと月を見つめていると、少しずつ嫌な事を忘れられた。
そしてもう忘れる事はひとつも無いというほど頭が空っぽになった頃。

コンコン、と部屋の戸がノックされた。


誰だろう。ううん、誰でもいい。放っといて、と思う。
十秒くらい経っただろうか、ドアの向こうで声がした。
「入るぜ」
その声を聞いて、ルイズは「え?」と呟いて、振り返る。
ドアが開いて、黒いコートと帽子の長身の男が入ってきた。
「じょ……ジョータロー?」
「何だ、起きてたんなら返事くらいしやがれ」
そう言いながら、ドアを全開にすると大きな荷物を引きずり込んできた。
「ななな、何の用よ! それ何よ!?」
「ソファーだぜ……見て解らないのか? ギーシュの部屋から持ってきた。
 賭けの邪魔をした代償だ。ついでにワインとつまみもいただいてきたぜ」
「は、はぁっ!? あんた、何言ってんの? 何でここにいるの?」
「忘れたのか、勝利者は俺だぜ? 約束通り……好きにさせてもらう」
「好きに……って、あ、あんた、どうする気よ!?」
「別に……。『この部屋に泊めさせてもらう』だけだぜ」
「ど、同情のつもり!?」
ソファーを部屋の真ん中まで引きずり込んだ承太郎は、さっそくそれに腰掛ける。
「ギーシュの部屋が薔薇臭くてな……。あっちこっちに薔薇を飾ってやがる。
 情けねーが、一晩泊まっただけでギブアップだ。
 だから他に屋根と壁のある寝床を探して、ここに戻ってきただけだぜ。
 ……勝ったのは俺だ。好きにしろと言っからには、文句は言わせねー」
「で、でも……ギーシュに薔薇を捨てさせたり、他に解決策はあるでしょ?
 どうして……私の部屋なの? どうして私の部屋を選んだの?」
「さあな……そこんとこだが、俺にもよう解らん。
 ただ、根性がある事だけは認めてやるぜ。ルイズ」


話はこれで終了とばかりに承太郎はワインをあおり、つまみのチーズを食んだ。
それを見て、ルイズのお腹がきゅ~っと鳴る。
そういえば夕食、食べ逃してたっけ。
ルイズは赤面して、精いっぱい強がった口調で承太郎に言った。
「そ、それ、少し分けなさいよ」
「…………」
承太郎は無言。けれど、パンとチーズとリンゴを投げて寄越してくれた。
そして何かの入ったビンも一緒に投げる。
「これ、何のビン?」
「火傷に効くポーションだぜ、右手に塗っておくんだな」
「……あ、ありがと」
お礼の言葉に微塵も反応を見せず、承太郎は無言でポケットから小箱を取り出す。
そこから白いスティックを一本出して、口に咥えた。
ルイズも投げ渡されたパンを、とりあえず一口かじって、ふと気づく。
「あ、あんた、もしかして私がお腹を空かせてると思って……」
「さあな……何の事だ? 俺は酒を一杯やってから一服しようと思っただけだぜ」
そう言って懐から金属製の小さな何かを取り出して、それを指でいじる。
すると、突如その金属から火が現れ、白いスティックの先端をあぶった。
「な、何それ? 火系統のマジックアイテム?」
「……ただのライターだ」
火はすぐに消え、承太郎はライターをしまう。
そして白いスティックを咥えたまま承太郎は息を吸い、吐いた。
鈍色の煙が広がり、ルイズの鼻腔をくすぐる。
その瞬間、ルイズは覚えのある匂いにうめいた。



「そそそ、それ! パイプじゃない!」
「……何だ、この世界には紙タバコはねーくせにパイプはあるのか」
「外で吸いなさいよ! パイプは健康と発育に悪いんだから!」
「勝ったのは俺だぜ。おめーには俺をここから追い出す権限はねえ」
勝利者の権限を持つ者、持たない者の差は明確である。
しかしルイズはパンを握りしめて、ベッドの上に立ち上がった。

「ももも、もう一度勝負よ! 私が勝ったら、それ吸うの、やめなさい!」
「やかましい! 俺は女が騒ぐとムカつくんだッ!
 敗者がグダグダ文句を言うんじゃねえ! いい加減鬱陶しーぜこのアマッ!」
「ななな何よ! ちょっと不思議な力があるからって調子に乗って!
 覚えときなさい! いつか、いつかぜ~ったい魔法を使えるようになって……」

ルイズはお月様にまで届くような大声で宣言する。

「あんたが私の使い魔だって事を思い知らせてやるんだから~!!」

こうして、ルイズと承太郎の奇妙な生活が再び始まったのだった。

――ギーシュの部屋。
夜も更けたというのにギーシュは寝巻きに着替えていなかった。
ワインをあおり、ベッドに腰掛け、しかししっかりと起きていた。
「なぜ……ジョータローは僕を殴らなかったんだろう……?」
殴られたかった訳じゃない。正直に言えば殴られたくなかった。
なのになぜ、こんなにも胸がモヤモヤするんだろうとギーシュは一晩中考えていた。

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