ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-31

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「こりゃひょっとして…」
「何かわかるのか、デルフ!?」
タバサの母の様子に、育郎の背のデルフが何かに気付いた。
「ああ、こりゃたぶん水魔法だな…なあ、母ちゃんがこうなったのはいつからだ?」
「…5年前」
デルフが母の症状について、何か知っている事に少し驚ろきつつもタバサが答える。
「じゃ間違いねぇ。そこまで効果が長く続くのは先住魔法、それもエルフどものだ」
やはり、とタバサが頷く。
今まで腕の立つ水魔法の使い手に見せたり、水の秘薬などを母に試してきて、
全て効果がなかったのだ。エルフの先住魔法である事は予想はしていたが、
それでも断定されるのはショックだった。
エルフの先住魔法…その力の前には、貴族の操る系統魔法など、子供の遊戯の
ようなものだとさえ言われている。
「デルフ…どういう事なんだ?」
一人何も分からない育郎に、デルフが言いにくそうに告げる。
「あ~なんだ。たぶんこの娘の母ちゃん………毒盛られたんだ。
 しかもまず人間じゃどうにもならねぇ。相棒に頼むもうと思ったのも無理ねえな」


「「継承争いの犠牲者?」」
ルイズとキュルケが同時にペルスランに問い返す。
「そうでございます。今を去ること五年前……先王が崩御されました。
 先王は二人の王子を遺されました。一人は今王座についておられるご長男の
 ジョゼフ様。そしてもう一人はシャルロットお嬢様のお父上のオルレアン公。
 しかし、オルレアン公は王家の次男としてはご不幸な事に、才能と人望に溢れて
 おいででした。対してご長男のジョゼフ様は、お世辞にも王の器とは言い難い
 暗愚なおかたであったのです」
「ガリアの無能王…」
ルイズがつぶやく。
始祖ブリミルの血を受け継ぐ王家に生まれながら、まともに魔法も扱えぬガリアの
無能王。その噂は隣国のトリスティンにすら伝わっている。
「…そしてその事が、宮廷を二つにわり、あの悲劇を生んだのです」
「無能な長男を廃して、優秀な次男を王座へ…というわけ」
そう言うキュルケの国、ゲルマニアの現王も、過酷な継承者争いを勝ち抜き王と
なったのである。もっともそのような事は、この世界では珍しい話ではないが。
ペルスランが頷きつつ話を続ける。
「はい、そしてオルレアン公は狩猟会の最中、毒矢で胸を射抜かれ…この国の
 誰よりも高潔なお方が魔法ではなく、下賎な毒矢によってお命を奪われたのです。
 その無念たるや………しかし、本当の悲劇はそれからだったのです」
ペルスランは胸を詰まらせるような声で続ける。

「ジョゼフさまを王座につけた連中は、次にお嬢様に狙いをつけたのです。連中は
 お嬢様と奥様を宴を開くと宮廷に呼びだしました。しかしお嬢様の料理には毒が
 盛られていたのです。それに気付いた奥様は、お嬢様をかばってその料理を口に
 されたのです。それは心を狂わせる水魔法の毒でした。奥様はお嬢様の目の前で
 お心を病まれ……その日より快活で明るかったお嬢様は、無理もないですが、
 まるで別人のようになってしまわれました。それでもお嬢様はご自分と、そして
 奥様の身を守るため王家よりの命に、困難な、生還不能と思われた任務に志願
 するようになったのでございます。しかし王家はそうまでして忠誠を知らしめた
 お嬢様に、シュヴァリエの照合のみを与え、外国に留学させたのです。そして、
 未だに宮廷で困難な汚れ仕事が持ち上がると、お嬢様を呼び出すのです!」
ルイズの視線に気付いたキュルケが首を振る。確かにタバサは、何もいわずに
幾日か姿を消す時があったが、その理由を聞いたことはない。
「父を殺され、母を狂わされた娘が、自分の仇にまるで牛馬の如くこきつかわれる!
 私はこれほどの悲劇を知りませぬ。何処まで人は残酷になれるのでありましょう」
口惜しそうに吐き捨てるペルスランを、ルイズとキュルケは黙って見つめている。
「……失礼、年甲斐もなく興奮してしまって。
 お嬢様は、タバサと名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?
 その名はお忙しい奥様が、お嬢様が寂しくないようにと、手ずからお選びになり
 お嬢様に贈られた人形に、お嬢様自身がつけた名前にございます。そして奥様は、
 今はその人形をシャルロットお嬢様と思い込んでおられるのです…」


「それじゃあ…」
背後にタバサの祈るような視線を感じながら、育郎は姿を変え、騒がないように
魔法によって眠らされたタバサの母の前に立ち、己の鋭い爪で斬った傷から流れる
血を飲ませた。
「………!」
タバサが驚きに目を見開いた。
心を病んでから、衰弱する一方だった母の身体が、みるみるうちに健康な人間の
それに変わっていくではないか!
さすがにやつれた身体はそのままだが、それ以外は思い出の中で、自分に微笑を
向けてくれた、あのかつての優しい母の姿となっている。
「あ……ぅ…」
育郎の血の効果か、魔法によって眠らされているタバサの母が、今まさに目を
開けようとしている。
「母さま!」
思わず駆け寄り、母の手をとるタバサの心の中には、自分の魔法を打ち破った
育郎の血が、母を救ってくれるとの希望が生まれていた。
「シャル…ロット………?」
目覚めた母の言葉に、タバサの顔に笑みが、先程の寂しげな笑みとは全く違う、
安堵の笑みが浮かぶ。

「……かあ………さま?」
だが、母は娘の手を振り払い、傍においてあった人形を抱きしめた。
「おおシャルロット…ここにいたのね?私の…私の可愛い娘……」
タバサの母は、実の娘に見向きもせず、ボロボロの人形にほお擦りをする。
タバサはその光景を黙ってじっと見つめる事しかできなかった。

「………すまない」
何とか搾り出したその声に振り返った、タバサの顔を見て育郎は愕然となった。
その表情は…いや、表情はなかった。
もうその顔には何の感情も浮かんではいなかったのだ。
『雪風』
彼女の二つ名そのままに、その心が凍り付いているかのような表情だった。

違う…

育郎は自分の考えを否定した。 
凍りついたのではない、この少女は己の心を無理やり凍りつかせているのだ。
絶望に踏み潰されない為に、この小さな少女は、自分の感情を封じ込めているのだ。
そうすることでしか、タバサは前に進めなかったのだ。

「謝る必要は…」
タバサの言葉が途中で止まる。
育郎は泣いていたのだ。
流れる涙が育郎の頬をぬらしていた。
「………いいんだ」
タバサは自分の頬に、熱い物を感じる。
「あぁ…!」
それが何か理解した時、彼女にはもう、それを止めることはできなかった。

たまらず育郎に抱きつきながら、声をあげて泣くタバサの心に小さな疑問が浮かぶ。

自分は悲しみの涙を流しているのに、どうして安らぎを感じているのだろう?

だがその疑問は、あふれる感情の前にすぐに消えて行った。


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