ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-29

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
メイジ殺しの脅威が去った後も黙々と作業をこなす。
互いに交わす言葉も特に無いので必然的に沈黙が訪れる。
暇なので色々思考を巡らせたりしているのだが…。
それにしてもアニエスは性格に反比例して良い体をしていた。
ああいう気が強いのに吸引させると面白いんだよな、アレ。
いつもの性格とのギャップは勿論。
効果が切れても記憶は残るから正気に返った瞬間、必死に否定したりして。
「ねえ……」
狭い室内で響くミス・ヴァリエールの言葉にびくりと身を震わせる。
まさか頭で描いていた妄想を悟られたのか?
次に来るであろう容赦ない制裁に怯え竦む。
しかし、彼女が口にした言葉は別の問いだった。
「アニエスが言ってた“ダングルテールの虐殺”って何?」
「ああ、その事か。知らぬのも無理はない、二十年も前の事だからな」
彼女が生まれる前、しかもあまり公の話題に上る事がない事件だ。
口にしたがらないのには皆にとって後ろめたいからだ。

「二十年前、ダングルテールの浜辺に一人の女性が流れ着いた。
彼女はロマリアの新教徒で、祖国での弾圧から逃れてきたという。
それを見つけた村人は彼女を受け入れ、親身になって介抱した」
話を続けながら床を余す所なく手で触れていく。
そうすると指先が何かに引っかかった。
見れば床の羽目板の端が僅かに削れ、取っ掛かりが出来ている。
「しばらくしてロマリアから彼女の引渡しを求める要請があった。
彼女は新教徒の布教を行っていた中心人物の一人だと言うのだ。
新教徒の勢力拡大を恐れるロマリアとしては生かしておけなかったのだろう」
普通なら気にも留めないような傷だが、そこに指を差込み板を剥がす。
抵抗はまるで無かった。始めから外れるように作ってあったのだろう。
「だがトリステインとしても簡単に頷く訳にはいかなかった。
既に彼女は村の一員となっていた、つまりは我が国の国民だ。
国としての面子がある以上、引渡しに応じればロマリアに屈したと思われる」
空いた床穴から下を覗く。
そこにあるのは剥き出しの地面だけ。
しかし、こんな細工をして何も無いのは逆におかしい。
「かといってロマリアとの関係も悪化したくない。
王も重臣も頭を悩ませていた時、その事件は起こった」
隙間に手を差し込み土を払い除ける。
そして予想通りにそこから出てくる鉄の金庫。
中に入っている物は金ではないだろう。
ここまで手を込んだ隠蔽をしているのだ。
間違いなく探している薬はこの中にある。


「彼女を保護した村が国家転覆を謀っているという疑惑を掛けられ、
反乱鎮圧の名目の元、村民一人残さず村ごと焼き払われた。
それが彼女の言っていたダングルテールの虐殺だ」
「っ……!」
「その結果、両国の懸念は解消され、事後の再調査も行われる事なく、
反乱の証拠や首謀者も不明のまま事件はお蔵入りになった」
「何よ、それ!?」
「あまりにも都合が良すぎると言いたいのだろう?
反乱など無かったかもしれない…が、もう誰にも真実は判らない」
その成果を認められたリッシュモンは今や高等法院長の地位にある。
今更、過去の古傷を探った所で彼と敵対するだけでメリットはない。
無辜の民を虐殺したという事実が出ても王の為に汚れ役を買って出たと言えばそれまでだ。
「なんでそんな奴が姫様の傍に!」
「彼だけではないよ」
国王が崩御されてから宮廷は腐敗していく一方。
宮廷で繰り広げられる利権というパイの醜い奪い合い。
マザリーニ枢機卿を除けば誰一人として国の事など考えていない。
もっとも愛想を尽かして勅使に留まった自分には無関係な話だ。

ふと気が付けばミス・ヴァリエールの暗鬱な顔がそこにあった。
しまった、とモットは自分の浅慮を呪った。
ミス・ヴァリエールと姫殿下は幼少の折に親しくしていた仲ではなかったか。
その姫殿下が王宮では頼れる者もなく、国を食い物にする者共に囲まれていると知れば、
彼女の心中が穏やかでいられる筈などない。
「あ…ああ。だが他の国も情勢が不安定なのは変わらないよ」
無理矢理に話題を逸らせて彼女の表情を和らげようとする。
「たとえばアルビオンでは王党派と貴族派に分かれ内戦中と聞くし、
ガリアの王は魔法も使えぬ無能王との噂で…」
見る間に更に深く落ち込んでいくルイズ。
モットに悪気はなかったのだが『魔法も使えぬ無能』という言葉が深く彼女に突き刺さる。
その姿を見て下手な慰めは逆効果とモットは判断した。
彼女を放置しアンロックで隠し金庫を開ける。
中には予想通り瓶に詰まった色取り取りの薬品の数々。
それにディテクト・マジックを掛け、魔法薬だけを選び取る。
といってもどれが解除薬か判別が付かず、何種類かの薬品を手持ちの瓶に移していく。
必要なのは三人分だけ、残りは犯罪の証拠として金庫へ戻しておく。
解析は自分の屋敷で行えばいい。


ここでの仕事を終えてモットは立ち去ろうとする。
その場に取り残されたルイズに彼は声を掛ける。
彼女を落ち着けるようになるべく優しげに。
「ま…まあ確かに姫殿下の不遇に対し私も思う所はあるのだが…。
“イーヴァルディの勇者”のようにいかんのだよ、政治という物はな」
「…絵本なんかと一緒にしないで。姫様が苦しんでいるのは現実なのよ」
反論する口調には僅かにミス・ヴァリエールらしさが滲み出ている。
ここは逆に怒らせて気力を引き出すのが良いのではないだろうか。
『アンリエッタ姫殿下こそ国の事を第一に考えてないではないか!』
いや…それはちょっとヤバイな。下手すると背中の物を抜きかねない。
少し切り口を変えて攻めてみようか。
「絵本をバカにしてはいかんぞ! 本は人類の英知の結晶だ!
何なら私の蔵書の一部“バタフライ伯爵夫人の優雅な一日”と“メイドの午後”、
特別にその二冊の貸し出しを許可しよう!」
「どっちもいらないわよ!」
があー!と激昂するミス・ヴァリエールの反応を見て胸を撫で下ろす。
やはり彼女に落ち込む姿は似合わない。
それぐらい元気が有り余っていた方が落ち着く。
そんな益もない事を考える辺り、
いつの間にか上下関係ではない仲間意識が芽生えたのかもしれない。
(まあ、ただの共犯者なのだが)

“イーヴァルディの勇者”か…。
ふと自分が口にした言葉を反芻する。
ただの御伽噺と以前の私なら笑っただろう。
それよりも以前なら勇者の登場を待ち遠しく思っただろう。
名誉の為でもなく自分の為でもなく、苦しむ人々の為に剣を振るう。
そんな都合のいい英雄など存在する筈がない。
乾いた心はそれを現実として受け止めた。
しかし今は心踊る事もないが笑い飛ばせもしない。

…私は出会ってしまった。
平民の娘の為に高級貴族の馬車に立ち向かう勇者と。
まさか待ち焦がれていた相手は犬で、
倒されるべき悪が自分だったというのは皮肉な話だったが。

彼が思いを馳せる。
自分が本の中に見出したような冒険の世界に、
ミス・ヴァリエール達と共に飛び込む若き日の自分の姿。
(出会うのが…遅すぎたな)
それを夢見るには自分は穢れ過ぎた。
あの頃には戻れない事をモット自身が悲しいほどに理解していた…。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー