ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-37

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匿名ユーザー

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「彼をお願い」
タバサの言葉に、シルフィードがその巨大な頭を縦に振る。
「でも大丈夫なの?あなたがいなくても」
ルイズの問いに、タバサが頷く。
「シルフィードなら大丈夫だよ」
育郎の言葉に、シルフィードは前足で自分の胸をたたいて、まかせなさいと
一声きゅいと鳴いた。

晩餐が終わり、いざ帰ろうという時になって、タバサがシルフィードの疲労を
理由に、ヴァリエールの所有する竜で帰りたいと申し出た。シルフィードなら、
一匹でも学院に帰ることが出来ると言うので、ついでに育郎を乗せて学院に戻る
という事になったのだ。

「えーっと…お父様、お母様それでは学院に戻りますね」
キュルケたちに続いて、ヴァリエール家の竜にのったルイズが広場に集まった
家族達に声をかける。
「うむ。身体に気をつけてな」
重々しく頷く父。
「先生のいう事はちゃんと聞くんですよ」
「はやく魔法が使えるように、真面目に勉強するのよ」
母と姉の言葉に頷くルイズ。
「ルイズ、今度帰ってくる時は、私もっと元気になってるわ。楽しみにしててね」
「いえ、できればこれ以上元気にならない方が…」
「もう、ルイズったら変なこと言って。ね、お父様」
「え?あ、ああ…うむ…そ、そうだな」
思わず目をそらしてそう答える父親に、なんとも微妙な気分にさせられた
ルイズを乗せて、竜は学院に向けて飛び立った。


「はぁ…」
溜息をついて、エレオノーは机の上のグラスに手をとり、中のワインをあおる。
夜もふけ、家の者の大半が寝静まっている時間だというのに、彼女は一人黙々と
酒を飲み続けていた。それはバーガンディ伯爵に婚約を解消させられたから…
と言うのは理由の半分である。もう一つの理由のために、彼女はアルコールの
力を借りようとしているのだ。
「………ずっとこうしていてもしょうがないわね」
意を決して立ち上がり、部屋をでて、なるべく足音を立てないように目的の
部屋へと向かう。屋敷の者の大半が寝静まっているとはいえ、衛兵が見回りを
しているのだ。エレオノール自身のためにも彼らに見つかるわけにはいかない。
しかしエレオノールは気付かなかった。
道中一度も衛兵を見なかったことの奇妙さに。


「まさかとは思っていたが…」
育郎のために用意した部屋に、エレオノールが入っていく様子を確認した
ヴァリエール公爵がうめき声を上げる。
やたらと気位が高いエレオノールが、平民の育郎に対し妙に寛大な態度を
とっていた事が気になった公爵は、もしやと思い、こうして部屋の前で
見張っていたのである。
「ぬう…婚約解消させられたからといって自棄になるとは…」
ヴァリエール家の長女が、いくら可愛い妹を病から救った…救った…とにかく
救ったような相手とはいえ、夜半平民の男の部屋に押しかけようとは…
「衛兵を下がらせておいて正解だった…」
もしこんな事が誰かに知れたら大事だと、伯爵は今日ばかりはこの部屋と
エレオノールの部屋との間に、衛兵が見回りに来ないように命じていたのである。
なにせ、あれである。
平民に夜這いをかけたぐらいなら、目撃者の口を様々な手段で封じればいいだけ
ではあるが、もし断られたところでも見られた日には、さすがのエレオノールも
いろいろと危険な領域まで追い詰められるかもしれない。
「いや、まてよ?」
さりげなく酷い事を考えていた公爵があることに気付く。
あの平民は、その医者としての能力だけなら、そこらのメイジが遠く及ばない
ものをもっている。なにせヴァリエール家が八方手を尽くして治療法を探した
カトレアの身体を、あそこまで…過剰に健康にしたのである。
この国では無理としても、ゲルマニア等の平民でも貴族になれる国なら、十分に
貴族になれるだろう。幸い相手はカトレアを救ったっぽいという実績もある。
それなら申し分ないとまではいかないが、なんとか及第点ではなかろうか?
エレオノールの歳は27。
既にいき遅れを通り越して、行かず後家の領域に達しようとしている。
ヴァリエール家の子女たるもの、名家に嫁がねばと思ってはいたが、この際
贅沢は言ってられない状態なのかもしれない。温厚で有名なバーガンディ伯爵
すら耐えられなかったのだ。もうこうなったら平民上がりだろうが、不平を
述べている時ではない。
「ならば後はいつ踏み込むかだな」
例え相手が断っていようが、公爵が出向いて責任を取れと言えば相手は平民、
逆らう事などできないだろう。
「これが…最後のチャンスなのかもしれん…」
どこか遠い目で、娘が入っていった部屋の扉を見つめる公爵であった。


「おや?きつい方の姉ちゃんじゃねえか?おい、おきろよ相棒」
「…エレオノールさん?」
カトレアの相手で(精神的に)疲れていた育郎であったが、デルフの声に
すぐに目を覚まし、ドアの前に立つエレオノールを見る。
「あの…エレオノールさん?」
うつむいて黙ったままのエレオノールに、育郎が声をかけるが返事はない。
「こりゃ…あれじゃねえか相棒?」
「あれ?」
不思議な顔をする育郎にデルフが続ける。
「野暮だね相棒。夜中に女が男の部屋を尋ねるってこたぁ夜這い以外に」
その言葉を言い終わる前に、駆けよってデルフを握り締めるエレオノール。
「な、なんだよ姉ちゃん!?」
デルフの声を無視して窓を開け放つ。
「そおおおおりゃああああああああ!!!」
「ちょ何おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」ガン!キュイ!
「はぁ…はぁ…」
「あの、エレオノールさん?」
双月に届けといわんばかりにデルフを全力投球し、肩で息をする
エレオノールに、恐る恐る育郎が声をかける。
「その…そういうのは僕にはまだ早」
「違うわよ!貴女に頼みがあるの!」
目をむいて怒鳴るエレオノールに気圧されながらも、どこかほっとした様子の
育郎が問い返す。

「頼み…ですか?」
「…そうよ、カトレアを治療した腕を見込んで、貴方に頼みがあるの」
どうにか呼吸を整え、落ち着きを取り戻したエレオノールが続ける。
「…その前に一つ言っておくけど、このことは他言無用。これは命令よ」
「はぁ、かまいませんけど」
明らかに人に頼む態度ではないが、エレオノールはそんなことを気にもしない。
あまりにも当然という態度に、育郎も不快等と微塵も感じなかったほどだ。
「それで頼みって?ひょっとして誰か知り合いが病気に」
その言葉に首を振るエレオノール。
「違うわよ…その…私の…」
「え?エレオノールさんが病気なんですか!?」
「それも違う…」
「じゃあ一体?」
再び部屋に入ってきた時と同じようにうつむいて黙るエレオノール。
やがてボソボソと小さな声が育郎の耳に届いた。
「私の……………の」
「はい?」
「だから……私の……てほしいの」
「あの、よく聞こえないんですが?」
「だから…その…」
エレオノールは顔を真っ赤にして叫んだ。
「私の胸を大きくして欲しいの!!!」


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