ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-14

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匿名ユーザー

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「一体、この責任を! 誰が! どのようにして取るおつもりか!」
激昂した男が目の前の机を叩く。
それをオールド・オスマンは黙って聞き流していた。
責任も何も知った事ではない。
この件を何も知らされていない者達には何の関わりも無い。
数少ない関係者であったオスマンとコルベールは生徒と王女を守るので手一杯だった。
そもそもフーケに気取られた直接の原因は男の軽率な行動にあるのだから、
“責任取って勝手に自刃したらいいんじゃね?”と言いたくもなる。

あの後、ゴーレムで学院の外へと逃走したフーケを追撃したものの、
ある程度の距離が離れた所でゴーレムが崩壊した。
即座に持っていた馬車の回収が行われたが、積荷はフーケと共に消え失せていた。
完全にフーケにしてやられた訳だ。

「渡す直前まで宝物庫で管理していれば、こんな事態は防げた!
これは君達の管理不行き届きが原因で起きたのだ! そこを自覚してもらおう!」

本当に頭が痛くなってくる。
ただでさえ厄介な物を押し付けられたと思ったら、この始末。
だが、学院内で起きた盗難事件を他人任せにするのは気が進まない。
それに王宮の衛士隊も動かせないだろう。
今回の件は一部の人間以外には内密に行われていたのだ。
それが発覚するのを避ける為にもフーケに盗まれたのは“適当な金目の物”として処理する必要がある。
“光の杖”の存在を公にする事は出来ない。

そして幸運な事にミス・ロングビルが周囲で聞き込みをし、
“土くれのフーケ”とおぼしき人物の所在を掴んだのだ。
今まで神出鬼没と言われたフーケの足取り。
この機を逃せば二度と捕まえる事は出来ないだろう



だが誰が捕まえに行くのか?
他に事情を漏らせぬ以上、行ける人間は限られている。
目の前の男は論外、実力以前の問題だ。
だが学院長である自分がここを離れる訳にはいかない。
更に“土くれのフーケ”が学院の宝物庫を諦めたとは限らない。
自分が離れた隙を突いて再度現れる危険だってある。

ならばと視線を隣へと移す。
そこには男の暴言を耐えて歯噛みするコルベールの姿。
彼ならば“土くれのフーケ”が相手だろうと遅れを取る事は無い。
だが視線が合った瞬間、彼は俯くように視線を外す。
(……やはり、ダメか)
となれば、後は他の教師達しかいないのだが…。
先の騒動の際に動けた者など一人もいなかった。
自身の実力を過信するギトーでさえ何も出来なかったのだ。
捕まえる以前に、捜索隊に参加してくれるかどうかさえ危うい。

「どうなのだ! 何とか言いたまえ!
これは魔法学院全体の信用にも関わる問題なのだぞ!」
「…責任の所在よりもまずは盗品の奪還とフーケの逮捕、優先されるべきは、その二つだと思うのじゃが」
「そんな事は判っている! では誰がフーケを捕らえるのだ!?
貴公か? それとも、そこの無能か? まさか自分の秘書にやらせるのではあるまい?」
二人の口が噤む。
最大の難点、そこに踏み込まれては何も言えない。
重苦しい空気の中、一人の少女が声を上げた。


「私が行きます!」
三人の視線が彼女に集まる。
小さな胸を胸を張り、ルイズは高々と杖を掲げる。
「何故、生徒がここに!?」
「私が呼びました。数少ないフーケの目撃者ですので」
「むう! いかん、いかんぞミス・ヴァリエール!
君は一生徒に過ぎん。その君に、この様な危険な事をさせる訳には……」
「ですが魔法学院全体の問題というなら生徒である私も関係あるはずです!」

学院長の諫言さえも押し返し、彼女は一歩も譲らない。
誰も行きたくない以上、渡りに船なのだが男は反発する。
どこの馬の骨か判らない生徒に、自身の今後を左右する問題を任せたくはない。
それが本心だった。

「バカな! 生徒一人に何が出来る!?」
「あら。一人じゃありませんわ」
見れば、その横にいた赤毛の少女も同様に杖を掲げている。
それに男が唖然としていると続けて青い髪の少女も杖を掲げる。
「ミス・ツェルプストー、それにミス・タバサまで…」
「ヴァリエールに負ける訳にはいきませんので」
「……二人が心配」
呆れたようなコルベールの声。
だが、その声も弱弱しい。
確かに無謀かもしれない。
それでも仲間を案じ、危険な任務に挑む彼女たちを見ていると、
何故か止めようとする決意が鈍ってしまう。
「わん!」
「相棒も行くってよ……事情はよく判ってねぇみたいだけどな」


「ふむ…では彼女達に託そう」
「正気ですか! この重大事を生徒などに…」
「いや、そう悲観したものではない、この三人の生徒は中々優秀でな。
まずミス・タバサは若くして“シュバリエ”の称号を持つ騎士と聞いている」
その言葉に全員の視線がタバサに集中する。
仲の良かったキュルケでさえ、本当なの?と本人に確認している。
それに彼女はいつもどおりの無表情で頷く。
多分、驚いていないのは彼女自身と、よく分かってないルイズの使い魔だけだ。

次にオスマンはキュルケの方に目を移し話を続けた。
「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人の家系で彼女自身も中々の使い手であると聞く」
それに、ふふんと自慢するでもなく当然と言わんばかりに胸を張る。
隣にいるルイズも負けじと胸を張るのだが、いかんせんボリュームが違いすぎて同じ姿勢に見えない。

「そしてミス・ヴァリエールは数多くの優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の三女で…え~と…」
そのルイズへとオスマンの視線が映った瞬間、言葉が濁る。
男は理由が分からず首を傾げていたが、周りの人間は理解していた。
魔法が使えない貴族をどう褒めろと言うのか。
それでも試験終了前にマークシートを埋める生徒みたいに必死こいて説明を続ける。
「えーと、その、なんだ…熱心な勉強家で…、まあ将来有望というか大器晩成というか…」
ちらりと視線を変えた先には、ハッハッと息を荒げる彼女の使い魔の姿。
これ幸いとばかりにオスマンは話を使い魔のものへと変える。
「それに彼女の使い魔はフーケと同じくゴーレムを使うメイジと決闘し勝ったとの噂」
事情を知っているのはタバサとコルベール、オスマンの三人だけ。
ルイズとキュルケはただの噂だと思っている。
それでもここで否定しては男に反論の余地を与えるだけと黙っていた。


「…この犬がか!?」
男が疑惑の眼差しで彼を見る。
どう見てもただの犬、使い魔にさえも見えない。
ふと最近、同じような事があった気がし、はて?と記憶を振り返ろうとする。
それに気付いたコルベールが遮るように慌てて男に問いかける。
「あの、それでもご不満があると言うのでしたら同行されてはいかがでしょう?」
「な、何を言うか! 学院の問題は学院で解決すべき事、私が口を挟む事ではない!」
直接的ではないにしろ生徒による捜索隊を男は認めた。
勿論、彼女達に運命を託す殊勝さなど男にはない。
先程の発言は“自分は関知していない”との意思の現れであり、
仮に失敗したとしても支持したオスマンと彼女たちの責任となる。
それに生徒の身元もハッキリしていれば、そちらに責任を取ってもらう事も出来る。
つまり親元の弱みを握れるかもしれないという企みがあったのだ。
それが高級貴族であれば尚更である。

男の下衆な考えに薄々勘付きながらもオスマンは止めない。
元より命の危険さえある任務だ。
今はこの勇敢な生徒達に任せるしかないと覚悟を決めた。
いざとなれば自分が全ての責任を負うという決意。

「魔法学院は君達の努力と貴族の義務に期待する!」
「杖にかけて!」「わん!」
彼女達の宣誓に合わせ、彼も声を上げる。
ちょっと格好が付かないが、それは自分も仲間である事を示すためのもの。
それが分かっているのか、ルイズも注意するものの腹は立てていない。
キュルケもくすくすと笑い出し、タバサもどこか和らいだ表情だ。
早くもチームとしての結束は固まったようだ。
困難にも明るく立ち向かう生徒達をオスマンは頼もしく感じた。
そして彼女たちの横で必死に薔薇を掲げている男に気付く事はなかった。


「では私が案内を務めます。
ここから馬で四時間程の距離ですので、馬車での移動になります」
重要な用件だったので席を外していたミス・ロングビルが戻ってきた。
魔法での移動は消費も激しいし、シルフィードは目立ち過ぎる。
それに取り返した品や逮捕したフーケを運ぶとなると馬車の方が確実だ。

「それで盗まれたのは何なんですか?」
「むう…それはじゃな」
「君達には関係ない! 言われたとおり指示に従え!」
「何よそれ!? 盗まれたのがどんなのか分からなかったら取り返しようがないじゃない!」
キュルケの問いに詰まったオスマンを遮って男が強い語気で拒絶する。
そこまで言われて下がるルイズではない。
そもそも大きさも判らない物など捜索のしようがない。
懐に入る程度ならフーケが持ち歩いているかもしれないし、巨大なものならどこかに偽装して隠している可能性だってある。
いや、それ以上にフーケが持ち出した物が危険なマジックアイテムだったら…。

「貴方は何も知らせないままに、生徒を送り出す気ですか!?」
「ふん、知った事か。もし『例の物』について明かそうと言うであれば相応の覚悟をしてもらうぞ!」
「っ……! 分かりました。では納めたケースのイラストぐらいならば構わないでしょう?」
「好きにしろ」
そしてコルベールと男の会話はその予想を裏付けるのに十分すぎた。
土くれのフーケという強力なメイジに加え、謎のマジックアイテム。
そして非協力的な関係者の態度。
一向は行く先の不安を感じずにはいられなかった。
だが、それでも後には引けない。
胸中の悪寒を押し殺し、彼女たちは学院を後にした。


馬車に揺られる事一時間余り。
各々、爪の手入れをしたり、本を読んだり、
ちゃっかりソリに積んできたお弁当を食べたりと時間を潰すのにも飽きた頃だった。
コルベールから託されたイラストをルイズが開く。
描かれているのは普通の箱だ。
ただ横に書かれた数字が確かなら長さは槍ぐらい。
ただ、幅と深さがまるで違う。
中に柱でも入れたのかと疑いたくなる程だ。
「この大きさ…大砲かな?」
「まさか。それならもっと大きいわよ」
「待って! 端に小さく何か書かれてる」
ギーシュの予想をキュルケが否定する。
しかしそれに構わず、ルイズは紙の端に書かれた文字を注視する。

『まず、このような形でしか伝えられない事を君達に謝罪したい。
だが、私が秘密を打ち明けた事が知れれば私だけではなく君達にも危害が及びかねない。
だからと言って何も教えずに死地に送り出す事など私には出来ない。
奪われたのは“光の杖”という物だ。その詳細は判らないが武器である可能性が高い。
仮にもしフーケが武器として使ってきたならば…』

「…迷わずに逃げてほしい。何よりも君達の命こそが大事なのだから」
他の皆に伝えるように最後まで読み上げた。
「“光の杖”ね。結局、何か判らないんじゃ意味ないじゃない」
「そうでもない」
溜息混じりにキュルケが呟いた言葉、それをタバサは否定する。
奪われた物の詳細が判らないという事は、用途不明のマジックアイテムである可能性が高い。
あの状況から判断すると“光の杖”目当ての犯行ではない。
だから、どんな代物かさえフーケは判っていないのだ。
フーケが“光の杖”を使ってくる事はほぼ無いと見て間違いないだろう。

それでも用心に越した事は無い。
イラストを見る限り“光の杖”は武器としては大型に分類される物だ。
大砲に代表されるように持ち運びに不便でありながらも使われる理由は唯一つ。
他の武器には無い圧倒的な破壊力ないしは殺傷力である。
万が一にも使われる事があるとすれば捜索隊の全滅とて有り得る。
それをさせない為にも、まだフーケが何を盗んだのかさえ判らない内に決着を付けなくては。
タバサはそう判断し、フーケとの決戦を前に心を落ち着ける。
といっても周りから見れば、ただ本を読んでいるだけなのだが。

「そうよ。折角コルベール先生が危険を冒してまで知らせてくれたのに。
その態度は失礼じゃないのツェルプストー」
「大体、そんな危険な物なら自分で行けばいいのに。
ま、自信が無いってのなら来られても足手まといが増えるだけよね」
ルイズの聞き流しながらキュルケが、ちらりと『ゼロ』の主従の流し見る。
むー、とむくれ面をしているルイズはともかく、
未だにお弁当を食べ続けている使い魔の方は肝が据わっているのかもしれない。
(あるいは何にも判ってないだけかも…)
正直、その可能性が高いだけに不安が隠しきれない。

「ミス・ヴァリエールの言う通りですよ。コルベール先生に感謝しないといけませんね」
御者を務めていたミス・ロングビルが振り向いて話しかける。
自分の意見に同じてくれたのが嬉しかったのか、そうですよねとルイズが微笑む。
ルイズに微笑み返すと再び彼女は前を向き直す。
その顔は笑ったまま。
だがそれはミス・ロングビルの笑顔ではなく、
盗賊“土くれのフーケ”の嘲笑だった。
コルベールの誤算。
それは最も知られてはいけない相手が傍にいたという致命的なミス。

(本当に感謝するよ。宝をくれたばかりか、使い道さえ教えてくれたんだからね)


一行が辿り着いたのは小さな山小屋。
正直、世間を騒がす盗賊のアジトとしては拍子抜けだ。
恐らくは一時的なものか、もしくはアジトを転々と変えているかのどちらかだ。
どちらにせよ時間を掛ければ逃げられる可能性は高くなる。
そう判断したギーシュは各自の持ち場を指示する。
まずはギーシュとタバサが小屋に近づいて様子を伺う。
何も無ければワルキューレをそのまま突入させる。
ゴーレムを使うのは万が一の事態を考慮してだ。
キュルケは少し離れた位置から魔法で援護。
突入や撤退する際にも必要となる要だ。
ルイズとその使い魔、そしてロングビルは周囲の警戒。
犬だから鼻も利くし、もしフーケが留守中で戻ってくるような事があれば、即座に連絡できるように対処する。

「何か質問は?」
粗方説明が終わったところでギーシュが皆の顔を見る。
何故か皆一様に驚いた表情を見せている。
(ひょっとして僕の戦術眼の凄さを知らなかったのかな?)
一応、元帥の息子としてその手の教育は受けているのだが、そう見られてなかった事に僅かにショックを受ける。
そして、しばらくの沈黙の後。
皆の意見を代表してルイズが口を開いた。
「ねえギーシュ。貴方、どうしてここにいるの?」

もはや彼の心の傷は、いかなる水のメイジでも修復不能だった。


既に落ち込みを通り越して鬱になりかけているギーシュを先頭に、彼の指示した通りの位置へと移動し突入のタイミングを計る。
注意深く外から様子を伺うも気配が無い。
ディテクト・マジックで魔法を、目視で罠を警戒したが見当たらない。
用心しながら足を踏み入れると、そこはすでにもぬけの殻だった。

「もう逃げられたかな?」
「………」
埃塗れの室内を嫌そうに見て回るギーシュ。
それに対しタバサはテキパキと辺りを調べる。
僅かなりとも手掛かりが残されているかもしれない。
彼女はそう考え、部屋の捜索を続ける。
「無理だよ、無理。相手は“土くれのフーケ”だよ。
手掛かりなんて残す訳無いじゃないか」
「…………」
もう諦めムードのギーシュを無視し、諦めずに探るタバサ。
その手が部屋の隅に置かれていた布へと伸びる。
僅かに布が浮き上がっているという事は何かに被せてあるのか。
それを確かめる為に彼女は布を剥ぎ取る。
瞬間、タバサは息を呑んだ。
そこには彼女の予想を超えた物が置かれていたのだ。
「何それ?」
「……“光の杖”」
「は?」
そこにあったのは描かれたイラストと同じケ-ス。
小屋を見つけてから数分、捜索隊は何の障害も無く奪還に成功した。


レビテーションで“光の杖”を外へと運び出すタバサ。
一人室内に残されたギーシュは必死に自己弁護を図っていた。
「いや、だって普通に考えて盗んだ物、放り出していくなんて思わないじゃないか。
隠し場所にしたなら罠の一つもあってしかるべきだし。使い道が判らなくて捨てたのか?」
何度考え直しても自分に非は無い。
悪いのはフーケの非論理的な行動だ。

ふぅと何度目かの溜息をついた瞬間、埃が舞い上がる。
視界を覆う程の埃に堪らず咳き込む。
「げほげほ…何だよ、もう。何でこんな場所にフーケは隠れ…」
ふと違和感に気付いた。
椅子も机も埃が降り積もり、最近まで人が使った形跡は無い。
ならフーケはここに“光の杖”を置きに来ただけなのか。
何の為に? 罠も仕掛けずに、まるでわざと見つけ出させたかのような…。
「ギーシュ!」
外から聞こえる雑音を無視し、自分の推理に集中する。
見つけ出させてどうする? 持ち帰らせる?
たとえば中に小型のゴーレムを仕込んで宝物庫に運ばせるつもりか。
ダメだ。そんなのはすぐ気付かれる。
僕達に見つけさせてフーケは何をさせるつもりだ…?


「ギーシュ!!」
「うるさいな! 今、考えが纏まりそうなんだよ!」
思考を遮る無粋な声を一喝する。
見れば全員離れた場所からこっちに声を掛けている。
その顔は必死で状況が切迫している事を告げる。
「早く! その小屋から離れて!」
「へ?」
間の抜けた自分の声。
それと同時に小屋が悲鳴を上げる。
天井を突き破って現れたのは巌のような足。

衝撃に大地が揺れる。
振り下ろされたゴーレムの足は一瞬にして小屋を瓦解させた。
その破壊力に、遠くから見ていた誰もが圧倒される。
怯えるように抱きしめたルイズの腕の中で『光の杖』が静かな眠りについていた…。

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