ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-32

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匿名ユーザー

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緊張した面持ちのペルスランが、目の前の扉をノックする。
「お嬢様、奥様のお食事をお持ちいたしました」
「入ってきて」
タバサの声に従い、部屋に入ったペルスランはタバサの母の姿に目を見開く。
その顔が喜びにほころびそうになった時、しかしその腕に彼女の狂気の証たる、
人形が抱かれている事に気付いた。
「……そうでしたか」
「すいません…」
「い、いえ、そんなお顔を上げてください」
謝る育郎に驚きながらも、すぐにペルスランは自分の頭を下げる。
「遠い場所からこられた方を、しかも奥様のお身体は良くなられたというのに、
 お礼を申し上げる事も無く、失礼な態度をとってしまった私が悪いのです!」
「そんな、僕の力が足りないばかりに…」
「いえいえ、私がいたらぬばかりに…」
二人が五分ほどそのようなやり取りを繰り返すのを眺めた後、タバサは口を開いた。
「母さまの料理が冷める」
「おお、これは申しわけありませんお嬢様!」
あわてて食事をテーブルに並べるペルスラン。
「どうぞ、奥様…」
タバサの母に礼をした後、2人に向き直る。
「では、お嬢様たちもどうぞこちらへ、お友達も待っておられます」

夕食を終えてすぐに、育郎達はそれぞれあてがわられた部屋へと向かった。
キュルケはタバサと同じ部屋に、育郎は使い魔という事でルイズと同じ部屋に。
その夜は、それから誰も部屋を出ようとはしなかった。


気疲れしたのか、タバサは部屋に入ってすぐ、ベッドに入って寝てしまった。
キュルケは黙ってそのあどけない寝顔を眺めている。
とてもこの少女が、過酷な運命を今まで一人で戦い続けてきたとは思えない。
「水臭いんだから…一言言ってくれれば手伝うのに…」
そうは言ってみるが、この少女は進んで自分を巻き込む事を良しとしないだろう。
「母さま」
不意にタバサが寝言をつぶやく。
「母さま、それを口に入れちゃ駄目。母さま」
苦しそうに何度も母の名を呼ぶタバサを見て、キュルケはベッドに入り込み、
タバサをしっかりと抱きしめる。するとキュルケの豊満な身体に母を感じたのか、
その寝顔が安らかなものに戻った。
雪風と呼ばれる彼女は、その無表情から心まで凍てついている等と言われている。
無論それは違う。親友の自分は彼女の心の奥底に、確かな熱を感じていた。
そして今日、その考えが間違っていない事に気付いた。彼女の雪風は、その熱を
わざと隠す為にタバサ自身が作り上げた物だと。

それにたぶん…

タバサはその雪風を払ってくれる人間を、心の底では求めているのだ。
だからこそ、正反対の自分と、こうして友情を育むことが出来たのだ。
「でもね、シャルロット…」
キュルケは優しく、眠るタバサに言い聞かせる。
「貴方の『雪風』を溶かすのはアタシの『微熱』だけじゃないわよ…」
先程の、彼女の母の治療が終わった後、食堂に入ってきたタバサの様子を思い出す。
その時のタバサは、親友の自分にしかわからないだろうが、とても穏やかな顔を
していたのだ。
「イクローでしょ?本当に変わってるわよね、彼………
 貴方との事、勘違いだったと思ったけれど、本当は勘違いじゃないのかもね?」
そう言ってタバサの頭をなでる。
「そういえば…ルイズの様子も変だったけれど、どうしたのかしら?」


部屋に入ってしばらくの間、ルイズも育郎も一言も言葉を発しなかった。
「寝るわ」
ようやくルイズがそれだけ言って、ベッドにはいる。
育郎はソファに座りながらそのまましばらく考え込んだ後、自分もベッドに入ろうと
立ち上がった。
「ねえ、イクロー…」
寝ていると思っていたルイズが、ベッドに入ったまま声をかける。とはいえ、
顔は育郎の方とは反対側に向けているが。
「なんだい?」
「タバサとあの子のお母さまが、どうしてああなったか聞いた?」
「いや、タバサのお母さんが、毒を飲まされたらしいって事ぐらいしか」
「そう………あのね」
ルイズはペルスランから聞いた、タバサ達がこの国の王位継承争いに巻き込まれた
という事を話した。
「そうだったのか…」
天上を仰ぎ見ながら育郎はつぶやく。
「そう、優秀な弟と無能と呼ばれる兄…
 逆だったら、たぶんこんな事にならなかったんでしょうね」
そう言った後、再びルイズは口をつぐんだ。
育郎はその時やっと、ルイズの様子がおかしい事に気付く。
「逆だったら……きっと私も」
「ルイズ?」
「今のガリアの王様はね、魔法が使えないって噂されてるの。
 だから無能王なんてよばれてる………私とおんなじ。
 私にもお姉さまがいるの。二人いて、どっちも優秀な魔法使い…私とは大違い。
 私はお姉さま達を尊敬してるわ。だってお姉さまなんだもの。
 私より出来て当たり前って……でももし妹がいたら?
 妹に魔法が使えないって馬鹿にされたら?
 それに、お母様やお父様は、魔法を使えない私を見向きもしなくなるかも…
 そうしたら私も、ガリア王みたいに…」

「ルイズ、その王様も本当はそんな事したくなかったかもしれないじゃないか?
 周りの人間に王様にされて、弟をかってに殺されたのかもしれない…
 それに、君はそんな事」
ルイズは震える声で育郎の声をさえぎる。
「だって…だって私嫌な子だもん!」
「ルイズ…」
「私ね、アンタが始めて変身した時、びっくりしたけど嬉しかったの。
 私が呼び出したのは平民じゃなかったんだって。
 ちゃんとした魔法が使えたんだって」
「あんな姿を見れば、そう思うのもしかたないさ」
ルイズは首をふる。
「違うのよ。その後、アンタが本当は人間だって知って…」
ためらいながらルイズが口を開く。
「私ね、ガッカリしたの………それだけじゃないわ。
 もうあんたは人間って言えないんじゃないか?って。
 だから私は平民を呼び出したわけじゃないって、そんな事も考えた。
 自分でも嫌になって…貴族の食事をあげたりして、ごまかそうとして…」
育郎がルイズの顔を覗き込むと、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「でも、今日思い知らされたわ。
 やっぱり魔法も使えない貴族なんて駄目なんだって。
 王様だってそうなのよ、私なんて…」
そう言って、ルイズは頭から毛布を被った。
「ルイズ…僕にはこの世界の貴族の事はよくわからない。
 だから君が貴族に相応しいかどうかはわからない…
 けど君はいい子だ。それぐらいなら僕にもわかる」
「…どうして?」
ルイズの小さな声が育郎の耳に届く。

「ギーシュと決闘した時、君は止めても言う事を聞かなかった僕に怒ったよね」
「…それがどうしたの?」
「それでも君は、僕を心配して、デルフを持ってきてくれたじゃないか」
「だって、私の使い魔だから…」
育郎が首を振る。
「関係ない。君はそういう人間なんだ。
 それは僕に今の話をしてくれた事でもわかる。自分の嫌な部分を見つめて、
 人に話せるのは、君が立派な人間を目指しているからだろう?
 その『意思』を忘れなければ、きっとたどり着ける…
 少なくとも、一歩一歩近づくことはできる…違うかい?」
育郎の方を向き、毛布から少し顔を出すルイズ。
「でも、私は魔法が使えない…」
「ルイズ、君が目指す貴族は、魔法が使えればそれでいいのかい?
 君のお姉さん達を、君は魔法が使えるから尊敬しているのかい?」
「違う…皆に尊敬される、立派な貴族だから」
育郎が微笑む。
「ほら、それを忘れなければ、きっと大丈夫」
しばらく育郎を見て、ルイズはゆっくりと口を開いた。
「…本当にそう思う?」
「ああ。君は大好きなお姉さん達みたいになりたいんだろう?」
「うん………あ、でも…エレオノールお姉さまはちょっと嫌い…
 だって意地悪なんだもん。私のことちびルイズなんて呼ぶのよ?
 おちびおちびー…ってなに笑ってるのよあんた!」
起き上がり、真っ赤な顔になって怒るルイズ。
育郎としては、想像したらずいぶんほほえましい光景だったので、思わず笑みが
浮かんでしまっただけなのだが。

「い、いや…ほら、そのお姉さんは君の事が可愛いんだよ、きっと。
 そうだ、もう一人のお姉さんはどんな人なんだい?」
「え?えっと、ちい姉…カトレアお姉さまはとっても優くて、怒られた私を励まして
 くれたり、動物と仲が良かったり。でも生まれつき身体が弱くて…」
「ひょっとして、ルイズの家に行くのは…」
「うん。タバサの話を聞いて、もしかしたらお姉さまも治せるんじゃないかなって」
「そうか…」
育郎の脳裏に、治せなかったタバサの母の姿が浮かぶ。
「あ、その…そうだ!イクローも何か話してよ!」
それを察したルイズは、なんとか話題を変えようとする。
「僕の?」
「そうよ、えっと…元の世界で一緒に逃げてた女の子の話とか!
 どんな子だったの?ひょっとしてあんたの恋人とか…」
「スミレが?まさか!あの子はタバサよりも歳は下だよ」


「セイヤァァァァァァ!!!
 はぁ…はぁ…
 おじいさん!次のマキは?」
「い、いや。十分じゃから、もうマキ割りはせんでも…すこし休んだらどうじゃ?」
「………うん、そうするわ」

「なあばあさんや、ずいぶん機嫌がわるいようじゃが…なんぞあったのかのう?」
「女の子はいろいろありますからねぇ…」

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