ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-43

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私の目から涙が溢れた。
使い魔の前で無様な姿は見せられない。
そんな事は百も承知していたはずなのに止まらない。
それで判ってしまった、私は心細かったんだ。
使い魔を召喚した日から今まで築き上げてきた物。
言葉では語り尽くせない日々に、
自分一人では触れ合う事さえなかった友人達。
それを前にして自分が成長してる気分になっていた。
でも皆と離れてしまった途端、急に恐怖が込み上げた。
今までの出来事が全部夢で自分は変わらないまま。
そんな錯覚が頭から離れなくなった。
私の自信なんて誰かが居なければ確かめる事も出来ないもの。
でも、もう大丈夫。
私の使い魔はここに居る。
どこにいようとも必ず駆けつけてくれる。
私達は二人で一つのパートナーだから。

ようやく落ち着きを取り戻しルイズは涙を拭う。
その間、微動だにせず受け入れていた彼は元の姿に戻っていた。
アニエスはまだ着地した事に気付いてないのか、目を閉じたまま震えていた。
声を掛けても聞こえてないのか、始祖への祈りを続ける。
仕方ないので彼女は放置して彼に訊ねる。
「……ねえ、一つだけ聞きたいんだけど『アレ』貴方の仕業?」
彼女の指差す先は見るまでもなく傾斜した世界樹。
その下ではランプや松明を手にした町の人がわらわらと集まってるのが見える。
彼等の悲鳴や絶叫が空を往く船にまで届いてくる。
倒れた訳ではないので怪我人や死人は出ていないだろうが、
恐らくはラ・ロシェール始まって以来の大惨事だ。
心なしか問い質す彼女の顔も引き攣って見える。
“違うよ、違うよ”と必死に前足と首を振って誤魔化す。
それを見て彼女も安堵の息を漏らした。
「そうよねー、そんな訳ないわよね」
あははは、と笑う彼女は笑みはどこかぎこちない。
状況から見ると八割方こいつの仕業で間違いない。
だけど、それを認めるのが怖くなって拒否したのだ。
弁償となれば一体どれぐらいの金額を支払う事になっただろうか。
あるいはヴァリエール家が没落していたかもしれない。
となれば誰の所為にするのがベストか?
ちらりと視線を向けると町で暴れ回るゴーレムの姿。
一人と一匹と一振りの頭に電球が浮かぶ。

「許せないわ『土くれのフーケ』! 
貴族の財産ばかりか、人々の共通の財産を破壊するなんて!」
「ああ、全くだぜ!」
「わふっ!」
だんっと船の縁に足を乗せてルイズがゴーレムを指差す。
それに続き、彼も両前足を縁に掛けた。
突然の彼女の言動にざわめく船員達。
しかし貴族の令嬢と盗賊、信じるべきがどちらかなど言うまでもない。
僅かな疑念を残しながらも即座に手旗信号で『フーケの仕業』と下に伝えられた。

未だに混乱が収まりきらぬ中での新情報。
目の前の怪異に慄いていた人々の前に捧げられた『真犯人』。
それは集まっていた町民の間に瞬く間に広がっていった。
「聞いたか? 犯人は『土くれのフーケ』だ!」
「おのれ! 奴の仕業だったのか!」
「俺の家を破壊したのも奴の仕業に違いない!」
「冗談じゃない! 船が来なくなったらこの街は終わりだ!」
「許せねえ! 血祭りに上げてやる!」
彼等の恐怖と混乱はやがてフーケへの怒りに変貌を遂げていく。
それはさながら魔女狩りのように人々を駆り立てた。
手に松明と武器、口々に怨嗟の言葉を吐きながら彼等はフーケの下に向かう。
それはまるで町全体が熱病に掛かったのかのようだった。


「ちっ…! しつこいんだよ、アンタ達!」
ひらひらとゴーレムの拳を避ける風竜を前に毒づく。
互いに決め手を欠いた勝負は泥沼と化していた。
以前のような平坦な場所と違い、ここでは思うように動きが取れない。
少し距離を取られてしまえば手が届かなくなる。
しかし向こうの攻撃もゴーレムを破壊するには至らない。
風竜より交互に放たれる炎と氷。
そこからすぐに相手の狙いは読み取れた。
加熱と冷却による物質疲労、それが小娘達の策だ。
判ってしまえばどうという事はない。
時には避け、時には防ぎ、決して同じ箇所への連続攻撃は受けない。
それさえ注意していれば簡単に潰せてしまう。
仮にゴーレムを破壊されたとしても修復できる。

だが問題は勝つ事じゃない。
もう船が出港している頃合だ。
つまり頼まれていた時間稼ぎは終わり。
だからとっとと撤退するのが賢い選択というもの。
その隙を見つけ出すのが重要なのだ。
でないと、いつ人が集まってくるか知れたものではない。
ちらりと下を向くとこちらに向かってくる人影が見えた。
(これだけ騒げば、そりゃあ野次馬の一人や二人来るわよね)

しかし、その予想は大きく覆された。
まるで山火事のように映る無数の明かり。
数人どころではない、老若男女問わず町中の人間がこちらに向かって来る。
それも各々持参した武器を手に持ってである。
しかも何故か自分の名を叫んでいるのが下から聞こえる。
状況の判らぬフーケに群衆の一人が松明を投げつけながら怒りをぶつける。
「貴様! よくも桟橋を壊してくれたな!」
「ちょっと…! 何言ってるか全然分からな…」
「とぼけるな魔女め!」
フーケの弁明など聞く耳も持たない。
それも当然か、盗賊である自分が何を言っても無駄。
貴族のみを標的にしたとはいえ義賊でもない自分に民衆の支持などある筈もない。
否。罵倒されて然るべき存在なのだ。

「降りて来い! 絞首刑に掛けてやる!」「いや、針串刺しの刑だ!」
「年増!」「それじゃ済まされねえ! 火炙りだ!」
暴言を吐き掛けながら石や武器を投げる町民達。
そんな物はゴーレムの力で一蹴できただろう。
しかし無駄な殺しなど彼女とてしたくはない。
どうせ連中には何も出来はしない。
全て耳から耳へと聞き流す…つもりであった。
「誰だい!? 今、中に紛れて年増って言った奴はッ!!」
ゴーレムの一蹴りで粉砕される屋台。
誰が言ったか分からないNGワードが彼女の逆鱗に触れたのだ。
宙に舞い散る破片に人々がきゃーきゃー言いながら逃げ惑う。
その光景は正に怪獣映画のワンシーン。
ゴーレム大地を揺らしながら民衆に襲い掛かる阿鼻叫喚の地獄絵図。

「チャンス!」
最初は状況に付いていけなかったキュルケだが、
我を忘れたフーケの姿を見て勝機を見出す。
既に仕込みも上々、後はいつ仕掛けるか機を待っていたのだ。
タバサへ目を向けると彼女も頷いて同意を示す。
そして杖を掲げ最後の『ウィンディアイシクル』を放つ。
無論、フーケとて完全に彼女達の事を忘れていた訳ではない。
咄嗟にゴーレムで両腕の防御を固めて防ごうとした。
だが放たれた氷の矢はゴーレムを通り越し背後の岩壁へと命中する。
外したのか? いや、そうではない。
初めから狙いはゴーレムではなかった。
振り返った彼女の目の前で岩壁に亀裂が入っていく。
思えばいかに俊敏といっても、この巨体ではそうそう魔法は避けられない。
なのに連中との交戦では直撃をほとんど受けていなかった。
それが相手の未熟と彼女は疑っていなかったのだ。
ゴーレムへの攻撃、それが全てカモフラージュ。
本当の目的は物質疲労で背後の岩壁を打ち砕く事…!

根元を砕かれて岩壁が崩れ落ちる。
その崩落は津波と化して瞬く間にゴーレムを飲み込んだ。
どんなに力があろうとも押し寄せる土砂の前では無力。
フーケもろとも巨人を麓まで押し流していく。
「さよーならー続きはまた今度ねー」
「アンタ等! 覚えてなさいよ!」
ぱたぱたとハンカチを振るキュルケにフーケが怒鳴る。
しかし、それも束の間。
見る見るうちにゴーレムの巨体も小さくなり視界から消えてしまった。
普通、これだけの土砂災害に巻き込まれたらまず助からない。
しかし相手は『土くれのフーケ』だ。
その内、またひょっこりと顔を出してくるだろう。
二人の大勝利に民衆が大歓声で彼女達を讃える。
それにキュルケが機嫌良く手を振って応えた。
なるべく被害が出ないようにしたつもりだが町の一部を破壊したのだ。
お咎めがあるのでは?という不安は解消された。
“土塊の巨人を倒した英雄”として彼女達は迎えられた。
笑顔で応じながらキュルケが背後のタバサに訊ねる。
(ねえ、ひょっとして世界中が傾いたのって私達の所為?)
(違うと思う……多分)


「はぁ……はぁ…はっ…」
息を弾ませながらギーシュは銃を手に取る。
彼の周りには幾多もの矢と青銅の残骸。
アニエスが去った後、膠着を脱出するべく彼等は弓を持ち出した。
ボウガンではない、通常の弓だ。
威力こそ劣るがボウガンにはない利点がある。
それはこの盾を迂回して僕を攻撃できる事。
やや上向きに放たれた矢が盾を迂回し頭上から降り注いだ。
防ぐにはワルキューレを使うしかなかった。
自分に直撃するものだけを防ぎながら反撃を繰り返す。
そして気が付けば戦力は僕一人になっていた。
弾の装填に使うワルキューレもいない。
今手にしている銃を一発撃てば僕は丸裸だ。
そして頼みの綱のヴェルダンデも宿の下の岩盤を破壊できず、
地下道を通じての脱出も不可能となった。
魔力もなく銃も撃てない、最後に残されるのは命と誇りだけ。
(それで…十分だ!)
もうどれぐらい経ったか分からない。
向こうも痺れを切らし突入してくる頃だろう。
ならばみすみす殺されるのを待つ必要はない。
こちらから打って出てやる!

「うおおおおぉおおお!!」
雄叫びを上げて入り口へと突進する。
盾から飛び出した瞬間、予想された攻撃は来なかった。
ならばもっと引き付けてからか…?
だが、さらに前進を続ける僕の前に敵は姿を現さない。
既に目前には入り口が迫っている。
「っ………!」
そうか、読めたぞ。
僕が店から出てきた直後、四方八方から攻撃する気か。
それは正に総攻撃。どんな策があろうとも決して防げない。
だが、こちらの覚悟は決まっている!
一人でも多く道連れにして華々しく散ってやろう…!

「トリステイン王国に栄光あれーー!!」
店から飛び出しながら地面を転がる。
それは少しでも被弾を避ける為の回避運動。
そして待ち構えているであろう敵へと銃口を向けた。
しかし…。


「あれ?」
そこには誰もいなかった。
敵どころか人の気配さえしない。
あっちこっちに視線を向けるがやはりいない。
真っ暗闇の中でぽつりとギーシュ一人が取り残されていた。
彼は知らなかったが既に傭兵達は逃げ出していたのだ。
何しろ世界樹の傾斜騒ぎに武装した町民の行進。
果ては大規模な土砂崩れまで。
ラ・ロシェールの町で起きた異常現象に恐れをなした彼等は我先に逃げ出していた。
それを知らないギーシュはずーーっと一人で存在しない敵を待ち構えていたのだ。
無人となった通りで腕を組みながら彼は首を傾げる。
そして一応の結論を導き出し口にしてみる。
「ひょっとして…勝った、のかな?」
とりあえず銃を掲げ、えいえいおーと鬨の声を上げる。
しかし誰も周りには居らず自分の声だけが残響する。
勿論、手応えもないのに勝利の喜びなどある筈もない。

その後、脳内で歓声を受ける自分の姿を想像するも、
虚しくなったギーシュは店に戻って勝利の美酒という名の自棄酒を煽った…。


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