ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-16

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匿名ユーザー

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有り得ないものを見ている。
自身よりも長い剣を小枝を咥えるかのように持ち上げ、
ゴーレムの拳も飛び散る岩塊をも避けて犬が大地を駆ける。
そして、その勢いのままに振り抜かれた剣が一閃された。
巨人の足に走る一筋の切れ目。
私やタバサの魔法も届かなかった相手が初めて手傷を負ったのだ。

キュルケは我が目を疑う他無かった。
しかし、あれだけの事が出来るというのなら決闘に勝ったというのも頷ける。
ただ、どこかで納得している自分がいた。
だって、あの犬は“ルイズの使い魔”だ。
あの子が呼んだ使い魔が普通である訳が無い。
いつだって彼女は気持ち良いぐらいに自分の常識をぶち壊してくれる、最高に楽しいライバルなのだから。

「あ! ちょっと待ちなさい」
フレイムがシルフィードの背から飛び降りる。
キュルケの指示ではない、彼自身の意思だ。
友が自身の主の為に命を賭して戦っている。
それで奮い立たなければ“微熱”の従僕たる資格はない。
吐き出す炎よりも熱き血潮が全身に巡るのをフレイムは感じた。
それにルイズの使い魔に見せ場を取られては主もライバルの面目が立つまい。


フレイムが振り返りキュルケに同意を求める。
はぁ、と呆れたように彼女は溜息を漏らした。
ルイズの使い魔と関わった所為か、自分の使い魔もおかしくなった気がする。
しかし。しかし悪くはない。
むしろ心地よいと言っていいだろう。
口元に思わず笑みが浮かぶ。
容易く自分の意のままになる物に彼女は価値を見出さない。
自分と同じ様にフレイムにも譲れぬ意地があるのだ。
「いいわ。貴方の実力、存分に見せてあげなさい」
己が使い魔に命を下す。
主の承諾を得たフレイムが彼に続く。
その姿、自分意地を張り通し戦う二匹の獣を見てキュルケは思った。
まるで自分とルイズを見ているようだと。


「相棒! こいつぁ力だけのウスノロだ! 足元から切り崩してブッ倒しちまえ!」
それに同意し頷くと再び巨人へと向かう。
巨人の股下を駆け抜けながら一太刀、振り返りざまにもう一太刀浴びせる。
傷口が修復されるものの、その速度は遅い。
このまま切り刻み続ければいずれは倒せるだろう。

しかしデルフにはある疑念があった。
“相棒の力は本当にこの程度の物なのか?”と。
相棒が使い手である事は間違いない。
それは今、振るわれている自分自身が一番理解している。
だが、武器屋で初めて相棒の存在を感じた時の恐怖。
途方も無い化け物に睨まれたかのような圧倒される気配を今は感じない。
それとも、あれはただの勘違いに過ぎなかったのか。

デルフは疑惑を振り払う。
今はそれよりも相棒を勝たせる事だけを考えればいい。
担い手が迷いを振り切ったというのに自分が悩んでどうする。
気を取り直し、デルフは彼に次々と指示を送った。


やや離れた位置から吐き出される烈火の如き息吹。
そこから彼の戦いぶりを見いていたフレイムは思った。
……惜しい、と。
あの勇気、剣の扱い、身のこなし。
どれを取っても並みの犬には出来ぬ芸当。
彼がもしドラゴンやグリフォンのような強い生物に生まれていれば後世に名を残しただろう。
それがあまりにも惜しい。
そして、それは彼の主人であるルイズも同じ。
あれほど貴族としての気概があるというのに魔法が使えぬ半端者。

いや、それこそ無粋だ。
たとえネズミやウサギ程度の力しか持ち得なかったとしても、
あの主従は決して自分を曲げず、強敵にさえ立ち向かう。
だからこそ強い。だからこそ主も自分もライバルとして認めたのだ。
さらに息吹は火勢を強める。
“自分も彼に負けてはならない”
その想いがフレイムに力を与えていた。


幾重にも刻まれた剣閃。
上空から地上から次々と迫る炎と氷。
それに耐え切れず、巨人の体がついに揺らぐ。
そのまま自重を支える事が出来ずに転倒する巨体。

「よし、今だ! 頭を切り飛ばしてやれ!」
ようやく訪れた勝機にデルフが気炎を上げる。
ガンダールヴの力には限界がある。
いかに力を引き出そうとしても酷使される肉体の方が保たない。
ましてや詠唱の時間稼ぎの為の能力だ、決定打には乏しい。
だからこそ早期に決着を付ける必要がある。
しかし、その焦りがミスを生んだ。

首筋を走る一筋の線。
切断には至らず、途中で止まったデルフを引き抜こうとする。
だがピクリとも動かない。
見れば突き刺さった剣の周囲を土が完全に覆っていた。
「な……!?」
デルフから洩れる驚愕の声
先程までとは比べ物にはならない再生の速度。
デルフを巻き込んだまま、傷が痕一つ残さずに修復される。
動きを止めた彼を巨人が掴む。
その動きは傷を負っているというのに今まで一番俊敏だった。

彼等は侮っていた。
今までの戦いから“土くれのフーケ”はこの程度の相手と思っていた。
だが事実は違う。彼女にそう思い込まされていたのだ。
たった一瞬の油断。
それを生み出すが為の芝居だった。


「引っかかったようだね…」
ゴーレムからも彼女達からも離れた場所でフーケが呟く。
彼女が知り得た情報に拠れば、あの犬は瀕死にならないと変身できない。
確実な根拠があった訳ではない。
しかし、もし出来るのだったら既に変身していた筈だ。
ゴーレムの拳を振り回し下手に手傷を負わせるのは下策。
まだ奴が犬の姿をしている内に。

「原型さえも残さず確実に仕留める!」

フーケの杖の指示を受けて巨人が彼を地面に叩きつける。
ボールでも投げるかのような勢いで打ち付けられた彼の口から血が吐き出される。
全身の骨がバラバラになったみたいに立ち上がる事さえ出来ない。
生命の危険を感じた“寄生虫バオー”が活動を開始する。
だが、その上に振り下ろされる巨大な足。
ギーシュの時とは速度が違いすぎる。
加えて、錬金によって鋼鉄に変じたそれは大砲の威力さえも上回る。
いくらバオーとはいえ喰らえば無事では済まない。
だが、身体の修復が間に合わない。
手傷を負った今の動きでは避ける事は不可能。

躊躇無く彼に振り下ろされる断頭の斧。
響き渡った轟音と振動に、鳥や虫達もその場から飛び去っていく。


「あ……」
「相棒ォォオーーー!!」
ルイズの口から漏れた唖然とした声をデルフリンガーの絶叫が打ち消す。
悲鳴を上げる間も悲しみの涙を流す間もなかった。
たった一瞬。まるで腕に止まった蚊を潰すようだった。
目の前で何が起きているのか判らないまま、それは終わりを告げた。

呆然と立ち尽すルイズ。
キュルケもタバサもギーシュも掛ける声を失っていた。
けたたましく叫ぶのはシルフィードだけ。
その声が酷く切なくて悲しくて、ルイズはこれが現実だと悟った。
泣き止んだ筈の涙が跡を伝ってまた零れ落ちる。

「私……私の、せい…だ…」
あの時、あいつは逃げようと必死に訴えていた。
それを聞き遂げなかったのは私。
貴族として譲れない意地があった。
あいつはそれを知ってゴーレムに挑んだんだ。
死ぬのはあいつじゃなくて、私の筈だった。
無力な自分の我が儘があいつを殺した。

「私、そんなつもりじゃ…なかった…のに」
「ルイズ! ルイズ! しっかりしなさい!」
自失状態に陥っている彼女をキュルケが肩を掴み揺する。
それでも彼女の目は焦点を失ったまま何も映さない。
始末を終えたゴーレムが彼女達へと向かってくる。


「……!」
タバサは自分の心を凍らせた。
感情に流されてはいけない。
終わった事に取り返しは付かない。
今やるべきはこれ以上の犠牲を避ける事。
大きく羽ばたきシルフィードは上空へと逃れようとする。
だが、ゴーレムはそれを許さない。

突然、巨人が踏み込みの加速を増す。
腕の動きや修復速度だけではない。
ゴーレム自身の動きさえも前とは比べ物にならない。
実力を読み違えた彼女達を圧壊せんと迫る巨大な手。

しかし、その手は寸前で届かない。
体勢を崩したゴーレムが前のめりに倒れる。
振り返るとそこには大きな穴に嵌まった自分の足。
ヴェルダンデが掘った穴を運悪く踏みつけたのか。
土を押し上げながら、そこから足を引き抜く。
否、引き抜こうとした。

足を上げた時、引き抜く必要など無い事に気付く。
ゴーレムの足首から先は白煙を上げて失われていた。
その現象にタバサとギーシュ、そしてフーケが目を見開く。


「まさか…!!」
息を潜めていたフーケの口から思わず声が上がる。
“バルバルバルバルバルッ”
地中から響く異様な唸り声。
そして闇の中でなおも光る金色の双眸。
彼女は聞いていた、その音、その光の正体を!
そして、それがもたらす圧倒的な恐怖をッ!

「こいつ、地面を溶かして…地中に!」

土塊を弾き飛ばし、蒼き獣が大地に降り立つ。
“寄生虫バオー”によって無敵の肉体に変身したルイズの使い魔。

それが! それがッ!! それが“バオー”だッ!
そいつに触れる事は死を意味するッ!

バオーの雄叫びが森を揺るがせる。
それはまるでハルケギニアの大地さえもバオーという存在に恐怖したかのようだった…。

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