ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-45

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匿名ユーザー

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ギーシュ、タバサと別れ、ルイズ達は自室へと女子寮を歩いていた。
「流石に疲れた顔してるわねぇギアッチョ」
苦笑するキュルケに、 ギアッチョは淡々と返事をする。
「そう言うおめーもな ・・・ま、確かに本音を言やぁ今すぐ寝床に
ブッ倒れたい気分だが」
散々暴れたばかりか、瓦礫の山に押し潰された上に巨大な竜巻を丸ごと
一つ消し潰したのだ。その疲労たるや推して知るべしといった所である。
王宮へ向かう前、ラ・ロシェールで正式に怪我の治療はしたのだが、
それも心身の疲労を回復させることまでは出来ない。ギアッチョの
体力と精神力は今、殆ど枯渇寸前と言ってよかった。
「・・・あら?」
前方を歩いているキュルケは、ぴたりと足を止めた。
「ルイズ、あなたの部屋の前に誰かいるわよ?」
「え?」
心配げにギアッチョを見ていたルイズは、その声で前に視線を戻す。
どこかで見た男がそこに立っていた。向こうもこちらに気付いた
らしく、どたどたとこちらに向かってくる。
「おお、我らの剣!!」
平民の料理長、マルトーだった。ギアッチョを見て、彼は一瞬
救いの神を見たかのように顔を輝かせたが、あちこちに包帯が
巻かれているギアッチョの姿を見て、
「あ・・・」
辛そうに顔を曇らせて俯いた。
「・・・どうした」
「い、いや・・・いい 悪かったな、こんな時間に・・・」
「それ程のよォォーーー、理由があるんだろうが いいから言いな」
「・・・あ、ああ・・・」
促すギアッチョに応えて、マルトーは暗澹たる顔で語り出した。

「・・・シエスタが、行っちまった」
「・・・ああ?」
「買われていったのよ・・・モット伯だとかいう野郎にな
今頃は屋敷に着いてる頃だろうぜ」
ピクリと、ギアッチョは眉を上げる。マルトーは俯いたまま、
吐き捨てるように続けた。
「・・・その筋では有名な男さ 眼に留まった女をまるで花でも
摘むように買って行きやがる」
「・・・・・・」
「勿論止めに入ったぜ そしたら奴は何て言ったと思う?
『平民が許可無く貴族に口を利く法は無い』とさ 野郎は
それだけ言うと後は俺達の方なんざ一度も眼を向けやしなかった
…全く反吐が出るほどご立派な貴族様じゃねえか!ええ!?」
「――・・・ッ」
隣に貴族が二人いるにも関わらず、声を荒げて言い放つマルトーに、
ルイズ達は苦しげに眉根を寄せる。
「俺達はオールド・オスマンに助けを求めた あの人とコルベール
先生だけは、俺ら平民に理解を示してくれてるからな・・・
――だが、駄目だった 奴ぁ王宮直属の国吏で、下手なことを
すると学院全体に累が及ぶ可能性があるんだとよ 交渉するに
しても、まず下準備がいる・・・時間がかかるんだそうだ」
「・・・」
「だがそんな余裕はねえッ!」
ガンと音を立てて、マルトーは壁を叩きつけた。
「人の心なんざ壊れんのはあっという間だ・・・その下準備とやらが
終わるまで、あの純粋な娘が平気でいられる保障はねえんだよ!!」
それは、ギアッチョには殊更よく分かることだった。一度人を
殺してしまえば――それに慣れることに時間はかからない。

「俺達には、もう出来ることはねえ・・・ 俺達平民が何人
何十人、何百人集まろうと、奴ら貴族に指一本触れることは
出来やしねえんだよ 平民にとって貴族なんてのはまさに
天災なんだ 災害に人が抗って、打ち勝つことが出来るか?
出来やしねえッ・・・!!俺らちっぽけな人間如きに出来るのは、
地べたに跪いてガタガタ震えながら祈り続けることだけだ!!」
マルトーは怒りに震える拳を抑えて怒鳴る。
「なあギアッチョよ・・・俺を軽蔑するならいくらでもしてくれ
俺はこんな傷だらけの人間にみっともなく縋るしかねぇ・・・
あの貴族にも劣る最低の屑野郎かも知れん だが、それでも
助てやりてえんだ・・・!!頼むギアッチョ・・・俺の、俺達の
希望は、お前しかいねえんだよ!!」
文字通り縋るような眼差しで懇願するマルトーを、ギアッチョは
いっそ酷薄な程に冷静な相貌で見返した。
「・・・一つ聞くが 助けて欲しいと、シエスタ自身がそう
言ったのか?」
「・・・いいや・・・一言も言っちゃいねえよ あいつぁ最後まで
笑ってた 『ギアッチョさんによろしくお願いします』ってな・・・
そう言った時も、あいつは笑ってたよ」
「・・・そうか」
「だが・・・だが俺は見たッ!!厨房の裏で、あいつは声を
押し殺して泣いてたんだよッ!!ええ!?どうしてだ・・・
どうしてあいつが選ばれなきゃならねえんだよ!!貴族の妾に
なれるのは平民の幸せだ?フザけんじゃあねえッ!!」
「・・・・・・」
無表情にマルトーを眺めたまま、「氷」の名を持つ男は静かに呟いた。
「・・・それだけ聞きゃあ十分だ」

「ギ、ギアッチョ!ちょっと待ちなさい!」
静かに、だが足早に歩くギアッチョをルイズとキュルケが追いかける。
しかし、その距離は一向に縮まらない。ギアッチョの発する氷の如き
殺気が、何者をも寄せ付けない壁を形成していた。
ついにルイズ達は、追うことを諦める。二人が立ち止まった瞬間、
ギアッチョは校舎の入り口から宵闇へと姿を消した。
「・・・やれやれだわ」
「やれやれね」
二人して溜息をついてから、キュルケは横目にルイズを見る。
「・・・好き放題に言われちゃったわね」
「そうね」
ルイズはギアッチョの消えた先を見つめながら応じた。
「このまま言わせておくつもり?」
「・・・まさか」
答えてから、ルイズはキュルケを見返す。二人して困ったように
笑うと、貴族の証たるマントを翻して引き返した。


不気味に茂る深夜の森に、蹄鉄の音が響く。地を駆ける白い馬の馬身が、
そしてそれを駆る男の姿が、大きな月に照らされて青白く浮かび上がった。
それはまるで――死を従える黙示録の騎士のようだった。
「旦那、そこを左だ」
マルトーから受け取った地図を見ながら、デルフリンガーが指示を
出す。それを頼りに、ギアッチョは右へ左へ馬を進ませていた。
「しかしよ、旦那・・・」
「ああ?」
「あのオッサンは動転してて気付いてなかったみてーだけどよ、
貴族の館で暴れちまうのは流石に不味いと思うぜ 旦那は勿論、
まず間違い無くルイズに――いや、ラ・ヴァリエール家にまで責が及ぶ」
自分達を慮って呟くデルフに、ギアッチョは静かに答えた。
「その時はオレが死ぬだけだ」


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