ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-33

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「そういえば聞いてなかったけど…ルイズ、あなたは何しに実家に行くの?」
ワインを飲みながらキュルケがルイズに問いかける。
「それは…その…」
ハシバミ草のサラダを食べるタバサを見ながら、どこか後ろめたそうな声で答える。
「私のお姉さまが病気がちで…」
「ふ~ん…でイクローに治してもらおうってわけね」

朝食をとってすぐ、育郎達はルイズの実家に向かうべく出発し、昼過ぎには領地に
つくことが出来た。ヴァリエールの領地は広いとはいえ、竜ならすぐの距離である。
しかし、そこで軽く食事をしたいというキュルケの提案があった。
「だってずっとシルフィードの背中でお腹が空いたじゃないの。
 ヴァリエールの屋敷についても、すぐに食事というわけにはいかないでしょ?」
まったくその通りで、さらには自分もお腹がなり始めていたいたので、ルイズは
文句を言いながらも賛成し、近くの旅籠で休む事にしたのだ。

「うん…」
「なによ、ひょっとしてタバサのお母様が治らなかったから遠慮してるの?
 そんな事タバサは気にしないから安心しなさいな。ね、タバサ?」
その言葉に、変わらぬ調子でハシバミ草を食べ続けるタバサが頷く。
「ほらね。イクローもそんな顔してないで。
 まったく治らなかったわけじゃないんでしょ?
 出発した時に、ベルスランもあんなにお礼を言ってたじゃない」
「そうだな…すまないキュルケ、気を使わせて」
「いいのよ。だいいち、沈んだ顔で食事してもおいしくないじゃない」
そう言って笑うキュルケのおかげで、その場の雰囲気がやわらぐ。

「にしても公爵家ってだけあって、娘っ子の家はずいぶんてーしたもんみたいだな」
傍に立てかけてあるデルフが呟くと周りから歓声が挙がった。
「おおー、さすがルイズ様がお連れなさった方だ。喋る剣をお持ちだなんて」
「貴族でねえって言ってらしたが、さぞかし名のある方にちげえねえ!」
「お連れの貴族様も名のある方だろうに、さすがルイズ様だあ」
等と、ルイズが来たと知って集まってきた村人達が騒ぎ出す。
「そうだね」
軽く周りを見回しながら、育郎がデルフの言葉に同意する。
「あら、そうかしら?」
「………」
対するキュルケとタバサはごく当然と言う顔をしている。
育郎はその事に感心するが、自分も最近は似たような状況で食事をしているためか、
以前なら気後れするような状況でも、自分が普通に食事している事に気付く。

シエスタをモット伯から助け出してからというもの、貴族からはあいかわらず恐れ
られてはいるが、育郎は平民の間で、まるで英雄のような扱いを受けるように
なっていた。それもシエスタのおかげなのだろうが、逆にそのシエスタのおかげで
困っているとも言えるのだ。
「俺は感動したぜ!初めて知った人の愛、その優しさに目覚めて、裏切り者の名を
 受けて、全てを捨てて魔王に戦いを挑むなんてよ!
 俺の料理が食いたくなったらいつでも言ってくれ!」
とはコック長のマルトーである。
どうやらどんどん話が大きくなっていったらしい。

このような状況に慣れ始めているのは、色々とまずいのではないかと育郎が考えて
いると、外にいる村人達がにわかに騒ぎだした。耳を傾けてみると、竜だの
お嬢様等という単語が聞こえてくる。どういうことかと思っていると、いきなり
ドアが勢いよく開き、そこから金髪の女性が旅籠に入ってきた。

「え、エレオノールお姉さま!ど、どうしてここに?お仕事でいないはずじゃ?」
ルイズの言葉を無視して、金髪の女性はルイズに歩み寄り、その頬をつねる。
「その言い方だと、私がここにいたら悪いみたいじゃないちびルイズ!?」
「ひてゃい!わ、わりゅくないでしゅ!」
頬を引っ張られながら弁解するルイズ。
「気を利かせた村人が、貴女がここに着いたと知らせたのよ。
 それで休みを取ってた私が、竜に乗って迎えに来たってわけ。わかった?」
「わかりまひた!ひゃからちゅねらにゃいでおねーひゃま!」
「ねえ、この人が貴女のお姉さんなの?」
二人の様子にあっけにとられながらも、キュルケが口を開く。
「病気にはとても見えないんだけど…ひょっとして小さいのを治すの?
 ああ、それは貴女も一緒か、さすが姉妹ね」
そう言って、ルイズがエレオノール姉さまと呼ぶ女性の胸を指差す。
なるほど、見ればその胸は遠慮しがちというか、自己主張が薄いと言うか、ルイズ
と同じタイプのスタンドというか、ぶっちゃけ小さかった。というか無かった。
「遺伝」
タバサのとって置きの駄目押しの言葉で、周囲の空気が完全に凍りついた。
「あ、あんたらね!?」
ルイズが怒りの声を上げようとしたその瞬間、姉の声がルイズの耳に届く。
「ルイズ…」
「ひゃ、ひゃい!」
酷く冷えた自分の姉の声に脅えるルイズ。
「ねえ、ルイズ…貴女のお友達は随分と面白い人たちみたいね?
 よければお名前を教えてくださらない?」
そう言って視線をキュルケたちに向ける。そのあまりの迫力に、近くに立っていた
村人が腰を抜かすが、キュルケは涼しい顔でその視線を受け止める。
ちなみにタバサは、ハシバミ草のサラダのおかわりを要求した。
にやりとキュルケは笑い、馬鹿丁寧なしぐさで礼をする。
「これはこれはご丁寧に。名乗るほどではありませんが、キュルケ・アウグスタ・
 フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します」
ツェルプストーという単語、ヴァリエール家の宿敵を意味する名に、エレオノールの
迫力に圧されていた村人達がざわめく。
「つぇるぷすと~?おちび!どういうこと!?
 何であなたがツェルプストーの人間と友達なの!?」
「と、友達なんかじゃ」
「だまらっしゃい!」
「ひゃん!ひゃめ、いでゃいいでゃい!」


「ふう。まったくこの子は、昔っから心配ばかりかけて」
「うぅ…まだひりひりする…」
思いっきりつねられた頬をさするルイズを横目に、エレオノールは改めてキュルケ
達に向き直る。
「それで…カトレアを治療するメイジはどっちなの?そっちの小さい子?」
タバサが首を振る。
「じゃあ、やっぱりツェルプストーの方なのね…じゃなけりゃルイズだって、
 ツェルプストーをヴァリエール家に招くなんて」
「あら、私でもないわよ」
「じゃあ誰よ?」
タバサとキュルケが育郎を指差す。
「………ねえルイズ?」
「な、なんですかお姉さま?」
「彼、マントもつけてなければ、杖も持ってないようだけど…」
「そ、そうですね」
「私にはどうしてもメイジに見えないのだけれども…気のせいなのかしら?」
「いえ、その…気のせいじゃないでいだだだだだだだ!!!」
再び頬をつねりながら、エレオノールが怒鳴る。
「おちび、あなた何考えてるの!カトレアは水のスクエアに診て貰っても駄目
 だったのよ?平民の医者なんかが治せるわけないでしょ!!本当にこの子は…」
「あの、お姉さんそれぐらいで…ルイズもずいぶん痛がってますし、そんなに
 つねったら跡が残るかもしれないじゃないですか?」
「貴女は黙ってなさい!まったく平民が気軽に貴族に話しかけるなんて…
 でも一理あるわね…跡が残らないように、反対側の頬をつねる事にするわ」
「いや、そうじゃなくて…」
止めようとする育郎を無視して、ルイズに折檻を続ける。
「残念ながらイクローは唯の平民じゃないわよ」
頬をつねりながら、キュルケを見るエレオノール。
「どういう事かしら、ツェルプストー?」
敵意の篭った目でキュルケを見つめるエレオノールの傍で、ルイズが身体が固まる。
「彼はね、東方の亜じ」
「ちょおおおおっとキュルケ!貴女に話があるんだけれども!」

「あ、こらルイズ!」
エレオノールから強引に逃れ、後が恐いが、とにかくキュルケの首根っこを捕まえ、
部屋の隅に連れてゆく。
「ちょっと何するのよルイズ!」
当然の如く抗議の声をあげるキュルケに、ルイズが回りに聞かれないように、
小さな声で伝える。
「イクローが、その…亜人だって事は内緒にしといて!?」
「なんでよ?」
「エレオノールお姉さまはアカデミーの研究員なの!」
「ああ…そういう事」
アカデミーと言えば、人体実験も辞さないと噂される研究機関である。確かにそんな
人間が、珍しい東方の亜人のことを知れば、当のイクローは唯ではすまないだろう。
「何?東方の医者とでもいうの?」
「そそそそうなんです、お姉さま!ね、キュルケ?」
「まあ、そういう事」
「東方…ねぇ」
育郎に疑わしげな目を向けるエレオノール。
確かに東方といえば、エルフが治める地である。その地の技術は、あらゆる点で
ハルケギニアのどの国よりも優れていると言われている。
「その話、本当なの?」
「え?あ、はい、そうです」
しかし、それ故に東方産と偽って詐欺等を行う輩が存在するのである。
実際エレオノール自身、『東方から来た!』等と言う謳い文句の豊胸グッズに
7回ほど騙されている。ちなみにルイズは、まだ2回騙されただけである。
「あら、イクローが嘘をついてるとでも?
 ご心配なく、彼はこの子の使い魔なんですもの」
疑わしげな視線を育郎に向けるエレオノールに、キュルケが答える。
「はぁ?平民が使い魔ぁ?」
またつねられてはたまらないと、ルイズが続ける。
「そうなのお姉さま!ほら、イクロー。使い魔のルーンを見せて」
言われたとおりに左手のルーンを見せると、やっとエレオノールも納得した。
「まったく…使い魔が平民だなんて…」
溜息をつきながらそう呟く姉に、ほっと胸をなでおろすルイズ。

「そういえば、お姉さまはどうして休みを?やっぱりちい姉さまが心配で?」
蒸し返されても困るので、話題を変えようと話を振る。
「まあ、それもあるんだけど…ちょっとね」
何処か嬉しそうなエレオノール。
「そういえば昨日、どこぞの貴族様がエレオノール様と一緒に、
 お屋敷に向かったって聞いたぞ」
「そういえば少し前に、エレオノール様が婚約なされたって話があったよな?」
「おお、という事は公爵様に挨拶に来られたにちげえねえ」
村人達の言葉に、やあねぇだの、もうそんな話が広まってるの、等と言いながらも
まんざらでもなさそうな様子のエレオノール。
「ご婚約おめでとうございます、エレオノール姉さま」
「ありがとう、ルイズ」
素直に礼を言う姉に驚愕しながらも、これで今日はもうつねられる事はないと
安堵するルイズ。
「それで、その婚約者はどのような方ですの?」
問いかけるキュルケの顔は、酷く楽しそうな顔だったのだが、幸せを味わっている
エレオノールはそのことに気付かない。
「バーガンディ伯爵さまは…」
嬉しそうに婚約者の話をしだすエレオノール。
「ねえ、キュルケ…あんたひょっとして」
「なーに、ルイズ?」
「変なこと考えてないでしょうね?」
「別に」
「…ならいいけど」
「いい男だったら手を出そうかなって考えてるだけよ。
 ヴァリエールから恋人を奪うのは、ツェルプストーの伝統だし」
「あんたねえ、絶対やめてよね!」


そのころ話題のバーガンディ伯爵は。
「申し訳ありません…この婚約はなかった事に!」
婚約解消のため、ヴァリエール公爵に頭を下げていた。
「エレオノールに何か至らぬところでもあったかな?」
白くなりはじめた口ひげを揺らし、渋みがかかったバリトンで伯爵に問いかける。
「いえ…そんな…」
モノクルをはめた目の、鋭い眼光に脅えながら答える。
「エレオノールは素晴らしい女性です!気高く、そして美しい。しかし…」
一旦言葉を区切って、伯爵が言葉を続ける。
「もう………限界なのです!」
苦渋の顔でそう答えるバーガンディ伯爵をから目を離し、隣に立つ、
長年ラ・ヴァリール家の執事を務めてきたジェロームに視線を移す。
「………」
無言で首を振るジェロームを見てから、公爵はおもむろに立ち上がり、
頭を下げたままの伯爵に歩み寄った。
「バーガンディ伯爵…」
公爵の言葉に、ビクリと身体を震わせる伯爵。
今の彼の行動は、天下のラ・ヴァリエール公爵家の名誉に泥を塗る行為なのだ。
「…いままで良く頑張ってくれた!」
「へ?」
しかし、怒りの言葉を待ち受けるバーガンディ伯爵の耳に届いたのは、
意外にもねぎらいの言葉だった。

「まったくエレオノールのあの性格はいったい誰に似たのやら…なあ、ジェローム」
「それは私の口からはとても…」
「いえ、あの…」
「うむ、それもそうだな。わしとて気軽に言えん!」
「ご理解していただきありがたく存じます」
「その、ですから」
「おお、これはすまなかった伯爵。ジェローム、竜の用意を。
 エレオノール達が帰ってくる前に出発できるよう急がせろ」
「はい、承知いたしました」
そう言って、部屋から出て行くジェロームを見送ってから、バーガンディ伯爵が
恐る恐る公爵に問いかける
「……その、良いのですか?」
「しかたあるまい…無理をして一緒になってもな…無理をしなくとも、たまに
 きつい時があるのだから…いや、ごくまれにだ。あれも丸くなったし。
 そもそもわしはそういう事にならないよう、いつも気をつけておるしな!
 いや、普段は素晴らしいのだよ。勘違いをしてはいかんぞ」
「は、はぁ…」
いまいちよくわからないが、とにかく助かった事に安堵する伯爵であった。


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