ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-20

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匿名ユーザー

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不意に夜空を見上げる。
そこには闇夜に浮かぶ二つの月。
その淡い光がバルコニーを優しく照らし出す。

「……なあ相棒」
傍に置かれたデルフが彼に話し掛ける。
周囲には乱雑に置かれた空の皿。
食べるだけ食べて満足したのか、彼は夜風に当たっていた。
ソリにはまだ切り分けてもいない肉が丸のまま載っている。
それはここに入って来れなかったシルフィードやヴェルダンデへのお土産だ。

窓越しに見る『フリッグの舞踏会』は盛況のようだ。
といっても使い魔にはあまり関係ない話。
貴族にとって使い魔はステータスの一つに過ぎない。
舞踏会においての役割など話のネタや他の者に見せびらかす程度の物。
ハッキリ言って彼にはつまらない事この上ない。
しかし勿体無いので豪勢な食事だけは十二分に楽しんだ。

テーブルに置かれた皿を取るのはタバサに頼んだ。
無論、彼女も多くの男性から声を掛けられていたのだが、
それを無視し黙々とテーブルに並べられた料理を平らげていた。
なしのつぶてと知るや大抵は引き下がるが、しつこく食い下がる男も数人いた。
だが、全くペースを変える事なく次々と料理を完食していく彼女の姿に恐れをなして逃げ出した。
ちなみにタバサの横に積み上げられた皿は既に山と化している。


キュルケは言い寄ってくる複数の男性を相手に談笑している。
特に目当ての男性もいないのか、誰を誘うでもなく適当に暇を潰している。
それでも舞踏会が半ば彼女の独壇場となっている辺り、流石というべきか。

ギーシュも舞踏会を楽しんでいた。
何人かの女性と話したりダンスを踊ったりと満喫している。
「相手の誘いを断ったらレディに恥をかかせてしまうだろ?
僕にはそんな女性を傷付けるなんて事は出来ないよ。
ただ信じて欲しい、僕は君を心から愛している」
一部訂正。“君も”である。
壊れたテープレコーダーのように繰り返される台詞。
それでも上手くいくのはフォローが行き届いているからか。
昼間のやり取りも、こういった経験によるものからだろう。
意外にギーシュは大物なのかもしれない。


彼が思い浮かべるのは昼間の出来事。
『フリッグの舞踏会』の準備という事で退室する一同の中、
彼だけが一人残るように伝えられた。
使い魔には舞踏会の準備など要らない。
ルイズも舞踏会に間に合えば良いとの事で承諾した。

彼とオスマン、そしてコルベールの三人だけとなり、
騒がしかった部屋に静寂が戻る。
僅かに重みを帯びた空気の中、オスマンが口を開く。


「さて、もう一つ伝えねばならぬ事があるのじゃが…」
「それって相棒の前足にあるガンダールヴのルーンの事か?」
「なっ……!」
オスマンの切り出しに反応するデルフリンガー。
あまりの的確な返答にコルベールの声が詰まる。
僅かにオスマンの眉も上がったが、すぐに気を取り直す。
「やはりそうか…。変身する前に剣で戦ったという話や、
扱った事も無い筈の“光の杖”の状態を熟知していた事から、
予想はしていたのじゃが……」
「実際に目にする事になるとは思いませんでしたから」
三者三様の反応に対し、彼だけは一人取り残されていた。
わふ?わふ?とオスマンやコルベールに視線を向け、説明を求める。

「ああ。その前足に刻まれたルーンは伝説の使い魔の物でな。
その使い魔“ガンダールヴ”はあらゆる武器を使いこなしたと伝えられている。
君にも何か思い当たる節があると思うのじゃが」
言われてみると心当たりはある。
デルフに言われて剣を抜いた時も重さをほとんど感じなかった。
動きも軽くなり、剣をどう振るえば良いのか全部理解していた。
レーザーだってそれがそういう物とは知っていたが、他は何も知らなかった。
それが手を触れた瞬間、動力も原理も仕組みも判ってしまったのだ。
これだけの事が起きればオスマンの話が事実であると信じざるを得ない。


「しばらくは伏せた方が良かろう。ガンダールヴの事も君自身の事も」
彼もそれに同意し頷く。
今のままで十分に周りが騒がしいのにその上、変な力まであるとなったら、
もう木陰で居眠りも出来なくなってしまうだろう。
「引き続き、異世界の資料は調査を続けます。
もし何か判ったら、その時は君にもちゃんと知らせますよ」
コルベールが嬉しそうに話す。
彼はこことは違う世界の技術に興味があった。
それを調べる事が誰かの役に立つというなら、これほど嬉しい事は無い。
自身の研究について話す相手もろくにいないコルベールだったが、
研究を通し彼は得がたい友と出会ったのだ。

「こちらに来た原因を調べれば、もしかしたら…」
別れ際、扉を閉める直前に思いついたようにコルベールは笑顔で言った。
彼はその言葉を忘れる事が出来ない。
今も自分を思い悩ませる、その一言。

“君のいた世界に戻る事が出来るかもしれない”


「…帰りたいのか? 元いた世界ってヤツに」
月を見上げる相棒にデルフが問う。
今日まで彼は一度も考えた事も無かった。
命が助かった事に夢中で、初めて見る世界に感動して、
今生きている事実が全てだった。

世界は途轍もなく広い。
きっと、あの研究所も自分がいた世界の一部に過ぎない。
自分のいた世界には、まだ見た事もない風景が広がっている。
それは決して絶望的なものだけじゃないと思う。
月を見上げる度に不思議な感覚に襲われる。
彼自身が知らなくても遺伝子には地球の記憶が染み付いている。
それが彼の望郷の念を煽る。
ましてや自分はこの世界に現れた来訪者。
“この世界に自分の居場所は無い”
心の片隅には、そんな疑念が纏わり付いていた。


タバサが彼を見つめる。
彼の姿に重なるのはあの蒼い獣。
思い浮かべる度に、その脅威に身体が震える。

今日の戦い。
彼がいなければ“光の杖”の奪還は成らなかった。
それでも参加させたのは間違いだった。
戦わせなければ良かったと心から思う。


自身を武装化する能力、アレは異常だ。
竜だろうとサラマンダーだろうと、
自分の武器は爪や牙、吐息など持って生まれた物のみ。
だが、アレは違う。
フーケとの戦闘で目覚めた能力は全て“必要に応じて”作り出したものだ。

あらゆる状況に対応し自分を作り変える。
それは成長などではない『進化』だ。
生物が自分の種を存続させる為に行う変化。
彼はそれを単独で、しかも僅かの間に可能とする。
それが、どれほど恐ろしい事か。
そして遂に彼は自覚し、発現させる術まで学んだ。
この世界の生物全てが滅びても彼だけは生き延びるだろう。
何の誇張もなく本心からそう思う。

(もし、彼がルイズの支配下から抜け出したら…?)
そう思うと彼女の震えは止まらなくなっていた。


突然、会場が大きく湧いた。
何事かと彼が窓際まで歩み寄る。
騒ぎは移動しているのか次第にこちらに近づいてくる。
その中心にいたのは一人の少女。
桃色の髪を纏め、首元には意匠を施したアクセサリー。
白いパーティードレスに身を包んだ綺麗な女性がこちらに向かってくる。

「待たせたわね」
どこかから聞こえるご主人様の声。
それに反応して周囲をキョロキョロと探し回る。
はて、声はするのに姿が見えないとは、これいかに…?

瞬間。向けていた顔を両手で挟まれる。
目の前には純白の貴婦人ではなく、見慣れた主人の怒り顔。
「犬のくせに見間違うなぁ!!」
「何だ嬢ちゃんか、馬子にも衣装ってトコか。
見違えたぜ、相棒が分かんねえのも無理ねえよ」
怒り心頭のルイズに茶々を入れるデルフ。
そのやり取りを彼はそのままの状態で聞き続ける。
顔を抑えられたまま、浮き上がった前足がぷらぷらと揺れる。


「あはははっ。何よ、ルイズ。着飾ってもいつも通りじゃない」
「食べる?」
腹を抱えながら笑うキュルケと、料理を載せた取り皿を差し出すタバサ。
いつもの二人がルイズに近寄って話しかける。
その笑みは他の人には見せない本当の笑顔。

本当にいつも通りだった。
場所や格好が違ってもそれは変わらない。
そして、自分はここにいる。
疑念はいつの間にか無くなっていた。
どちらの世界かなど関係ない、自分の居場所は“ここ”だ。
この身は彼女の使い魔。
彼女に立てた誓いは未だこの胸の中にある…。


「あいたたたた……」
濡れたタオルを頬に当てる。
赤く腫れ上がり自慢の顔が台無しになっている。
こんな顔はとても他の連中には見せられないので抜けてきたのだ。

他の子を口説いている最中の事だった。
後ろにモンモランシーが立っていた事に彼は気付けなかった。
“次に貴方は『相手の誘いを断ったらレディに恥をかかせてしまうだろ?』と言うわ”
“相手の誘いを断ったらレディに恥をかかせてしまうだろ? ハッ!!”
次の瞬間、振り返った顔に叩き込まれる平手。

ギーシュは一人溜息をついた。
その横を慌しく駆け回るメイドやコック達。
テーブルに絶え間なく供給される料理を見れば苦労が判る。
その中に紛れて聞こえる噂話。
どうやら真面目な者ばかりという訳では無さそうだ。
話しているのはメイドが貴族に召抱えられたとかそんな内容。
別段、気に留める内容でもなかったのだがメイドの名前が彼の興味を引いた。

「確か…シエスタってルイズの使い魔を世話してた子だったっけ?」


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