ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-24

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匿名ユーザー

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「さてと……これからどうするか?」
ずらりと部屋中に並べられた調度品を眺め、デルフが呟く。
狭い寮の室内を埋め尽くす高級品の数々。
だが、飾る場所を違えたそれは混沌となんら変わらない。
絵画がレンガのように並べ立てられ、入り口を塞ぐように鎧が並び、
置き場も無く足元に転がっているのは貴族でも入手困難な書物。
部屋の主は頭を抱え、張本人は頭に冠を乗せたまま丸めた赤絨毯を寝床にしてる。
正しく猫に小判、豚に真珠、犬に財宝である。

メイド達は御者達に多めにチップを渡し、一人一人故郷に送ってもらった。
“金もあるんだし、いっそ専属のメイドにしちまえば?”とデルフから言われたが、
『ブラシをお掛けいたします』
『爪のお手入れをさせてもらいます』
『はい、あーんしてください』等とたくさんのメイド達に囲まれる、
そんな煩わしい光景を思い浮かべて断った。
自分で出来る事は自分でした方が気楽なのだ。
ただ、好きな時にマッサージやブラッシングはしてもらえると嬉しいかも…と、ちょっと考えたのは内緒だ。

どちらにしてもメイドを雇う気はなかった。
自由の無い世界にいた所為だろうか、そもそも他人を束縛するのが嫌いなのだ。
せっかく自由の身になれたのだから自分の人生を歩めば良い。
自分がそうしたように出来たなら、それこそが自分にとっての最大の恩返しだ。

「どうする相棒? これだけあったら商売創められるぜ」
物思いに耽っていた自分にデルフの声が投げ掛けられる。
その声は上機嫌で、これから何をやろうかと期待に満ちていた。
「武器屋でも創めるか? ノウハウあるしな」
「…剣が武器屋やってどうするのよ?
とりあえず邪魔だから適当に処分してお金に変えるわよ」
呆れるように呟きながらルイズが立ち上がる。
彼女の座っていたベッドの上にも貴金属類が置かれている。


「第一、何でお金の使い道をアンタが決めてるのよ?」
「へ?」
「使い魔が見つけてきた物は主人の私の物でしょ?」
「っ…………!!?」
デルフの思考が止まった。
『一千万落ちてたら勿論ネコババします』と平然に言う学生のように、
桃色の髪の少女はハッキリと『自分の物』と断言した。

“良い主従関係には三つの『U』が必要だ!
一つ目は『売り上げを全て渡す』
二つ目は『上前も寄こす』
三つ目は『(そこまでされても)恨まない』
いいだろう、上に立つ者の三つの『U』だ!”
彼女の目がそう語っている。

どんな悪の組織だって金を納めれば、それなりの見返りが返ってくる。
だがルイズは違う! 
アレは自分の物だと突っぱね、己の懐に収めようとしている!

“使い魔のものは私のもの、私のものも私のもの”
そのスタンス、このデルフリンガーが名付け親になってやる!
暴君ルイズ主義という意味で“ルイズム”!!

「あ、悪魔! 鬼畜! 外道! 貧乳!!
相棒も嬢ちゃんに何か言ってやれ!」
「わふ」
「構わない……って相棒ゥゥゥゥ!?」
「ほら! ちゃんと本人もそう言ってるでしょ!」
実際、金品には興味は無い。
まあ無いと言えば嘘になるけれども彼女は決まりに従ってるだけ。
今まで使い魔が商売をしてお金を稼いだ話など聞いた事が無い。
それ故に、普通の使い魔の原則に当て嵌めて従ったのだ。


余計な一言を喋った剣に制裁を加えつつ、
ルイズはちらりと彼の方へと視線を向ける。
さすがに彼女といえど全てを奪い取るというのは心が痛む。
まあ、今危害を加えられているデルフの痛みほどではないが。

「で、でも一つぐらいなら…好きなの持っててもいいわよ。
あ、鎧とか嵩張るのはダメだからね」

自分でもちょっと甘かったかもしれないと思いつつも、
それでアイツの喜ぶ顔が見れるならと譲歩を示す。
あまり乗り気ではないのか、視線だけをこちらに向ける。
その直後、ふと何かを思い立ったように彼は立ち上がった。
まるで、使い道を思いついたかのように。


「ふむ。それでは彼が持ち出したのは研究と無関係の資料だと?」
「はい、その通りです。
未知の技術で作られた書物という意味では貴重ですが、それ以上の価値はありません」
「では、今後の解析には何の支障も無いという事じゃな?」
「それは勿論」
オールド・オスマンとコルベールが机を挟んで向かい合う。
今回、彼が勝手に資料を持ち出した件で協議していたのだが、
無関係の代物と判り、オスマンが胸を撫で下ろす。
下手に資料が外部の人間に渡れば彼を危険に晒す事になりかねない。
そして、解析が出来なくなるというもう一つの恐れもあった。

自分自身、慎重すぎると思っている。
だが歳を重ねたせいか、冒険を避け安全を重んじるようになった。
その用心深さに何度命を救われただろう。
さらに、今は自分だけではなく生徒や教師たちの命も預かっているのだ。
少しばかり神経質になるのも仕方ない。


あの使い魔は不明な点が多すぎる。
まず解析が終わった部分では戦闘能力ばかりが着目され、
他の部分…たとえば群れを形成するのか、どう繁殖するのか、何を餌にするのか等々、
あの生物の生活形態のほぼ全てが抜け落ちているのだ。
(まさかとは思うが自然には存在しない生物…造られた命とでもいうのか?)

“それは有り得ない”とオスマンが頭を振るう。
ゴーレムやガーゴイルのような偽りの命とは違う。
それは人には許されない禁断の領域だ。
たとえ世界が違うとしても、信じる物が違うとしても同じ人間だ。
そこへと平然と踏み込む筈は無い。
だが、もし狂気と正気を入れ違えたような悪魔の才知を持つ者がいたとしたら…。
彼を造り出した、その目的は決してマトモなものではない。

今は断言出来ない。
彼に自覚がなくとも、彼自身が危険でないとは言い切れない。
彼が呪わしい存在かどうかなど始祖ならぬ人の身では判らない。
その為に一歩ずつでもいい、『真実』へと近づく必要があるのだ…。


「あの、学院長?」
コルベールが声を掛ける。
それで自分の意識を呼び戻された。
知らぬ間に張り詰めた空気を醸し出していたのか、
眼前に立つコルベールの顔から止め処なく冷や汗が流れていた。
「いや、すまんのう。つい考え事をしておってな」
「はあ……」
「おお、そういえば彼の持ち出した本とはどのような物だったかのう?」
釈然としないコルベールの顔に、オスマンが話題を無理やり変える。
上に立つ者は常に自信満々でなければならない。
そうでなければ下の人間が不安になってしまう。
何時、如何なる時も平然と装ってなければいけないのだ。
「はい。女性の裸が精巧に描かれた書物で……学院長!?」
ガタンと椅子が倒れ込む音にコルベールの説明が止まる。
床に伏せたままオスマンは起きる気配を見せない。
そして両の眼から零れ落ちたものが絨毯に石床に染みを作る。
それは取り戻せぬ過去を悔やむ涙。
「そんなのがあるなら、ワシも見たかったのに……」
「はぁ…」
呆れたように呟くコルベールの声。
作り上げた威信は分も経たずに崩れ落ちていた。


「ふぅ……」
一仕事終えたルイズが肺に溜めた息を吐く。
巨大なリヤカーに積んだ荷物はその数を大分減らした。
彼が思いついたお世話になってる人達へのプレゼント。
やってる事は、まるで季節外れのサンタクロース。

まずは一番お世話になってるであろうマルトーさん。
最初は普通に受け取ったのだが絵の値段を聞かされて卒倒した。
次にシエスタの所に行ったのだがハッキリと断られてしまった。
助けられた上にそこまでされたら困ってしまうというので引き下がる。
でも、お金が必要な時が来たらいつでも換金できるように、
ようやく起き上がったマルトーさんに本人は内緒で預かってもらう事にした。
ちなみに渡した貴金属の値段を教えたら、またマルトーさん倒れました。

続いてクラスメイト達を回る事になった。
渋々、キュルケの部屋を訪れて指輪を差し出す。
最初は凄い怪訝な顔をしていたキュルケだったが理由を聞いて受け取りを拒否した。
『なんで私の物が受け取れないのよ!?』
『世話になってるのはお互い様でしょ!』
口喧嘩に発展してもどちらも譲らない。
男からの貢物を受け取るのは自分の価値の証明。
仕事を受けて貰ったなら正当な報酬。
それ以外の理由で受け取るのは彼女にとって施しなのだ。
そんな物、彼女の誇りが許さない。

そこで彼は切り口を変えた。
これは“戦友であるフレイムへの贈り物だ”と。
しかしフレイムに貴金属を渡しても嬉しくないだろう。
ならば主であるキュルケが受け取って喜んでくれるのなら、
それはフレイムにとって何よりも替え難い“最高の贈り物”になる。
彼はそう言ってキュルケを説得したのだ。
その言葉に彼女は甚く感心して受け取った。


今度はタバサ。
私は正直どうしようかと悩んだ。
勿論、タバサには返しきれないほど世話になっている。
しかしキュルケも受け取りを拒んだのだ。
見返りとかに興味なさそうなタバサが受け取ってくれるか、それが心配だった。
あまりにも心配だったんでキュルケに説得に来てもらった。
だが…それは要らない杞憂だった。

渡した本をタバサはあっさりと受け取った。
いや、それよりも前から彼女の視線は本に釘付けだった。
それを差し出された時は戸惑っていたが、受け取りに躊躇はなかった。
「……1コ貸し」
彼女の囁く言葉に困った顔を浮かべる。
そんな事言ったらこっちは何個貸しになるのか。
表情が変わらないので対応に困るが、
キュルケが言うには今まで見た事がないほど喜んでいるという。
(…そんなに読書が好きだったんだ)
しかし本当にあの本で良かったのか、
並べられたタイトルはモット伯の悪趣味が浮き出ている。
中でも『人の心を狂わす魔法薬とその対処の研究』なんて何に使っていたのやら。

ついでにギーシュは何も聞かずに二つ返事で受け取った。
家が傾いてるって話、本当だったんだ…。
後はコルベール先生に学院長、ミス・ロングビル…と様々な人達に分配されていく。


そして粗方配り終えて一休み。
リヤカーに載せられた品を再度眺める。
ふとルイズはそこに違和感を感じた。
「ねえ……今気付いたんだけど」
「おう、どうした?」
「鎧や盾はあったのに、どうして剣とか槍とかないの?」
「っ……!!」
ルイズの鋭い指摘に饒舌なデルフが言葉に詰まる。
その理由に思い当たった彼女は、ふふんと鼻を鳴らし得意になって攻め立てる。
「そうよねー、デルフは鈍らだもの。
もし他の武器に取り替えられちゃったら立場ないものね」
「ば、ば、バカ言うんじゃねえ!!
俺様がそんなみみっちい考えしてると思ってるのか!?
あそこにあったのは全部お飾りで使えねえと思ったからだよ!」
「だったら別に貰っても良かったじゃない。
どうせ換金するつもりだったんでしょ?」
「ぐっ……!」
あっさりと論破されてたじろぐデルフ。
助けを求めようにも相棒はリヤカーの中で遊んでる。
正に孤立無援。
このままじゃ『飾り物に恐れをなした鈍らデルフ』の烙印を押されかねない。
いや……逆に考えるんだ。
名刀は“使い手が切りたい時に切れ、切らない時には切れない物”だという。
そして相棒が何かを切りたい時には腕に付いた刃を使うし、逆に切りたくない時には俺を使う筈。
つまり両方合わせて名刀と言えない事もない。
切れないのはデメリットではなくてメリットなのだ、希少価値なのだ。
そう。胸だって嬢ちゃんみたいに段差がないのが好みというマニアックな奴が……。

「ふんっ!」
思わずデルフが口に出していたのか、
それともヴァリエール家には驚異的な読心術でもあるのか、
デルフが渾身の力で地面に叩き付けられて踏み躙られる。
鈍らの断末魔を聞きながらルイズが視線をリヤカーの上に移す。
そこには財宝の余り物を漁る一匹の犬。


「もう配り終わったんでしょ? なら自分の好きなの取っていいわよ」
これは最初に交わした約束だ。
残りがどうとかそういう問題じゃない。
約束したなら守らなくちゃいけない、そんな思いが彼女にはあった。
ひょいと彼が口にネックレスを咥える。
色々見てそれが一番だと思ったのか尻尾が左右に振れている。
確かにネックレスなら身に付けられる。
彼はそれを持って私の下へと近づいてきた。
てっきり首に付けて貰いたいのかと思ったけど違った。

「これを…私に?」
デルフがいなくても理解できる。
言葉にしなくても気持ちが伝わる。
それが使い魔のルーンによる物なのか判らない。
「バカね…自分の分だって言ったのに」
だからこそ彼はルイズに受け取って欲しかった。
自分の物だからこそ彼女にプレゼントしたかった。
彼女に貰った自分の首輪と同じ、確かな繋がりとして贈ったのだ。

長い桃色の髪をそっと揚げて渡された物を付ける。
ふわりと解放された髪とネックレスが光を受けて輝く。
そして、彼女は心からの笑顔でお礼を言った。

「……ありがとう」

何の世辞もなく、ただ彼はそれを美しいと思った。

「で、でもね! こんなので懐柔されるなんて思わない事!
わ、わ、私はあんたのご主人様で、あんたは絶対服従なんだからねっ!」

まあ、往々にして美しい物はすぐに散ってしまうものなのだが……。


「ふんふふふんふん~♪」

鼻歌を歌いながらモット伯はワインセラーにやってきた。
一時は破産寸前にまで追い込まれたがそこは流石に伯爵。
屋敷等を手放す事になったが、小さな別荘で気ままな日々を過ごしていた。
思えば無駄な贅沢をしていた。
あんな広い邸宅や多くの使用人など必要なかった。
自分で出来る事を自分でするうちに、むしろ気楽な気分を満喫できるまでになっていた。
まるで開放的な気分だ。
財産も無くなった訳じゃない。
あの本に代わっただけで処分すればまたお金も戻ってくる。
それまで今はたっぷりとあの本を読んでおこう。
風呂上りに読書しながらのワイン、これが彼の最大の楽しみとなっている。

「戦うメイジどこまでも~、信じた道を走り続けろ~♪」
幾つものワインセラーに並べられたワインの銘柄を吟味していく。
ここにあるのはどれも自信を持っているコレクション。
これだけは何とか手放さずに済んだのだ。
……もっとも一番値打ちのある物はあの犬に持っていかれてしまったのだが。

「まだ封も開けてなかったのにな…」
86年物のワイン、あれほどの品はそう簡単には手に入らない。
しかも一年置きに並べておいたのにその部分は空白になってしまったのだ。
82、83、84、85、86、87、88…と、指差し確認で年毎のワインを数える。


「あれ?」
再度ワインのボトルを数える。
だが結果は変わらない。
空白であるべき場所にはきっかりとボトルが納まっている。
「慌ててたからな、間違えたか」
まあ大儲けには違いない。
しかし、そうすると彼が持って行ったのは何だろうか?
自身のコレクションを一つ一つ確認していく。

数時間後、彼の顔は蒼白になっていた。
確認に時間が掛かったのではない。
その事実を認めるのに時間を要したのだ。

「マズイ……」
ぽつりとモット伯が呟く。
無くなっていたのがワインならば何でも良かった。
しかし自分のコレクションは全て手元に残されていた。
となると可能性は一つ。
そこにあった物は“ワインではなかった”

彼が持ち帰った一本のボトル。
それをきっかけに嵐は吹き荒れようとしていた……。

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