ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-16

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匿名ユーザー

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ワルドが、目当ての階段を見つけたらしく、駆け上り始めた。
木でできた階段はどうも安定が悪い。眼下にラ・ロシェールの明かりが見えるが、
生憎とセッコは夜景を楽しむような繊細な神経は持ってないし、そんな時間も今はないのであった。
ふと、不自然な足音に気づく。
「なあー」
それに気づいているのかいないのか、ワルドが久々に口を開いた。
「なんだね?」
「なんか追われてるぜえ。」
「ふむ」
ちょっと見てくるかなあ。
「あ、おい!」
制止するワルドをとりあえず無視して、デルフリンガーを抜き階段を少し下りると、足音が消えた。
・・・あれえ?確かに、間違いなく音がしたんだがなあ。
「きゃあ!」
上でルイズの悲鳴が聞こえる。
もしかして途中から飛びやがったかあ?

あわてて戻ると、ルイズを掴んだ仮面の男とワルドが向かいあっていた。
ルイズごと切り殺すわけには・・・いかねえよなあ、いくらなんでも。
殴るか。幸いにして男はオレに背中を向けている。
「・・・ソル・ラ・ウィンデ」
その時、ちょうど完成していたワルドの呪文が、仮面の男とルイズとセッコをまとめて吹き飛ばした。

「きゃあ!」
「なあああああ!」
「・・・」
うおああ、切るのをためらったオレがバカみてえじゃねえか!

セッコは階段に手を突っ込みあわてて這い上がった。
男は手すりを掴んで持ちこたえた。
はるか下へと落ちていくルイズをワルドが急降下してキャッチした。
足場の不安定な階段の上で仮面の男とセッコは睨み合う。
男が低く、低く呪文を唱え始めた。ひんやりとした空気が流れだす。

「相棒!構えろ!」
デルフリンガーが叫ぶ。
「ああ?」
空気が震え、何かが光る。
何だあ、電気か?!
えと、ええと、雷は、どんなのによく落ちるんだっけ、細長い、金属?

け、剣持ってたら絶対やべえ!

セッコは、デルフリンガーから慌てて手を離した。
「これはライトニングクラUGYAAAAAAAAAAAAAA!」
稲妻がデルフリンガーを直撃し、閃光で辺りが突然昼間のように明るくなった。

「あ、危ねえ!目が、目がああ!」
畜生、目がちかちかする、奴はどこへ行きやがった?よく見えねえ・・・

「デル・イル・・・」
さっきと同じ声で低い詠唱が聞こえてくる。いつの間に上に?
距離約3メートル。いや、メイル、だっけなあ。
この程度よお、武器無しでもひとっとびだぜ!
「くらえっ!」

「きゃあああ!」
あ、あれえ、ルイズの悲鳴?
「・・・ラ・ウィンでえええええええ!な、何をするガンダールヴ!」
なん・・・でだッ!!なんでワルドと間違えちまったんだ?!
「すまねえルイズ、目がくらんで間違えた。」
「何やってんのよ馬鹿!」
「落ち着きたまえ、賊なら逃げたぞ」
「うう。」
うぐぐ・・・オレが声を聞き違えるなんて畜生。
そうだ、デルフリンガーを拾わねえと。
セッコはようやく視力が戻ってきた目をこすりながら階段を下りた。
おお、あったあった。

「ちょっと痛かったぜ相棒・・・」
デルフリンガーが不満そうに呟いた。
「我慢しろよお。それに、今ので錆が取れたんじゃねえか?」
「そんな気もしなくもねえが、俺様を放り出すのはなるべくやめてくれ」
「そうか。」

話しているとワルドが興味深げに近づいてきた。
「さっきの呪文は[ライトニング・クラウド]。風系統の強力な呪文だな」
「ふうん。」
「しかし変だな、人は当然としても少々の固定化がかかった武器程度、軽く黒焦げにするぐらいの威力があるはずなんだが」
怖ええ、直撃しなくて本当によかったぜ。
「この剣、無傷に見えるな。一体何でできてるんだ?」
「知らん、忘れた」
デルフリンガーが答える。
「ふむ、インテリジェンスソードねえ。とりあえず賊は去ったし、次が来ないうちに登ろうか」

階段を上りきった先に、一本の枝が橋のように伸びていた。それに一艘の船が貼り付いている。羽みたいなものがついている以外は帆船だ。
ワルドたちが船上に現れると、甲板で寝込んでいた船員が起き上がった。
「な、なんでぇ?おめぇら!」
「船長はいるか?」
ワルドが杖を抜いて脅すように言うと、船員はすっ飛んでいった。

しばらくして、帽子を被った船長らしき初老の男が戻ってくる。
「なんの御用ですかな?」
「女王陛下の魔法衛士隊隊長、ワルド子爵だ。アルビオンに今すぐ出航してもらいたい」
船長の目が丸くなる。
「無茶いわねえでください、今出たら風石が足りなくなって落っこちますぜ!」
「足りぬ分は、僕が補う。僕は[風]のスクウェアだ」
「まあ、料金さえはずんでくれるならかまいませんが・・・」
「僕ら以外の積荷はなんだね?」
「硫黄で。戦時中のアルビオンでは火薬や火の秘薬の材料として、黄金並みの値段がつきやすんでね。
特に革命中の貴族の方々は気前がいいでさあ」
「ふむ、ではその運賃と同額出そうじゃないか。」
商談成立。船長はにやりと笑って命令を下した。
「出航だ!急げ!」
帆が風を受け、船が動き出す。
「アルビオンには何時着く?」
ワルドが船長に尋ねる。
「明日の昼過ぎには、スカボローの港に到着しまさあ」

「本当にこんなのが飛ぶんだなあ。燃料はなんなんだ?」
「風石だぜ、相棒」
「なんだそりゃ?」
「説明するのめんどくせ」
「使えねーなあ。」

デルフリンガーと会話しつつ甲板をうろうろしていたセッコに、ルイズが話しかけてきた。
「ねえセッコ、抜き身の剣を持ったままうろつくのはやめない?」
「なんかまずいかあ?」
「周りを見てみなさいよ」
「うあ?」
言われて見回すと、船員たちが露骨に警戒してこっちを見てやがる。
渋々デルフリンガーを鞘に収めた。

そんな二人の下へ、ワルドが寄ってきた。
「船長の話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は包囲されているようだ」
ルイズが不安そうに呟いた。
「ウェールズ皇太子は?」
「わからん、生きてはいるようだが・・・」
思ったより更に状況が悪いみてえだ。
「それって、連絡不能なんじゃねえか?」
「陣中突破しかあるまいな、スカボローからニューカッスルまで馬で一日だ」
また馬かよお。
「グリフォンだっけ、あれはどうなんだ。」
ルイズが横から口を挟む。
「馬鹿ね、撃ち落とされちゃうわよ」
あー、そうだった・・・
「ヴェルダンデが居れば楽勝なのによお。」
「いないものはどうしようもあるまい、着くのは昼だ。少し休もう」

船員たちの大声とまぶしい光で、セッコは目を覚ました。抜けるような青空が広がっている。
「アルビオンが見えたぞー!」

起き上がると、異常な光景が目に飛び込んできた。
「な、なななな、なあああ?!」
目の前に、空中に巨大な何かが浮いている。・・・島、いや大陸かあ?
「驚いた?セッコ、これが白の国アルビオンよ」
近くにいたルイズが声をかけてきた。
驚いたなんてもんじゃねえだろう。なんつう非常識な。
「これが月に何度かこの近くに来るのよ。雨を伴ってね」
浮いてるだけでもどうかと思うのに、動くのかよ。
「うああ・・・」
ぽかんと口を開けていると、見張りの船員が突然声を上げた。
「右舷上方の雲の中より船が接近してきます!」
セッコはそっちを見て呟いた。
「なんだ、普通の武器もあんじゃねえか」
舷側から、十数門の大砲が突き出していた。
横を見ると、ルイズが凄い表情で固まっている。なんでだ?

「旗が掲げられていません!空賊、空賊だああ!」
船員が叫んでいる。空賊、ねえ。
眺めている間にも横付けされた大きな船からぞろぞろと賊が降りてくる。
「ははは、なんと硫黄が積んであるらしいぞ!船ごと全部いただきだぜ!」
むさくるしい男たちが歓声を上げている。

「なあ、これって任務終了じゃねえか?どうにかなんの?」
セッコはルイズの隣にいたワルドに声をかけてみた。
「まあ、いきなり殺されることはあるまい。様子を見るしかないな」
この船に潜って隠れとこうかなあ?
いや、ダメだ。
ルイズを放置することになるし、船ごと大砲で撃ち落とされたらどうしようもねえ・・・うう、まだ死にたくねえ・・・。

セッコが生き延びる方法を考えていると、賊のリーダーらしきいかつい男が近づいてきた。
そしてワルドとルイズの方を向き、上から下まで穴が開くほど眺める。
「おや、貴族の客も乗せてるのか。こりゃあ身代金がたんまりもらえるだろうぜ。てめえら!こいつらを運びな!」

ワルドは渋い表情を浮かべ、ルイズは男たちをにらみつけた。
セッコは満面の笑みをこぼしそうになるのを必死にこらえた。外からだと、泣いているように見えたかもしれない。

とりあえず、この場をしのげることは確定したみてえだなあ。
背中のデルフリンガーがセッコの心中を代弁するかのごとくカタカタと揺れた。




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