ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-30

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匿名ユーザー

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「と言うわけで、フォン・ツェルプストーは家は、代々ヴァリエールの領地を
 治める貴族にとって、不倶戴天の敵なのよ!」
「ほら見てイクロー!あれがラグドリアン湖よ」
「なつかしーな…俺も昔あそこに10年ばかし沈んでたんだよ。
 あの時漁師の網にひっかからなかったら、あともう10年はそのままだったな」
「それは大変だったね…」
「いや、あれはあれで結構楽しかったぜ。人の世界にあきあきしてた頃だったし。
 それにそん時のあそこのヌシがすげー奴でな、サンペーって釣りキチとの勝負は」
「ってちゃんと聞きなさいよ!?」
学院を出発した直後、ギーシュがルイズとキュルケの家が宿敵同士と言ってた事が
気になった育郎は、早速ルイズ達にその事を聞いてみたのだが………
今の今まで延々と両家の因縁というか、愚痴と言うか、まあそんな事を延々と
聞かされる事になったのだ。
「でも、今の二人は友達じゃないか。これから仲良く」
「ともだちぃ?冗談じゃないわ!だれがキュルケなんかと!」
「ひどいわルイズ!私はこんなに貴方の事が大好きなのに!」
「ちょ、ちょっとキュルケ、抱きつかないでよ!
 そそそそれに大好きって、いいいけしゃあしゃあとウソ言うんじゃないわよ!」
「ええ、もちろんウソよ。貴方が嫌がると思って言ったみたんだけど」
「あ、あんたねえ!」
「仲良いように見えるけどな…」
育郎がタバサの方を向いて言うと、彼女は無言で地上を指差した。
「………国境」


「…にしても貴方がガリアの人間だったなんてね」
入国手続きを終えて、再びシルフィードに乗ったルイズが、空の上でもいつもと
変わらず本を読んでいる、タバサを見ながら言う。それはタバサがルイズ達に、
国境を超えるための通行手形の発行を頼むよう指示した事で判明したのだった。
「そうね、私と同じ留学生だったなんて知らなかったわ」
『タバサ』という飼い猫にでもつけるような名前に、それが偽名であるという事を
薄々感じ、何か複雑な事情があると考えていたキュルケであったが、今までその
理由をあえて尋ねようとはしなかった。
「ってあんた達友達じゃなかったの?」
「あら、友達だからよ。タバサが話したくなったら、その時聞けばいいのよ」
性格が正反対の二人が仲良くなれたのは、お互い相手を無闇に詮索するような真似を
しない事も無関係ではないだろう。
「まあ、別に貴方達がそれでいいならかまわないけど…」
ひょっとして、今日何しに来たのかすら知らないんじゃないかとルイズが聞こうと
した時、眼下に旧い、立派な作りの屋敷が見えた。
「あのお屋敷…ひょっとして貴方の?」
その言葉にタバサは無言で頷く。
「タバサ…?」
屋敷を見たその一瞬、タバサの瞳の奥に親友の自分でも見た事のない、暗い何かが
宿った事に、キュルケは言いようのない不安を感じたのであった。

「お嬢様、お帰りなさいませ」
シルフィードが玄関の前に降り立ってすぐに、屋敷の仲から一人の老僕が出てきて
タバサに恭しく頭を下げた。他に出迎えの者は居ない。

「随分と寂しい屋敷ね…ほかに人はいないのかしら?」
客間へと案内される途中、ルイズが小声で育郎に話しかける。
「…かもしれない」
暗い顔で育郎が答える。彼は屋敷に立ち込める、陰鬱な感情のにおいを感じていた。
「ねぇ、貴方はどう思う…キュルケ?」
育郎の様子に不安を感じたルイズが、キュルケに声をかけようとするが、隣を歩いて
いたはずのキュルケがいない。後ろを振り返ると、立ち止まり、驚いた様子で何かを
じっと見ているではないか。
「もう、どうしたのよ…」
近づくルイズに気付いたキュルケが、自分が見ているものを指差す。
「これ…この家の紋章かしら…ってこの紋章は確か!?」
その紋章は交差した2本の杖に『さらに先へ』との銘が書かれたものだった。
さらにその紋章にはバッテンの傷がついている。不名誉印である。
この家の者はこの紋章を掲げる家の権利を剥奪されている事になる。
「おい、どうした娘っ子たち?」
歩みを止める二人に気付いたデルフが声をかける。
「…なんでもないわ」
キュルケがそう答え、まだ紋章を食い入るように見ているルイズを歩くよう促す。


「母さまのところへ…あなた達はここで待ってて」
客間のソファにキュルケとルイズを案内すると、タバサは育郎を連れてでていった。
「ねえ、タバサのお母様がどうかしたの?」
「病気だって。育郎に治して欲しいって頼まれたの」
「え、そうだったの?それで病気ってどんな?」
「そこまで聞いてない…」
何処と鳴く居心地の悪い空気が流れる中、先程の老僕が部屋に入り、ルイズ達の
前にワインと御菓子を置き、恭しく礼をした。
「私、オルレアン家の執事を勤めておりまするぺルスランでございます。
 おそれながら、シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」
キュルケが頷き、ルイズも躊躇いながらも同じように頷く。
「シャルロットって…タバサの事?」
ルイズがそう尋ねると、ぺルスランは切なげに溜息を漏らした。
「お嬢様は『タバサ』と名乗ってらっしゃるのですか…」
「ねえ、オルレアン家って確かガリアの王弟家よね?この家の紋章も王家のものだし」
そう、先程見た紋章は間違いなくガリア王家のものだったのだ。
「どうして紋章に不名誉印を?」
「お見受けしたところ、外国のおかたと存じますが…お許しがいただければ、
 お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?
「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー」
「トリスティンのラ・ヴァリエールよ」
しばし考えた後、ベルスランはゆっくりと口を開いた。
「わかりました…奥様の治療の為とはいえ、お嬢様が御友人をこの屋敷に連れてくる
 など、絶えてないこと。お嬢様が心許す方なら、かまいますまい。
 お二人を信用してお話しましょう………この屋敷は牢獄なのです」


タバサは屋敷の一番奥の部屋の扉を開け、育郎に入るように促す。
大きく殺風景な部屋だった。その部屋の奥に、椅子に座り、開け放した窓からの
入り込む風を受けている女性がいる事を育郎は気付く。
それは人形を抱いた痩身の女性だった。元は美しかったのだろうが、病の為か
今はもう見る影もなくやつれはてている。
「だれ?」
育郎に気付いた女性は、その手に抱えた人形をぎゅっと抱きしめ、脅える子供の
ような目をこちらに向け、わななく声で女性は問いかける。
「あの…育郎と言う者ですが、貴方がタバサのお母さんですか?」
だが女性は育郎の言葉を最後まで聞く事無く、目を爛々と光らせて叫ぶ。
「下がりなさい無礼者!王家の回し者ね?わたしからシャルロットを奪おう
 というのね?誰が貴方がたに、かわいいシャルロットを渡すものですか!」
そうして抱きしめた人形に頬擦りする。何度も同じようにしているのだろう、人形の
顔は擦り切れて、綿がはみ出ている。
「タバサ…これは…」
タバサは黙って女性に近づき、深々と頭を下げた。
「ただいま帰りました。母さま」
やはりこの女性がタバサの母かと驚く育郎。
そしてタバサの母は自分の娘にも、憎しみの目を向ける。
「おそろしや…この子がいずれ王位を狙うなどと、誰が申したのでありましょう?
 私達は静かに暮らしたいだけなのに…下がりなさい!下がれ!」
母はタバサに、目の前のテーブルに置かれたグラスを投げつける。
「タバサ…」
タバサはそれを避けようともしなかった。そればかりか、母に笑みを浮かべる。
だがその笑みは、見ている者の心が締め付けられる、どこまでも悲しいものだった。
その時育郎は気付いた。館に蔓延する暗く沈み込んだにおいは、目の前の小さな
少女が、長年にわたって染み込ませて来たものであろうという事に。


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