ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-17

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「相棒……本当に相棒なのか?」
ゴーレムの首に突き刺さったままのデルフが呟く。
地下から飛び出して来た異形の怪物、そこには元の姿の面影など無い。
ただ辛うじて見える首輪の存在が彼である事を証明している。
そして、それを肯定するかのようにバオーはデルフに視線を向ける。
「は…ははっ…やっぱりすげーぜ、相棒はよ」
フーケのゴーレムが霞んで見える程の圧倒感。
これだ。自分が相棒に感じていた気配はこれだった。
それは歓喜か、それとも恐怖か、デルフの刀身が震えていた。


フーケの表情が凍りつく。
今ので仕留めきれなかった事に怯えているのではない。
それよりも、この怪物が脱出した方法が問題なのだ。
追い詰められた咄嗟の閃きだったのかもしれない。
だが、偶然ギーシュと同じ避け方をしたとは思えない。

あの怪物は“学習”したのだ。
自分で見て覚え、それを実際に活用する。
他の動物ではそうはいかない。
人が教え何度も訓練を重ねてようやく可能になる物だ。
それを成し遂げたのは凄まじいまでの『生の渇望』。
生きようとする意志が貪欲なまでに知識を吸収させる。
あと数ヶ月もすれば、こいつは知識と力を兼ね備えた真の怪物になっているだろう。

自分の不運は、こんな化け物と関わり合いになった事。
そして自分の幸運は、手がつけられなくなる前に遭遇した事だ…!


「なによ……アレ」
眼下の光景を目撃したルイズが怯える。
何が起きているのか彼女には判らない。
あの強気なキュルケでさえも声を失っている。
常識を超えた出来事に彼女達の理解が追いつかないのだ。

「あれが…君の使い魔だ」
「え…?」
「僕は決闘の時、あの姿を見た。姿こそ違うが、間違いなく君の使い魔なんだよ」
ギーシュの発言に、ルイズが再びバオーへと恐る恐る目を向ける。
信じられないといった表情を浮かべるルイズ。
その視線には未だ恐怖が入り混じっている。
ついに最も避けたかった事態が起こってしまった。
一度染み付いた恐れはそう簡単には拭えない。
これを危惧しギーシュやタバサは彼女に伝えなかったのだ。
彼女と使い魔の関係に亀裂が入るのをギーシュは感じていた。


周囲の土を掻き集めて復元されるゴーレムの足。
しかし足首から腐り落ちるように千切れた。
体に染み込んだ溶解液が再構成さえも妨害している。

「チィ……! まるで毒か呪いだね」
染み入った部分を丸ごと切り離し再び復元を試みる。
だが、その隙をバオーは見逃さない。
残った足をもぎ取ろうと巨人の足元へと駆ける。

「この怪物が! 近寄るんじゃないよッ!」
木々を薙ぎ払いながら錬金で鋼鉄と化した腕が振るわれる。
その威力に空間が暴風が過ぎ去ったような惨状を晒す。
しかし、そこにバオーの姿は無い。
また地中に潜ったかとフーケの目がゴーレムの足元を探る。
“バルバルバルバルッ!”
ハッと音が聞こえた方へと向き直る。
そこにはゴーレムの腕に爪を立てて掴まるバオーの姿!

腕の上を駆け、向かう先にはゴーレムの頭部。
手足からではなく一気に勝負を付けに来たのか。
もう一方の手で迫るバオーを迎撃する。
それを掻い潜りバオーは低空を滑るかのように跳躍する。
狙う先は頭ではなく首、そこに突き刺さる彼の相棒。
唯一露出した柄へと牙を突き立てる。
同時にメルティッディン・パルムでその周辺を溶かしていく。


「こいつ…!」
剣を抜き取らせる前に潰す。
拘束が完全に解かれるのにまだ時間はかかる。
間に合うはずだとフーケは思っていた。
だが、彼女はバオーを理解していなかった。

バオーの強さは特殊能力だけではない。
寄生虫バオーから分泌された特殊な液は筋肉・骨格・腱に圧倒的な力を与えているのだ。
今の彼は巨大な猛獣さえもネズミのように首の力だけで投げ飛ばせる。

未だ溶け切らぬ内に横薙ぎにデルフが一閃される。
刹那。岩石に等しい強度を持つゴーレムの首が二つに裂けた。
もしデルフリンガーの刀身があと少し長ければ、そのまま切り飛ばされていただろう。
勢い余って空中で回転しながらバオーが着地する。

「助かったぜ相棒!」
感謝の言葉を口にしながら相棒の姿を見やる。
まるで別の生物に変わっちまったかのようだがそれでも分かる。
俺と相棒は一心同体。
ルーンを通して伝わってくる相棒の意思。
どんな姿になろうとも、やっぱり相棒は相棒だった。
「分かってるぜ、あのデカブツをどうやって仕留めるかだろう?」
この敵は以前の決闘相手とは桁が違う。
大きさがどうとかそういう問題じゃない。
溶かしてもその部分を切り離して再生してしまう。
そして全身を残さず溶かそうにも隙が出来ない。
困惑するバオーにデルフが指示を下す。


「相棒。アイツを見てみな」
見上げた先には首を裂かれた土の巨人。
切り口から浸透しようとする溶解液を土ごと抉り出している。
そして再び埋まっていく傷跡。
「表面から溶かしても、その部分を簡単に削ぎ取られちまう。
だけどな、もっと奥まで流し込まれたら丸ごと再構成しなきゃならねえ」
浸透する範囲を広げれば再生するのに掛かる負担は跳ね上がる。
“土くれのフーケ”の魔力とて無制限ではないのだ。

「後はどうやって流し込むかだけどな…」
言い終わる前にデルフの意を理解し、バオーは走り出す。
すかさず繰り出される迎撃の拳。
バオーと拳が交錯した一瞬、巨人の腕に一筋の切れ目が入る。
その傷はゴーレムの腕の半径にまで達する深さ。
ガンダールヴのルーン! バオーの筋力! デルフリンガーの強度!
この三つが組み合わさった時、鋼鉄をも切り裂く斬撃が生まれるのだ!

勢いそのままに弧を描くバオー。
そして、その前足が閉じていく傷跡に差し込まれた。
フーケの目が驚愕に見開く。
バオーが何をしようとしているのか彼女は察知したのだ。
だが既に遅い。
内部から発生したメルティッディン・パルムに巨人の腕が容易く溶け落ちる。

「よし、それだ! いいぞ相棒!」
デルフの声援を受け、休む間も与えずに攻め立てる。
彼が果敢に攻撃を仕掛ける理由は二つ。
一つは修復する間を与えない事で優位に立つ為。
そして、もう一つは一歩たりともこの先には行かせない為だ!


「あ……」
誰が上げた声かは分からない。
でも、この場にいる全員が気付いたのだ。
フーケのゴーレムがあの場から一歩も動けていない事に。
そして、それを意図して彼が戦っているという事実に。
ずっとこちらに背を向けたまま、私達に近寄らせまいと抵抗しているのだ。

あいつは今も私達の為に戦っている。
姿が変わり果てようとも、その姿勢に変わりはなかった。
それなのに、私はただ変貌した自分の使い魔に怯えていた。

どうしようもないバカだ、私は…。
私が自分の使い魔を信じないで、誰があいつを信じるのか。

「あいつを助けなきゃ…!」
ルイズの瞳に力が戻るのを見てギーシュはフッと息を漏らした。
要らぬ心配だったのかもしれない。
雨降って地固まる。彼が思っていた以上に二人の絆は深かった。


だがキュルケとタバサの魔力も限界に近い。
自分に至ってはワルキューレ全騎壊されて、残りは錬金一回分ぐらい。
さらにルイズの魔法は狙いが定まらない。
下手すれば自分の使い魔さえも巻き込みかねない。
ここまで奮闘していたフレイムも体力が尽きかけている。
ヴェルダンデは危ないので地中に避難させたまま。
後はシルフィードだけなのだが、これだけの人数を乗せての戦闘は厳しい。
“きゅい! きゅい!”と彼とフレイムの戦いに影響されたのか、
本人はやる気十分なのだが、タバサがそれを制している。

このまま見守る事しか出来ないのかと口惜しく思った瞬間、
ルイズの目が“光の杖”に留まっている事に気づいた。

「おい……何考えてるんだ? バカな事は止めろ」
「だって! これしか方法は無いじゃない!」
「どんな物か知ろうとしただけであの騒ぎなんだ! 中身なんか見たら無事じゃ済まないぞ!」
ケースに手を掛けるルイズを後ろから羽交い絞めにする。
ここで“光の杖”を取り戻したって下手すれば機密保持の為に軟禁される可能性だってある。
ただでさえ、ややこしい事態なのに更に火に油を注ぐ結果に成りかねない。

「イヤ! 離して!」
「落ち着くんだ! 手助けなら他にも出来る事がある筈だ!」
振り回されたルイズの肘が僕の鼻を捕らえる。
瞬間、よろめいた足が宙へと踏み出された。
元よりバランスの悪い風竜の上で暴れたのが悪かったのだろう。
僕とルイズ、そしてケースが背より滑り落ちた。
咄嗟にキュルケがルイズに、タバサが僕にレビテーションを掛ける。
そして間に合わなかったケースが森の中へと落ちて砕け散った。
その光景を皆が唖然としながら見送る。
最悪の予想が彼女達の頭に浮かぶ。
“ひょっとして中身見るよりヤバイ事をしてしまったのでは?”


バオーがケースの落下地点へと走る。
落ちたのが盗品ならフーケはそれを狙ってくる。
奪われないようにフーケより先に拾う事はもちろん、
自分が持っていればシルフィードからゴーレムを引き離せるかもしれない。
そんな算段を立て、彼はそこへと駆けつけた。

砕け散った木片が周囲に散らばっている。
だが、落ちているのはケースの破片だけだ。
余程頑丈に出来ているのか、中身と思われる物は無事だった。
残骸に埋もれた中に、大砲のようにも見える鉄製の筒が一部分見えていた。
上に載っている板切れを鼻先で退かす。
それでようやく“光の杖”の全体が明らかとなった。

瞬間。“光の杖”を目にした彼の時間が止まった。
何故こんな物がここにあるのか。
知らぬ間に体が小刻みに震えていた。
一度だけ、たった一度だけ彼はこれを目にした事がある。
忘れたくとも忘れようがない。
脱走しようとした仲間を撃ち抜いた、あの一条の光を。
そして、それを放った“光の杖”『高出力レーザー』を。

これは啓示なのか。
振り切ったと思った自分の運命。
だが逃げ場など何処にもない事を告げに来たのか。

背後から響く木々の悲鳴。
“光の杖”に意識を奪われていたバオーの反応が遅れた。
木を薙ぎ倒しながら巨人の手が迫り、そして手の内に捉えられた。


「ようやく捕まえたよ化け物!」
ゴーレムの手が変形していく。
メルティッディン・パルムを警戒し、前足首だけを残し全身を取り込む。
そして錬金によって手が土ではなく鋼鉄へと変じていく。
隙間なく埋め尽くし、さらに圧力を増していく。
さながらゴーレムの手の中は巨大なプレス機と化していた。
鋼鉄を切る一撃も振るスペースが無ければ無力。
このまま時間を掛けて嬲り殺しにされるだけなのか。

脳裏に甦る“光の杖”。
あれが自分に死を告げに来たとでもいうのか。
彼は吼えた。声は出なかったが吼えた。
もう逃げはしない。
どこまでも運命が追ってくるというのなら追わせてやる。
だが、ここで終わったりはしない。
運命に勝利して生き延びてやる。

その為には“力”だ。
この拘束から脱出する強い“力”。
いや…それは違う。今必要なのは“力”じゃない。

今までのように力を振るうだけじゃダメだ。
ギーシュの考え方は間違っていない。
自分が持っている力をもっと集約するんだ。
もっと薄く! もっと鋭く! “面”を“線”に変えろ!


今必要なのは“力”ではなく“武器”。
ここから脱出する為に必要な物、それをデルフリンガーが教えてくれた。
彼はその形状を強くイメージした。
鋼鉄の檻も運命さえも切り開く“武器”!
それは“剣”だ!

フーケの視線の先、ゴーレムの腕から二本の角が生えた。
否。角ではない、それは『剣先』だった。
それが氷上を滑るかのように縦横無尽に走る。
刹那。鋼鉄を切り裂き、再びバオーがその姿を現した。

両の前足から生える刃。
プロテクターである硬質化した皮膚を変形させたそれはバオーの新たな武装現象。
“バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン ”
鋼鉄さえも切り裂くこの刃に触れる事は死を意味するッ!

地に降り立ったバオーが巨人を見上げる。
バオーは何も語らない。
ただ冷たく輝く三つの刃がバオーの心を代弁していた。


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