ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-39

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「くそ…馬を奪われたおかげで、追いつきゃあしねぇ」
だが、馬にも体力というものがある。常時全速では当然バテてスピードも落ちるものだ。
特に、一人余分に乗せているヤツは、それが顕著だ。
馬が倒れない程度に走らせていると、敵が視界に入った。
「…あの女のいう事そのままだと…連中、痛覚が麻痺してるヤク中か…考えたくねぇが死体ってことか?」
前者ならともかく、後者を相手にするとなると恐ろしく相性が悪い。
広域老化は死体には全く効かないからだ。

対応策を練っていると、二人乗っている馬以外のうち2体がこちらに向かってきた。
足止めのための時間稼ぎをするつもりらしい。
「やるしかねーみたいだな」
グレイトフル・デッドを発現させると同時に馬の速度を落とし、地面に降りる。
落馬なんぞしたら洒落にならないからだ。
10秒もすると、馬が急激に老化を始めた。
「あんだけ走りゃあ、温まってるだろうよ」
向かってきていた馬が等しく脚を朽木のように枯れさせ倒れていっているが、微塵も油断していない。
さっき聞いた様子では落馬程度では大したダメージにならないからだ。
投げ出された敵の一人に素早く駆け寄るとが、やはり老化はしていない。
「…マジに死人かよこいつら!」
体は確実に死んでいるのに、精神だけはしっかりと存在する。スタンドで操っているようなヤツとは比較にもなりゃしないだろう。
「そりゃあ、効かねーわけだ……だがなッ!」
確かに、体温がほとんど存在しない以上、広域老化は効きはしない。
だが、直は別だ。直なら有機物である以上冷やしていようが、お構い成しに老化させる。
新鮮と言えばアレだが、死んだばかりの死体のような感じだ。
死体に直触りなどする必要もなかったし、やろうとも思わなかったのでやった事は無いが、老化させれらる自信はある。

そう!スタンドとは精神!出来て当然と思い込む事こそが重要ッ!!
「老化しちまえば…動きたくても動けないからな。死人は黙って寝てな」
これでもかというぐらい直を叩き込んだが、これで効かなければお手上げだ。首を落そうにもデルフは無い。
一瞬間をおいたが、掴んだ敵がみるみる干からびていく。
林檎などの果物も老化させられるのだ。死体といえど、特に変わりは無いのだが…。

「いや…マジに…恐れ入ったよ…まだ…動けんのか」
枯れ果てた敵が動く。いや、動こうとしている…と言ったほうが正しい。
直触りをモロに喰らえば、死なないまでも寿命寸前まで追い込まれる。普通なら気絶するはずだ。
立ち上がろうとするが、背骨が音をたて歪み立てないでいる。
杖を振ろうとするが、手や指先がボロボロになって崩れていき、杖を落す。
魔法の詠唱をしようとしているが、歯のほとんどを抜け落ちさせている。
だが、それでもこいつは動こうとしている。B級映画でもこんなのお目にかかれないはずだ。

「おおおおおおおおッ!さっさとあの世へ行きやがれぇーーーーーーこのクソがァーーーーーーーーーーッ!!!」
そいつの頭を蹴り飛ばし首をヘシ折り、さらに続けざまに、グレイトフル・デッドで殴りつける。
後ろから、もう一人の魔法が背中をかすめたが攻撃を止めない。
気が付くと老化した敵は全身の骨を砕けさせるようになっていたが、砕けさせた場所はすぐに治っているようだった。
老化を解けばすぐにでもこちらに襲い掛かってくるだろう。
鬼人の如き形相で後ろを振り向き、もう一人の敵に駆け寄る。
魔法を使っては来ているが、飛んできたのが氷の槍だったのが幸いした。
これならばスタンドで受けられる。風や火などは実体が無いだけに受けられないのだ。
「グレイトフル・デッドッ!!」

時間は少し遡り場所はラグドリアン湖。
ルイズ、才人、タバサ、キュルケがそこに居た。
なんでまた居るのかと言うと、タバサの帰省に合わせてオプションよろしく付いてきたのだ。
それで、タバサの実家に来たのだが、紋章を見てルイズとキュルケがブッ飛んだ。才人は紋章の事など分かっちゃいないので無反応だが。
ガリア王家の紋章そのものだったからである。
ただ違うのはXの傷が入った不名誉印だった事だが。
そこで、執事のペルスランから本人が居ないところでタバサに関する事を聞いた。
毒を盛られタバサの母が精神を壊し人形を娘だと思うようになってしまった事。
汚れ仕事を押し付けられ、シュヴァリエの称号のみを与えられ、トリステインに留学させられた事。
そして今も、解決困難な事があると、呼びつけられているという事を知った。
当然の事ながら才人とキュルケは、その凄まじい経緯に言葉を失っていたが、ルイズは少し違った。
(そんな危険な事させられて、与えられたものがシュヴァリエの称号だけだなんて…なんか…あいつと似てる)
先代ことプロシュートが属していた暗殺チームと、今現在のタバサの状況は似ていた。
だからこそ、タバサに与えられた指令を何の迷いも無く手伝うと言えた。
他の二人も思うところは違うが、結論は同じだ。

それで、ラグドリアン湖の水位が急激に上昇しているために、その原因と思われる水の精霊の討伐に向かったのだが
現代日本人の才人が「いや、倒す前にまず水位を増やした理由とかを聞いた方がいいんじゃないか?ゲームでも大体そうだし」
と、非常にゲーマー的な答えを導き出した。
本来なら、タバサが風の魔法で空気の層を作り水に触れず湖底を歩き
キュルケが炎で精霊をあぶるという戦法だったのだが、ぶっちゃけ二名ほど役立たずである。
空気の球が破れ少しでも水に触れると、操られるため危険極まりないのだが、そこで出たのが才人の答えだ。

「水の精霊と交渉するって事?でも誰が?」
「……モンモランシーなら」
そう言うルイズだが、声は暗い。
原因は、やはり『アレ』にあるのだろう。
知らない才人は「なら、早く行こう」的な態度だったが、知ってるキュルケはちと不安げである。
「あー…頼み辛いのは知ってるから無理しなくてもいいわよ。あたしとタバサで倒せばいいんだし」
「頼み辛いって、喧嘩でもしてんのか?」
「…シルフィード借りるわ。すぐ戻るから」
そう言うとルイズと才人を乗せたシルフィードが学院へと飛び立っていった。

「嫌よ、なんでわたしがそんな事しなくちゃいけないのよ」
もう爽やかさすら感じられる即答である。
「なんでだよモンモン」
「誰がモンモンよ!」
「やっぱりまだギーシュの事…」
「ギーシュ?誰だそりゃ」
その疑問に答える者は居ないが、何となく非常に気まずいという事は分かる。
しばらく黙っていたが、モンモンが少しからかい気味に条件を出してきた。
「…そうね、ここで土下座でもしてくれればやってあげてもいいわ」
「土下座!?いくら喧嘩してるからってそこまでさせることないだろ!」
「これは、わたしとルイズの問題よ」
才人の抗議を、その一言で押し止めルイズを見る。
少し震えてるようだったが、まぁ想定内だ。
モンモン自身、あのルイズがそんな事できるわけがないッ!x4と思っていたからだ。

(次は、怒りながら杖を出してくるってとこかしらね)
だが、違った。床に膝を付いている。やる気だ、こいつは焼き土下座でもするという目だッ!
そう思ったか知らないが、才人が止めに入った。
「や、止めろって!そんな似合わないことするなんて、お前らしくないって!」
「いいの!わたしがこうしたいんだもん!」
「あーーーもう!土下座なら俺の方が得意だろ!俺が代わってやる!」
得意とか不得手とかそういう問題ではないだろうが、そんなテンパり気味の二人を見てモンモンが呆れたように言い放った。
「分かったわよ、行けばいいんでしょ行けば」
「でもまだわたし…」
「ホントは最初から分かってたのよ…仕方ないって。あんなのに決闘挑んだんだから」
「じゃあなんで土下座なんてさせようとしたんだ?」
「『覚悟』…っていうのを見てみたかったってとこね。ホントにするとは思わなかったけど」
「じゃあ、解決したんだな。ならラグドリアン湖に戻ろう。ルイズ、モンモン」
「だから……モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ」
「長い。やっぱモンモンだな」
「やっぱり行くの止めようかしら」
「ごめん、だから行こう。な?」
三人がシルフードに乗り空に浮くとモンモランシーが小さく呟くように言った。
「これが、さよならを言うわたしよ、ギーシュ」
シルフィードが飛び立った後、その場所に薔薇の花びらが7枚舞った。

そして再び、森だが
「っぁ…ハァーーー…ハァーーー…クソが…」
もう一人も直で老化させたのだが、さっきのと同じように枯れ果ててはいるが、まだそいつらは動こうとしていた。
息が荒いのは珍しく我を忘れていたからだろう。
老化させて脆くなった骨をヘシ折ってもすぐ治るわで死なないのだ。
「ハァー…どうなってやがんだよこいつは」
一度息を大きく吐き出すと冷静さを取り戻したが、やはり胸糞が悪い。
老化が継続している限り危害は無いだろうが、正直言うとキモイ。
なにより、一刻も早くカタを付けたかった。
「……燃やすか」
ここまで来るとゾンビ扱いだ。となると燃やすのが一番手っ取り早いと判断した。
念のために老化させた草を集め、持ち込んだライターで火を付ける。
水分なぞ、ほとんど飛んでいる敵と草だ。非常によく燃える。
まぁだからこそ、まだ動こうとしている事がありえないのだが。
燃え尽きた死体を見て忌々しげに呟く。
「ギアッチョが居りゃあな…」
ホワイト・アルバムなら、絶対零度で凍結させ粉微塵に砕くことができる。
そんな事を考えていると、聞きなれた音が聞こえてきた。
「…あいつらも来たのか」
遠目だが、街道を低空飛行するシルフィードが目に入った。
森に入って死体を焼却処分していたため気付かれる事は無いだろうが、一応木の影に身を隠しながら高速で移動しているシルフィードを見送る。
「あれなら、すぐ追いつくだろうが…オレも行った方が良さそうだな」
老化で一度足を止めさせ直を叩き込んだ自分でもこれだ。ルイズ達だけだと、危ないかもしれんと判断し後を追う事にした。

10分程バイツァ・ダスト
「アンドバリの指輪でウェールズ皇太子を蘇らせて姫様をさらうなんて…
  やっぱり、あの時似てるって思ったのは気のせいなんかじゃなかったんだわ!」
「実は生きてたんじゃねぇの?」
「そりゃねぇな相棒。兄貴が完全に死んでるって言ってたし、城の中に敵が雪崩れ込んできたしな」
アルビオン以降にやってきて状況を知らない才人にデルフリンガーがカタカタと音を出しながら説明をしている。
万が一生きていたとしても、あれだけの敵が雪崩れ込んできたのなら、確実に首を取られるはずだ。
「銃士隊の人たち…大丈夫かしら…」
モンモランシーを連れてくればよかったと思ったが、無理言って水の精霊を呼んでもらったのだ。戦いになるかもしれないのにこれ以上巻き込みたくなかった。
「…見つけた」
シルフィードの目を通してタバサが、前を走る三頭の馬を見つけ馬の前にシルフィードを出した。
「ウェールズ皇太子!」
ルイズが叫び驚愕する。やはりウェールズだった。
才人はウェールズを知らないが、そのやり口が気に入らなかった。
ウェールズ自身にではなく、指輪を盗み偽りの命を与え、意のままに操っているクロムウェルが。
「あんたはもう死んでるんだろ!?姫様を返せ!」
「初めて見るが、君は誰かな?」
「平賀才人。ルイズの使い魔だよ」
「おや…ミス・ヴァリエールの使い魔は…確かプロシュートというんじゃなかったのかな?」
「どうでもいいだろ、そんな事!」
その叫ぶような声に対してウェールズは微笑を崩さない。
「返せと言ったね。それはできない。彼女は彼女の意思で、僕に付き従っているのだ」
「姫様!こちらにいらしてください!そのウェールズ皇太子は、アンドバリの指輪を持つクロムウェルによって偽りの生命を与えられた皇太子の亡霊です!」
ウェールズの後ろからガウン姿のアンリエッタが現れルイズが叫ぶが、アンリエッタは唇を噛み締めたまま動かない。
「そんな…姫様…」
「見てのとおりさ。さて…取引といこうじゃあないか」

「さて…面倒な事になってやがんな。こいつは」
ウェールズ達から離れる事、約5メートル。追いついたプロシュートが森の中の大木に背を預け立っていた。
もちろん、ルイズ達からは見えない方にだ。
気配を消しながら観察していた時、ルイズ達以外に見知った顔を見つけた
「それにしても、あの時のマンモーニが、オレの後継いで『ガンダルーヴ』ってのになってるたぁな」
顔を確認してあのマンモーニと判断したのだが、とりあえず傍観する事に決めた。
ウェールズが取引という言葉を吐いたからには、今すぐにどうこうあるまいと判断したからだ。

「取引だって?」
「そうだ。ここで君達とやりあっては馬を失う事になってしまうかもしれないからね。そうなっては道中危険だし、魔法も温存したい」
その瞬間タバサが問答無用で『ウィンディ・アイシクル』を叩き込んだ。
『ブッ殺すと心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!!』と言う声が聞こえそうなぐらい躊躇が無い。
何本もの氷の槍がウェールズを貫いたが、倒れず傷口が塞がっていく。
「無駄だよ。無駄無駄、君達の攻撃では、僕を傷つける事はできない」
「見たでしょう!それは皇太子じゃない!別のなにかなのよ姫様!」
傷が塞がる光景を見て顔色を変えたアンリエッタだが、左右に首を振り苦しそうな声を出した。
「お願いよ…ルイズ。杖をおさめて…わたし達を行かせてちょうだい」
「姫様!それは『アンドバリの指輪』でクロムウェルに操られているだけなんです!」
喉が裂けんばかりにルイズが叫んだが、アンリエッタは鬼気迫るような笑みを浮かべている。
「そんな事は知ってるわ。百も承知よ…でも、それでも構わない!ルイズ、あなたは人を好きになったことがないのね。
   本気で好きになったら、何もかもを捨ててもついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ。
  わたしは、水の精霊の前で誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズ様に変わらぬ愛を誓います』と。だから行かせてルイズ。わたしからの最後の命令よ」
アンリエッタの決心の固さに負けたのかルイズが杖を降ろし一同がそれを呆然と見送ろうとし、唯一の生者を含んだ死者の一行がその先へと進もうとしていた。

木の影でそれを見ていたプロシュートが、ゆっくりとグレイトフル・デッドを発現させる。
さらに近付き、距離にして4メートル。不意を突き直をぶち込むには十分すぎる距離。
バレちまうが、この際仕方ないとしたのだが、不意にそれを中断する。
ウェールズ達が進もうとする先に、デルフリンガーを構えたマンモーニが居たからだ。

「姫様…悪いけど言わせて貰うよ。俺は生きてる頃の皇太子様とも会った事が無いし、恋も、愛も知らない。
  ルイズを今まで助けてきたのだって、俺じゃない。でも、そんなのが愛じゃないって事ぐらいは分かるんだよ!」
「これは命令よ…どきなさい!」
全身を震わせながら叫ぶ才人と、精一杯の威厳を振り絞りアンリエッタの叫びが重なる。
「あいにく、俺はあんたの部下でもなんでもねぇ。
   俺はルイズの使い魔だ。使い魔は主人の命令しかきかないんだよ。どうしても行くって言うんなら……仕方ねぇ。俺はあんたをたたっ斬る!」

それを聞くとグレイトフル・デッドを引っ込め木に背中を預け目を閉じた。
「マジにあいつ、あそこでオレに土下座してたやつか?ま…しばらくはオメーに任せてやるよ、しばらくはな…」
もちろん、最後の最後に危なくなれば出ていくつもりだったが、どんなヤツかという事も見てみたくなったからだ。
目を閉じていると、魔法が飛び交う音が聞こえてくる。
キュルケが炎が効く事に気付いたようだが、天から一滴、水が落ちてきた。
「不味いな…」
雨が降れば火の威力が削がれる。魔法がそれに当てはまるかどうかは知らないが、とにかく不味いと判断した。
木の下にいるだけあって、そう濡れてはいないが、街道で戦っている方は、本降りになった雨をモロに受けている。

「杖を捨てて!あなたたちを殺したくない!雨の中では『水』には勝てはしないわ!」
「…そうなんか?」
アンリエッタの勝ち誇ったような叫びを聞き、才人がウェールズ以外の死者を焼き払ったキュルケに尋ねたが、『やれやれだぜ』と言わんばかりに肯定された。
「こんなに雨が降ってちゃ、あたしの『炎』も水の壁に遮られるわね。タバサの壁と、あなたの剣じゃ傷を付ける事もできないし…打ち止め。負け!」
「しかたないわ…逃げましょう。ここで、あんたたちを死なすわけにはいかないもの」
皆が逃げようとするが、才人だけはそこに留まっていた。

「なにやってるの!勝ち目無いんだから、逃げないと!」
「なぁ…デルフから聞いただけなんだけど、プロシュートってやつは逃げたのか?」
「どうでもいいじゃない!そんな事!!」
「ニューカッスルってとこでも、死にそうになりながらでも敵に向かっていったんだろ?」
「そりゃな、『一度敵のノドに食らい付いたら、なにがあろうと離したりしない』ってのを地で行くのが兄貴だったし」
「じゃあ俺もそうする」
それを聞いてルイズが絶句した。
(あの馬鹿ハムッ!居なくなったのに妙なとこで影響ださないでよ!!)
心底そう思うが、言う相手が居ないのでどうしようもない。
「あんたとあいつは違うの!だから逃げる!命令よ!」
「違うって、何が違うんだよ。お前を守ってたんだろ?だから俺もお前を守ってやる」
本物のド平民の才人と現役暗殺者でスタンド使いだから違うという事だったが、妙にプロシュートに対抗意識を燃やしている才人は気付く術は無い。
ちなみに、プロシュートからは『守る』とか言われた事はないので直接才人に言われた分、ルイズの心拍数は上がっている。
無駄にルーンが光出すと、デルフが間の抜けた声をあげた。

「あー、わり、忘れてた。あいつ、随分と懐かしい魔法で動いてやがんなぁ」
「はい?」
「いや相棒、マジごめん。でも俺が思い出した。
  あいつらと俺とは根っこは同じとこで動いてんのさ。『先住』の魔法ってやつでさ。ブリミルもあれにゃあ苦労したぜ」
「言いたい事があるなら、ハッキリ言いなさい!役立たずね!」
「役立たずはどっちだよ…バカの一つ覚えみてーに『エクスプロージョン』ばっか連発じゃねぇか
  そいつは強力だが、精神力を激しく消耗する。この前みたいなデカイのなんて兄貴でもない限り、一年に一度撃てる撃てねぇかだ」
「じゃあどーすんのよ!」
「ブリミルが対策練ってるはずだぜ。祈祷書のページをめくってみな」
ルイズが祈祷書をめくると、新たに文字が書かれたページを見つ文字を読み上げる。
「…ディスペル・マジック?」
「そいつだ。『解除』魔法。それならアンドバリの指輪の効果も消えるはずさ」

逃げ出さないルイズ達を見て、アンリエッタが悲しげに首を振ったが顔をあげ呪文を唱える。
「これ以上…行く手を阻むなら…!」
「愛している。アンリエッタ」
その言葉とウェールズの笑みを見ると、アンリエッタの心が熱く潤む。
僅かに頷くと、二人が同時に詠唱を始めた。
『水』『水』『水』そして『風』『風』『風』。
水と風の六乗。
通常ならトライアングル同士といえど、このように魔法を重ねるなどほとんどできはしないが、選ばれし王家の血が可能にする。
王家のみに許されたヘクサゴン・スペル。その圧倒的破壊空間は、まさに歯車的水竜巻の小宇宙ッ!

謳うようなルイズの詠唱を聞き勇気が沸いてきた才人だったが、デルフリンガーがヤバそうに呟く。
「やっべぇなぁ。やっぱ向こうが先みてぇだ」
慌てたキュルケがウェールズとアンリエッタに炎を放ったが、全て二人の周りを回る水竜巻によって掻き消され水蒸気を出している。
「…どうしようか」
勇気は沸いていたが、さすがにどんどん膨らんでいく水竜巻を見て、その言葉が出た。
「どうするもなにも、あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ。ガンダールヴ」
「俺かぁ…でも不思議だ。あんなでっかい竜巻だってのにちっとも怖くねぇ」
「詠唱中の主人を守るのがガンダールヴなんだからな。相棒の仕事はそれだけだ
  主人の詠唱を聞いて力がみなぎるってのは、母親の笑い声を聞いて赤んぼが笑うのと同じで、そういう風にできてんのさ」
「簡単でいいな。…プロシュートってやつもそうだったのか?」
「…あー、いや。兄貴は…どうだろうな。まぁいいか。任せた」
使われていたデルフリンガーすら分からない。なにせ攻撃が最大の防御を地で行くあのギャングである。とてもじゃないが想像できなかった。
「楽勝だ。俺は虚無の使い魔だぜ」
そう言うと竜巻を迎え撃つべく向き直ったが、デルフリンガーが少し異変に気付いた。
「お…見ろよ、何か竜巻の大きさが小さくなったみたいだぜ」
「本当だな」

ヘクサゴン・スペルの詠唱を行っていたアンリエッタが、僅かだが、ウェールズとの詠唱が合わなくなっている事を感じていた。
(そんな…どうして…!)
体のあちこち、特に関節が痛くなり、疲れが出てくる。
まるで、極限まで無理をして魔法を使った後のような感じの疲れだ。
二人の呪文が完成し、水竜巻が放たれたが、本来の威力とは程遠いものだ。

才人がその前に出てデルフリンガーで受け止めた。
「これなら…なんとかなりそうだぜ相棒」
デルフリンガーを中心にして水竜巻が回転する。
飲み込まれそうになるが足を踏ん張り耐えていると、デルフリンガーが水竜巻を全て飲み込んだ。
「ごちそーさん」
「お前、ホント伝説なんだな」
「あたぼーよ」
そうこうしていると、ルイズが詠唱を完了させたのか、後ろから『ディスペル・マジック』を叩き込んだ。

アンリエッタの周りに、眩い光が輝きウェールズが崩れ落ちる。
それに駆け寄ろうとしたアンリエッタだったが、不完全だったとはいえヘクサゴン・スペルを使った精神力の消耗と謎の疲労のおかげで意識を失い地面に倒れた。
だが、倒れ意識を失う瞬間に、その謎の疲労は霞のように消えてく事を感じていた。

「ふん…オレの老化に巻き込まれてそれだけで済んだなんざ、運の良いヤツだぜ」
ヘクサゴン・スペルは選ばれし王家の血を持ち、息が合わねば不可能だ。
広域老化を発動させたのは、キュルケが二人に向け炎を放ち、それが二人の周りを回る水竜巻に掻き消された時。
「水蒸気がある分、蒸し暑いだろーからよ」
夜、しかも雨が降っている状態では、体は当然冷えて広域老化の効きは非常に悪い。
だが、キュルケが放った炎の熱量は相当なものだ。掻き消されたとはいえ、それなりの水を蒸発させ水蒸気を発生させる。
もちろん、その湿度を伴った温度がダイレクトに届くわけではないが、ほんの少しアンリエッタの体温を上げるには十分だった。

しばらくしていると、アンリエッタが目を覚ました。
冷たくなり、転がっているウェールズを見て悪夢から覚め正気に戻ったらしい。
「わたくし…なんてことをしてしまったのかしら…」
「目が…覚めましたか?」
両手で顔を覆っているアンリエッタに、いつもの感じの声で問うた。
「なんと言ってあなたに謝ればいいの…?わたくしのために傷付いた人々になんと言って赦しを請えばいいの?教えてちょうだいルイズ…」
「謝るのは後ですよ姫様。向こうで銃士隊の人が沢山倒れてるんです。早く助けないと手遅れになっちまう」
特に、一人離れていた場所で気絶していた人なぞ、早く手当てしないと本当に死んでしまうかもしれなかったからだ。
「そうだわ…アニエスにもひどい事をしてしまったわね…」
ウェールズの死体を木陰に運ぶと、銃士隊の面々が倒れている場所へと戻っていった。

見えなくなると木の後ろに居たプロシュートが出てくる。
こっちに持ち込んできたタバコを咥え火を付けた。
「…ちッ!」
だが、タバコは完全に水に濡れていて火は付かない。
本来、吸う事は滅多に無いが、そうさせたのは心の奥底に沸き立つドス黒い感情からだろう。

(何時以来だったかな…こんだけムカついてんのはよ)
少し考えたが、思い出した。
というより、あまり思い出したくなかったので忘れようとしていただけかもしれない。
「ソルベとジェラートの時…か」
ジェラートが猿轡を飲み込み死に、ホルマリン漬けにされた輪切りのソルベが送られてきた時。
あの時も、今のようなドス黒い感情が湧き出ていた。
殺すだけではなく、その死体すら利用するボスのやり口を見た時と同じだ。
誇りも何もあったもんではない。
暗殺チームに属しているからには、常に死ぬという事を覚悟してやってきているが、その覚悟している死すらも踏みにじるような行為を見た時だ。

あの時は、ギアッチョが今にも飛び出しそうな勢いだった。
リゾットが何時もと同じ、冷静さを保った顔で抑えていたが、それにギアッチョが反発していた。
「腑抜けやがったのかてめーはッ!?仲間が殺されてんだぞ!オレ達は暗殺チームだろーが!『恩には恩を仇には仇を』が、あんたの流儀だったんじゃあねーのかよ!」
もちろん、今動けば何もできないという事は理解していたが、このドス黒い感情からプロシュートも一瞬だが、ギアッチョに賛同しかけた。
「抑えろ…今、行動を起こせば。オレ達はボスに近付く事すらできない…耐えろ…仇は…必ず返す…!」
だが、続くリゾットの言葉に、そのドス黒い感情が四散した。
言葉だけなら、そうならなかっただろうが、リゾットの肩からカミソリが飛び出し血を流していたからだ。
リゾットは常に感情を抑え、一定の態度を保ち続けている。冷徹と思われてるかもしれないが、実際のところそうではない。
チーム1の苦労人でもあるが、チーム1諦めが悪い男でもあるからだ。
メタリカが暴走しかけているのにリゾットは冷静さを保ち、チームを纏めようとしている。
そんな姿を見たからこそ、そのドス黒い感情を抑えた。

だが、この感情はその時の物を遥かに上回る。
死体を利用するという点では同じだが、死体だけではなく、精神…魂すらも踏みにじっている。
ウェールズの肩を掴んだときに感じた冷たいものは、多分そのせいだろう。

仮定の話として、リゾットやメローネ…チームの仲間が、偽りの精神だけ与えられていればどうするか。
決まっている。速やかにブチ殺し、そんなナメた真似したやつに生まれてきたことを後悔させるような方法で殺す。それだけだ。

そんな事を思いながらウェールズの死体に近付いたのだが…。
「やぁ…どこかで見たと思ったら…やはり君だったのか」
「…ッ!」
まだ動くか。そう判断し直を叩き込もうとしたが、着ている白いシャツに赤い染みが広がるのを見て止めた。血が流れ出ると言う事の答えは一つだ。
「…手間かけさせやがって。やっと戻ってきたみてーだな」
「ヘクサゴン・スペルの最中にアンリエッタの息が合わなくなったのは君の力なんだろう?…おかげで、アンリエッタが誰も傷つけずに済んだ…」
「ハ…ッ!てめーは思いっきりやっといてそれか?ナメた口利いてんじゃねぇ」
「はは…耳が痛いな…最後に一つ頼みがある」
「死人の分際でなに贅沢抜かしてやがる」
「アンリエッタを赦してやって欲しい…彼女は悪い夢を見ていただけなんだ。ウェールズ・デューダーという仮初の悪夢を」
「オメー1人の責任だって事か?確かにオメーがそそのかしたみたいなもんだからな……だが断る」
「…!?」
「赦す?ナメんな。一発言ってやらなきゃあ分かるモンも分かんねーんだよ。同じ事やらかしたら、次なんてねーんだからな…」
ギャングの…特に暗殺の世界において、二度目というのは、ほぼ無いと言っても等しい。
だからこそ、一度失敗をした時には、それを教訓として心に刻まねばならない。
ペッシをブン殴っていたのもそれが理由だ。だからこそ、その言葉には重みがある。
「そうか…なら言い直すとしよう。君にもアンリエッタを頼みたい」
「暇がありゃあな…で、どうすんだ?これ以上利用されねーようにしてやってもいいが」
そう言うと手を翳す、老化させれば利用することもできないだろうと思ったからだ。

「それはアンリエッタに頼むとするよ。君には改めて礼を言わせて貰う。ありがとう…」
「死人の礼なんざオレの耳には聞こえねーよ」
踵を返しウェールズの元を離れる。そうすると銃士隊の治療を終えた一行が戻ってきた。

正直言えば、アンリエッタに蹴り入れて説教したいとこだったが、例のドス黒い感情が上回っておりそれはしなかった。
「クロムウェルだったな…」
言われていた名前を反復する。
これからどうするかと思っていたが、一つの結論に達してドス黒い感覚が一気に消え去った。
何のことは無い。いつもやっていた事をやるだけだ。つまるとこ暗殺を。
そう結論付けると、侵攻が起こった時どうするかと考えていた事がバカらしく思えてきた。
ルイズが行きたいというのなら行かせてやればいい。マンモーニだが、そこそこ根性のある使い魔も居るようだ。ならオレは勝手に得意な事をやらせてもらう。
いっその事、干からびたクロムウェルとかいうヤツの死体をアンリエッタに投げつけてやるというのもいいかもしれないと思った程だ。
もちろん、暗殺である以上は、これまでどおり姿を隠し情報を集めるなどをしておかねばならないが。
しばらくすると、ウェールズを乗せたシルフィードがどこかに向かって飛び立ち、木の影からそれを見送る。
「オメーに言うのは二回目だったな……アリーヴェ・デルチ」
いつの間にか巨大な雨雲は去り、二つの月が森を照らしていた。

プロシュート兄貴―暗殺執行前、潜伏進行中
ルイズ&才人―進んだような進まないようなそんな微妙な感じ。
ギーシュ―ようこそ…思い出の世界へ…


戻る<         目次         続く

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー