ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

slave sleep~使い魔が来る-16

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匿名ユーザー

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アヌビス神②

これまでのあらすじ。

ブチャラティ、イルルクゥ(=シルフィード。以下本編以外きゅいきゅいで統一)
   →ゴロツキから逃走中、同行中の金髪の青年の名がウェールズと判明。

キュルケ
   →『アヌビス神』のスタンドによって操られたタバサと戦闘中。
     たまたま居合わせたホル・ホースが巻き込まれた。
ルイズ
   →城下町を一人遭難中。財布、ブチャラティの『ジッパー』で体内に。取り出せない。

次より本編スタート。

トリスタニアの城下町は今、二つの事件が壮大なハーモニーを奏でるかのように
その空気を大きく震わせ、町中に及ぶ大規模な混乱を起こしていた。

キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは
帝政ゲルマニアの旧家であるツェルプストー家の娘として生まれた。

トリステインに来る前は帝政ゲルマニアのヴィンドボナ魔法学校に通っていたが、
ちょっとした事件がきっかけでこの学校を『中退』することになった。
しかし中退した後は親が縁談を執拗に勧めて来るようになり、嫌気がさしたキュルケは
退学した自分の唯一の逃げ道であり親の手が伸びてこない外国のトリステイン魔法学院に『留学』した。
彼女は昔から己の情熱の赴くままに行動する女だった。子供のころから欲しい物があれば力ずくで奪ってきたし、
他人に文句を言われようものなら得意の『炎』で黙らせた。
(実はそれが退学に繋がる事件の原因だったのだが…。)
トリステインに留学した後もキュルケは自分の我を通し、多くの男子の心を虜にしては
その恋人にあたる女子からは忌み嫌われ続けた。
「自分の恋人を取るのが許せない?だったらどうして自分の部屋に閉じ込めておかないの?
そんなに大事ならそれくらいするべきだわ。」
「あなたたちからは恋人を繋ぎとめておこうと言う努力が感じられない。だから彼らは私の元に
集まってくるのよ。」
「本当に一番大事ならすでに私の首から上は飛んでなくなってしまっているはずだもの。
本当に一番大切な物だったら私だって取ろうとはしない。私だってまだ生きていたいもの。
本当に一番大事な物を奪うときは私は杖を、命を賭ける。それくらいの『覚悟』で挑むわ。本当に一番大事なら。」
彼女は大抵嫉妬して突っかかってきた女子にはそう言ってあしらっていた。
そんな強引で唯我独尊な彼女だから仲のいい友人なんてまったくできず、彼女も孤独でも別にいいと考えていた。

そんな時に彼女はタバサと出会った。

タバサもまたキュルケとはまた違った理由で孤独だった。
強引で周りから野蛮扱いされ、奪い取った恋人の数は今まで食べたパンの数のように分からない
『色狂い』女とまで言われたキュルケに対し、タバサはまるでしゃべらない。まるで人を寄せ付けない
氷のようなオーラを纏っていたようだった。
入学式で始めて会った時はお互いいい印象を持たなかったが、ド・ロレーヌたちの策略で決闘騒ぎを起こした時、
お互いの実力と誤解がわかり、キュルケが仕返ししてからはタバサとは親友同然の仲になったがそれはまた別の話である。

キュルケとタバサは本当に正反対な性質の人間だった。だからこそ惹かれあったのだろうか。
何より彼女たちはお互いに余計な詮索をしたりしない。タバサはそのあまり開かれることのない
口によって、キュルケは年長の気配りで。お互いがお互いを気に入り、
日を追うごとに彼女たちの仲はどんどん親密になっていった。

だが、キュルケはある夜タバサの知らなかった一面を見ることになる。
それは月明かりの綺麗な夜。キュルケはいつものように男たちを弄んで部屋に戻ろうと
していた時に見た。
満月にはまだ早かったが、キュルケの目が空を舞う『それ』を見つけるには十分な月明かりだった。
「風竜…。シルフィードだわ。タバサったらこんな時間までどこにでかけてたのかしら。」
そう思ったときキュルケは思い出した。タバサは先日誰かから呼び出しを食らって飛んでいったきり
しばらく姿を見せてなかった事を。
少し疑問に思いながら、足はタバサの飛んでいく方向に向かう。

タバサの着地した地点から後を追い続けていると廊下でタバサは止まる。
キュルケが慌てて物陰に隠れて様子をうかがうとタバサは窓の外を見ている。
月を見ているのだろうと素直に思った。今日の月明かりはそれほど綺麗だ。
だがキュルケは目をこらしてみて、様子がおかしいことに気付いた。
物思いに耽っているように見えたタバサの顔が月明かりに照らされた時に
タバサの目からひとすじの涙が浮かんでいたことがわかったのだ。

声はあげない。まるで自分にこれ以上泣いてはいけないと無理強いをするように。
「タバサ…?どうしたの?」
気がついたらキュルケは近寄って身を案じていた。直情的で口より先に手が出る彼女には目の前で
親友が涙を流している所をほおって置ける器用さはない。
「いい。なんでもない。」
だがタバサはそんなキュルケの差し伸べた手を払った。
「でも…。涙を流しておいて何もないって事は…。」
「目にゴミが入っただけ。」
嘘だ。そんな涙かどうかくらいキュルケにはすぐわかる。
「本当に、なんでもない…。」
そのよそよそしい様子でわかった。ああ、わけありなんだなと。
例のタバサの訳ありな事情が関係してる以上これ以上深入りしても彼女は自分を拒絶するだろう。
一体、あの涙はなぜ流れたのだろう。なぜあの子は傷ついているのだろう。
理由を聞いても彼女は口を閉ざすだろう。きっと彼女の触れてはいけない所の問題なのだろう。
キュルケは悔しかった。あんな小さな子に一体どんな重荷を誰が背負わせたのだろう。
そして誓った。これは確かに彼女の問題だ。私が首を突っ込むべき問題ではない。
だがいずれはこの私が。彼女が助けを求めたとき、誰よりも私があの子の力になろうと。
私の唯一の親友を絶対に助けようと誓った。

『ウインディ・アイシクル』をすんでのところで交わしたキュルケをあざ笑うかのようにタバサが見据えている。
「なるほどな。メイジを操るとその魔法まで使用可能ってわけか。」
タバサの体で『アヌビス神』が感心したように操った体を見る。
いつものタバサと比べて明らかに表情豊かなのにその目には一点の光もない。
「こいつの魔力ってやつはどうやらメイジのなかでも優秀のようだな。
それに加えおれの能力。こいつはいい体をいただいたぜ!」
キュルケは目の前の現状に打ちのめされていた。
あ、ありのままに今起こったことを話すわ!
『私はタバサと一緒に武器やで買い物をしていると思ったら
突然タバサが刀剣に操られて襲ってきた。』
な…何を言ってるのか わからないと思うけど私も何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…。
薬物中毒だとか過去の仇敵だとかそんなチャチなものじゃあ断じてない…
もっと恐ろしい精神操作の片鱗を味わったわ…。
といった具合で混乱している。
「さて、こいつの記憶から見たところお前の実力もトライアングルだそうだな。
いい感じだ。12年ぶりのウォーミングアップにはちょうどいいぜ。」
タバサが刀と杖を構えキュルケに飛び掛る。

「まず腕ごなしにお前の命、もらいうけるッ!!」

「で?なんで偶然通りかかっただけの僕がお前の買い物に付き合わないといけないんだ?ギーシュ。」
意気揚々と歩くギーシュの後ろでマリコルヌがカメムシを噛み潰したような顔でぶつくさ言う。
両手には綺麗にラッピングされたプレゼントが大量に抱えられている。
そして負けず劣らずの量のプレゼントを持ったギーシュが
「いいじゃあないか。君と僕の仲だろう?後で礼ははずむよ。」
「礼?へえ礼ね。何さ?」
「えっと…。そのへんで昼食おごるよ…。」
ギーシュが遠慮がちに言うとマリコルヌが急に笑顔で答える。
「ハハハ。昼食かあ。まさに僕にうってつけの礼って奴だね。ハッハッハッハ!!」
「ア…ハハハハハハハ・・・・。」
「ハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!『エア・ハンマー』。」
ドゴォッ!!
呪文と同時にギーシュの体が吹っ飛んだッ!!
「ぐっ、ゴホッゴホッ!!何をするマリコルヌッ!!」
「調子にのるなよギーシュ!いい加減我慢の限界だ。」
ギーシュの神経を背中に表面の濡れた氷を滑らせたような感覚が走るッ!!
(こいつのこの目は…!うおおお!この目はやばいッ!!)
「もてないっぷりで張り合えば負けなどないとまで言われたこの僕が何が悲しくて女性向けの
プレゼントの荷物もちをやらされなきゃあいけないんだ?FROMの欄に全部お前の名が表示されてるこのプレゼントをよぉ!?」
マリコルヌの目がまさに十年は修羅場をくぐり続けてきた男のような目になる。ヤバイ。マジでヤバイ。
今の奴ならコンマ5秒で十人は殺せる。その際終わった後で「ぶっ殺す!!…あ、終わってた。」と言うであろうほどにッ!!
この男の危険性がぐんぐんあがっているッ!!
「今決めたぞギーシュ!!これから僕はおまえを『エア・カッター』でバラバラに切り刻むッ!!
コンプレックスの塊がキレたらどうなるかを今から
『『エア・カッター』!!』
でその身に教えてやるッ!!」
「・・・・?」
ギーシュは違和感を覚えた。今誰かと台詞がハモらなかったかと。
だがそれは気のせいではなかったことを身をもって知ることになる。
バキィッ!!
まさに不意打ちッ!!すぐ横の建物から本物のカッターが飛んでくるッ!!

「こ、これは!?」
予想だにしていなかった。まるで予想外のタイミングで刃が飛んでくるとはまるで考えてなかった。
「ぼ、僕じゃない…建物から…?ギーシュ?大丈夫かッ!?」
怒りが恐怖で吹き飛んだマリコルヌがギーシュの近くに寄るッ!!
だがギーシュはどうやら無事だったのか、立ち上がる。
だがその服のわき腹に切れ目があった。少々負傷したようだ。
「ギリギリ大丈夫さ…。だが今のはメイジの呪文だぞ?あんな建物の中でトラブルか?」
土煙が晴れた瞬間二人の顔が青ざめた。その二人の顔が見覚えあるものだったからだ。
そして今の衝撃の余波で外に放り出されたホル・ホースは倒れて気絶したふりをしながら考える。
「なんてこった…。先こされちまうとはよぉ…。どうやらテルは無事みてぇだがあの赤毛の子の足元か。遠すぎる。
どうする…?戦うか?いやだめだ。おれのモットーは『ナンバー1よりナンバー2』だ!相棒の力を最大限に引き出して
援護するなりさせるなりして戦うのがおれだ。なにより奴は真正面から戦って勝てる相手じゃあねえんだよなクソッ!
ましてや操られてるのは無関係の女じゃねえか。おれは女だけは絶対に撃たねえ…。」
「君達!!何をやってるんだ!?」
ギーシュがキュルケに駆け寄る。
だがキュルケはすごい剣幕で叫ぶ。
「来ちゃダメッ!!攻撃されるわ!!」

時はすでに遅かった。ギーシュの方向にタバサが飛び掛るッ!!

「君には恐れ入った…。あの殴る瞬間に素早く手配書を奪い取ってたとはね。
抜け目がないというか、なんて大胆なやつなんだろうと言うか…。」
ウェールズがまた「してやられた。」と言った表情で軽く手を上げる。
そんなウェールズを手元の手配書と見比べながらブチャラティは言う。
「おまえは何者だ?これには顔と名前しか書いてないからお前が何なのか全然わからない。
嫌でも答えてもらう。 お前はなんだ?何が目的だ…?」
ウェールズは重々しく口を開く。
「彼らに僕を捕らえるように言ったのはおそらく僕の母国、アルビオンでクーデターを起こした
貴族派の集団『レコン・キスタ』の手のものだろう。」
「『レコン・キスタ』…。」
ブチャラティは頭の中にその名をメモしておく。
「そして彼らが僕を狙うのは僕が『土くれのフーケ』と接触するのを阻止するためさ。」
土くれのフーケ。その名には聞き覚えがあった。
「知ってるの!!」
「うわっ!!」
イルククゥが突然口を挟んできた。
「フーケって言うのは貴族ばっかりを狙う泥棒なのね!お姉さまがおしえてくれた!
いばってばかりの貴族たちの鼻をあかしてやるのが大好きで、犯行現場にはいつも
『お宝は頂戴した フーケ』とかかれたカードがあるって噂があるわ!きゅいきゅい!」
イルククゥはそういいながらまるでマンガの中に出てくるあこがれのヒーローを紹介するような目になっている。
子供かコイツはと思うのも無理はない。彼女はまだ200年しか生きてないのだから。

「それで、天下の大泥棒『土くれのフーケ』を何故お前が追っているのか?そのあたりを聞かせてくれ。」
ブチャラティがそう聞いた。
「『破壊の杖』と呼ばれるマジックアイテムがある。形状、用途は一切不明だが、それを使えばドラゴンやワイバーン
ですら一網打尽にできる威力のある、いわば『兵器』だそうだ。」
ウェールズの顔に汗が滲む。場の空気はまた張り詰めていった。
「フーケの次の狙いはこれだ。そして『レコン・キスタ』はその『破壊の杖』という兵器とフーケと言う人材を狙っている。」
「なん…だと?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・。

「レコン・キスタって言うのは過激な集団でね。僕ら王党派を倒すためならどんな危険な代物だって自分の手中に入れて使おうと考えている。
 そんな危険思想のために僕らだけではなく多くの民の血が流れ続けているんだ。
そんな事をこれ以上許すわけにはいかないんだ。なんとしてでも奴らより先にフーケに接触し、破壊の杖を確保するッ!!」
破壊の杖。ドラゴンやワイバーンですら一網打尽にできる兵器。
どんな代物か知らないがレコン・キスタはスタンド使いの配下の他にそんな兵器を手にしようとしている。
レコン・キスタは目的のために周りの無関係な人間すら平気で苦しめる。
頭の中でブチャラティは残酷な答えを叩き出す。そしてそれを尻目にイルルクゥはそれまでフーケがこの近くにいると言う事を今すぐタバサに教えようと、まるで偶然空に架かった虹を早く親に見せたいといった感じの子供のように無邪気な表情を青白く、不安げな顔に歪ませていた。
「お姉さま…?どうしてお返事してくれないの…?勝手に遊びに行っちゃったのは謝るから返事して…?」
彼女は使い魔の感覚共有の能力でタバサと会話しようとしたのだ。フーケの話を聞いてタバサに後で叱られるのは頭から飛んでいたのだろうか。だがそのタバサの声が聞こえない。タバサに何かあったようなのだ。
「お姉さま…。どうして声が聞こえない…?きゅい…。」

「そこで頼みがあるんだ、えっと…。君の名は?」
「ブローノ・ブチャラティだ。」
「そうか。ブチャラティ。その高い実力、僕らが今脅威とすらしている『スタンド使い』であり、それ相応のスタンドの知識を見込んで頼みがある。」
「頼み?」
ウェールズは今日一番の真剣さを持って言う。
「どうか、僕らアルビオン軍に協力してほしい。何も前線で戦ってほしいわけじゃあない。
まずフーケの捜索。後はスタンドの知識を僕らに分けてほしい。」
「・・・・・・・。」
「どうか引き受けてほしい。僕はこの戦争をなんとしても終わらせたいんだ…!」
ブチャラティは考え込んだ。昨日今日会ったばかりの奴に易々と協力していいものだろうか?
その男に話したことで自分に不利な状況に追いこまれないという保障はどこにもない。
だが彼の戦争を終わらせたいと言う意思は、アルビオンの人間を救いたいと言う意思にウソは無かった。
ウソは言っていない皮膚と汗だ。
結果がどうなろうとその意思が本物だと言うのなら…。

「わかった。協力しよう。」

そう答えるのがブローノ・ブチャラティと言う人間だった。

「ひとまずここを離れよう。この町の中心にある広場で共に捜索してた仲間の隊とあと30分したら落ちあう約束になっている。」
「30分…わかった。だがその前に協力してほしいことがある。この町にオレの…。」
「見つけたぞッ!!!」
不意に、男の声が聞こえた。
「どこにいたズラ!?」
「そこの角に隠れてたぜ!フクロにしちまえッ!!」
「まずいッ!!ここはもう限界だ!早く逃げなくてはッ!!」
だがウェールズが焦るのをよそにブチャラティは追い詰められた壁を叩く。
「この壁の向こうはどこかに通じているようだな。」
ガツン!と音がしたところにジッパーが発現する。
「ウェールズ!イルククゥ!この穴から逃げるぞッ!!」

「いないズラ!どういうことズラ!?」
すでに誰もいない袋小路に小隊の先頭に立ってた男をズラズラ口調の男が胸倉を掴む。
「確かにここにいたんだッ!!魔法かなんかで姿を消したにちがいねえハズさッ!!」
「ふん。確かにこのかべの向こうは裏通りに通じてるが…。」
壁を叩いて壁が薄いのを確かめる。そして上を向いて壁をのぼるのは難しい事を確認する。
「どうやらこの壁の向こうに行ったみたいズラ。『フライ』で飛んだか…。」
男は髪の毛を抜き壁に指す。そしてレバーを操作するようにガチャガチャと動かすと四角く綺麗に穴が開いた。
「こうやって穴を開けて逃げたとか。全員突撃ズラッ!!」

「きゅい!まだ追ってきてるのッ!!」
「どこまでも追ってくるな。このままではラチがあかないぞ!」
逃げ続けながら後ろに控えるチンピラグループを睨む。
「手っ取り早いのは…。奴らの親玉を叩く事だな。」
ブチャラティが目の前の分かれ道を見る。
「二手に分かれよう。ウェールズ、左の道を行ってくれ。俺とイルククゥは右に行く。
…30分後に広場でまた会おう。そのときにスタンドについて話すと約束する。」
「わかった。協力感謝する。」
ウェールズと分かれ道で別れると、後ろのグループも二手に分かれて追ってきた。
狙い通り戦力は分散されたのだ。だが。
「あだッ!」
イルククゥが石につまずいてこけた。ブチャラティの目の前に倒れる。
「しっかりしろッ!顔を見られた以上、おまえも立ち止まったら間違いなく殺されるぞッ!!」
「うう…いたいよぉ…。きゅい。」
目の前の曲がり角を曲がった所でもう目と鼻の先に並ばれる。
「そこだズラッ!!」

だがそこには誰もいない。無関係に通行人すらいない。
「また逃げられたズラ!!まだ近くにいる。探せ!奴らをあぶり出すズラ!!」
だがその地点から離れたところでブチャラティたちはジッパーから出てくる。
地面にジッパーを使って潜り、遠くまで逃げたのだ。だがもう死体ではないので息が長続きしないため、あまり長くは持たない手段ではあるが。

「きゅい…ごめんなさい。」
「もういい。心配するな。」
物陰にかくれブチャラティが様子をみながらそう言う。
「えっと、今更だけど…助けてくれてありがとう。きゅい。」
「お前一人を残していくわけにもいかないだろう。お前本当はメイジじゃないんだろ?」
「えっ!?」
イルククゥが驚いた顔を見せる。
「お前の今日一日の行動を見ても俺の知ってる貴族のふるまいとはまるで違う。
そうだろ?魔法を使えないのに置いていくのは少し心苦しくてな。」
ブチャラティの鋭い観察眼に驚きながらもイルククゥは顔を赤くして弁解する。
「ま、魔法は使えるのッ!!」
「!?」
突拍子も無い一言にブチャラティは驚いた。
「魔法…本当は使えるのッ!!」
「…!!じゃあ何で使わないんだ?もっと早く魔法を使って助けてくれてもいいじゃあないか。」
「え!それは、その、杖を忘れて来ちゃったの…。だから、」
「ウソだろ。」
「う、違うわ!違うもん!本当は…。」

ベロンッ!!

「ふみゃッ!!」
焦るイルククゥの頬を伝った汗をブチャラティが舐めた。

「ふ…ふえ…。」
「ほら見ろ。ウソをついている。なんだか知らんがあまり強がるな。」
(そう、杖を忘れてきたのはウソだ。だが・・・・。)
ブチャラティはイルククゥに背を向け考える。
(コイツは『魔法が使える』と言った時はウソをついてなかった。どういうことだ?
杖を忘れたのがウソならなぜ魔法を使わない?…わからない奴だ…。)

ガジッ

「!!」
ブチャラティの耳にイルククゥが噛りついている。
「おい!おまえッ!」
「おかえひッ!ひゅうになめたりしておほろいはんだはらッ!!
(訳:お返しッ!急に舐めたりして驚いたんだからッ!)」
まるで子供だ。とブチャラティは思ったに違いない。
「いいから離せ。」
「や~だ!はなさないんだからッ!きゅい!」
本当に、わからない奴だとブチャラティは思った。

「見つけたズラ!」
すぐそこにさっきの男がいる。
「しまった。とうとう見つかったか!」
「おれをずいぶんなめきってるみたいズラ。ふざけるなよ!
お前らごときこの『鋼線のベック』にかかればお前らごとき簡単に八つ裂きズラ!」
べックは引っ掻き回された事をどうやら怒っているらしい。少し危険な状態だ。
「ど、どうしよう…。きゅい…。」
「やむをえない。一人くらいなら戦って倒すしかないな。」
ブチャラティはデルフリンガーを抜く。
「やった!とうとうオレの出番だッ!さあ思う存分使ってくれよッ!!」

一方。
「あ、危ないところだった…。」
ギーシュのワルキューレが『アヌビス神』の太刀を素早く受ける。
「油断は禁物よギーシュ!!こいつはスタンド使いよッ!!あの刀がタバサを操っている!!」
「ええ!本当かい!?」
タバサの顔で冷酷な表情を浮かべるアヌビス。
「へえ、結構対応がいいじゃねえかよ。土のドットメイジのくせによ。
このゴーレムを見ればすぐわかる。だが大した事はねーよな。」
おもわずムッとするギーシュは杖を真っ直ぐ構える。
「そんなことを言われてはこのギーシュ・ド・グラモン。舐められっぱなしでいるわけにはいかない。
彼女を返してもらおうッ!!」
「やれるもんならやってみなッ!!できるならよぉ~~~ッ!!」
ギーシュの目がマジになるッ!!
「行けッ!!ワルキューレッ!!」
ワルキューレの槍がアヌビスの刃を叩き払った!
そのまま連打に繋げるッ!!
「バカが!こんな単純な手でオレに勝とうなんて、砂糖菓子より甘いぜ!
そしてこのまま青銅のゴーレムなんざバラバラに切り刻んでくれるッ!!!」
熾烈な戦いは続いたッ!!だが時間がかかるごとにアヌビスが刻一刻と押していくッ!!
「ほらほらほらほらほら~~~~~ッ!!そんなスピードでは誰一人かないはしねーぜッ!!」
やがてワルキューレはバラバラに千切れ飛ぶ。だが…。
「『ワルキューレ』もう一体投下ッ!!そして久しぶりの…!」
ギーシュの詠唱とともに杖先に石の粒が一点に集まったッ!!そして!
「石礫だッ!!」
アヌビスに向けてワルキューレより我先にと飛んでいく!!
だがアヌビスはあっさりと避けてしまう。
アヌビスがタバサの口で喋る。
「なかなかのスピードと言ったとこか。だがこれくらいの奴は今まで何度と見てきたから問題は無い。
今の攻撃、確かに覚えたッ!!!」

「『思い込む』と言うことは何よりも『恐ろしい』事だ…。しかも自分の能力や才能を優れたものと過信している時はさらに始末が悪い。言っておくが僕は違うぞ。
全ては己の弱さを認めた時に始まるッ!!」
ガシッ!!
後ろからタバサの両脇をワルキューレがおさえるッ!!
「なんだと!?いつの間に後ろにゴーレム用意したッ!?」
「たった今さッ!!さっきの礫に花びらが貼ってあったのが見えなかったみたいだな。
発射とともに貼り付けておいた花びらからワルキューレを生み出したんだッ!!」
ワルキューレの手がタバサからアヌビスを振り払おうとする。
「レディ相手に本気で暴力を振るうはずがないだろう。刀を手から離せば洗脳も解けるだろう?
真っ向から戦ってもかなわないなら搦め手だッ!!」
だがアヌビスからは余裕さがまるで崩れてない。
「可愛い事をやってくれるじゃあねーかよ ええ?『ギーシュ』。
たしか『ギーシュ』って名前だよな?てめーはよォ~~~。記憶によると
女に弱いすけこまし野郎らしいじゃねーか。」
「なっ、失礼な!僕はグラモン家の人間として紳士的にだな…。」
「『思い込む』と言うことは何よりも『恐ろしい』事だって?なるほど…おまえの言うことは本当に大切な事だ。
おまえはおれをただのあやつるだけの妖刀と『思い込んだ』。」
タバサが刀を自分のほうに向ける。

ズバッ!!

むしろ爽快なくらいいい音を立てタバサは自分の体ごと斬ったッ!!

「何だと!?」
誰もが自分の目を疑っただろう。ワルキューレを自らの体ごと切るなんて誰も考えない。
キュルケは思わず口を押さえる。
「タバサッ!!」
「いや待てッ!!」
マリコルヌが指した先にはワルキューレが横に断たれたのにケロリとしているタバサ。
「こ、これはッ!!」
「遅いぜすけこましがッ!!」
次の瞬間、ギーシュは斬られていた。
音も無く。まるで気付かないうちに。
「うわああああッ!!」
「ギーシュッ!!!」
傷を抑えながらギーシュが考える。
(確かに斬られたのに服は全然斬れてない?奴の能力は…操るだけでなく
刃を透過させる事が出来るのか…?間違いない。こんな掟破りな手を使うのは『スタンド使い』だけだ!
僕自身、後ろに下がってなければ完全に急所をやられていた…!)
ギーシュの手に震えが生じた時だった。

「逃げなさいギーシュ。ここは私がやるわ!」

キュルケが立ち上がった。その目には自慢の炎をともして。

「そうはいかないよ…!レディを一人危険に晒すわけにはッ!!」
「だったらこうしてはいかがかしら?この町にはブチャラティが来てるわ。
彼を連れてきて。こういうスタンドの対処法を知っているのは他でもない『スタンド使い』でしょうから。」
ギーシュが頭を抱える。自分の恐怖心に押しつぶされている。
そんな理由でこの場を離れても結局は逃げる事につながるのではないかと。
「一度逃げても、また立ち向かえばいいじゃない。」
キュルケがいつになく真剣な顔をする。
「早く行きなさいッ!!多分私にはコイツは倒せない。未知な上に、タバサの姿なのよ…。
ブチャラティを連れてきてッ!!」
ギーシュが拳を握り締める。そして…。
「マリコルヌ。ついてきてくれ。」
「え…?」

「『逃げる』んだよォーーーーーーーーーッ!!!!」

ギーシュは走り出した。その目に決意を示して。
アヌビスはそれを冷酷に見据える。
「フン、うまく言いくるめたじゃねえか。じゃあ…。」
「『ファイアー・ボール』ッ!!」

ドカンッ!!

キュルケが怒りを震えさせて言う。
「あなたゲルマニアに行った事はあるかしら?」
「…ねーな。何の話だ。」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・。

「ゲルマニアでは本当に一番大事な物を奪うときは命を賭けるの。文字通り。」
キュルケはアヌビスに向かって走るッ!!
「一番大事な人を捕らえたからには…あなたも命をかけることねッ!!
この『微熱』のキュルケの炎はそのためならどんなものでも溶かし尽くすわッ!!」

to be continued・・・

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