ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-47

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モット伯は杖を振りながら、水の鞭を避け続けるギアッチョに嘲笑を
投げかける。
「クックック・・・貴様は全く平民の象徴のような男よ
そうやって何も出来ずに逃げ続けることしか出来ない平民のな」
優越感に酔う彼は気づかない。見下すことに慣れすぎた瞳には、
常人ならざるギアッチョの動きに違和感を見出すことさえ出来なかった。
「貴様ら弱者は実に面白い 強者と対峙した時、貴様らは逃げる
ことしか出来ないということをいつも証明してくれる 謝罪、懇願、
逃避・・・それが貴様ら弱者のお定まりのパターンだ その絶望が
実に面白い!ぬははははははははッ!」
「ほー、そいつぁ確かに面白ぇな ところで弱者ってなぁ誰の
ことを指してんだ?」
右上から飛来して来た水鞭を受け止めるかのように、ギアッチョは
スッと片手を差し出した。
「バカが!!」
ギアッチョが混乱したものと考えたらしいモット伯が暗い笑みを
浮かべると同時に、水の蛇はギアッチョの掌に命中し――

パキン。

頭から尻尾まで、全てが完全に、そして一瞬で凍りついた。
「・・・・・・へぇ・・・?」
状況を理解出来ず、モット伯は間抜けな声を上げる。次の瞬間、
重力に忠実に従った氷の蛇は地面に叩きつけられて粉砕した。
「・・・な、何が起きて・・・」
呆然と呟きながら、モット伯はじりじりと後ずさる。それに
合わせて、ギアッチョはずいと前に進み出た。彼の振り撒く
縮み上がらんばかりの殺気に、モット伯はようやく気がつく。
「おいおい、伯爵様よォォ~~~~~ 徒手空拳の平民如きに
何をそんなに怯えてんだァァ?」
ギアッチョの嘲りに、モット伯のプライドはかろうじて再燃した。
「だ、黙れ黙れ黙れッ!!平民風情が、もういい!今すぐ死ね!!」
再び血が上った頭を振って、短くルーンを唱える。掬い上げるように
振った杖に合わせて、砕けた氷の破片がギアッチョ目掛けて散弾の
如く襲い掛かったが、
「無駄だ その程度の低い脳味噌でしっかり理解しな・・・」
見えない何かに阻まれて――それらは虚しく四散した。そのまま
モット伯の目の前に上体を突き出して、ギアッチョはゆっくりと
宣告する。
「てめーは、弱者だ」

恐怖と怒りと屈辱で、モット伯の顔は真っ赤に震えた。ぎりぎりと
握り締めた杖を力一杯振りかぶる。
「ラ、ラグーズ・ウォータルぶっげぁあぁ!!」
ギアッチョの拳を至近距離から顔面に叩き込まれ、モット伯は
壁際まで吹っ飛んだ。
「げほッ・・・き、貴様!!貴族の私を殴ったな!!死刑だ、
しし、死刑にしてやるぞッ!!」
尻餅をついたまま鼻血を片手で抑えて叫ぶモット伯に、ギアッチョは
侮蔑の眼を向ける。
「ああ?てめー・・・貴族だから殴られないと思ってたわけか?
人を殺そうとしておいてよォォォ~~~ てめーは殴られる
『覚悟』すら出来てなかったっつーわけか?」
「黙れ黙れ黙れッ!!家畜がほざくな!私は貴族だ、伯爵だぞ!!
薄汚い平民如きがぐぶぉおッ!!」
言葉の途中で顎を容赦無く蹴り上げられ、モット伯はアーチのように
仰け反った。その前に屈み込んで、ギアッチョは世間話のような調子で言う。
「よぉ、知ってるか?その身を賭して領民を守るのが貴族ってやつ
らしいぜ つーことは、だ・・・てめーは貴族なんかじゃあねーって
ことになるなァァァ」
「は・・・はガッ・・・ よ、寄るな虫ケラが・・・私は貴族だ・・・
伯爵なんだ・・・」
「いーや違うね てめーは貴族でも平民でもねぇ・・・ただのゴミ屑だ」
「・・・な、何だと・・・ 平民のぶ、分際でこの私にうごぉォッ!!」
モット伯の顔面を裏拳で横殴りにブッ叩き、そのまま眼鏡の位置を直す。
「さっきから平民平民とうるせーがよォォォーーーー てめーは一体
何をして自分を貴族だと思ってやがるんだ?ええ?おい」
「そ、」
開きかけた口を、ギアッチョは掌底で強引に閉じさせる。
「当ててやろーか?てめーにゃあ誇りも信念も、倫理も道徳もねえ
あるのは運良く持って生まれた魔法と財産だけだ 違うか、オイ?
魔法が使えるから貴族で、財産があるから貴族・・・てめーの頭ン中に
あるのは、たったそれだけだ」
「そこで」と継いで、ギアッチョは左手を持ち上げる。まるで飲みかけの
ペットボトルに手を伸ばすような気安さでモット伯の杖を掴むと、
「・・・な、あ、ああぁああ・・・!!」
硬質的な音を立ててそれはあっと言う間に氷の柱へと姿を変え。

バキンッ!!

ギアッチョの手によって、容易くヘシ折られた。
「・・・さて、これでてめーの拠り所は消えちまったわけだ
おい、杖が無くなりゃあどうするんだ?お偉い伯爵様よォォォーー」
狩をする獣のような眼光で、ギアッチョはモット伯を見下ろした。

衛兵から隠れながら、迷路のような邸内をシエスタ達はおぼろげな
記憶と勘を頼りに出口へと走る。
「え、ええっと・・・多分こっちです!」
「あれ?確かこっちだったような気がするんだが」
「違う、こっち」
「ってどっちなのよ!」
ひょっとしなくても、彼女達は迷子だった。シエスタを除く三人は
先程の往路しか知らないし、シエスタとて似たようなものなのである。
埒があかなくなったタバサは、こんな時まで読んでいた本を閉じ、
動きを止めて目蓋を落とした。
「タバサ・・・?」
「・・・風はこっちから」
呟くように言って、タバサはまた走り出した。風のメイジの言葉を
信じない理由はない――シエスタとギーシュはすぐに後を追って
駆け出す。その後ろを、ルイズが少し息を荒げながら着いて行く。
その原因は、胸に抱えるデルフリンガー。「素手のほうが都合がいい」
ということで、ギアッチョに預けられたのだった。持ち運ぶだけならば
問題はないが、抱えて走るには彼女の細腕には重すぎる。だがルイズは
文句を言おうとは思わなかった。ギアッチョが自分に何かを頼んで
くれたことが、彼女は純粋に嬉しかった。
「わりーなルイズ 姿形は変えられても重さばかりはどうしようもねぇ」
「そんなのあんたが気にすることじゃないわよ 衛兵連中にメイジが
混じってたら働いてもらうんだしね」
「ま、そいつぁ任しとけ 旦那のお陰でこんな時ぐれーしか出番が
ねーからよ」
一人と一本は小声で笑い合う。デルフの軽口が、ルイズの緊張を
和らげていた。
「しっかし、さっきは随分と大胆だったじゃねーの お前さんも
やるときゃやるもんだね」
楽しそうに言うデルフと対照的に、ルイズはきょとんとした顔をする。
「大胆?」
「大胆も大胆、『あなたがいれば他には何もいらないわ!』なんて
中々言えるセリフじゃねーよ ありゃ一種の告白だね」
わざとらしく声を真似するデルフに、一瞬置いてルイズの顔はぼふんと
茹で上がった。

「だっ、な・・・ちち、違っ・・・!ああああれはそんな意味なんかじゃ
ないわよ!ていうかそ、そこまで言ってないでしょ!!」
「いーや言ったね、言ったも同然だね 俺にはひしひしと伝わったぜ
何てーの、ありゃ愛だね愛 溢れんばかりの恋情が、」
「な、なななな何恥ずかしいこと言ってんのよバカっ!!違うって
言ってるでしょ!?あ、あいつのことなんて全然全く一切これっぽっちも
気になってなんかないんだからっ!!」
「解ってる解ってる もう気になるなんて段階じゃないんだよな
しかしあのセリフじゃまだまだ弱いな 旦那はああ見えてかなりの
朴念仁だからな、もっとこう好きだの愛してるだのはっきりした言葉を
交えつつ――」
「・・・ち、ちち違うって言ってるでしょこのバカ剣ーーーーっ!!」
滔々と語るデルフリンガーを遮って無理矢理鞘に戻し、ルイズは肩で
はぁはぁと息をする。
もしかしたら、いや、認めたくはないが多分きっと、自分は恋をして
いる――それはデルフに言われなくとも、自分で理解していることだ。
しかしそんな恥ずかしいことを他人に知られることだけは出来ない。
ていうか無理。絶対無理。これが誰かに知れるぐらいなら、いっそ死んで
しまったほうがいくらかマシかもしれない。
そういうわけで、一つ溜息をついて上げた顔の先で三つの視線が自分を
凝視していると気付いた時――彼女は心の底から泣きたくなった。

慌てて姿勢を正して、シエスタはコホンと咳をする。
「え、えーと・・・ミス・ヴァリエール、その・・・ど、どうか
なさいましたか?そんな所で立ち止まられて・・・」
ぎこちない笑顔で問い掛けるシエスタに、ルイズは真っ赤に上気した
顔を少し和らげた。
――・・・あ、あれ もしかして聞こえてない・・・?
「そ、そうよね 結構距離が開いてたものね」と心の中で呟きながら、
恐る恐るタバサを見る。
「・・・・・・急いで」
そう言いながら、タバサはルイズに背を向けた。
――や、やっぱり・・・聞こえてないかも
ルイズはほっと胸を撫で下ろす。どうかそうであって欲しいと願う
彼女の眼には、タバサのほんの少し染まった頬は見えなかった。
「なんとかなった」と、三人は一様に独白する。しかしそんな彼女達の
苦心を見事にブチ壊す男が一人。
「安心したまえルイズ、最初は皆そういうものなのさ ある日突然、
雷に打たれるように、或いはふっと花の香りが届くように己の恋の
つぼみの存在に気付く、それが恋心というものなのだよ そう、
僕とあの可憐なモンモランシーも(中略)、だから今は解らなくても
いいのさ いつか君もハッと気付く時が来る、そしてその時こそが
二人の恋の――」
造花の薔薇を取り出してデルフリンガーの何倍もアレなことを
のたまうギーシュに、場の空気は一瞬で凍りついた。

「・・・あ、あのー・・・ミスタ・グラモン、少し空気を・・・」
「そう!空気のようにいて当たり前だと思っていた人間が、ある日
突然特別に感じられる、それが恋の萌芽なのさ!かく言う僕と
モンモランシーも(後略)」
水を得た魚のように得々と語り続けるギーシュにシエスタはこの世の
終わりのような顔をし、タバサはそそくさと読書に逃避した。
「・・・ち・・・ち・・・・・・」
真っ赤な顔で肩を震わせるルイズの様々な感情は、今静かに限界を
突破した。
「父?」
「違うって言ってるでしょうがぁあぁああーーーーーっ!!!」
直下型の地震のように爆発したルイズの叫びは、広大な館中に轟いた。
――そう、「館中」に。
「こっちから声が聞こえたぞ!」
「いたぞ!あそこだ!」

「「あ。」」

…そんなわけで、彼女達は一瞬にして大ピンチに陥った。何せ
屋敷中の衛兵達に前から後ろから一目散に取り囲まれたのである。
その数は十や二十では利かなかった。一方、ギーシュが自分達の
周囲に配置したワルキューレはたったの三体。タバサの魔法も、
衛兵全てを薙ぎ倒す程の力は出せない。満身創痍な彼らの、それが
今の限界だった。
「・・・ご、ごめんなさい・・・」
ルイズは悪戯が見つかった子供のような顔で謝るが、それは色々な
意味で遅すぎた。
「見つかってしまったものはしょうがないさ それよりも何とか
切り抜ける方法を考えようじゃないか」
この事態を引き起こした一因であるところの少年は、いっそ清々しい
程爽やかに言い放った。しかしこの場の誰にも、それに突っ込む気力は
残ってはいなかった。おまけに、言っていること自体は全く正しい
ものである。衛兵達のど真ん中に投げ込んでやりたい気持ちを抑えて、
タバサは簡潔に方策を告げた。
「強行突破」
一見強引に見えるが、なるほどそれは確かに最善の方法かも知れない。
全員をいちいち相手にしていればジリ貧になるだけである。ならば
思い切って後方を放置し、前方を突っ切るのが最も負担の少ない作戦だと
思われた。
――・・・でも
懸念はある。自身の無骨な杖に、衛兵達はさほどの怯えを示していない。
それはつまり、彼らはメイジに対して何ほどかの場数を踏んでいる――
或いはそれに抗する策が存在している可能性があるということである。
「・・・彼らの中に、メイジが混じっている可能性がある」
「――まかせて」
デルフリンガーを抱える腕に少し力を込めて、ルイズはしっかりと
答える。それを合図に、彼女達は一斉に走り出した。

ルイズ達の意図を理解して、前方の衛兵達は刃を潰した槍を構える。
その後ろから、不可視の風の弾丸が空を切って飛来した。
「ルイズ!」とタバサが素早く叫ぶ。
「デルフ、お願い!」
「あいよ!」
すらりと魔剣を引き抜いて、ルイズは前方を薙ぎ払うように掲げた。
その瞬間、風は荒々しく逆巻きながらその刀身に飲み込まれた。
「っつ、重っ・・・こんなのよく片手で持てるわねギアッチョは
ごめんシエスタ、鞘持ってくれる?」
「は、はい ミス・ヴァリエール」
ふらりとよろけるルイズから、シエスタは慌てて鞘を預かる。ルイズは
両手で柄を握り直すと、再び虚空に突き出した。ギュルギュルと
渦巻きながら、ウィンド・ブレイクは二発三発とデルフリンガーに
飲み込まれる。ダメージ一つないルイズ達に、余裕を保っていた
衛兵達はにわかにざわつき始めた。その隙を突いてタバサが撃ち放った
ウィンド・ブレイクが衛兵達を弾き飛ばすが――如何せんその数が多く、
海を割るように道を開くことは出来なかった。
不味い、とタバサは独白する。自分の放てるウィンド・ブレイクは
あと数発もない。これでは埒を明けることは相当に難しいだろう。
「・・・タバサ、大丈夫なのかい」
それを悟ったか、ギーシュが不安げな顔で問い掛ける。彼のゴーレムは
後方のガードに手一杯で、とても前面の攻撃に向ける余裕はなかった。
「・・・・・・」
タバサは答えない。その沈黙が、言葉よりも雄弁に現状を語っていた。
「・・・よ、よし!ならばここは、ぼ、ぼぼ僕が囮になろうじゃないか!」
ギーシュの頭はあっさり玉砕一色に染まってしまったらしい。杖を
ぶるぶると握りしめて、彼は高らかに叫んだ。
「お、おおお前達!こっちを見ろ、この僕が相手になってやる!
我が名は青銅のはォッ!!」
タバサの杖を脇腹に、ルイズの蹴りを脛に受けて、ギーシュは奇声を
上げてうずくまった。
「素性明かしてどうすんのよ!」
「バカ」
タバサの一撃が予想以上に効いたらしく、ギーシュは二人の罵倒に
返答も出来ず呻いた。
「・・・でもどうするの?このままじゃ・・・」
ルイズはタバサに肩を寄せて呟く。その先を語るかのように、衛兵達は
じりじりと間合いを狭めて来た。タバサが僅か黙考して開いた口を
遮って、シエスタは悲痛な声を上げる。
「も、もうやめて下さいっ!」

三色三対の視線を受けて、彼女は絞り出すように続けた。
「もういいんです、私が出て行けばきっとここは収められます・・・
お三方の気持ちは本当に嬉しいです、だけどこれ以上は」
「嫌よ」
「えっ・・・」
「こんな所で逃げ出したら、ギアッチョに・・・リゾット達に
笑われるわ」
きっぱりと言い放って、ルイズは真っ直ぐにシエスタを見つめる。
その眼差しに決闘の時のギアッチョと同じ光を見て、シエスタは
それ以上を続けることが出来なくなってしまった。
「・・・どうして、こんな・・・ただの平民の為に、ここまで
するんですか」
俯くシエスタに、ルイズは少しためらいがちに答える。
「・・・ギアッチョの友達は、わ・・・わたしの友達だもの
そ、そうでしょ、ギーシュ」
照れ隠しに眼を逸らして言うルイズに、ギーシュは屈みこんで
腹を押さえた体勢のまま応じた。
「ぐふっ・・・そ、その通りさ 友の窮地を、誰が見捨てるものか」
「・・・友、達・・・?」
シエスタは呆けたように繰り返す。貴族であるルイズ達の言葉に、
彼女は耳を疑った。
「・・・で、でも 私は平民で・・・」
「関係無い」
小さく首を振るタバサの横で、ギーシュはよろよろと立ち上がる。
「タバサの言う通りだよ ギアッチョと付き合うようになって、
僕はやっと理解した・・・貴族と平民の間に、違いなんて何も
ないんだ 魔法が使えるか使えないか、ただそれだけのこと
…皆人間なんだ、ただ生きてる人間なんだよ」
「ミスタ・グラモン・・・わ、私は・・・」

「武器を捨てろ!!」

野太い声が、シエスタの言葉を遮った。衛兵達のリーダーと思しき
メイジの男が、ルイズ達に杖を突きつけて怒鳴る。
「何者か知らぬがここまでだ 何やら怪しげな術を使うようだが、
まさかこの人数相手に逃げられると思わぬことだな」
ルイズ達は、無論武器を捨てたりはしなかった。背中合わせに
身を寄せて、彼女達は無言で杖を構え続ける。
「抵抗を続けるか ならば少々痛い目に遭ってもらうぞ」
男の言葉と共に、衛兵達は一斉に襲い掛かった。


「ひかえおろう!」

この場にそぐわぬ時代がかった物言いに、衛兵達は思わず動きを
止める。ルイズ達までもが眼を点にして声の主を見つめた。
彼女――タバサは、長大な杖を掲げて口を開く。
「我らを何と心得る 東方の魔人、無窮にして絶対なる者、
偉大なるお方の配下である」
「は、はぁ・・・?」
衛兵達は腑抜けた声を上げる。
「我らが主はあらゆる物を凍てつかせる先住魔法の使い手である
その絶大なるお力は、荒海を一瞬にして氷海へと変えるものなり
その脚は一息に百メイルを駆け、その腕は鋼をも引き裂かん」
芝居がかった調子で、タバサは嘘八百を並べ立てる。常ならば一笑に
付されて然るべき大法螺だが、黒装束の奇異な出で立ちとデルフに
よる魔法吸収が功を奏したか、衛兵達は神妙な表情を浮かべている。
そんな彼らを眺めて、タバサは再び口を開いた。
「我らが主は、不逞かつ悪逆なるジュール・ド・モットを許しはせぬ
彼の者は今、主の手によって然るべき報いを受けているであろう」
衛兵達は僅かにざわつき始める。メイジの男は彼らの間に生まれ始めた
恐怖を切り裂くように杖を振った。
「バカバカしい、下らぬ言い逃れはやめよ!そのような嘘が
通用するとでも――」

「ぬわーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

絶妙なタイミングで悲鳴が響く。その声は紛れも無くモット伯の
ものであった。冗談とは思えない叫びに、衛兵達の間からはついに
「ひぃっ」という声が上がる。
「え、衛兵共!何をしている、はやく助けぶごぁあぁぁ!!
がふッ、お、おい貴様らどこへ――ひぃいいぃい!!」
予想だにしなかったモット伯の悲鳴が、衛兵達の心に明確な恐怖を
植えつける。いつしかリーダーらしきメイジまでもが、じりじりと
後退を始めていた。

「我らが主は、頭を垂れる者には寛大である しかし牙を剥く者には
容赦せぬ その者の心臓を凍てつかせ、五臓六腑を割り砕くであろう」
杖を大げさに振り回して、タバサは好き放題に恫喝する。そうかと
思えば、彼女は急に杖の矛先を変えてデルフリンガーを指し示す。
「見よ、あれこそがあのお方の魔剣、エターナルフォースデルフリンガー
である ひとたび振れば魔法を喰らい、大地を穿ち、雷雲を呼ぶ悪魔の剣
ならん 相手は死ぬ」
勝手に付加された設定への突っ込みを、デルフは何とか堪える。素早く
目配せするタバサに気付き、ルイズは大げさに彼を構えてみせた。
それを確認して、タバサは周囲を見渡す。わずか三メイル程の近くに
迫っていた衛兵達は、今や十メイルを遠ざかっていた。
「このまま逃げるならばよし しかし我らと剣を交えるならば――」
タバサの声に合わせて、ルイズはずいと足を踏み出した。

「アトミックファイヤーブレードを使わざるを得ない」

言葉の意味はよく分からんがとにかく凄い自信を持って放たれたその
言葉に、衛兵達はもはや隠すことも忘れてガタガタ震え出す。
「精神集中、一刀入魂、仇敵殲滅・・・」
トドメとばかりにぶつぶつ呟かれた呪詛に、
「うわぁああああぁあああああああああああ!!」
衛兵達は蜘蛛の子を散らす如く我先に逃げ出した。
「ちょっ、貴様ら!止まれ!止ま、あわーーーーーーーっ!!」
人の濁流が喚くリーダーを突き飛ばし、踏み倒し、ついには彼諸共
流れ去って、怒号と殺気がひしめいていた廊下はあっと言う間に静寂を
取り戻した。こくりと一つ頷いて、タバサは眼鏡の位置を直す。
「今宵の地獄はここまでとしよう」
「何なの?それどういうキャラなの!?なあ!」


一方、こちらはモット伯の寝室。
「おい~~~~~~~~~~・・・もう終わりか?ええ?杖一本
折られた程度でよォォォ」
ギアッチョはつまらなそうに、ボロ雑巾のように倒れ臥すモット伯を
見下ろしていた。
「・・・た、助けてくれ・・・」
「ああ?」
「い、いくら欲しいんだ・・・好きなだけくれてやる だ、だから
助けてくれ――ガブッ!!」
顔面をモロに踏みつけられて、モット伯はくぐもった悲鳴を吐く。
「言葉遣いがなっちゃあいねーな 助けて下さいだろうが ええ?」
「・・・・・・た・・・助けて・・・下さい」
プライドも捨てて哀願する彼を冷たい双眸で眺めて、ギアッチョは
口の端を歪めた。
「助けるわけねーだろーが」
「そんな・・・!!」
絶望に震える伯爵をもう一度壁に蹴り込んで笑う。
「てめー、さっき弱者は逃げることしか出来ねーと言ったが・・・
ちょっと違うんじゃあねーか」
「・・・う・・・」
「真の弱者はよォォ~~~~・・・逃げることすら出来ねえ」

ギアッチョの言葉通り、モット伯には逃げる気力も残っては
いなかった。うわ言のように、ただ命乞いを繰り返している。
「・・・フン」
鼻を鳴らして「下らねえ」と呟くと、ギアッチョはスッと右手を
差し伸べた。
「オイ 掴まりな」
よろよろと出されたモット伯の手を掴んで、彼を立ち上がらせる。
「た・・・助けてくれるのか・・・?あ、ありが・・・ハッ!?」
ギアッチョの握り込まれた左手に気付いて、モット伯は悲鳴に近い
声を上げる。
「ま、待て!やめてくれ!!ここは二階――」

バッギャアアァアアァアアッ!!

「うげあぁあああぁああぁッ!!」
ガラスの砕ける音が派手に響き、モット伯は中庭の噴水へ悲鳴と共に
落ちて行った。壊れた窓の奥から見下ろして、ギアッチョは心底
楽しそうにクククと喉を鳴らす。
「やりすぎよギアッチョ ・・・ま、提案したのは私だけど」
呆れた声を出すキュルケに、肩越しに眼を遣って尚笑う。
「まだ終わりじゃあねーだろ おめーの出番を忘れんなよ」
「そこは大丈夫よ ほら、行きましょう」
キュルケの声に押されて、ギアッチョは中庭へ飛び降りた。彼に
レビテーションをかけると、その後を追ってキュルケは同じく魔法を
使って舞い降りる。

「・・・う、あ・・・」
噴水に半身を沈めながら、モット伯はかろうじて意識を保っていた。
しかしその身体は動かない。叩き付けられた衝撃よりも、殺されることの
恐怖が心身を麻痺させていた。
ばしゃりと水が跳ねる音が聞こえ、反射的に閉じていた眼を開く。
あの忌まわしい男が、ゆっくりとこちらに歩いて来る。
「・・・あ・・・・・・!」
声にならない声が漏れる。必死に逃げようとするが、死が眼前に迫る
にも係わらず身体は言うことを聞こうとしなかった。逃走の意思を
察してか、ギアッチョは水面にスッと片手をつける。その瞬間、
噴水中の水がビキビキと音を立てて凍りついた。
「ひっ・・・ひ・・・・・・!」
身体をガッチリと氷に捕えられて、モット伯は恐怖にただ震えた。

一体何なんだ、この化け物は。
己に恨みのある人間などいくらでもいるだろう。そんなことなど
誰に言われずとも理解している。だからこそこれだけの警備を雇って
いるのだから。
しかし。
一体、この化け物は何なんだ。
こんなことは聞いていない。こんな平民が、こんな化け物が存在する
ことなど聞いていない。魔法は絶対なのではなかったのか?我々は
絶対なのではなかったのか?こいつは、こいつは一体――
「何・・・なんだ・・・!!」
掠れた声が、思わず口をついていた。しかし男は答えない。つま先が
触れ合う程の距離から、氷よりも冷たい瞳で己を見下ろしている。
「そのお方は――」
彼の後ろから声が響いた。今まで事態を傍観していた黒装束の女が、
朗々たる声音で語り始める。
「遥か東方、ロバ・アル・カリイエの魔人 能う者無き無限の魔力を
持ち、深遠なるお心で過去と未来を見通すお方――私達など足元にも
及ばぬ存在よ」
「・・・・・・!」
モット伯は絶句する。そんなバカな、等とは言えようはずもなかった。
呪句も唱えずにただ触れただけで飛び交う水や噴水までも一瞬で
凍結させる、そんな凄まじい力を眼の前で見せられたのだ。一体
どんなメイジならそんなことが出来るというのか――いや、例え
始祖であろうと出来はすまい。
「・・・嫌だ・・・」
氷に絡められた身体で必死にもがこうとするが、その指の一本すら
動かすことは叶わなかった。
「だっ・・・誰か・・・!!」
恥も外聞もなく助けを乞うモット伯を眺めて、黒いローブの女は
形のいい唇を笑みの形に歪めた。
「・・・ねえ あなた助かりたい?」
「は、はい!はいィィッ!!」
モット伯は一も二も無く返事をする。少し考え込むような素振りの
後で、黒衣の女は静かに口を開いた。
「そうねぇ・・・今から言うことに従うなら、助けてあげなくもないわ」

モット伯は首をブンブンと取れそうな勢いで振って肯定の意を示す。
女の口元に浮かぶ笑みが、一段大きくなった。
「いい心がけね・・・それじゃまず一つ」
「ひ、一つ!?」
「ご不満かしら?」
「いっ、いえ滅相もない!」
「よろしい まずはあなたが強引に買い取った女の子達を全員解放して
もらおうかしら」
全員、という言葉にモット伯は凍ったように固まった。「ぜ、ぜんいん
…?」弱く呟くが、女は許しはしない。
「出来ないのなら――」
「し、しますッ!解放します喜んでぇぇ!!」
「ならいいわ さて、それじゃ次だけど・・・あなたの所持している
禁制品、あれを全て始末なさい」
「そんなッ!?」
青ざめた顔をするが、女はやはり許さなかった。
「そう、一つ残らず 一応言っておくけれど、このお方に隠し事なんて
通じはしないわよ」
「一つ・・・残らず・・・?」
この世の絶望を集約したような顔のモット伯を、それでも女は許さない。
「あら、この期に及んでまだ私達を騙すつもりだったのかしら?」
「と、とんでもございませんッ!!」
「結構 さて、それじゃあ三つ目だけど」
「ひィッ!?」
男の片手が、モット伯の首を無造作に掴んだ。
「オレ達のことをよォォォ~~~~~~・・・誰かに言ってみろ」
「か、あ・・・!!」
ビキビキと音を立ててモット伯の首が凍り出す。獣のような双眸で己の
顔を覗き込む悪魔に、モット伯はこれまでで最高の戦慄を感じた。
「――殺すぜ」
男の手は、言い終えて尚離れない。このまま首を砕かれるのでは
ないかという恐怖に、
――た・・・助けて・・・神様、ブリミル様・・・!
モット伯は生まれて初めて本気で神に祈った。
無限に思える数秒を経て、男はようやくその手を離した。瞬間、
モット伯の首はまるで何事もなかったかのように元に戻る。
「・・・あ・・・・・・あ・・・」
肺腑から漏れ出た呼気と共に、彼の全身からへなへなと力が抜けていった。

「さて、それじゃあ最後だけれど」
「は・・・い・・・」
モット伯は力なく答える。もはや怯える余裕すら残ってはいなかった。
「二度と平民の女の子に手を出さないこと 禁制品にも手を出さないこと
その他一切の非道を止めること・・・解ったわね」
「・・・わかりました もうにどとなににもてはだしません・・・なにも
しません・・・」
魂の抜けた声で繰り返すモット伯を見遣って、黒装束の女は満足げに笑う。
「いいこと?もしこの先同じようなことをした場合――今度はその命を
手放すことになるわよ 永遠にね」
最後にそう言って、女は黒いローブを翻してモット伯に背を向ける。
立ち上がった男がそれに習うと、二人は驚く程あっさりと立ち去った。

男の姿が宵闇に消えると同時に、凍った噴水はばしゃんと音を立てて
一瞬の内に水へと姿を戻した。しかしモット伯はその場を動こうとは
しない。情けなく崩れ落ちた格好のまま、冷えた身体を温めることも
忘れて虚脱していた。

「・・・は ははははは・・・」
何分が過ぎただろうか。彫像の如く微動だにしなかったモット伯の
口から、唐突に笑い声が漏れた。
「ははは・・・生きてる・・・生きてるぞ・・・」
身体にかかる水を跳ね除けて、モット伯は勢いよく立ち上がる。
満天の星空に両の拳を突き出して、心の底から笑った。
「生きてる・・・俺は生きてる!うはははは、生きてるぞッ!!
ははははははははッ!!」


――後年、彼は聖人の一人に列されることになる。この日を天啓に
神職の門を叩いた彼は、私財を投げ打ってその生涯を窮する平民達の
為に捧げ、「慈雨のモット」と呼ばれるに至った。他人の非を咎める
時、彼は決まってこう言った。「神は全てを見ておられる 我らが
悪を為した時、神は人を遣ってその罪を罰されます」と。

モット伯に買われた女性達の解放はつつがなく完了した。彼女達を
全員解放させた理由は勿論善意によるものだったが、ギアッチョには
もう一つ、目的がシエスタ一人だったと悟らせないことで身元の判明を
防ぐという狙いもあった。従ってギアッチョは彼女達に感謝される
理由など自分にはないと思っていたのだが、それでも何度も頭を下げる
彼女達にどうにも居心地が悪くなり、一番歳若い少女に乗って来た馬を
寄越して早々にシルフィードの背中へ乗り込んだ。当然馬は学院の
備品なのだが、あんな任務をこなした後なのだからオスマンもその
くらい大目に見てくれるだろうと彼は適当に考える。
「・・・えっと、本当に私が乗ってもいいんでしょうか」
ギアッチョに続いてシルフィードの元へとやって来たシエスタが、
遠慮がちに問い掛けた。
「オレに聞かれてもな ま、そう大した距離でもねー 多少定員
オーバーでも頑張ってくれるだろうぜ」
言いながら、ギアッチョはシルフィードの背中をばしんと叩く。
「きゅい!」
「ほらな」
「言葉が分かるんですか?」
「そういうことにしとけ」
適当に答えるギアッチョに少し相好を崩して、シエスタはおずおずと
背中へ乗り込んだ。
「じゃあ・・・お、お邪魔します・・・」
応じるように、シルフィードはもう一つ鳴いた。

「・・・あの、本当にありがとうございました」
全員を乗せて夜空へ舞い上がったシルフィードの上で、シエスタは
土下座せんばかりに頭を下げる。
「もう何度も聞いたわよ」
苦笑交じりに返すキュルケに首を振って、彼女は尚も頭を下げた。
「どれだけ言っても言い尽くせません 本当に・・・本当に感謝
してるんです 家名まで賭けて助けに来ていただけたなんて・・・
ギアッチョさんも、そんな満身創痍で・・・私、一体どうやって
お返しすればいいのか――」
「この程度は怪我の内に入らねーぜ 一宿一飯の義理っつーやつだ」
何でも無いという風に手を振るギアッチョに続いて、薔薇の杖を
取り出しながら口を開いたギーシュをルイズの言葉が遮る。
「見返りが欲しくてやったんじゃないわよ わたし達はあんたを
助けたかっただけ それが叶ったんだから、他に何かを求める必要
なんてどこにもないわ」
「で、ですが・・・」
シエスタはしかし食い下がる。彼女にとっては、ルイズ達は己の人生を
救ってくれた救世主なのである。何千何万頭を下げても足りるものでは
なかった。

「そうねぇ」
思案顔でシエスタを眺めていたキュルケが、思い立ったように口を開いた。
「それじゃ、今度厨房でご馳走でもいただこうかしらね?」
「・・・はしばみ草」
「それはやめろ」
タバサの小さな呟きを、ギアッチョは速攻で否定する。
「あ・・・」
キュルケ達の暖かな気遣いを感じて――シエスタはようやく、いつもの
笑顔を見せた。
「・・・はい」

遥か後方に小さく見えるモット伯の屋敷を眺めて、ルイズは呟くように
口を開いた。
「・・・ねえギアッチョ」
「ああ?」
「わたし、知らなかった」
ギアッチョは静かに隣に眼を向ける。少女は桃色の髪をなびくに任せて、
はにかんだ笑みを浮かべた。
「誰かを助けることって――こんなにも気持ちのいいことなんだって」
人はそれを、偽善であると言うかも知れない。しかし一体それが何だと
いうのだろう。ギアッチョは、リゾット達は、そしてルイズ達も――
彼らはいつだって、信じたことを貫き通しているだけなのだから。
「・・・」
ルイズに答えずに、ギアッチョは彼女の視線の向こうへと眼を移す。
彼方に薄く延びる山々の稜線から、朝を告げる光が射し込み始めた。
全てを赦す曙光を眺めて、眼鏡の奥の双眸を細める。
「――眩しいな」
そう言いながらも、ギアッチョは眼を逸らさずに呟いた。
「だが、ま・・・ 悪くねー気分だ」

程なくして一行は学院へと帰還した。シエスタをルイズ達に送らせて、
ギアッチョは一足早く部屋へと向かっている。彼女達の前で言いは
しなかったが、ギアッチョの疲労はもはや限界に近かった。
極力疲弊を隠す足取りで女子寮を歩く。包帯を巻いた身体でガンを
飛ばしながら早朝の女子寮を闊歩する長身の男というのは傍から見れば
かなり危ない絵面だが、彼は幸いにして誰の悲鳴も浴びることなく
ルイズの部屋まで辿り着けた。倦怠感溢れる動きでドアを開き、
「あでっ!」
デルフリンガーを投げ捨てるように置く。
「・・・あー・・・」
半ばもつれるような足取りで中に入ると、そのまま数歩ふらふらと進む。
「流石に、つれぇ・・・な」
ギアッチョはそのまま、力無く前方に倒れ込んだ。

「あれ?」
遅れること数分、戻ってきたルイズは開きっ放しの扉に首を傾げた。
キュルケと別れて、扉を閉めながら声を掛ける。
「ちょっと、扉ぐらい閉めなさいよ・・・って」
ベッドに倒れ伏すギアッチョに、ルイズは僅か動きを止めた。
「ギ、ギアッチョ!?大丈夫!?」
「あーあー、静かにしてやんな」
駆け寄るルイズを、デルフが静止する。よく見れば別に死んでいる
わけではなく、相変わらずの仏頂面で彼はかすかに寝息を立てていた。
「な、なんだ・・・ もう、心配して損したわ」
一つ溜息をつくと、「わたしも寝よう」と呟いてルイズはマントに手を
掛ける。するりと肩から落とした所で、ハッと顔を上げた。そっと
後ろを伺うと、ギアッチョが眼を覚ます様子はどうやらないようだった。
「・・・う~・・・」
ルイズは少し恨めしげにギアッチョを見たが、すぐに背を向けて
そそくさと着替えを済ませた。
いざや就寝という段になって、
「・・・あ」
ギアッチョが寝ているのは自分のベッドだと、ルイズはようやく
気がついた。
「ど、どうしよう・・・」
ギアッチョを起こすわけにはいかないが、しかし自分も相当疲れている。
出来ればベッドで横になりたい所だが、ギアッチョの隣に潜り込むと
いうのは、
――・・・その ま、まだはやいっていうかなんていうか・・・
ルイズは真っ赤な顔で考える。
考える、考える、考える。
十分以上堂々巡りを繰り返して、ルイズの頭はそろそろ湯気が出そうに
茹り始めた。熱と眠気でよく分からなくなって来た意識の中で、ルイズは
自棄になって呟く。
「・・・ああ、もう・・・!」
言うが早いか、ギアッチョの隣にぼすんと飛び込んだ。
「わ、わたしのベッドだもん・・・!」
ぼそぼそと呟いて、枕に顔をうずめる。すぐに昼夜を徹した疲労が
襲い掛かり、ルイズはそのまま――まどろみの中に落ちていった。

夢と現の境で、ルイズは今日を思い返す。
…ああ。こんな気持ちになったのは初めてだ。

皆といる明日が――とても楽しみだなんて。



<==To Be Continued...


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