ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アバッキオ-4

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ワルドの人をも殺しかねない、刺すような視線の先に佇むアバッキオ。
だがそんな視線もアバッキオは意に介さない。
何も言わずに地面にへたり込んでいたルイズを引っ張りあげて、しゃんと立たせる。
そんな態度がますますワルドの癇に障った。
「私がッ、何故ッ、オマエはここにいるのかと聞いているのだぞッ。使い魔ァッッ!」

ようやくアバッキオはワルドを見据えて、本当に下らなそうに呟く。
「マヌケかテメー。いや…聞くまでもねぇことだな。テメーはマヌケだ」
「同感だな」
ウェールズも躊躇いなく、それに同意した。

「グッ!………っ!?」
さらに怒りを増したワルドだが、その勘は怒りで鈍ったわけではない。
背後から聞こえる風切り音。
危険を感じて、咄嗟に飛びのき着地。

ワルドが寸前に自分のいた場所に目をやると、そこには見たこともない人型があった。
顔に表情はなく、模型のような人形のような。
人形の向こう側は透けて見え、まるで幽霊のよう存在。

その人形がアバッキオの元に戻って、傍に立つように佇む。
「ムーディー…ブルース……」
呆然としたようにルイズが人形の名を呼んだ。

「もしかして、最初からウェールズ様を再生してたの?」
「その通りだミス・ヴァリエール」
ルイズはアバッキオに尋ねたが、アバッキオが答える前にウェールズが言った。

「彼にワルド子爵が敵だというのを教えられたんだ。
普通なら中々信じられるものではないのだが、彼の能力を見せられてはね」
アバッキオを見ながらウェールズは説明する。

ルイズはむくれた様子で聞く。
「アバッキオ、いつからワルドが敵だって気付いてたのよ」
「俺達がフネに乗り込む少し前辺りでな」

あんぐり口を開けて呆然とするルイズだが、ハッと気を取り直して叫ぶ。
「それって、もう何日も前じゃないっ!何でわたしに教えないのよ!!」
「ずっとワルドがオメーの傍にいたこと忘れてんのか?
んなことすれば一発でバレるぜ。オメーは顔に出やすいからな。」

更に怒りの炎を上げるルイズを尻目に、また言葉を続けるアバッキオ。
「まぁ、ほぼワルドが敵だろうと思ったのは宿屋に泊まった夜。
あの晩にタバサにシルフィードを借りて賊に吐かせた、襲撃の依頼された街まで行ってリプレイして調査した時なんだがよー」
「調べたけど分からなかったってっ、アンタ言ったじゃないっ!」
「だから、ほぼって言ってんだろーがッ。確信はなかったんだッ」

さらにむくれるルイズをよそに、ワルドは今の展開に全くついていけていない。
「わたしが敵だと分かっていながら、なぜ放置したッ!」
「だからテメーはマヌケなんだぜ。マヌケな三下が俺達の邪魔できるとか本気で思ってたのか?」
これは嘘。ワルドがルイズに何をするか分からないため、アバッキオは放置の選択肢を取り、
ルイズの身の安全を最優先に考えた安全策を選んだのだ。

ヤレヤレと溜息をつき、小馬鹿にしたようなアバッキオの言い方。ワルドの屈辱の沸点はすでに限界を突破していた。
「死ねえええぇぇッ!ガンダールヴッッ!!」
最早ルイズのことはお構い無しにライトニング・クラウドをワルドが解き放つッ!

「ウェールズ、ルイズを頼むぜッ!」
「任せたまえッ!」
アバッキオはデルフリンガーを引き抜き、強化された身体能力で雷を回避。
ウェールズはルイズを抱えて、風魔法で防御しながら跳躍する。

「ガンダールヴッ、キサマには容赦せんッ!光栄に思え、わたしの全力で殺してやるッ!!」
ワルドが呪文を詠唱し、風がワルドの周りを覆ってゆく。
そして風が形を成し、その姿が4人ワルドへと生まれ変わった。

「成る程。それがウェールズに聞いた『偏在』ってやつか」
合計5人のワルドに囲まれながらも、アバッキオは不敵さを崩さない。
「ほう。ならばその力はすでに分かっているだろう。
わたしと実力の全く同じ分身を生み出す風の偏在。キサマはもうッ、オシマイだァァーーーッ!」

奔る風の槌、刃、槍、塊、旋。全てがアバッキオに向けられ、全てが死への道筋だ。
だがアバッキオは動じない。
俊敏な動きで全ての魔法を避けきり、さらに一人のワルドと切り結ぶ。

ワルドもさるもの、即座にエア・ニードルを杖に展開してデルフリンガーを受け止めた。
「マヌケはキサマだなッ!わたし一人と切り結んでいて他のわたしの攻撃を防げるのかッ!?」
「っ、ふははっ。やっぱよ…おめでてえ野郎だぜ、お前はよぉ。
俺のムーディー・ブルースは、スデに『記録』のリプレイを開始してるぜ……ッ!」

ドルンッ!バルルンッ!ドドルッ!ドルルッ!ドルンッ!

「何…?何だ、一体この音は……」
全てのワルドが音に気が付く。その音はワルドには今まで聞いたこともないような音である。
一体発生源はどこだと見回す、4人のワルド。
しかしもう遅い。再生はスデに始まっているッ!

『くらえッ、『エアロスミスーーーーーッ』!!』
突然の聞きなれない、この場にはいない人間の声。
瞬間一人のワルドの体中から血が噴き出す。
「あ?あ、あ、あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」

血を噴出しながらワルドが一人存在を消した。
どうやら死体が残らないことからして偏在のワルドだったようである。
その偏在を消したモノは宙をエンジンを掻き鳴らしてホバリングしている。

アバッキオが切り結ぶワルドから離れ、その後に付いてくるようにソイツが飛ぶ。
「オメーみてぇなのに使うのは勿体ねえが、名前ぐらいは教えといてやるよ。
コイツはナランチャの『エアロスミス』。その過去の記録だッ!」

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エアロスミスのコックピット部分にムーディー・ブルースのタイマーが刻まれている。
小刻みに変化するタイマーの数字。
これはアバッキオが死後のナランチャから受け取ったエアロスミスがとった行動の記録。
言わば、エアロスミスの過去の録画行動だ。
それらはすべてムーディー・ブルースに蓄積され、アバッキオが望めば即座に最適な再生を可能とする。

残るワルドは本体込みで4人。
その全てのワルドがエアロスミスを凝視している。
「使い魔、よくもやってくれたな。体をバラバラに引き裂いてくれるッ!」

ワルドらがアバッキオを魔法で攻撃。
アバッキオも負けじとエアロスミスを再生し機銃で反撃する。
しかしワルドの方が数的優位にある状況に変わりはない。
アバッキオがガンダールヴのルーンを使ったとしてもその優位は覆せない。
一撃でも魔法を大きく喰らったらお終いだ。

「ムーディー・ブルースッ!」
アバッキオの声と共にエアロスミスが再生され爆弾を投下。
爆弾はワルド二人に命中するが、その爆発は簡単に魔法で防御されてしまった。

「この程度なのかッ?ヌルイぞ使い魔ァァッ!」
やすやすと爆弾を防いだワルドはアバッキオを挑発する。
だがこれはアバッキオの計算の内だ。
所詮記録を防いだとしても、それは調子に乗るようなことでなないのだから。

「ムーディー・ブルースッ、最速で巻き戻しサーチだッ!」
こちらが本命。ムーディー・ブルースは過去の記録をビデオ映像のように再生する能力。
つまりビデオを再生するように、早送り・巻き戻しサーチが可能ッ!
先ほどの爆弾投下とて録画記録の一部。
故に録画記録のエアロスミスの爆弾は、エアロスミスの飛行速度と、
ムーディー・ブルースの高速巻き戻しサーチの速度を加えて、超速再投下されるッ!

エアロスミスは先ほどの飛行軌道を巻き戻りながら、爆発する前の爆弾が出現。再び爆発ッ!
「ボハァァッ!!」「オヴアアァッ!!」
爆発は先ほど爆弾を防いだ二人のワルドに見事命中。
しかし二人は血反吐を吐きながら虚空へと消える。またしても偏在だ。

爆弾二発の連続投下で床は砕け、聖堂が埃に包まれる。
「くそッ!まさか、こんな、わたしが平民の使い魔風情にここまで…ッ」
ワルドにとっては耐え難い屈辱であったが、認めざるを得ない。
あの平民はワルドの常識を遥かに超えている。

空飛ぶ羽を持ったモノに偏在は3体殺られた。
残りは一体。そして自分一人。しかも生き残れたのは運がよかったからに過ぎない。
次は何処から来るのか。ワルドは埃から視界を晴らすためにつむじ風を起こす。

いた。宙を飛ぶ鉄の鳥。あの鉄鳥の銃らしきものと爆弾は破壊力も大きい。
それに加えかなりスピードがある飛行が可能で小回りも利く。
大きな脅威だ。禍根はここで断ち切る。使い魔はここで始末するッ!

ワルドとアバッキオの形勢はほぼ互角。
ここからはさらに激しい戦闘となることは間違いない。
精神力の出し惜しみはしない。
ワルドの一人が小技で牽制し、もう一人でライトニング・クラウドを放つ。

回避が困難な、文字通り光の速さでアバッキオを襲う稲光。
スクウェア級の魔力もあり、その攻撃力は並どころではない。
人を灰燼となすほどの魔の光だ。

アバッキオは喰らえば死が待つ雷を何とか先読みして必死に転がって避け、即座にエアロスミスを再生。
機銃をメチャクチャに乱射して、防御に手を回させ追撃を食い止める。
だがそれでも一人のワルドが、もう一人も防御すればそちらは攻撃が可能。
よってアバッキオは即断。一気にワルドとの間合いを詰めるためトップスピードで駆けるッ!

近距離からガンダールヴのルーンで強化された腕力で、上段からデルフリンガーを振り下ろした。
しかし今のワルドは油断していない。
すでに攻撃可能なワルドがエア・ニードルを詠唱しデルフリンガーを受け止めたッ! 

「どうした、ガンダールヴ。わたしを斬るんじゃあなかったのかッ!」
デルフリンガーを恐るべき力で弾き返し、さらに追撃。
エア・ニードルを目にも止まらぬスピードで繰り出し、アバッキオに襲い掛かる。

「うおおおおおぉぉぉッ!」
アバッキオがデルフリンガーで必死に捌くも、ワルドの杖が容赦なく体を傷だらけにしてゆく。
剣の使い手ではないアバッキオには、ワルドの突きを捌ききることが出来ない。

それでもガンダールヴの馬鹿力で、ワルドの杖をおもいっきりブッ叩き何とかワルドから離れる。
しかしその瞬間、もう一人のワルドがライトニング・クラウドを詠唱。
アバッキオの体勢は崩れている。雷を避けることは出来ない。

どうする?

アバッキオの考えは一瞬だった。その意思を読み取った、左手のデルフリンガーが悲鳴を上げる。
しかし構わずアバッキオはデルフリンガーを雷めがけて、ブン投げたッ!
「ギャーーーーーーーーーーーーーースッ!」
雷をその身で受け止めたデルフリンガーが、断末魔の如き叫びを上げて逝った。

宙で弾けた雷は光を拡散させ、ワルド達の瞳を眩ませた。
これが勇気だ。知恵と機転の中に勝機はあるッ!
デルフリンガーが手からなくなりルーンの効果が消え、身体能力とスタンドパワーの強化がなくなった。
ならばとアバッキオは、すかさず懐からナイフを取り出して左手に構える。
「そう言えばよお、ナランチャも何かありゃあこうしてナイフ振り回してたモンだったけなあッ!」

宙を飛ぶ録画記録のエアロスミスが、アバッキオの元に戻り消え失せる。
そしてアバッキオが次にすべきことは唯一つ。
唯真っ直ぐに、腕を、拳を突き出すのみッ!

「『うおりゃああああああっ!』」

声と声、過去と現在が、今重なる。

アバッキオの腕を滑走路とし、打ち出された銃弾のように離陸するエアロスミス。
そして今度はエアロスミスが銃弾を打ち出す番だ。
機銃から吐き出される銃弾は、腕の一直線上にいるワルドを正確にブチ抜くッ!

「うげっ……」
半ば呆然としたような顔で、銃弾にブチ抜かれたワルド。
その勢いで後方に吹き飛ぶように倒れながら、その姿を大気へと拡散してゆく。
これも偏在。ここまででワルド本体を倒せていた確立、80%

「けっ。俺って結構博打の運がなかったらしいなぁ。……ま、それでも全然問題はねぇンだけどよ」
全く普段どおりの表情のアバッキオ。
吹き飛び拡散してゆくワルドの偏在。そして再生中のエアロスミスは、その偏在の真正面で『一時停止』している。
まるで誰かから隠れるように、そこから1ミリたりとも微動だにしない。

閃光で目を焼かれたワルド本体はようやく目が見えるようになり、目の前の光景を目撃することが出来た。
それは自分に向かって吹き飛んでくる、穴だらけにされた血まみれの偏在。
偏在は姿を大気へと消えてゆき消滅、そして消えた先にソレはいた。

アバッキオは偏在が消滅したと同時で、即座に再生。
エアロスミスはその身を弾丸と化してワルド目掛けておもいっきり突っ込むッ!
「ぐぇっ!!」
地面から体がフワリと浮き上がり、宙を舞うワルド。

『オレたちはよォ………このヴェネツィアを………何事もなく…みんなで脱出するぜ。それじゃあな………』

ワルドを持ち上げるエアロスミスが言葉を紡ぐ。
それは過去の言葉。過去にあった希望の言葉ッ!

現在の希望は、今ここにあるッ!

『ボラボラボラボラボラボラボラボラ!!』

打ち出される銃弾。ワルドを蜂の巣としてゆくエアロスミス。
過去と同じだ。過去のナランチャはトリッシュに自分と同じ境遇を見出しボスに反逆した。
その怒りが今まさにルイズを狙うワルドに突きつけられている。
眠れる奴隷は今もなお意味のあることを切り開いているのだッ!

『ボラーレ・ヴィーア』

蜂の巣にされ、血しぶきを撒き散らしながらワルドが飛んで行く。
「ぶぎイイイああっ」
ワルドの顔は、何故自分が負けたのか信じられないといった表情をしている。

「こんな…わた、しが。わたしは世界を…手に入れるハズなのに……こんな、ことはありえない………」
もう現実さえも信じられないワルドが切れ切れに言葉を浮かべる。そして。
グシャリ、と潰れるような音がしてワルドは地へと落ちた。

アバッキオは雷向かってブン投げられ、地に刺さったデルフリンガーが発する文句を聞き流しながら引き抜く。
そして宙を舞う録画記録のエアロスミスがアバッキオの元に帰ってきた。
そのエアロスミスをナランチャがしていたように、腕を滑走路として引っ込ませる。
全てが終わり、アバッキオはルイズの元に帰ろうとするが、思い出したように呟いた。

「おっと悪い。脱出するのはヴェネツィアじゃなくて、アルビオンだったっけな」


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