ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-19

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匿名ユーザー

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翌朝・・・。
ルイズとワルドは、結婚式の準備をしていた。
といっても、今まさに攻め落とされんとしている城で派手なことができるわけもなく、
ウェールズ・・・アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に乗せ、同じく純白の乙女のマントを纏うだけという単純なものではあったが。

「ねえワルド、本当にここで結婚式をするの?」
昨日はセッコに手紙を始末されたショックもあって、勢いで“今結婚しよう”
と言うワルドに同意してしまったものの、一晩空けて冷静になってみると、やはり何か違う気がするのであった。

「僕が相手じゃ不満かい?」
「・・・」

そうじゃなくて、ここで今するのが気に入らないのよね。
ルイズとしてはささやかに式を挙げるなら、帰ったら任務のことでどうせ会う、アンリエッタの前で誓いたかったのだ。
それに、ある意味では全権大使とも言える自分が、いくら亡命を勧めても聞かなかった頑固な武人であるウェールズ皇太子。
その最期の思い出が、昨日会ったばかりの他国人の結婚式だなんて。

そんなの、悲しすぎるわよ。
それに、いや、そんなこと以上に、何故か心は不安でいっぱいだ。

その時、ワルドがルイズの手をとった。
「さあ行こう、ルイズ。
始祖ブリミル像の前で、ウェールズ皇太子が待ちわびているぞ」
「え、ええ」

ワルドに手を引かれ、戦の準備で誰もいない滅び行く城の廊下を、ウェールズの待つ礼拝堂に向かって歩く。

昨日は、わたしとセッコ以外、皆笑っていた。
まあセッコは、悲しんでいるという感じではなかったけれど。
今も、隣のワルドは幸せそうに微笑んでいる。
きっと、ウェールズも笑って死を迎えるのだろう。

何故、わたしだけが寂しいのかしら。
わたしが・・・おかしいのかしら?それともわたしが、何か悪いことを?

「ルイズ!行き過ぎているぞ、礼拝堂はこっちだ!」
「あ、そう、そうね。ごめんなさい、ワルド」

さてその頃、鍾乳洞に作られた港の中、セッコはニューカッスルから一足先に脱出するため、
疎開する人々に混じってイーグル号に乗り込む列に並んでいた。

「なあ、相棒」
「どうしたあ?」
「なんか体がスースーして気分悪いんだけどよ」
「人前で鞘から抜くと、ルイズが怒るんだから仕方ねーだろお。喋れるだけいいと思え」
「むう」

デルフリンガーの鞘は、話し相手を欲しがったセッコによって、そのまま喋れるよう穴だらけにされていたのだった。

「ところでよ、娘っ子を放置してきて本当によかったのか?」
「命令されたらオレにはどうしようもねーよ。さすがに[死ね]とか言われたら必死で逃げるけどなあ。」
「難儀なもんだな、まーあのワルドって奴も強そうだし、なんとかなるかね」
「オレは、あいつ嫌いだけどな。ルイズの婚約者じゃなかったらぶち殺したいぐらい。」
「おいおい、やっぱ戻った方がよくねえか相棒」

ちょっと考えてから、答える。

「いや別に、オレの目の前にいなけりゃそれで。」
「ははは、ちげえねえ」

ルイズとワルドが礼拝堂につくと、皇太子の礼装に身を包んだウェールズが、一人で始祖ブリミル像の前に佇んでいた。

「・・・お一人なんですか?」
ルイズは無礼な疑問を口に出してしまった事に気づき、慌てて手を当てた。
「すまないね。できることならもう少し豪勢にしてあげたいが、皆は戦の準備で忙しいんだ。」
「も、申し訳ありません、殿下」
「気にしないでくれたまえ。では、子爵」
「はい」
ワルドが、仰々しく一礼した。

「それでは、式を始める」
王子の声が、ルイズの耳に届く。
しかし、ルイズの心は結婚を前にしているというのに、様々な疑問が渦を巻き、憂鬱であった。理由はわからない。

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール・・・」
朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。

そう、わたしって今憧れの婚約者と結婚しようとしてるのよね。

それなのに何故、何故こんなに不安なのかしら。
ウェールズ達が死に行こうとしているから?
      • それは悲しいことだけれどわたしと直接は関係ないわ。
セッコがアンリエッタの手紙を握り潰したから?
いや、手紙が敵の手に永久に落ちなくなれば根本的に問題は起こらないわけだし、セッコはあいつなりに最善の手を取ったのよね。
お仕置きは必要だろうけど、少なくとも不安とは違う。
結婚したらセッコを常に監視するわけにいかないから?
確かにあいつは放っておくと極めて危険だ。
でも、考えてみれば傍においておかなくてもいくらでも手はある。
今気にやむようなことではない。わたしはそんなに神経質ではない・・・と思う。
じゃあ、何で不安なのよ!この疑問は何!

「新婦?」

「・・・新婦?」
ウェールズが心配そうにこっちを見ていた。はっとして顔を上げる。

こんなとき・・・疑問を感じたとき、あいつならどうするだろう?
この世界の何よりも無邪気で、残酷で、正直で、そして純粋な自分の使い魔。

「緊張しているのかい?仕方がない。初めてのときは、ことが何であれ、緊張するものだからね」
にっこりと笑って、ウェールズは続けた。
「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。
では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と・・・」

違う、違うのよ、ウェールズ殿下。わたしは緊張してなどいない。
ルイズは首を振った。
ただ、何かが引っかかっているのよ。
誰も答えを出してくれない悩みが、疑問があるとき、どうすればいい?
この世で、一番信じられるものは何?
それは・・・

「新婦?」
「ルイズ?」
二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。

わたしは、あいつに影響されているのだろうか?
いや、元々そうだったのだろう。この世で一番信じられるものは、“わたし”。
自分が納得できないことは、今やるべきではないこと。
ルイズは、ワルドに向き直った。

「どうしたね。ルイズ。気分でも悪いのかい?」
「気分は、悪くないわ」
「なら、誓おうじゃないか」
「いいえ、ワルド。今は、結婚できないわ」
ウェールズは首をかしげた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、私はこの結婚を望みません。少なくとも、今は」
ワルドの顔に、さっと朱がさした。ウェールズは困ったように首をかしげ、残念そうにワルドに告げた。

「子爵、まことにお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにいかぬ」

ワルドはウェールズを無視してルイズの手をとった。
「ルイズ・・・緊張してるのかい?きみが、僕との結婚を拒むなんて」
「ごめんなさい。ワルド。この旅で判ったんだけど、何故かあなたと二人でいると不安になるのよ。
女神の杵亭に居た時。桟橋で、セッコが錯乱してあなたに殴りかかったとき。それに・・・。
もちろんワルド、あなたのことは憧れだし、少なくとも嫌いじゃないわ。でも、今はだめ。今は結婚できない」

ワルドの表情が変わる。
「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!」
豹変したワルドに怯みながらも、ルイズは力強く首を振った。

「わたしの不安は、そういうことだったのね、ワルド。世界なんかいらないわ」
ワルドは両手を広げると、ルイズに更に詰め寄った。
「僕にはきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの力が!」
何を言っているの?こんなワルドって、あの優しかったワルドがこんなに・・・

いや、一度だけ、一度だけこんなワルドを見たことがある。
ラ・ロシェールで、セッコと手合わせしたときに。
あの時、わたしはセッコがキレていたのだと思っていた。
あいつが暴走しやすいのはいつものことだったし。
盗賊をバラバラにしたのを前の晩見てしまったから、余計そう思ったのかもしれない。

・・・でも、違ったのね。本当に“キレて”いたのは、ワルドの方だった!
「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!
きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう!きみは自分で気づいていないだけだ!その才能に!」
「ワルド、あなたまさか・・・」

ルイズの心が、急激に醒めていく。
自らに酔っているかのように昂りつつあるワルドと対照的に。

セッコはイーグル号に乗り込んだ瞬間、突然言い知れぬ不安に襲われた。
身震いし、目をこする。
「おい、どうした相棒!」
「おかしい。」
「なんだ、疲れてんのか?」
「違う、オレは昨日たらふく飯を食ったし、よく寝た。」

でも、変なものが見える、これは・・・昨日の城?・・・ウェールズ・・・と?
「なんなんだよ相棒」
「左目にワルドが見える、そのせいで胸クソわりい。あと左手が熱い。」
印が、光っている。なんだこりゃあ?
「何を訳の判らないこと言ってるんだ?」
「呼ばれてる、気がする。」
「落ち着けって!トリステインに一足先に帰ってのんびりするんだろ相棒!」
うう、だめだ、この映像・・・これを消さねえと・・・
「ちょっと、黙ってろ。」

オレは、・・・を信用しすぎていた。だから、・・・は死んだ。

本当に信用できるのは、やっぱり、オレ自身だよなあ。
セッコは、発進寸前のイーグル号から飛び降りた。
「なあ相棒、この船に乗らなかったら、どうやって帰るんだよ!」
デルフリンガーが叫んでいる。
「うぁ?あー。多分大丈夫だ。[不安]がなくなってから、考えるぜえ」

セッコは、デルフリンガーを抜き、壁に潜った。
「なにがだ・・・グボァ、ぁぃぼヴ!ぬぁんだこれ気持ちわりい!がぼぁ!」
「これが、オレだ。オレを相棒っつーなら慣れろ。あと、静かにしてろ。
振動が、音が聞こえねえと方向感覚が狂うんだよぉ。」
上に向かって、深く、潜っていく。上に、上に。

ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズが、間に入ってとりなそうとした。
「子爵、きみは振られたのだ。潔く・・・」
が、ワルドはその手を跳ね除ける。
「黙っておれ!」
ウェールズは驚いて立ち尽くした。ワルドはルイズの手を強く握った。

「ルイズ!きみの才能が僕には必要なんだ!きみはそれに気づいてない!」
ルイズはワルドの手を振り解こうとしたが、ワルドの力は物凄く、解けない。
「冗談じゃないわ!さっきまでは、トリステインに戻って、ゆっくり話してから、そうして結婚しようと思ってた。
だけど、今確信したわ。やっぱりあなたはわたしを見ていない!」
暴れるルイズを見て、ウェールズが加勢し、ワルドを引き剥がそうとした。
しかし、ワルドはそれを突き飛ばす。
「うぬ、何たる無礼!何たる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を放したまえ!さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」
ワルドは、それでやっと手を放し、そして張り付いたような笑みを浮かべた。

「こうまで僕が言ってもだめかい?ルイズ。僕のルイズ。」
「嫌よ、絶対に!」
「この旅で、きみの気持ちを掴むために、ずいぶん努力したんだが・・・」
「そう。わたしのあなたへの気持ちは、この旅で離れたのよ」
覚悟を決めたルイズは、そう吐き捨てた。

それを聞いたワルドは、両手を広げて首を振った。
「こうなっては仕方がない。ならば目的の一つは諦めよう」
「目的?」
ワルドの笑みが、禍々しく歪む。
「そうだ。このたびにおける僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」
「達成、二つ?どういうこと?」
なによ、まだ・・・まだ何かあったわけ?

「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」
「当たり前じゃないの!」
ワルドが、ルイズを見つめなおす。
「二つ目の目的は、ルイズ、君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」
それを聞いたウェールズは、全てを察したのか杖を構えた。
しかし、ルイズは突然、笑い始めた。

「そう、残念ね。すっごく残念。それも、達成は不可能よ、ワルド!」
「「何?!」」
ウェールズも、ワルドもはっとした顔になる。
「手紙なら、セッコが、わたしの使い魔が処分したわ。
あの時は、さすがに慌てたし、怒ったわ。でも、今となっては勲章ものね」
「ガンダールヴか!なんと使えぬ奴!おのれ!」
「残念ね」

「・・・だが、三つ目は達成させてもらうぞ!」

閃光のように素早く杖を引き抜いたワルドが、呪文の詠唱を完成させ、ウェールズに飛び掛る。
「き、貴様!レコン・キスタ・・・」

正面から飛び掛ったワルドの攻撃を、何とか弾き返したウェールズの言葉は、しかし最後まで続かなかった。
「貴様の命だ、ウェールズ」
ウェールズの背後、始祖ブリミル像の影から、もう一人のワルドが飛び出し、その胸を貫いていた。
「・・・風の遍・・・在・・・ぐあ・・・」

ウェールズの口から、どっと鮮血が溢れ、床に崩れ落ちる。

「あなた、貴族派?・・・裏切り者、だったの?」
さすがにそこまでは読み切れなかったルイズが、わななきながら怒鳴った。
「そうとも。いかにも僕は、アルビオン貴族派、レコン・キスタの一員さ」
ルイズは杖を振り上げようとしたが、遍在のワルドに掴まれ、壁に押し付けられた。ワルドはそのまま言葉を続ける。

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がっているのさ。そして、最終的には、始祖ブリミルの光臨せし[聖地]を取り戻す」
「昔は、昔はそんなふうじゃなかったわ。何があなたを変えたの?」
「話せば、長くなる。今ここで語る気にはならん」
逃げようとしても、壁に押し付けられていて動けない。

「どうして・・・」
「だから!だから共に世界を手に入れようと言ったではないか!」
「嫌よ、世界なんていらないって言ったでしょう・・・」
「もう、遅いんだよ。言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかない。さようなら、可愛い僕のルイズ」
ルイズの首に、手がかけられる。
「う・・ぐ・・・助けて・・・セ・・」
駄目、息が・・・
「残念だよ・・・。この手で、きみの命を奪わねばならないとは・・・」

ワルドは、そう言いながらも実に楽しそうだ。それがとても、悔しい。
せめても本当に悲しそうにしてくれていれば、まだ救われたのに。
意識が朦朧としてきたせいか、壁に沈みこんでいるような感覚がある。
わたしは、こんな夢を・・・


その時、突然締め付けていた力が緩んで、ルイズは失神し床に崩れ落ちた。
ワルドの目が、驚愕に見開かれる。
壁から生えた腕に、“遍在”の胸が貫かれていた。




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