ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

うしろの使い魔

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「ルイズ!何やってるのよ!!早く逃げなさい!!」
シルフィードの上からキュルケが叫ぶ。
ルイズの前では、30メイルに達するゴーレムが今まさに拳を振り下ろさんとしていた。
「いやよ!」
ルイズが叫び返した。
「魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない、敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」
それに反応するように、ゴーレムが腕を振り下ろす途中で動きを止めた。
その足元に、いつの間にかフードを被った人物――土くれのフーケ――が立っていた。
「好奇心から尋ねたいんだが」
フーケが口を開く。
「他人に背中を見られると…どうなるんだい?」
「さあ…?」
何故か、醒めた顔になったルイズがその問いに答える。
「見せた事、ありませんから」
フーケの好奇心がツンツン刺激された。
み…見てみたい……。

ゼロのルイズ。
魔法成功率がゼロのルイズ。
サモン・サーバントも失敗したルイズ。
召喚に失敗してからのルイズの落胆は酷かった。
それまで、魔法が失敗しても、同級生たちから罵倒されても、胸が小さくても、
常に皆を見返そうと努力し、何事も先陣を切って歩いていたルイズが、召喚失敗を境にコソコソと皆の後ろを歩くようになった。
教室に入るのは一番最後であり、教室では最後列に座り、時には壁際に立ち、教室を出る時も一番最後。
以前なら、学院の通路で誰かと鉢合わせした時、例え相手が上級生だとしても、
『どかしてみなさい…あたしがどくのは、道にウンコがおちている時だけよ』と決して譲らなかったルイズが、
今では相手が使用人でも、率先して壁際に退く様になっていた。
そんなルイズがフーケ討伐に志願した時は、その場に居た全員が驚くと同時に安堵した。
「ああ、この方がミス・ヴァリエールらしい」と。

残念ながら、土くれのフーケ討伐は失敗だった。
破壊の杖は戻ったが、討伐に志願したミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ及び道案内役のミス・ロングビルは帰ってこなかった。
真新しいわだちを辿って、フーケの隠れ家らしき小屋に行き当たった学園の教師達は、ゴーレムが崩れた後とおぼしき土くれと、
三人分の学院の制服、そしてミス・ロングビルの物と見られる衣服を発見した。
状況から見て、討伐に志願した生徒達は、フーケに返り討ちにされたと判断された。
同時にフーケ自身も、破壊の杖をその場に置いて逃げ出すほどの重傷を負ったのだろうと。
死体は何らかの理由によってフーケが別のものに練成したと推測された。
現場の衣服の側に落ちていた、見慣れぬ『小動物らしきミイラ』に気に留める教師は誰も居なかったのだ。

アルビオンの軍艦『イーグル号』に乗っていたウェールズ皇太子が「不審な風竜が居る」と、部下に声を掛けたのは、フーケ討伐『失敗』から二日後の事だった。
その風竜はイーグル号の下方300メイルあまりの所を、狂ったようなスピードを出しながら飛んでいた。
呼ばれた部下が欄干から身を乗り出し下を覗くと、風竜が血を噴出しながら落ちて行く所だった。
「多分、戦闘で傷ついた風竜が迷い出て来たのでしょう」
部下がそう伝えた時点で、ウェールズの様子はおかしかったという。
欄干に背を当てて座り込み、ニューカッスル城に着くまで一歩も動かなかったのだ。
秘密港についてからも、部下たちを先に下船させ、自分が最後に降りると言って聞かなかった。
その後は、自室に篭り、食事も自室で食べるようになり、誰とも会わなくなった。
心配した父王がやって来た時は、流石に顔を出したが、文字通りドアから顔を出しただけという始末だった。
それ以来、ジェームズ一世とウェールズ皇太子の仲は非常に悪くなった。
同時に、皇太子一人しか居ないはずの部屋の中から、ぶつぶつ呟く声が聞こえるようになり、兵士達の士気は非常に落ちてしまった。
「王子は戦争が怖くなり、おかしくなったのだ」と。
そのため、レコン・キスタの進行は大方の予想より早く進み、あっさりとニューカッスル城は攻め落とされた。

ウェールズ皇太子の部屋を見つけた兵士は、ウェールズの気が狂ったという情報を持っていたが、用心して仲間が集まるのを待って乗り込むことにした。
仲間が集まったところで、先頭の一人がエア・ハンマーでドアを吹き飛ばし、部屋に踏み込んだ。
そこには、杖も持たず、ガリガリにやせ細り、狂気的な眼を兵士たちに向けているウェールズが一人、ポツンと立っていた。
城全体が血生臭かったが、踏み込んだ兵士たちの鼻を別の異臭が突いた。
その場に居合わせ、幸運にもアルビオンを脱出する事の出来た兵士の話によると、ウェールズの最後の言葉は次の様だったという。

「ぼくの背中……見たいかい?フフフ…いいよ………フッ、見せて…あげるよ。ウフハ……ウヘ。フフフ………ヘ。ヘヘヘ」

ウェールズはまるでダンスのステップの様に、その場でクルリと背を向けた。
その背中が、まるで本をめくる様に引き裂かれ、血が噴出した。
「何が起きたんだ?」と最前列の一人が思ったとき、そいつの背中は既に裂き開かれていた。
そして、『背中から血が噴出す』という現象自体が、まるでドミノ倒しの様に兵士たちに伝わっていった。
その場に居た兵士たちは、全員ウェールズの方向を向いていた。
即ち、ほぼ全員が前に立っている味方の背中を視野に入れていたのだ。
噴血のドミノ倒しは城中を駆け巡り、敵味方問わず命を奪っていった。
ニューカッスル城で生き残った者は、ウェールズの部屋に踏み込んだ時『最前列に位置し』尚且つ『最初に背中を見なかった者』とだけとなった。

ニューカッスル城付近に野営していた貴族派の軍は、蜂の巣を突付いたような騒ぎとなった。
見えない何者かが、次々に味方の背中を引き裂いて行く。
必死に剣を、槍を、杖を振っても、見えない何者かを防ぐことが出来ない。
あっと言う間にあたりは血の海になった。
さらに、死んだはずの仲間の死体が何処にも見当たらない(実際は自分たちの足元に転がっていたのだが、誰も小さなミイラなどに構っていられなかった)。
「仲間を殺した『何か』は人を喰う」
しかも、大量に。非常に大量に。
それは何者にも勝る恐怖だった。
最早、自分達が勝利した等と思っている者は誰も居なかった。
最後の最後に、王党派が魔物を放ったのだ、と噂が流れた。

その後、30000人ほどの兵士が犠牲になった所で、貴族派は三つのルールに気がついた。
即ち、
1:魔物は無差別ではなく個人に取り憑く
2:取り憑かれた者は誰かに背中を見られた者は死ぬ。
3:見てしまった者の背中に魔物が移る。
だが、ルールに気づいたとて時既に遅かった。

魔物による虐殺を目の当りにた兵の殆どは、心を病んでしまった。
遠くで誰かが倒れたと思った瞬間、自分の傍らにいた者が血を噴出し倒れる。
近くで物音がしても、そちらを向いては行けない。
魔物が居る地域から無事に抜け出すためには、目を開いてはいけない。
恐怖のあまり自分の目を潰す兵士も少なくなかった。

魔物を心底恐れ、軍を脱走する者が続出して、レコン・キスタは軍としての機能を完全に失った。
さらに、貴族による『魔物狩り』が行われるようになった。
少しでも『背中を隠すように歩いた者』や、『家や自室から出て来なくなった者』は問答無用で殺されるのだ。
最初の内は、『魔物狩り』に強い反発を感じていた平民達も、魔物によってサウスゴータが死の町となったと知ってからは、逆に率先して『狩り』を行うようになった。
都市や町や村はその機能を失っていき、魔物と『魔物狩り』によって数ヶ月のうちにアルビオンの人口が半減してしまった。

当然の如く、アルビオン大陸で『謎の疫病』が猛威を振るっているという情報が周辺各国にも流れ、アルビオンへの入出国は全面禁止となった。
早い時期にアルビオンを脱出できた難民は幸運だった。
あるいは、早々に脱出した者達が、後から来る者達の退路を塞いでしまったのか。
アルビオンの魔物の脅威を難民聞いた各国の首脳達は、入出国禁止だけでは、脅威を防ぎきれないと判断し、
アルビオンからの飛来物は、例え脱出船であろうと、乗組員や乗客が何人乗って居ようと、全て撃墜し、焼却するよう命じたのだ。
こうして、神聖アルビオン共和国は建国する事無く滅びてしまった。
その後、アルビオンでは殆どの住民が原始的で排他的な生活を送っているという。

アルビオンが『浮かぶ孤島』と成ってから十余年、世界は平和だった。
皮肉にも、死の大陸となったアルビオンが空飛ぶ脅威となり、各国の結束を強めたのだ。

ラ・ヴァリエール家の中庭に、生前ルイズが『秘密の場所』と呼んでいた池がある。
その池の中心に設けられた小島には一つの墓碑が立っていた。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
 誇り高き
  ヴァリエール家の三女
   ここに眠る

そこにはそう記されていた。
次女のカトレアが病死してから、訪れる者が殆ど途絶えた墓であったが、
年に数回、元グリフォン隊の隊長が、花を手向けに訪れるという。

ゼロのルイズ。
生涯で成功した魔法は、召喚だけだったルイズ。
一つの大陸を壊滅させた使い魔を呼び出したルイズ。
その事実を知る者はたった一人、ルイズに呼び出された使い魔だけであった。
「…ねっ!」




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