ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-15

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匿名ユーザー

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舞い上がる砂煙と共にギーシュが外へと弾き出される。
ギリギリで脱出したのか、衝撃の余波で地面を転がるものの大した怪我は負っていないようだ。
だがゴーレムは休む暇さえ与えずに再び足をギーシュに振り上げる。

「早く! こっちへ!」
タバサとキュルケが魔法を放ちゴーレムを攻撃する。
だが炎も氷の矢も巨人にダメージを与えるには至らない。
それでもギーシュが逃げる隙を作る為の牽制として撃ち続ける。

その援護を受けながら、ゆらりと陽炎のようにギーシュが立ち上がる。
その緩慢な動作にキュルケが苛立ちをぶつける。
「何やってるの!? 早く逃げなさい!」
「逃げる? それは違うよミス・ツェルプストー」
ギーシュの声はとても落ち着いていた。
ついに恐怖のあまりにおかしくなってしまったのかとキュルケが疑う程に。
いつの間にか口に咥えた薔薇を引き抜いて振るう。
刹那、彼のワルキューレ七騎が周囲に展開された。

「『土くれのフーケ』を倒すと言うのなら!
ここは“退くべき時”じゃない! 逆に今こそ“立ち向かうべき時”だ!」

ギーシュ・ド・グラモンは名門グラモン家の四男として生まれた。
トリステイン王国の元帥を父に持つ彼だが所詮は四男のドットメイジ。
家督を継ぐべき長男や次男に比べ、家での扱いは良くなかった。
ギーシュの性格は見栄っぱりの父親の遺伝と言われるが、あるいは自分に注目して欲しかった彼なりのアピールだったのかもしれない。

以来、彼は自身を薔薇の花に喩え美しさを表現してきた。
“自分は美しい”それを疑った事は一度としてない。
貴族としての立ち振る舞い、衣装から髪の一本に至るまで徹底していた。

だが、そんな彼の価値観はいつしか大きく揺さぶられる事になる。

教室の崩落事故。そして広場での決闘。
その両方に居合わせながらも自分は何も出来なかった。
そして彼は初めて疑問を持った。
そんな自分が本当に“美しい”と言えるのかと…。

態度や家柄で着飾った所で決闘相手のメイジは醜くかった。
何故、醜いと思ったのか? それは男の性根が完全に腐り切っていたからだ。

そして今まで貴族らしからぬと侮蔑してきたルイズが、自分の使い魔の身を案じ駆けつけ、その身を抱きしめた時。
ギーシュにはその光景が何よりも美しく、とても神聖なものに映った。


思えば父もそうだった。
出征の度に多額の出費をする父を、周囲の人間は『見栄っ張り』『目立ちたがり屋』と嘲笑した。
その所為で生活も苦しく、それらしい贅沢をした覚えも無かった。
だが、ギーシュはそんな父を誇りに思った。
たとえ貧しくても笑われようとも、彼の父は『貴族の誇り』だけは守り通したのだ。

そう。美しさとは外面ではない、内面より顕れる物。
薔薇は自らの美しさを知らしめたりするだろうか?
否。ただその場に咲き誇り、自身で有り続ける。それ故に美しいのだ。
それこそが“美”! 自身が追い求め続けてきたもの!

ギーシュ・ド・グラモンは決意した。
誰よりも美しくあろうと! 姿だけではなく心も!
そして美しき心とは! 勇気であり誇りであり愛である!
真の強さとは“心の美しさ”の中にある!


「ワルキューレ円陣隊形!」
彼の号令に合わせ、青銅の戦乙女が密集し囲むように彼を守護する。
本来は全方向からの攻撃を警戒する鉄壁の陣形。
だが目の前の巨人を相手にそんな陣形は何の意味も成さない。

ギーシュは自覚していた。
トライアングルのメイジであるフーケと自分では実力が違いすぎる。
魔法勝負になれば百万回戦おうとも勝ち目は無いだろう。
だが! ゴーレムの扱いだけならば、僕は誰にも負けはしない!
その一点、唯一自分が勝っているその部分で勝てばいい!
勝てない相手ならば、絶対に勝てる状況を作り出せ!
足りない分は“頭”と“心”で補う!

「一点集中防御!」
ワルキューレが槍を掲げる。
それがギーシュの頭上で重ね合わされ“円錐”が形成される。
いかに重量があるといっても、それは“面”による攻撃だ。
強力だが分散された破壊力と、弱くても“点”に集中された破壊力。
どちらが強いかなど比べるまでも無い。
一本一本は貧弱だが、束ねられた槍が折れる事は無い。
ワルキューレの槍に託された自分の“信念”は決して折れない!

巨人の足と青銅の騎士の槍が衝突する。
このまま一気に足を貫いてゴーレムの動きを止め、そして集中砲火で決着を付ける。
フーケの敗因! それはこのギーシュ・ド・グラモンを敵に回した事だ!



両者の均衡も一瞬。
鈍い音を立てて槍の先端が飴のように変形していく。
重圧に耐えかねて次々と砕けていく青銅のゴーレム。

「あれ?」
気付いた時には遅すぎた。
そのまま踏み抜かれた足は脱出の機会すら与えず、青銅ごと彼の自信を打ち砕く。
そして再び大地が大きく揺れた。

「ギーシュ!!」
キュルケが必死に叫び声を上げるが、あれでは助かる訳が無い。
可哀想に最期は恐怖に耐えかねて奇妙な事を口走り、生き残ろうと足掻いたにもかかわらず、あんな末路を迎えるなんて…。

本物の薔薇を口に咥えて、棘で傷だらけになったギーシュ。
召喚の際にやたら長い前口上を言って迷惑がられたギーシュ。
颯爽と馬に乗ろうとして馬に逃げられたギーシュ。
そんなギ-シュのどうでもいい思い出と共に、ほろりと涙が零れ落ちる。

「…人を勝手に殺さないでくれ」
ボコリと地面が空き、そこからギーシュの顔が出てくる。
全身土まみれで、みっともない事この上ない姿だが確かに生きている。
「ギーシュが生きてた!?」
「……お化け?」
「ああ、さすがにもうダメかと思ったけどね」
驚くルイズとちょっと引き気味のタバサを前に説明する。
パチンと指を弾くと彼の横からぴょこんと顔を出す巨大なモグラ。
そして、ギーシュは自分の使い魔に頬擦りをする。
「ヴェルダンデ…君はなんて主人想いの使い魔なんだ」
どうやらヴェルダンデの掘った穴から逃れたようだ。
ギーシュの悪運の強さに一同が溜息をついた。


そうこうしている内にも巨人はこちらに迫っていた。
先程と同じく魔法を放つも、やはり決定力に欠ける。
だが巨体のせいか、ゴーレムの動きが鈍い。
下手に集まるよりも分散して撹乱した方が良いだろう。
タバサはそう判断し指示を飛ばす。
「……散開」
その単語に込めた意味を理解し各自が散る。
だが巨人は迷わずルイズの方へと向かう。

「……!」
タバサは自分の失策に気付いた。
自分とキュルケが攻撃に専念する為に彼女に“光の杖”を託したのだ。
フーケの目的が“光の杖”を取り戻す事なら最初に彼女が狙われる。
そして彼女の性格なら決して逃げようとはしない。
タバサが口笛を吹き鳴らす。
だが間に合うのか? 否、間に合わせるのだ。


タバサから渡された“光の杖”のケースを置く。
そしてキッと睨みつけると懐から杖を取り出し、巨人に構える。
「ええい!」
振り下ろされた杖。
それは小さな爆発を伴って巨人を揺るがす。
だが、それは何の効果も現さない。
幾重に魔法を受けても倒れぬ相手には無意味。
ましてや碌に使えない魔法など礫に等しい。
ローブを必死に引っ張る自分の使い魔を振り解き、それでも彼女は杖を振る。


彼は必死だった。
生き延びる事が最優先だというのに、勝てない相手を前に動こうとしないルイズ。
それはただの自殺行為だと止めさせようとするも彼女は止めない。
そして、ついに彼は吼えた。
唸り声を上げてルイズを睨み付ける。
「え…?」
初めて見る使い魔のその表情にルイズが驚く。
その直後、巨人の腕が主従へと振り下ろされた。
咄嗟に彼はルイズへと体当たりし彼女を庇う。

僅かに舞い上がる土煙、その中で二人は無事だった。
傍に“光の杖”があったせいだろう。
全力で攻撃出来ずに最小限の威力で留まったのだ。

尻餅をついたルイズと彼の視線が並ぶ。
まるで敵でも見るかのような目で彼が睨む。
彼は怒っていた。
生きている喜びと生命の大切さ。
それを教えてくれたのは他ならぬルイズだった。
そのルイズが命を捨てるような真似をした事が許せなかったのだ。

「だって…だって…私は」
ルイズの目から大粒の涙が零れ落ちる。
彼が目にするのは二度目。
だけど以前、彼女が流したものとは違う。
それは見ているだけで胸が締め付けられるほど切ない涙。

「魔法も使えないし…皆にバカにされて…」
きっと自分の知らない所で彼女は何度も泣いたのだろう。
それでも彼女は強くあろうとした。
自分に涙を見せないように頑張ってきたのだ。
その努力を彼女が認めずに誰が認めるというのだろうか。

「ここで逃げたら…もう貴族じゃなくなっちゃう…」
言い終わると同時に俯いていた顔を上げる。
いつの間にか彼の唸り声は止んでいた。
穏やかに見守るような視線で彼女を見つめる。
そして、流れ落ちた涙をぺろりと舐め取った。

「な……!」
驚きの声を上げる間もなく、木々を薙ぎ倒しながら巨人が迫る。
しかし、それを阻むかのように巨大な羽ばたきと共に風が舞い上がる。
「シルフィード!」
「早く乗って!」
自分へと差し伸べられたキュルケの手を取り、シルフィードの背に飛び乗る。
その間にもタバサは攻撃の手を休めずに巨人の侵攻を遅らせる。
ギーシュもレビテーションで“光の杖”とついでにソリも回収する。


「早く!」
今度は彼女の使い魔へと声が投げ掛けられた。
だが、彼はそれに応じない。
ルイズの安全を確かめると今度は迫り来る巨人へと向き直った。

「まさか…! あのゴーレムと戦う気なの!? バカな事は止めなさい!」
「お願い…止めて…」
キュルケの制止にも聞く耳は持たない。
ルイズの呟くような願いも聞き遂げる訳にはいかない。
彼は誓ったのだ、今度は自分がルイズを守ると!
自分の命を、そして心をも救ってくれた彼女の為に。
あれから逃げる事で彼女の誇りが失われるというのなら、彼女の代わりに自分が戦う!

「相棒! 俺を使え!」
「使え…って言ったってどうやって掴むのよ!?」
「そりゃあ、おめえ…」
キュルケの問いにデルフリンガーが詰まる。
いかに使い手とはいえ剣を持てなければ意味が無い
こうなったら猫科動物が爪を立てるが如き異な掴みで…と言おうとした瞬間、デルフリンガーの刀身が鞘より抜き放たれた。
柄に牙を突き立て彼はデルフリンガーを咥える。

デルフを構え、彼は土くれの巨人に挑む。
恐れも迷いも彼には無い。
この身はルイズの剣…彼女の使い魔なのだ!

前足に刻まれたルーンが光を放つ。
彼は初めて自分の意思で戦いへと赴いた…!

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