ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-14

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匿名ユーザー

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トリステイン魔法学院へと続く道を、ユニコーンが牽引する壮麗な馬車が通り抜けていた。
その馬車には、黄金とプラチナによって王家の紋章が麗々しく飾り付けられている。
トリステイン王女、アンリエッタの乗る馬車である。
馬車には薄手のレースのカーテンがかけられているため、中の様子は全く垣間見ることはできなかったが、街道に詰め掛けた平民の野次馬には、そのようなことは関係ない様子で、熱狂的に王女の名を呼びかけていた。
「アンリエッタ王女万歳! トリステインに栄光あれ!」
街道の端に並んだ群衆から馬車を引き離すかの様に、漆黒のマントを羽織ったメイジたちが周囲を警護していた。
名門貴族の子弟にのみ入隊を許された王室直属の近衛、魔法衛士隊の隊員であった。
彼らこそ、トリステイン王国屈指の花形、トリステインの魔法の正当な歴史を受け継ぐメイジ達であった。


アンリエッタは馬車の中で深いため息をついた。それを隣に座っていた痩せぎすの男に見咎められた。
「そのため息で本日で十三回目になりますぞ。殿下」
「いいではないですの? わたくしに向かって『トリステインに栄光あれ』などと。
 そのような事をいわれるのはもうそんなにないことなのですから」
王女は不満そうにつぶやいた。彼女はもうすぐ隣国ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになっているのだ。
「私がこの国にいることができるのはいつまでなのかしらね? マザリーニ枢機卿殿?」
「そうおっしゃられませるな。殿下」
マザリーニは内心で舌打ちをした。
アンリエッタ王女とゲルマニアの皇帝との婚姻を提案し、婚約と引き換えの軍事同盟締結にまでこぎつけたのは、すべて彼の発案によるものである。
そしてこの結婚にアンリエッタの意思は全く考慮されていない。
しかし、弱小国であるトリステイン王国にとって、隣国の強国であるゲルマニアとの同盟は国益の観点から言っても必ず達成されなければならない至上課題なのであった。
その点についてにはマザリーニの私心は全くなかった。
「殿下もご存知のはず。かの『白の国』、アルビオンの王家が内戦によって打倒されつつあるということを。
 もしかの国の王権が覆されるようなことがあれば、アルビオンの叛乱軍共は、同じ『始祖ブリミルの子孫の国家』たる我々にも攻め入ってくる事は必定でございます」
アンリエッタ王女はため息をつきながらそれに応じた。
「それくらいわかっていますわ。あの礼儀知らずの人たち! 彼らの愚挙は、けして始祖ブリミルが許しはしないでしょう」
「しかしながら、アルビオンの叛乱軍共は強力です。いつアルビオン王家が滅亡してもおかしくはありません」
彼の言葉は冷酷だったが、純然たる事実であった。

「ええ、その通りですとも。私は道化から人形になる覚悟はすでにできていますわ」
アンリエッタはそういい捨て、彼の反対側の窓のレースを腕でくぐらせ、外にいる群衆に向かって微笑とともに腕を振って礼を返していた。
馬車の一群はすでに学院の敷地内に入っているので、周囲は学院の関係者しかいない。
それでも、見物人の歓声の大きさはすさまじいものがあった。
その笑顔には一辺もの不満の感情を見せていない。トリステイン王家の教育の賜物であった。

「あら、うわさの王女様も、実際見てみるとたいしたことないのね。あなたのほうがすてきよ、タバサ」
王女一行の取り巻いている群衆から離れたいるところに、二人組みの女学生がいた。
一人は馬車一行を見物しているが、もう一人の青髪の少女は持参した本から頭をあげようともしない。
「どうしたの?」
「歓声。
 読書に集中できない」
キュルケは半ば強引につれてきた親友の、あいかわらずのマイペースぶりに微笑んだ。
「そんなんだから、あなたは恋人の一人もできないのよ。せっかく素敵な顔を持っているのに…
 ほら、あの口ひげをつけた隊長みたいな人、なかなか素敵じゃない? タバサ、あなたどう?」
「興味ない」

「しょうがないわね…あら? 護衛の騎士たちが前のほうにかけていくわね。
 何をするつもりなのかしらね……って、ロハン!?」
その言葉にはじかれたように、タバサは本に向けられていた視線を馬車の一群に目を移した。
キュルケの言うとおり露伴がいる。というか、女王の馬車のすぐ近くででスケッチをしているようだ。
見れば、護衛の隊長らしき人と言い争いをしている。
当然だ。女王の馬車の進路を邪魔しているのだから。
そこにあわてて桃色の髪をした少女が走っていくのが見える。

「あら、つまみ出されちゃったわね」
キュルケが面白い見世物を見たような気分で微笑む。
実際には、露伴は風系統の魔法とルイズの失敗魔法のコンボでふっ飛ばされた、というのが正解だろう。
タバサは、こっそりと彼の予想着地点に向かってレビテーションの魔法をかけた。
魔法の効果が確認されると、ほっと一息をつき、本の世界に戻っていった。


――王都トリスタニア――
土くれのフーケはチェルノボーグの監獄に入れられていた。
彼女はこの薄暗い土牢の中、裁判の時を待たされている。
情状酌量のある刑罰は到底のぞめないだろう。
彼女は今まで貴族の、中でも金持ち連中の宝物庫を荒らしつくし、彼らを嘲笑ってきたのだ。
そんなやつらが陪審員を務める裁判で、温情のある判決が出るとはとても思えない。

それにしても。
彼女は今思い出しても気分が悪い。
「やってくれたもんじゃないのよ」
フーケは自分をこのような境遇に追い込めた、キシベロハンという男に思いをはせていた。
あの男は、明らかにこの世界の系統魔法とは違う方法で自分の動きを止めてみせた。
おそらく先住魔法でもないだろう。
いったい、あの男は私に何をしたっていうのかしら?
思わず、牢の土壁を力こぶしで強くたたき、口惜しいつぶやきが口から漏れいでる。
「なんなの? あの男」

いつもなら、この程度の音で番兵が怒鳴り声を上げてくるのだが、今日に限ってそれがない。
フーケは不審を感じ、周囲に聴覚を走らせた。
通常の彼女なら『ディテクトマジック』かなにかの魔法を使うのだが、あいにくと杖は取り上げられている。
そしてこの牢屋の中には杖になりそうなものは何もない。
それどころか、食器まで金属製のものが一切廃されている。文字通り、囚人のメイジに何もさせないつもりのようであった。
遠くから番兵の驚く声が聞こえる。
「な、なんだ……お前は?」
あの看守が向こうの方で悲鳴を上げている。ニヤニヤ笑いをしながら嫌らしい目で見てくるあの男。
「ぐぼッ!」

あの男の声で、何かゴボゴボという音が漏れ出でてくる。とにかく尋常ではない。
「なにがあったの……?」
そのとき、体中にそよ風を感じた。

……ありえない。
この土牢は地下深くに作られているのだ。しかも、フーケは一番奥の独房に閉じ込められている。外部の風がここまで来るとはとても考えられない。
それに、その風には、何か生臭い香りが含まれていた。

「一体…?」
気がつかないうちに、目の前に見慣れぬ男が立っていた。
看守ではない。この男は、顔を隠すように白く塗られた奇妙な仮面をかぶっている。
どうやら特殊な石でできているようだ。
「私に用ってわけ?」
「ああ、そうだ。マチルダ・オブ・サウスゴータ」
彼女は戦慄した。自分の捨てたはずの名を知っていたこともさることながら、
この男の口ぶりからは、ある意思が読み取れる。
いざとなったら、躊躇なく人を殺しにかかる漆黒の意思を持っている……

「何から何までお見通しってわけね……で、何の用?」
「ぶしつけかも知れんが、われわれの仲間になってもらいたい」
仮面の男は、フーケの虚勢を見抜いたかのように軽い笑いと共に話を続けてきた。
「君の両親のアダを討ちたいとは思わないかね?われわれと一緒ならば、それができる」
「ふ~ん…あなたたちはアルビオン王家に敵対する勢力ってわけね……」

フーケはあくまで虚勢を張りつつ高飛車に応じる。この男の組織は、どこまで私のことを知っているのだろうか?
まさか、妹のことまで知っているのか?
あの間の抜けた妹は無事なの? 
そのような疑問を抱いているのを知ってかしらずか、仮面の男は高飛車に話を続ける。
「正確には、我々はハルケギニアの統一を目指し、聖地を奪還を目的とした組織だ」
「その口ぶりからすると、あなたは貴族様ってことね? おあいにく様、わたしはそんなお遊びに付き合うほどの趣味は持ってないわ」
「だが、暇は有り余っていそうだがな」
鷹揚に答える男を前に、フーケは自分でも答えのわかりきった疑問を、あえて口にだして言った。

「もし、仲間にならないといったら?」
「私に三下の台詞をはかせるつもりか? まあいい、君の死体に衛兵殺しの罪が追加されるだけの話だ」
彼女は決心せざるを得なかった。
問題は、今。このとき。自分の身なのだ。
妹の無事も気になるが、もし男たちが彼女の存在を知らなかった場合、安否を問うのは墓穴を掘ることになってしまう。

「いいわ。協力しましょう」
彼女は精一杯の皮肉な微笑をうかべたまま尋ねた。
「でも、教えて? せめて私が協力する組織の名前くらいは知りたいじゃない?」
男は、どこぞの高名な暗黒魔術師のように、奇怪な口ぶりでその組織名を唱えた。
「『レコン・キスタ』」


――その頃、トリステイン学院にて――
「さて、こうしてみんなに集まってもらったのは他でもないの」

ルイズの部屋に、ルイズ、ブチャラティ、露伴、鞘を抜かれたデルフリンガーが集結していた。
彼らは丸いテーブルを囲んで、それぞれ思い思いの格好でいすに座っている。
ルイズは背をきちんと伸ばして、自分の使い魔たちに問いかけた。
「私の品評会、どうしたらいいのかみんなの意見を聞きたいわ」

彼女の頭を悩ます『品評会』とは、先ほどコルベールが授業を中断させた理由でもある。
二年生が、みなの前で召喚したばかりの自分の使い魔を披露する、いわば召喚の披露宴である。
いってしまえば、単なる使い魔のかくし芸なのだが、当事者のメイジにとってはそうも行かない。
なぜなら、使い魔の格は主人の格をも具現化しているのだ。
使い魔が無様なまねをしてみれば、主人の名誉も傷つく。
いくら『ゼロ』とはいえ、仮にも名門の出であるルイズにとって、そのようなことは是が非にでも避けたい事態であった。

「僕の出場はできないらしいぞ」する気もないがな。と、岸辺露伴がふてくされたように口火を切った。
彼は椅子を前後逆にした座り方で座り、口調同様、心底だらけきっている。
露伴からしてみれば、この場所でこのような話し合いをすること自体意に沿わないらしい。
「どうして?」
「いや、王女のやつが僕のマンガの大ファンらしくてね。
 僕が参加すれば何もしなくても僕の優勝が決まってしまうらしい」
「アンリエッタの姫様はそんなえこひいきをするお方ではないわ!
 それに、 ヤ ツ とは何事?」
「しょうがねーな。恐れ多くもアンリエッタのナントカ様の取り巻きが無駄に気を使うんだと」

「となると、俺が何かをやるべきだな」
そういっているブチャラティは、どことなく朗らかな雰囲気をかもし出している。
彼は足を組んで座っているが、その上に組んだ手が落ちつかない動きをしていた。
そこに、露伴とブチャラティの間に立てかけてあるデルフリンガーが口を挟んできた。
「お前ェさぁ、なんだか楽しそうだな」
「ああ。俺は学校での出し物とか学院祭とかは今までやったことがないんだ。いろいろ事情があってな。参加したくてもできなかったんだ」
「そうか、悪りぃ事聞いちまったみてぇだな」
「いや、気にするな。それよりどうだ? 俺たちであのダンスを披露するというのは? ルイズも結構うまくなっただろ」

「却下。冗談じゃないわ」
「じゃあ手品は? 胴体切断マジックには自信があるんだ」
「……それは本当に勘弁して。 第一、あれ手品じゃないでしょう!」
ルイズはいまさらながら吐き気を催したように口元を押さえる。
先ほどのミスタ・ギトーの惨状を思い出したようであった。

「じゃあ、どうすればいいっていうんだ?」
「それを聞くためにみんなに集まってもらったんじゃないのよ!」

「おい、デルフ、君は何か案はあるかい?」
「俺は使い魔じゃねえから出たって意味ねえしなぁ。それにいい考えもうかばねぇ」

「困ったな…打つ手なしか?」
「ブチャラティ、あなたスタンドで何かできない? 猟奇的なものは無しの方向で」
「それは難しいな……」
「なんでよ!」

しきりに首をひねっていたブチャラティが、突然さわやかな笑みを浮かべ、叫んだ。
「そうだ! 俺は人の汗をなめることでその人が嘘をついているかどうかわかるんだ!」

爆音が学院中に轟いた。


――とある酒屋にて――
脱走した土くれのフーケは円卓にすえられた椅子に座り、仮面の男と密談をしていた。
仮面の男が確認する。ワインを自分で手酌しながら聞いていたが、この男からは怠惰な気配はまったくみうけられない。
どころか、常に周囲の殺気に気を配らせている。相当の実践経験があるようだった。

「それで、その『使い魔』の名前は『ブチャラティ』と『キシベロハン』でいいんだな?
 そして、両方とも『ガンダールヴ』であると」
「ええ、あまり驚かないのね」
「まあな、『虚無』の系統には多少知っているものがあるのでね。

実はこの会談、二人で行っているのではなかった。
フーケと仮面の男の間に、今まで沈黙を守っていた、奇妙な人物がすわっていた。
仮面の男はその人物を無視したかのように話を進めていたが、ここに至ってはじめて、この隣の人物をフーケに紹介した。
フードを目深くかぶっているので、表情の観察はおろか、顔の判別すら難しい。


「そのことについてなのだが、この男は自称『ミョズニトニルン』だそうだ」
フードをかぶった人物は、仮面の男の茶々を気にせず、軽くうなずいて話し始めた。
「よろしくお願いします。伝説の使い魔、『ミョズニトニルン』です」
その口調のイントネーションから、まだ年端も行かない少年を連想させる。
しかし、彼の口調に、なぜかフーケは理由のつかないムカツキを覚えていた。
「わかりました。彼らの能力はおおよそ把握しています」
突然の言葉に、フーケは絶句した。
「何ですって?」
「前提としていっておきます。彼らの能力はこの世界の魔法ではありえません。
 それは『スタンド』という、その個人の持つ固有の能力です」
少年が続ける。茶色いフードをかぶっているので、フーケには顔が見えなかった。
「まず、『ブチャラティ』の能力についてですが、あなたは能力を実際に見ていますから、あなたが説明してくれませんか?」
「あら? あなた方は知らないの?」
フーケは自身が体験した、ブチャラティの能力をかいつまんで説明した。


「わかりました。ところで、あなたが疑問に思っていた、『キシベロハン』の能力ですが、私は部分的ですが知っています」
「具体的には、私は彼の能力の一端を体験して知っています。
 その能力とは、『人を本にし、そこに文を書き込むことで他人の行動を操る』」
「ずいぶんとすさまじい能力だな」
仮面の男が心底驚嘆したような声を出した。
こういう本心から出た声を聞くと、フーケとってはなかなかにいい声の持ち主に思えた。
牢獄であったときとはまったく違う、いい印象を抱かせられる。
案外面白い男なのかもしれない。
「つまり、私はあの時『本』にされ、ミス・タバサに関して危害を加えることができないようにされたってわけね、ミョズニトニルンさん?」
「はい、恐らくはそうです」
「ならば、彼女は今回の計画に参加できない可能性があるのではないか?」
仮面の男が心配そうに声をかけてくるが、少年らしき男は落ち着いた声でそれを否定した。
「問題ありませんよ、彼女は直接攻撃ができないだけのようですし、そのほかの縛りも薄いようです。もし岸部露伴に本格的な攻撃をされていたのなら、彼女は僕たちにロハンの名前すら教えられなかったでしょうから」
「それに、大丈夫です。いざとなったら、我々がフーケさんを何とかしますよ」
少年から、妙な確信とも言える言葉が紡ぎ出されていた……


To Be Continued...

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