ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-19

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匿名ユーザー

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「…ケースの中を見たのだな」
苛立たしげに男が顔を引きつらせる。
そこまでして秘密にするほどの事でも無いのに、
まるで親の仇を見るかのような目つきだ。

勇敢な少女達は盗賊を撃退し、宝を取り返しました。
めでたしめでたし……で済まされないのが現実。
ある意味フーケよりも、こっちの方が難敵かも知れない。

「まあ、盗品は奪い返したわけですから……」
「何を言っている! フーケはケースの中身を見たのだぞ!
そのフーケを逃しては機密情報が洩れたも同じではないか!
そして、生徒達も同様に見たのだぞ! これは由々しき事態である!」
コルベール先生もフォローしてくれるが、男は全く聞き入れない。
だけど“光の杖”を見たぐらいで何が分かるというのか。
最初、フレイムが“光の杖”を咥えてきた時だって、
てっきりフーケが錬金した鉄の破片か何かだと思って捨ててしまったのだ。
慌てふためく二匹の使い魔の姿を見て、ようやくそれが“光の杖”と気付いたのだ。
あれを見たからって何も判る訳が無い。
キュルケも学院に戻るまでの間は興味津々で弄っていたが、
その内に飽きてそこら辺にほっぽっていった。


「それなんですがフーケは“光の杖”を捨てて行ったんです」
「何だと!?」
突然のギーシュの発言に全員の目が丸くなる。
“急に何を言い出すんだ、こいつは?”という視線も無視し、ギーシュは続ける。
「手に入れたのはいいんですが、それが何なのか判らず、
ただのガラクタとして処分しようとしていた所で遭遇したんです。
だからフーケはそれを鉄屑だと思ってますし、僕達もそれが何か知りません。
機密は十分に守られたと思いますが、何かご不満でも?」

「待て! 盗んだ品を捨てただと? バカを言うな!
盗賊のフーケが盗んだ品を容易く手放す筈があるまい!」
「はい。ですがフーケは盗品を独自のルートで売り捌いているとの噂。
使い方も判らない怪しげな鉄屑に高値を付ける変わり者はいないでしょう?
金にならないなら足が付く前に処分する、これは当然の処置ですね。
ましてや、あんな大きな物を持ち歩いては目立ちますし」
「うぬぬぬ……」
顔を真っ赤にしながら男が唸る。
だが、反論の言葉が出てこない。
対してスラスラと立て板に水を流すように語るギーシュ。
まあ言ってる事は全て、嘘八百である。
フーケが盗品をどうしてるかなど誰も知らない。
それをギーシュは噂という言葉で事実のように書き換えている。
根拠など無いにも関わらず、こうも自信満々に言われては返す事が出来ない。


「フン…まあいい。今回の件は他言無用だ。
それが守れるのなら、今度だけは大目に見てもよかろう」
元々“光の杖”が戻ってきただけでも御の字なのだ。
もし盗まれた事が知られれば男の立場が危うい。
それを口止めした上で、弱みを握れるのならば安いものと判断したのだ。

そもそも“アカデミー”は“光の杖”にさほど興味を示さなかった。
マジックアイテムの類ではないと、何の価値も見出せなかった。
それを男は半ば独断専行の形で魔法学院に調査を依頼したのだ。
もし、結果が出せずに盗まれたとなれば間違いなく男は破滅していた。

そのまま布に包んだだけの“光の杖”を男が運び出す。
同時に部屋の中にいた一同が溜息を漏らした。
肩の荷が下りたというか、疫病神が去ったというか、
この場にいる全員が何ともいえない感覚を共有していた。

「ギーシュ。アンタね、あんな嘘ついてバレたらどうするのよ!」
「バレなければいいのさ、バレなければね。
どうせ気付かれやしないよ。あんな保身に凝り固まった奴には」
そう言って自信たっぷりに薔薇を咥えるギーシュを見て、ルイズは呆れた。
きっと、こいつは二股もバレなきゃ大丈夫だと思ってる。
そんでもってドジこいて痛い目に見るに違いない、きっとそうなる。
このルイズの予想は後にトト神も真っ青なほど的中するのだが、それは後の話。


「それにしても君達が無事で何よりだ」
「うむ。このような事に君達を巻き込んだ事、心より謝罪しよう」
フーケとの戦いでヘトヘトになった上、更に心労を重ねた捜索隊の苦労を、
学院長とコルベール先生が心より労う。
「いえ、貴族として当然です」
実にルイズらしい模範的な回答である。
それだけに学院長は僅かに心苦しい気分だった。
今回の件は公に出来る事ではない。
フーケを撃退し、盗品を奪い返すなど並大抵の事ではない。
本来ならそれなりの褒賞を与えられてしかるべきなのだが、
宮廷に申請が出来るはずも無い。
かといって自腹を切るのは……ちと懐具合が。

「しかし、それにしても大したものだ。
“土くれのフーケ”を相手に“光の杖”を取り戻すなんて」
むむむ……と唸るオスマンの横でコルベールが話を切り出す。
それにルイズを始めとする全員が反応した。
勝てたのは間違いなく自分の使い魔のおかげだ。
その事を正直に話し相談するべきなのか一瞬迷った。

「実は、その事なんですが……」
だが自分が不利な立場になろうとも、
“光の杖”の情報を与えてくれたコルベール先生は信頼できる。
彼女はそう考えて真実を話す決意をした。


外へ出て男は馬車の荷台に“光の杖”を乗せていた。
紆余曲折を経て手元に戻ったが、状況は何も変わっていない。
“光の杖”の解析は何一つとして進んでいないのだ。
御者に指示し、学院を去ろうとした瞬間、男はハッと気付いた。
同時に馬車を停め、校舎内へと駆け出す。
(あの小僧、盗まれた品を確かに“光の杖”と言っていた…!)
それは一部の人間にしか知られていない仮の名称。
その時点で気付くべきだった、情報が漏洩していると!


「……………」
「あの、信じて貰えないかもしれませんが事実なんです」
話を聞き終えた二人の目が点になる。
信じられないといった表情を見せるオスマン達に、ルイズが食い下がる。
「……いや、ミス・ヴァリエールの話を疑っておるわけではない。
むしろ納得したというべきか、そうじゃろうミスタ・コルベール?」
「はい」
意味ありげに語るオスマンが横に視線を向ける。
それに同意しコルベールが頷く。
何の事だか分からない他の面子が首を傾げる。
「実は“光の杖”と共に見つかった書物があるのですが」
「そんな物があったんですか!?」
思わずロングビルが口を挟む。
マジックアイテムと共に見つかった書物となれば、
十中八九、扱い方の説明に決まっている。
そんな物があるなら、わざわざ芝居を打つ必要も無かった。


「ええ。ですが全く見た事もない文字で書かれておりまして、完全に読めるわけではないのですが、
その一部には鮮明な絵が描かれていまして、内容についてはある程度判明しているのです」
「それって異世界の書物って事?」
今度はキュルケが質問する。
彼女の実家には同じように異世界から召喚されたと思しき本が家宝として伝わっている。
その内容には興味を示さなかったのだが、同じように召喚された物があると聞けば話は別だ。
意外にも横にいたタバサは興味を示さなかった。
読書が好きなタバサではあるが読めないのであれば無意味と判断したのだろう。

「恐らくはそうでしょう。そして、そこに書かれていたのは“ある生物”の研究レポートでした」
「ある生物って……まさか!?」
「蒼い体毛、尋常の生物を超えた怪力、異常な生命力、そして自らの体を武器に変える能力。
疑う余地はありません、間違いなく君の使い魔に関する物でしょう」

最初はコルベールも偶然の一致かと思っていた。
だが第二、第三の武装現象まで同じとなれば偶然では済まされない。
これは彼に対する研究レポートなのだと理解した。

それはドレスがスポンサー達に説明する為に用意した物で、
細胞の組織図や遺伝子配列だけでは理解できないだろうと、
バオーの真価を見せる為に写真による解説も交えて作られた研究資料。
そこには実験的に第三の武装現象まで引き出されたバオー犬の姿が写真に収められている。
だからコルベールは勘違いしたのだ、その生物は“犬の姿”をしていると。


「“光の杖”が発見された建物と君は何か関係しているのでは?」
「………………」
コルベールの問いに彼は何も語ろうとしない。
ほぼ間違いなくその建物は自分がいた研究所だろう。
そこでの事はあまり口にしたくはない。
喋って自分の主人に余計な心配など掛けたくはない。

「まあ“光の杖”が何かぐらいは判るってよ」
詰まる彼に代わってデルフが代弁する。
言いたくないという彼の気持ちは分かっている。
だからこそ、当たり障りのない部分だけを明かそうとした。
それも下らない疑問など吹き飛ぶぐらいの衝撃的な事を。

「光の杖って…ええええぇ!?」
突然のデルフの爆弾発言に学院長室が揺れる。
誰もが驚きを隠しきれない。
ロングビルに至っては眼鏡がズレ落ちそうになっている。
「ありゃ相棒のいた世界の武器でレーザーって代物だ。
分かりやすく言えば強力な光を放つ筒みたいな物だな。
“光の杖”なんて名前付けてる所を見ると知ってるんだろ?」
デルフに視線を振られたオスマンが頷き答える。
「うむ。少し前の話になるが……」


深夜、王宮近くの森で轟音が鳴り響いた。
即座に魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊の隊員が現場に向かった。
そこで隊員は天に昇る一筋の光を見つけた。
あまりの強烈な光に視界を奪われた隊員は、ついその光に触れてしまった。
瞬間。血飛沫も上がる事なく指先は消滅した。
そして同じく光に触れたグリフォンの羽も両断されたという。
恐ろしい事に隊員は痛みさえも感じなかった。
気が付いたら指が無くなっていた、後から来た者にそう説明したらしい。
その後、時間経過と共に光は消滅し、その場には“光の杖”だけが残されていた。

「調べた所、マジックアイテムの類ではないという事で、
どこかの宝物庫で安置する予定じゃったんじゃが。
これを使う事が出来れば強力な武器となると主張したのがあの男でな」
「いや、もう使えねえよアレ」
「へ?」
デルフがあっさりと言い放つ。
唖然とした表情を浮かべる全員を前にデルフは続ける。
「風石の無い船というか、火薬の無い大砲というか、魔力切れのメイジみたいなもんだ。
もうアレに光を撃つだけの力が残ってねえんだよ。
その時に使い切っちまったんだろ、きっと」
「じゃあ、アレは……」
「今は鉄屑って事だな」
わなわなと肩を震わせるロングビルに、デルフはぶっちゃける。

ミス・ロングビル…否、フーケは爆発寸前だった。
苦心して盗んだ物が鉄屑、それも使い道が判らずに芝居まで打ったのに。
恥ずかしいのやら、腹立たしいのやらで顔が真っ赤になるのを必死で堪える。
(ああ、ちくしょうめ。これというのも全部、あの男が…)


フーケが思い浮かべると同時に部屋に踏み込む件の男。
ノックも無しに開けられた扉に皆の視線が集中する。
何故ここに戻ってきたのか、誰にも分からない。
重い空気の中、男が口を開く。
「調査の結果、“光の杖”はとても危険な代物だと判明した!
よって、ただ今より学院の宝物庫での厳重管理を命じる、以上!」

それだけ告げると男は逃げるように立ち去っていった。
何が起こったのか、生徒達は誰も理解できなかった。
「…逃げたんじゃよ」
それを見回しながらオスマンはパイプを吸いながら言う。
恐らく途中から話を聞いていたのだろう。
あれだけ手を回して“光の杖”が今は鉄屑でしたと報告すれば男は終わりだ。
だが、危険な物という事で封印してしまえば真偽など誰にも分からない。
“光の杖”の再調査など誰もやりたがらないだろう。
最悪、自分の立場だけは守りきったという訳だ。
あの熱意と努力を国や研究の発展に向けてくれたらどんなにか。

「ま。無理じゃろうが」
口に含んだ白煙は溜息と共に吐き出された。
この日以降、二度と男が学院に近づく事は無かった。


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