ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-42

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匿名ユーザー

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猫の姿なぞ見えないのに猫の鳴声がするだのでプチ幽霊騒ぎが起こっているが、正体はもちろん猫草である。
その猫草がヴァリエール家に住み着いてから約二ヶ月。
「…マジか?」
「ええ、明日の夜ぐらいに着くって姉様がフクロウで」
「ウニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」
ボールを転がして遊んでいる猫草の鳴声を背景に出た言葉が『マジか?』である。

覚悟はしていたが遂に来た。元ギャングをしてこれほどの反応を示す物。
つまり、遂にルイズがここに帰ってくるという事だ。
無駄に広い領地なので老化もあるし、まぁ大丈夫だとは思うが一応警戒態勢に入らねばならない。
「ニャギ!フギャ!ニャン!ニャ!」
「ルセーぞ」
何かヒートアップしてきた猫草の上に布を被せる。
しばらくもがいていたが、寝たようだ。自由奔放もいいとこである。
草だが猫。猫だが草。奇妙という言葉が最も似合う生物。
そして、その奇妙な生物を見て一発で猫だとのたまったカトレアのド天然さも。
ある意味似た者同士かもしれない。違うのは健康の問題ぐらいか。

この後、カトレアが先発して旅籠まで出迎えに行った。もちろん、動物満載の馬車で。
なお、猫草は居残りである。こいつ、猫だけあって人の好き嫌いが結構激しい。
多分、エレオノールあたりを見れば空気弾を撃ちこみかねない。
布の下でゴロゴロ音を出して爆睡している猫草の顎の下を触る。
紛れもない植物の感触に僅かに伝わる音の振動。…イタリアは猫が多いが、こいつ程好き勝手やってる猫もいねーだろとマジに思う。
とりあえず今は、来るべき来訪者に備え仕事を済ませておかねばならなかった。


そのヴァリエール家領地を進んでいるのは、ルイズ、エレオノール姉様、犬、シエスタの四名。
この前から三日後。さらに犬がアンリエッタとキスしていたという事で、色々格下げである。
まぁそれだけ気になっているという事かもしれんが。
職業メイドたるシエスタも何故居るかというと、エレオノール曰く『ど、道中の侍女はこの娘でいいわ』とのことだが、実際のところ理由は別にある。

ルイズを連れ戻しに学院に乗り込んだ姉様であるが、幾分勝手が分からないので見当違いなところまで入ってしまっていた。
「まったく…あの子ったら、戦争に着いていくなんて勝手なことを言って」
文句たれながら院内を歩くエレオノールだが、戦争という事でそれなりにルイズの事を心配しているようだ。
次に入ったのは風の塔。いい加減魔法でこちらの存在をアピールしようかと思ったが、そんな事やったら多分マズイので自重する。
人に聞けばいいのだが、不機嫌オーラ全開でドS丸出しのエレオノールに近付きたがる人はあまり居ないらしい。
メイジであれ平民であれドMはそうそう居ないものだ。

段々ムカついてきたのだが、倉庫の前で声が聞こえた。
丁度いい。人が居るなら聞こう。というか口を割らす。
ギャングの考え方になってきたが、妖精さんの件で一杯一杯なのである。

だが、入ると同時にエレオノールの顔が歪む。
視線の先には水兵服とスカートに身を包んだ…いやそれだけならまだいいが、小太りの『メーーーーーン!』だったからだ!
「はぁ…んぉ、ハァハァ…かか、かわいいよ…」
しかもなにやら悶えているご様子。扉を開けた様子にすら気付いていない。
「ぼ、ぼくはもう…う、うあああ」
生涯初めて見てはいけない物という物を見てしまった気がするが、気の強いエレオノール。これしきの事でひるんだりはしない。
「あなた、なにやってるの!」
「ひぃぃいいいいい」
その声に逃げようとした人が足をもつれさせ床をのた打ち回っていたが、その近くには『嘘つきの鏡』があった

まず真っ先に嫌悪感が先行したし、こんな人の居ないとこでコソコソ怪しい事をやているということで、その背中を思いっきり踏んだ。
「使用人の分際で、こんな場所でなにやってるのかしらね…しかも、そんな格好で…汚らわしいわッ!」
踏んでいる足の力を強める。あの使用人(兄貴)に頭が上がらなくなったせいで、ストレスというものが溜まっているのだ。
「あ!んあ!あ!ふぁ!」
豚のような悲鳴をあげていたが、少々上気した顔で男が答え始めた。
「こ、この服があまりんも可憐すぎて…で、でもぼくには着てくれる人が居ないから…う、うぉぉお!」
「それで自分で着て、その『嘘つきの鏡』でって事?…情けないわねッ!」
グリィ!
そんな音が聞こえそうなぐらい足をグリグリと動かすと、男が悲鳴をあげるが、どことなく悦んでいるような気がする。
「ハァハァ…あの時見た姿はまさに感動だ!ぼくのハートは可憐な官能で焦げてしまいそうさ!
  だから、その想いのよすがに、せめてこの鏡に自分の姿を映して…ああ、ぼくは…ぼくはなんて可憐な妖精さんなんだ…!あぁああああッ!」
即席とはいえ士官訓練を二ヶ月終え、空軍に配属され水兵服を見て彼が思い出したのは、あのルイズの姿。
乗艦する前に水兵服を一着かっぱらい、わざわざ抜け出して学院に戻ってきてのご乱行である。
そして『妖精さん』。今最もエレオノールが聞きたくない言葉にして忘れたい言葉だ。
それをわざわざ思い出させてくれたこのド変態をどうしてくれようかと思い、さらに踏む力を強める。

「あ!ああ!誰か知らないけど、あなたみたいな美しい人に踏まれて、我を忘れそうだ!う、うお、うおお!」
「おだまり!」
「ふひぃぃ!こんなところで可憐な妖精さんを気取ってしまったぼくにもっと罰をッ!お願いだ!ぼくの顔を踏んでくれ!
  我を忘れた僕の罪と一緒に押しつぶしてくれ!そうだ、圧迫だ!呼吸が止まるぐらい!もう耐えられないッ!踏んでくれ!早く!」


「 『  圧  迫  祭  り  』 だ  ッ  !  ! 」


「まだ言うか!」
二回目の禁句。それに従い、顔を思いっきり踏み付け、鞭を取り出し打つ。
「もっとだ!もっと乗って!強くッ!ふぎぃ!?あぐ!ほごぉ!あぎぃ!」
「黙れと言っている!この豚!」
「ぶ、豚……?ああ、そうさ、ぼくは豚だ…!この醜くて卑しい豚にもっと罰をォーーーーーーー!!あ!あ!んああぁああああ!」
別世界に到達した男が気絶したが、その表情は達している。
「まったく…平民はこれだから…」
養豚場の豚を見るような目で気絶した男を見ているが、実際のところ平民ではなく、ここの生徒である。

が、扉の方から音。
そこにいたのは、かなり顔を赤らめているメイド。ご存知シエスタだ。
「ああ…やっぱり貴族の方達って、あの小説に書かれているような事を……」
『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』
トリスタニアで今人気の読み物らしく、倹約派のシエスタも自費で購入し読んだばかりである。
内容は『高貴な女性の口にはできない欲求が積もり積もって…』。言うまでもなくR指定相当の物だが、この世界にそんな概念など無い。
今のシエスタの目の前の光景は、どう見てもドMの豚に鞭を振るって悦に入っているドSの女王様なのだから、そう思うのも仕方無い。
小説にもそんな話があっただけに、もう間違いない。

ふとエレオノールと視線が合う。
マズイ。イケナイモノを見てしまったと思い、下手すれば次に鞭が振るわれるのは自分だと判断したようだ。
「ごご、ごめんなさい!」
踵を返し走り去ったが、テンション絶賛上昇中である。
どこか、うっとりしたような感じで顔を赤らめながら走っているが、まぁ無理も無い。

だが、エレオノールはそうはいかない。
『HOLY SHIT!』である。当人にしてみれば、そんなつもりは無かったが、状況的にそうなってしまっていると今更ながら理解した。
顔を踏んでいた足。手に持った鞭。『豚』発言。
状況証拠だけで殺人罪が立件できそうな勢いだ。
そしてそれを見られてしまった。
「ごご、ごめんなさい!」
そう言って顔を赤らめさせながら逃げ出したメイドを見て、血の気が本気で引く。
『妖精さん』だけではなく『女王様』という称号まで頂いてしまえば、再起不能どころか自殺モノだ。
さらに平民の中での噂が伝わる速度が恐ろしく早い事も知っている。
そして、それは何時か貴族の中にも…
『ヴァリエール家の長女が婚約を解消された理由は、夜な夜な伯爵を鞭で打っていたからだ』

「ま、待ちなさい!ていうか待って!お願い!」
そんな噂が貴族社会で流れる事を想像しながら、必死になって追いかける。
生涯これ程焦った事は無い。前回の件を一気に更新して最高記録である。

そして誰も居なくなった倉庫の中で、散々踏まれ、鞭で打たれ、罵られた男。
マリコヌルが達してしまっている顔で何かに目覚めていた。

というわけで、必死こいて説明し監視も兼ねて連れてきたという事である。
なお、半分涙目だったのは言うまでも無い。
「サイトさん…世の中知っちゃイケナイ事って結構あるんですね…」
「一体何が…」
どこか遠くを見て達観したような表情のシエスタと才人が乗った馬車と
その後方にエレオノールとルイズが乗った馬車が続くが、前の馬車よりも立派な後ろの馬車からは妙なオーラが滲み出ている。
「ね、姉様…学院でなにふぁいだ!いだい!あう!」
「いい事、ちびルイズ?世の中には知らないでいい事が沢山あるの。それなのに、なんで見に寄ってくるのかしらね……?見なくてもいいものをッ!!」
今にも、この世はアホだらけなのかァ~~~~ッ!
と言いながら目に指を突っ込まんばかりにルイズの頬をエレオノールがつねる。
今ならギャングのボスも立派に務まりそうだ。
「わ、わかりまひた…」
「戦争に行くだなんて。あなたが行ってどうするの!しっかりお父様とお母様に叱ってもらいますからね!」
「で、でも…この前の任務の時は…」
「あなた、戦争がどういう物か分かってるの?街での任務なんかとは一緒にしない!」
情けない声をあげて押し黙るが、エレノオールですらこれだ。ルイズには烈風を説得できるか非常に不安だった。

そんなギャングのボスと化さんばかりのエレオノールを乗せた馬車の前の才人だが、気分は暗い。
ルイズが戦争に参加するという事は、自分もゼロ戦ひっさげての参陣となる。
戦争なぞ17年生きてきて初めての体験だ。正直言えばやりたくなぞないが
あの時のアンリエッタを見て『この可哀想なお姫様の手助けをしてやりたい』という気持ちが湧き上がっていた。
そういえば、姫様も結構胸が大きかったなー。
ああ、この戦争終わったらセーラー服着た姿見たい。多分、いや絶対似合う。清純そうだし。

そんな、けしからん妄想を犬がしていると、シエスタが曇った顔をして話しかけてきた。
「サイトさんも、アルビオンに行くんでしょう?」
「え?…ああ、うん」
シエスタも似合いそうだなー。と引き続き煩悩モード満載だったが、とりあえず現実に戻った。
「わたし、貴族の人達が嫌いです…自分達だけで殺し合いをすればいいのに…わたし達平民も巻き込んで…」
「戦争を終わらせるためだって言ってたけどな」
「戦は戦です。サイトさんが行く理由なんて無いじゃないですか」
元が同じ故郷という事で、それなりに、というかかなり親しくはなった。
「そうなんだけど…あいつが、そのままいるんだったら…多分、ルイズと一緒に行ってたと思うんだ。だから俺も」
実際のところ、その『あいつ』は親玉狙いで真正面からドンパチやる気は全く無い。
「死んじゃ嫌ですからね…知ってる人がいなくなるってのは、もう見たく無いんです」
ああ、もう可愛いなチクショー。ルイズとは大違いだ。いや、ルイズも可愛いけど精神的な意味で。
そんな事を思いつつも、プロシュートとの距離は確実に狭まっていた。

「こんなもんか」
一通りの仕事を終えて一息つく。
後ろで猫草がゴロゴロ鳴きながら寝ているのがムカつくがまぁ良しとしよう。
後は他のヤツに任せて適当にバックレてれば大丈夫なはずだ。
大体何時も飯食うときにあんな人並ばせる必要があんのかと。
刺客が紛れてたら死ぬぞ。と、元暗殺者として常々思う。
メイジといっても飯時を狙われたらどうしようも無いはずだ。
常に警戒してんのか、単に城の中に居るから安心しきってんのかのどっちかだとは思うがイタリアなら軽く2~3回は死んでいると考えなくもない。
プロはリスクを恐れてこういう所はあまり狙いたがらないのだが、追い込まれてテンパったカタギが自爆覚悟で襲撃してくる事がある。
後先考えていないだけに、そういう素人が一番怖い。
もちろん、暗殺チームはそんな事関係無しに殺ってきたが。

適当にバックレてる間に飯も終わったようで、一応の警戒はしているが視界の範囲にルイズの姿は無かった。
が、カトレアの部屋の方からルイズの短い悲鳴。数人の使用人が何事かと出てきたが
続いて『ニャーン』という鳴声が聞こえたので猫草だな。と納得した。
普通はああいう反応だろう。やはりカトレアは何かが違う。

次いで遭遇するとマズイのがシエスタだが
これは、性格的に勝手が分からない場所だけあって、あまり部屋の外から出ないから大丈夫なはずだ。

そして、問題無いのが才人だ。
老化してりゃあバレやあせんだろうし、顔を合わせたのも一回だけだ。
むしろ、ここは後退するより前に出て才人から近況情報手に入れるのが得策かもしれないと判断した。
そう決めると早速行動開始だ。軽く捜したがすぐ見付かった。
つーか、負のオーラ全開でマンモーニさを限りなくアピールしていた。
説教した後のペッシがあんな感じだ。

元暗殺者に完全ロックオンされたとは露知らず、改めて身分差というものを痛感させられていた才人が浸っていると声を掛けられた。
もちろんヴァリエール家仕様で、髪型変えて、老化しているダンディさ300%増しのプロシュートである。
「シケた面してなにやってやがる。使い魔がルイズの側にいなくていいのか?」
「え、ああ。凄い城なんで、なんだか気後れしちまって。って、いいんですか?お嬢様を呼び捨てにして」
「構うこたぁねー。バレなきゃいいんだよ。バレなけりゃあな」
限りなくタメ口で軽く話しかけてきた男に気が緩んだのか、多少才人が明るくなる。相変わらず立ち直りだけは早いようだ。

「で…どんなだよ?使い魔ってのは」
「どんなって……優しい時もあるけど、犬って言われたり、鞭で叩かれたり…」
叩かれていたりするのは、まぁ自分に責任があるのだが、ダーティ入っている時、人はどんどんそっちに進むものである。
「たっく…全然、変わってねーな」
「昔から、あんなだったんですか?」
昔っつっても、月単位の事だ。そうそう変わりはしない。
「ああ、一回怒ると中々おさまんねーからな。そんなに嫌なんだったらさっさと逃げちまえ。稼ぎ口ぐらいは紹介してやんぜ?」
「それはできませんよ。一応、俺はあいつの使い魔だし……それに逃げたら、前のヤツに負けたような気がして」
(意地だけは一端ってワケか)
よもや目の前の男が、先代だと思っていないようでどんどん話してくれるが
纏めると『あまりの貴族っぷりにビビって身分の違いを思い知り凹んでいる』という事らしい。

「少しそこで待ってろ」
プロシュートが厨房に消えていったが、しばらくすると壜を一本持ってきてそれを投げてきた。
「うわ!危ねぇ…これ、何ですか?」
「見りゃ分かんだろ。酒だ」
落としそうになったがなんとか受け取る才人だったが、不思議そうな顔をしている。
「いや、それは分かりますけど」
「適当にかっさらってきたが…まぁそこいらの安酒よりは良いモンだと思うぜ」
「いや、いいんですか?ここで働いてるのに」
「ハッ…!言ったろーが、バレなけりゃあいいんだよ。部屋がアレだろーからな。酒ぐらいは良いモン飲んでも構わねーだろ?」
全ての思考は、『ギられた方が悪い』。まさにギャング。
「あ、ありがとうございます」
「じゃあな。面倒だろうが、やるならトコトンやりな」
ナイスミドル!!
軽く笑いながらの顔を見て才人が本気でそう思う。
今の精神状態ならホイホイついていってしまいそうだ。
無論、誘ってもいないので、ついて来られても困るのだが。


ヴァリエール家に来てようやく人間扱いを受けたような気がして泣きそうな才人だったが
とりあえず、廊下で飲むのもなんなので部屋に戻る事にしたのだが、先客がいた。
「遅い」
「…シシ、シエスタさん?」
部屋の中には、グビィと荒れている英国貴族を髣髴とさせる飲みっぷりのシエスタがいた
目が完全に据わっている。なんというかギャングっぽい。
「せっかく遊びにきたのに、居ないってのはどういう事れすか」
「い、いや、ちょっと話してて」
「ミス・ヴァリエールとですか。なんだかんだ言ってやっぱりそうですか」
「俺はルイズの事はなんとも…」
「まぁいいサイト。お前も飲め」
スゴ味を含ませた声でシエスタが呟く。ドスが効いててなんか怖い。
「い、いただきます」
怖いので差し出されたままの酒を飲む。
この後、才人が潰れるまで酔っ払いと使い魔によるほぼ一方的な酒リレーが行なわれる事になった。

酒リレーが開催されている中、ルイズはカトレアの部屋にまだ居た。
何故か知らんが、猫草を挟んで一緒に寝ている。
最初は驚いたものの、猫草が出す空気クッションが気に入ったらしい
そのうちルイズが毛布被って外に出て行ったが、向かった部屋の先はある意味地獄に近かった。

「あら、いらっしゃい。ミス・ヴァリエール」
「なな、なんであんたがいるのよ!」
「する事が無いので遊びにきただけれすけど」
酒で顔を赤くしているシエスタと、なにか分からんが喰らえッ!的な感情で赤くしているルイズ。
こちらも対照的である。
そして、潰れている才人。もう少し飲んでいれば、ドッピオみたいに釘を吐いているような姿が見られたかもしれない。
「ミス・ヴァリエール」
「な、なによ…!」
こんな部屋でなにやってたのかと想像して、沸騰しかけのルイズだったが、シエスタの妙な迫力に押されていた。
「飲め」
ズイィっと差し出される酒瓶。プロシュートが見るに見かねて才人にギってきたのを渡したやつだが、もう半分程開いている。
「どうしたのよ、これ」
「とりあえず、飲め」
「そんな事いいから、自分の部屋に戻りなさい」
負けじと言い返したが、シエスタがルイズに顔を近づけてきた。
「サイトさんの事、好きなんでしょ?ハッキリ言ったらどうですか」
「な、な…!」
唐突に本丸を攻められルイズがうろたえる。『ジャーーーン ジャーーーーン』という音が聞こえそうなぐらいに。
「ち、違うわよ!な、なんでこんなヤツ…」
必死になって否定したが、気になっている事は確かで、現在心拍数絶賛上昇中だ。
そんな様子のルイズをシエスタがジーっと見つめ…
「……汗かいてますね」
「こ、これは暑いだけで、べ、別に…ひゃわん!」
ルイズの頬を伝う汗を舐めたッ!
「この味は…嘘をついてる味です…!ミス・ヴァリエールッ!」
「あ、あう…うぅ…ふひゃあ!」
「どうなんですか?…質問は既に…拷問に変わってるのれす」
汗を舐められるなぞ初体験だったので戸惑っていたのだが、続けざまにシエスタがルイズの平原…もとい胸を触っている。エロイ
「や、やめ……この、ぶぶぶ、無礼者…ひぁ!」
「無駄です。無駄無駄。そんな板じゃサイトさんは振り向いてくれません。わたしが大きくしてさしあげます」
遂に両の手でガッシリとつかみ始めた。…つかむ箇所があるかどうか知らんが。
「い、板じゃないもん」
「一度言った事を二度言わなきゃ分からないってのは、その人の頭が悪いって事です。贔屓目に見ても板です」
完全にギャングと化したシエスタだが、構わずにルイズの平原を掴んで手を動かしている。

とりあえず満足したのか手を離すと転がっていた酒瓶を抱えると外に出ていった。
「ひっく。早めに捕まえないと待ってるだけになるんですから」
「あ……」
少しだけ落ち着いた口調でそう言ったが
ここ数ヶ月任務やら、ザ・ニュー・使い魔のおかげで頭の隅に追いやってあまり考えなかったが、意味する事に空気の読めないルイズも気付いた。
「そういえば、そうだったっけ…死んだかもしれないなんてとてもじゃないけど言えないわ……」
実際のとこ生存云々どころか同じ場所にいるのだが、全く気付かれては無いというのはプロと素人の差というやつだろう。

そして、寝るべく廊下を闊歩しているプロシュートの視界に入った珍妙な生物がそこに居た。
「…なんだこいつは」
目の前に映るのは、空の酒瓶抱いて廊下で倒れている非常によく見知った顔。
さすがにメイド服ではないが、猫草に負けないぐらい爆睡かましているシエスタだ。
「うお…酒クセー。なんであいつにやった酒持ってんだこいつ」
とりあえず、邪魔というか、こんなとこで寝てられても困る。
こんだけ潰れてれば起きないだろうとして抱えると運ぶ。とりあえず、部屋の場所は聞き出せたので運んだ。

「オレはこんなキャラしてねーぞ」
文句言いながら、シエスタをベッドに放り投げるように運んだが、介護キャラじゃあない。
相手を介護が必要にさせるように追い込んだ事は数え切れないが。
そんな事を考えながら、ドアの方に向き直って外に出ようとしたが、後ろからプレッシャーというかスゴ味を感じた。

そう…擬音が出んばかりにシエスタが立ち上がっていたからであるッ!
「な…ッ!バカな…こいつ起きて…!うぉおおおお!?」
急だったので、さすがの元ギャングも対処できずに押し倒される形となったが、色々とヤバイ。

何だ、この状況は!?カタギに元ギャングが倒されるってどういう事だよッ!
それ以前に、このヤローどういうつもりだ!起きてたならせめて言いやがれ!クソッ馬鹿にしやがってッ!
いや、この場合ヤローって言うのか?男じゃねーしな。あー、もうそんな事はどうでもいい。メローネでもいいから助けやがれってんだド畜生が!
http://www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0411.jpg
http://www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0409.jpg

0.5秒の間にそんな事を考えたが、バレちまったモンは仕方無い。
ルイズとかにバレるよりはマシだ。
失敗は前向きに利用しなくてはならないとリゾットも言ってたはずだ。

「おい、オメー…とりあえず退け。どういうつもりか知んねーがな……こいつ……寝てやがる」
反応が無いので妙だと思ったがどうも寝ボケていただけのようだ。
一先ず安堵したが、そう安心してられない。
こんだけ焦ったのも久しぶりだ。
シエスタを引っぺがすが、スーツに涎が付いている。ヴァリエール家の私物の方だからいいが、持ち込んだ方だったら説教かましてるとこだ。
壁に背を預け溜息を吐いたが、引っぺがしたシエスタが重力に従ってもたれ掛かってきた。

試しに頬を少し強めにつまむ。
反応は無い。まぁ大丈夫だとは思う事にした。
というか、最近マジで胃が痛くなってきたかもしれない。今度水のメイジにでも診てもらおう。
手を離したが、シエスタは変わらない顔で爆睡している。
「しっかし…のん気そーな面ぁしてやがんぜ」
ペッシを除いた暗殺チームは寝ている時もかなり神経使っていた。
ギアッチョやイルーゾォはともかくとして、プロシュートは殆どの時はスタンドを出して寝ている。
今もそうだ。これも結構スタンドパワーを使うのである。

ルイズ達もそうだったが、かなり無防備な寝顔のシエスタを見て、少しばかり羨ましくなった。
襲撃を気にせず寝ていた時なぞ何時以来だったかと思ったが、思い出せそうに無い。
難儀な商売やってたなと思ったが、別段後悔はしない。

相変わらず、涎垂らして爆睡決め込んでいるシエスタだったが、なんかの夢でも見ているのだろうか腕を掴まれた。
「…やっと捕まえ…もう離しま……から……」
「なに見てやがんだかな」
この元ギャング、よもや自分の事だとは全く思わないし、思おうともしない。この元ギャングも大概ド天然である。
いい加減出たいので、腕を振るが、ガッシリと掴まれて離れない。
手でこじ開けてもすぐ、また掴んで離れない。
「……起きてんじゃねーだろうな」
これで狸寝入りだったら相当黒い。ブラック・サバス並に真っ黒だ。

どうしたもんかと、髪掻きながらマジに考えたが対処法が思いつかない。
典型的な強打者タイプのボクサーだ。普段が打つ方だけに、こういう打たれ方をされると弱い。
しかも、悪意無しにされると反撃のしようも無い。ある意味、こういうのが真の邪悪というのかもしれない。
「こいつまだ持ってたのか。メローネに売りつけられたモンなんだがな…そんな良い物か…?」
面倒だと思いながら視界に入ったのは、この前くれてやった飾りだ。
メローネに半分押し付けられんばかりに売りつけられたのだが、案外気に入っていた。
それを欲しい言われた時は、まぁ世話なってたしくれてやったのだが、他人がそこまで常備するようなモンでも無いだろとは思う。

徹夜で他のヤツの仕事引き受けて、バックレるための暇作っていたため、多少なりとも寝ておきたかったのだが
現状、無理矢理引っぺがすにしても何か知らんが妙に喰らいついてくる。
腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!と言わんばかりに
これ以上強くやると起きて面倒な事になりかねない。かといってこのまま寝ると洒落にならない気がする。
「仕方ねー…気が済むまで居てやっが、これでゼロ戦の貸しはねぇからな」

その内離れんだろと思っていたが、結構粘る。一時間経っても離れやしない。
「くそ…何なんだこいつ…」
元ギャング。しかも暗殺者にこんだけ遠慮が無いヤツってのは見た事が無い。
いい加減もうどうでもよくなってきた。
出たとこ勝負。そう考えると寝る事に決めた。
眠いものは眠い。こいつが起きるより早く起きればいい事だ。
バレたらバレたで黙らせばいい。こんだけ広けりゃルイズ達には聞こえないだろう。
何時もと同じようにグレイトフル・デッドを出したが思い直す。
横でアホみたいに涎垂らして爆睡しているヤツを見たら、スタンド出して寝るのがバカらしくなってきたからだ。
メタリカなら気にしなくてもいいんだがな、と思うと寝た。
同じ場所で寝る元ギャングと現役メイド。相変わらず実に奇妙な組み合わせであった。

ルイズ― 潰れている才人を見てムカついたのか一発蹴り入れてカトレアの部屋に戻った。
     …が板と言われた上、色々やられたので部屋に付く頃には半泣きだった。
猫草―常に18時間ぐらいは寝て、起きている時は食ったり遊んだり、犬とは違って充実している。
マリコルヌ―覚☆醒!


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