ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-24

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匿名ユーザー

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皆はタバサが持ってきた書物に記されたルーンに目を奪われていた。
それほど書物のルーンは康一のルーンとよく似ている。似すぎている。
偶然の一致としてはありえないほど、真に酷似していた。

アニエスがテーブルに置かれた、康一の右手を見る。
それを目に焼き付けた後、また書物のルーンを見た。
瞳に焼きついた康一のルーンと、書物のルーンが瞳の中で重なり、僅かな差異で合致。

「これは、確かによく似ている。殆んど見分けが付かんぞ」
驚いた様子でアニエスが書物に記されたルーンを見ながら言った。
「確かにそのようです。いえ、これは本当に違うルーンなのでしょうか?」
アンリエッタも康一のルーンと、書物のルーンを交互に見あう。

康一も自分の右手を見る。そしてその右手を記されたルーンの横へと置いた。
「これ、ホントに似てますよね」
見比べられた、ルーンとルーン。康一にもようやくその差異が見つけられた。
ルーンの主さえも、そうして見比べなければ分からない程の違い。

それほど酷似したルーンが世に二つとあろう物なのか。
康一は書物を持ってきたタバサを見つめた。
タバサはその康一の疑問が分かっているように語る。

「あなたのルーンは、わたしが見た限りとても珍しい形のルーン。
この世にこれだけ似たしたルーンがあるのは、多分まずありえない」
タバサの言。それは魔法に精通した彼女だからこそ感じる重みを発していた。
おそらくタバサの考えにまず間違いはないであろう。

だが今見ている現実にアニエスが異を唱える。
「しかし現実には、これだけ似たルーンの記録が存在しているのだ。
そもそもこの書物は一体何の本なのだ?見たところ随分ボロボロで、年季の入った本のようだが」

アニエスの言う通り、タバサの持ってきた本は随分と古くなった本だった。
今開かれているページも日焼けしていたり、何かのシミかで汚れていたり。
先ほどチラリとみた表紙もかなりくたびれているようだった。
微妙に本を綴じる紐の止め具も危うい感じで、言ってはなんだがかなりボロイ。

そんなボロイ本をタバサは丁寧に扱ってページを閉じる。
紙自体も随分と痛んでいるようで、康一には今にもボロリと紙が崩れてしまいそうな感じがした。
閉じられた本。そしてその痛んだ本が面を上げた。

本の顔とも言うべき表紙。康一はその驚くべき表紙を見つめて、気の抜けた声で言った。
「この本の表紙、擦り切れちゃって何も読めなくないですか……?」
ハルケギニアの文字が読めない康一でもそれぐらいは分かる。

ボロボロに擦り切れた表紙。その長い年月を経た故の結果。
おそらく昔はあったであろう題はすでに消え、もう何処にもない。
「それが問題」
タバサが少し困ったように本に目を落とした。

だが表紙が読めなくとも、本の中身には関係ない。
「ならば本の内容を読み解けば、どんな本かは推察できるのではないでしょうか?」
アンリエッタの考えなら題が読めなくとも特に問題はない筈だ。

先ほどのページのルーンは、ハッキリと記されていた。
ならそれ以外のページが痛んでいたとしても、読めないほどではないであろう。
しかし、そんなことは聡明なタバサには百も承知。
タバサは再び本を手に取り、そのページを康一達に見せるように捲り始めた。

ペラペラと捲っては捲り、捲っては捲り。
その次々と変わりゆくページを見つめて険しい目をする、アンリエッタとアニエス。
康一は字が読めないので、二人の結果待ちだ。

そしてタバサは簡単に捲り終えた本を閉じて二人を見た。
流れてゆく康一には読むことの出来ない、よく分からない変な文字。
アンリエッタとアニエスの目は相変わらず険しいまま。
そんなアニエスが困ったようにアンリエッタを見つめる。
アンリエッタもアニエスと同じような目をしてタバサを見つめた。

沈黙が降りる。そんな沈黙が少し続いて、何でこんな雰囲気になっているのか分かっていない康一が聞いた。
「あの……結局その本、何て書いてるんです?」
何となく自分でも、場違いな気がする発言かな~?、と思う康一の言葉。
そんな康一の言葉にアンリエッタとアニエスは何も言えない。

二人に代わってタバサがその言葉に答えた。
「この本の文字、読めないの」
「……ハイ?」
まさに理解不能といった表情の康一。

しかしタバサは冷静に、厳然と事実を告げる。
「本の文字。わたしたちには読むことができないの」
二度も言われればさすがに康一もその言葉が理解できる。
理解できるが、何となく微妙な目でタバサを見つめた。

康一の視線を受けるタバサは、やっぱり困ったように目を逸らした。
今度はアンリエッタとアニエスを見つめる康一。とりあえず視線が合う前に顔ごと目を逸らされた。
これが所謂、スタンドも月までブッ飛ぶこの衝撃、というヤツだろうと康一はおぼろげに思う。
そして月が二つあるこの世界では、どっちの月に飛んでいくのだろう、とよく分からないことを康一は考えた。

テキトーに子供に線を書かせて、その線を清書して作ったような気がしないでもない文字。
否、読めないのであるから文字かどうかさえ判然としない。
そんな文字をアニエスとアンリエッタは困惑したような目つきで見つめている。
そしてそんな二人を康一が見つめていた。

微妙に気まずいような、そうでないような空気を纏うアニエスが言う。
「わたしも文字の読み書き程度はできる、が。
こんな文字(記号)…なのか?文字は見たこともない。姫さまは何かご存知ありませんか?」
自分よりはこの文字を知っている可能性のありそうなアンリエッタにアニエスは聞いた。

だがアンリエッタも渋い顔を崩さない。
「いいえ、わたくしもこのような文字は初めて拝見しました。
ハルケギニアの文字とは違う形態の文字のような気がいたしますし、これが本当に文字なのかさえ………
これは推論で結論を出せることではなさそうです。然るべき者に調べていただいた方がよろしいでしょう」
アンリエッタは一旦、結論を出すのは保留とすることにする。

康一としては何だか気の抜ける展開ではあるが、まだ多少の疑問は残っている。
「タバサさん。たしかこの本、タバサさんの通ってる魔法学院ってトコで見つけたんですよね?
こんなスゴク古い本も取って置くようなところなんですか?」

尋ねられたタバサはコクンと頷き、口を開く。
「まず、あなたのルーンの記録は学院の魔法書、閲覧許可必須の本でも見つけられなかった。
この本は学院にあった未解読の解読待ち本として保管されていた物の一つ。
その中でもとても古い本。その本の中でようやくそのルーンを見つけた。」

ちなみの閲覧許可が必要な魔法書は、以前の任務での報酬でアンリエッタから得た、
宮中及び魔法学院にある魔法書などの閲覧許可があったために問題はなかった。
タバサとしても、こういう使い方をするとは思っていなかったため、ちょっぴり嬉しい誤算であった。
結局あんまり役に立たなかったのを除けば。タバサはちょっぴりガッカリした。

「未解読ってことは、ヤッパリ何かよく分かんない本ってことですよねェ~」
しげしげとルーンの記されたページを見て康一が言う。
そのページを捲った右手に記されたルーンと、ほぼ同じ形の紋様。

一画ほど「康一の」ルーンが足りないが、それ以外は完璧に同じ形状のルーン。
「でもこの本のルーンと、僕の手のルーン。これって同じものなんですかね?」
タバサに康一が聞いた。確かにこれだけ似ているなら、その可能性もあるだろう。

タバサも康一のルーンは珍しい形だと思う故、同じことを考えていた。
「これだけ形状が一致するならその可能性は高いと思う。
なぜ記録とあなたのとが違うのかは分からないが、記録が間違っていた、という可能性もある」
タバサの言う通り、逆にそう考えるのが自然なのかもしれない。

現に記録ではなく、実物が目の前にあるのだ。
そして現実にハッキリと結果がある限り、間違っているのは記録の方となる。
アンリエッタもアニエスもそれが普通だと思うし、それ以外の者も普通はそうだと思うだろう。

だが、康一はそうは思わない。何故なら記録も結果であるからだ。
結果というのは、過程なくしてありえない。故に結果が生まれるのは何らかの理由があってのこと。
なら結果があれば、それが生まれた理由というのは多少なりとも推察できる。

康一はハテな?、といった表情で首を捻った。
「でも記録が間違ってるっていうの、何かオカシクありません?」
「どこがです?何かそんなところがありますか?」
康一の言葉の意味が分からないアンリエッタは康一に問うた。

「記録のルーンが一画足りないのなら何となく納得できるんですよ。
でも一画足りないのって僕のルーンの方じゃあないですか。何か…チョット不自然な気がするんですけど」
「……それの、どこがおかしいんだ?もう少しハッキリと言え」
今一つ具体的でない康一の答えでは何が言いたいのか、よく分からないアニエスも聞いた。

しかし康一としても何かを絞り込みきれずに、言葉を探しながら言った。
「こういう紋様を写す作業って、風景の絵を描くのに似てると思うんですよ。
でも普通、風景画に実際にない風景を描き足すとかってあります?」

相変わらずよく分からない問いだが、とりあえずアニエスは思ったことを答えた。
「絵のことなど知らんが、正確に風景画を描くなら絵を書き足すとかはないんじゃあないか?」
「だとするとこの本に書かれてる、一画多いルーンって変じゃあないです?
間違えて一画書き忘れたとかだったらいいんですけど、一画書き足されてるじゃあないですか」

「「「……あ」」」

三人とも具体的ではないが、何となく想像がついた。
確かに、康一の右手のルーンと同じものを書き写したのだとすれば、それは少々不自然だ。
記録とは正確に記すものである。だが時には間違いを犯すこともあろう。

しかし今回の事例が生まれるには、写生する時に本物のルーンより字画が多くなってしまうことが要求される。
だが普通、ルーンの紋様の絵を書き間違うなら、字画が多くなるより少なくなるのではないだろうか?
写生とは、有様を「見たまま」に写しとることである。ならば写生で犯すミスとは一体なにか。
そこに無い物を書き足すより、そこに有る物を見落とすということが、紋様の写生で普通起こりうるミスではないのではないのか。

だが康一は写生の知識など何もないし、ただ単に間違えて書き足してしまったという可能性もある。が。
ただでさえ記録というのは間違いが無いようにチェックされるものであるし、それは少々都合がよすぎるように思える。
「これは……少し不自然」
聡いタバサが、真っ先に康一の考えに同意した。

アニエスも本のルーンを見つめながら、康一の言葉を現実的に考える。
「おかしい、な…。確かにおかしい。気にならない程度ではあるのだが、確かに喉に小骨が引っかかるような感じだ」
一度生まれた疑問は取っ掛りとなって、アニエスの勘に何か引っかかる。

「わたくしも。そのままルーンを写しとったとすれば、あまり想像しにくい間違え方のような気がいたします」
アンリエッタも、この間違いの微妙な不自然さを認める。
しかしこの記録に間違いがないとすると、一体何故にこんな食い違いが生まれるのか。
果たして本当に記録のルーンは、康一のルーンと同じものなのであろうか?
康一がルーンの能力が使えないのとも何か関係があるのか。全く。訳の分からないことだらけだ。


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