ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-23

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
夜の世界。それは静止と静寂の世界である。
冷えて澄んだ空気に、先の見えぬ闇。
人は世界から姿を消して、残るは僅かな虫や獣のみ。

しかしそんな夜の世界に、染み込むように響く風切り音。
鳥の羽ばたき音であろうか。いや、風が伝える音は鳥ではないと言っている。
闇に紛れて宙を駆ける音の主、それは体長6メイルの風韻竜の幼生であった。
「おねーさま、そろそろ降りますわ。残念です。きゅいきゅいっ」

夜の澄み切った空気の中を飛ぶことが楽しくてしょうがないシルフィードは、あからさまに残念がって着陸の体勢に入る。
そんなシルフィードに乗るタバサは、背中の鱗をすりすりとなだめるように擦ってやった。
「また帰るときに飛べる。それと、ここからは喋っちゃダメ」

しっかりとシルフィードに言い含めておくタバサ。
人語を話す韻竜は滅んだとさえ言われる希少種だ。
それがこのお喋りな使い魔だと知れれば、面倒なことになるのは目に見えている。
「きゅきゅー。(分かってますー)」

タバサの為と納得しているが、それでも何だか渋々感ありありのシルフィード。
それでもタバサはそんなシルフィードが好ましく思う。
いい子いい子、と優しく背をたくさん撫でてあげた。

着陸地点はトリステイン王城の厩舎前。
学院に戻ったタバサは、一日前に城からの手紙を受けた。
正確にはアンリエッタからオスマン老へと送ってから、そのオスマン老経由での手紙。

その手紙にはアンリエッタからシルフィードを連れて、出来るだけ静かに城へ来てもらいたいと記されていた。
後は、来る際の日時と着陸地点の目印。
それと一番重要なこととして、体の大きなシルフィードが見つからないよう細心の注意を払ってほしいとのこと。
これはシルフィードからタバサが調べられ、アンリエッタと繋がりがあるということを悟られないようにする意味を持っているそうだ。

タバサは風を頬で受けながら、サイレントの魔法を唱える。
これでシルフィードの発する風切り音は消える。
さらにサイレントを行使しながら、杖を振り簡単な雲を作り出す魔法を唱えた。
雲はシルフィードの巨体を覆いつくし、その巨体を覆い隠す。
多少切れ切れな雲であっても夜の帳が落ちたなら、地上からその姿を捉えるのは困難だ。

すでに地上では目印の篝火を一つ用意している。
そこにめがけて、ゆっくりとシルフィードは降下。
大体の目標が分かれば、その鋭い目が最適な地点をはじき出す。
微妙に開けた場所。その周りに人影がある。

つまりそこが相手にとっても着陸してほしい場所なのだろう。
ゆっくりと宙をすべるように、降りるシルフィード。
そして音も立てずに着地。
完全な望みどおりの隠密行動をとったシルフィード。
タバサは再び、いい子いい子、と背を撫でてやった。

空からシルフィードが見た人影達がタバサを迎える。
「お呼びたてして申し訳ありません。ミス・タバサ」
「久しぶりです、タバサさん」
アンリエッタと康一、二人の主従。それと言葉は出さないが礼をとるアニエスとマザリーニの姿も見える。

タバサは特に言葉は出さず、僅かに会釈するに留まる。
「きゅいきゅいっ(おひさしぶりねっ)」
シルフィードは自分の言葉が解る康一に会えて、嬉しそうに鳴く。

しかしその声を聞いた瞬間康一の表情が僅かに、困ったような、複雑そうな顔になった。
康一のそんな表情。タバサの鋭い観察眼はそれに違和感を覚えた。
普段の康一なら、そうそうそんな顔にはならないだろう。
それが彼の良さだ。なのに、今の彼は。

「何か、あった?」
タバサは何故かそれが自然であるかのように問いかけていた。
「エッ!?」
康一がその問いに目を丸くして驚く。

他の者も皆、何かしら驚きの表情を見せていた。
「もしかして顔に出てました、僕?」
康一の問いかけに、コクンと頷いたタバサ。
「あー、そうですか。……一応お城の方で準備してるんで、そっち行きましょっか」

シルフィードは着陸地点で隠れて待機して貰うとして、タバサは城のアンリエッタの居室に招かれた。
マザリーニはちょっと取って来る物があるとかで、少し席を外している。
その間にタバサは、今回自分が呼ばれた理由を告げられることとなった。
「動物の声が解らない?」

タバサが少し驚きを目に浮かべ、疑問の声を投げかける。
「ええ。前にシルフィードさんの声が解るって分かったじゃあないですか。
それで他の動物の声が解るだろうと思って、色々と試して見たんですけど全然ダメだったんですよ」

康一の説明では、タバサが帰ってから城でルーンの能力を試していたそうだ。
しかし全く能力は使えなかった。ルーンは何も変わらず発光しない。
それで今回ルーンの調査を頼んでいたタバサを呼んで何か分かったか聞こうと思っていた訳だ。しかし。

「それでタバサさんのに色々聞こうかなと思ってました。でもまさかな、とは思ってたんですけど。
さっきシルフィードさんの声聞いたら、そっちの声まで解らなくなっちゃってて…」
ちょっぴり溜息をついて、康一が頬を掻いた。

「別に康一さんのせいではありませんわ。きっと何か理由があるのでしょう」
アンリエッタが慰めるように康一の肩を叩く。
「そうだといいんですけど、ねぇ」
もう康一はボヤくしかない。

「とりあえず、ミス・タバサ。現在のルーンの調査状況を教えていただけますか?」
アンリエッタが場の空気を換えるため話題を変えた。
タバサは居室の丸テーブルの前に立ち、懐を探る。
そしてその懐から一冊、表紙がボロボロになった書物を取り出しテーブルに置いた。

いつもの小さな声だが、よく場に通る声でタバサが語り始める。
「まず結論から言う。ルーンの紋様を調べたが、それと同じ紋様のルーンの記録は見つからなかった」
康一の右手のルーンを見ながら、結果を言い放った。

その結果にアニエスが疑問を投げかける。
「それは、今はまだ見つかっていない、かも知れないのか。
それとも、おそらく学院では見つかることはない、のか。一体どちらだろう?」
見つかっていないでも、この二つの違いはあまりに大きい。

まだ見つかっていない可能性があるなら、それはまだ問題ない。
しかし学院の資料でも、おそらく見つからないだろう、という話は別だ。
魔法学院はトリステインの国立学院。
魔法に関しては、周辺国のガリア・ゲルマニア・アルビオンに勝ると言われるトリステイン。

そのトリステインの魔法に関する最高学府に、
使い魔のルーンの記録がないとすれば一体何処にそんな記録があるのだろうか。
否、本当にそんな記録があるのかどうかさえも疑わしい

その疑問に対するタバサの回答はこうだ。
「学院の記録は殆んど調べた。この分だと見つからないと思う」
冷静で自信を持って答えたタバサの回答。
冷酷とも言えるような答えだが、それはタバサの調査が確実であるという表れでもある。

「そうですかー。まぁ、見つからないんじゃあしょうがないですね」
ちょっと残念そうな、ホッとしたような康一が呟いた。
康一としてはタバサに調べるのを任せていたのが、ちょっぴり具合が悪かったのだ。何だか複雑な気分である。

だがこれで話が終わった訳ではない。
「ただ」
そう前置きして言葉をタバサが紡ぐ。
「あなたのルーンと、よく似た紋様のルーンの記録があった」

タバサはテーブルに置かれた、持ってきた書物に目を落とす。
そしてタバサは書物に手を伸ばし、しおりの挟んであったページを開いた。
開かれた書物。康一が、アンリエッタが、アニエスがそのページを見つめる。

ページに記されたルーンの紋章。それはとても康一のルーンによく似ていた。
いや、これは似ているというレベルではない。
ほぼ完璧に同一の形状。ただし一画ほどルーンが抜けているが、それ以外は完璧に同形のルーンであった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー