ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-12

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
今日はあいにくの天気雨。
それでも変わらず彼とご主人様の訓練は自室に変更して行われます。

「お手! お座り! お回り!」
矢継ぎ早に繰り出される指示に瞬時に反応する。
本来は訓練も無しに出来ない芸なのだが、
彼女の仕草や言葉の意味合いから次の動作を判断しているのだ。
手には『これで貴方もトップブリーダー!』と書かれた怪しげな本。
先日の買い物の折、同時に購入してきた物らしい。
そんな物に頼る程、実に熱の入った調教振りであった。

「よし。じゃあ次は…」
ページを捲り、次の指示の項目に目を移す。
それと同時に赤くなるルイズの顔。
まるでも火酒でもあおったかのような変化に『わふ?』と首を傾げる。
見れば本を持つ手も震えている。
「べ…別に、な、な、何でも無いわ…」
ついでに声も震えていた。
これが何でもなかったら医者の仕事など無い。

「い…いい? 行くわよ」
杖を出して指示を送る姿勢を見せる。
心配した所で意固地になった主は止まらないだろう。
それなら早く訓練を終わらせて安静にさせるのがいい。
彼はそう判断し、次の指示を待った。
だが、いつまで経っても指示は来なかった。


「お…ちん…、おちん…ち…」
プルプルと震えた手で本と杖を持ちながら、彼女は声を詰まらせる。
微かに声らしき物は出ているのだが酷く聞き取りづらい。
声に出すのを躊躇っているというか。
羞恥心とかプライドとか彼女の色んな物が枷になっているのだろう。
呼吸難の所為か、更に赤く染まる彼女の顔。

「おち…」

言いなさいルイズ!
こんなのただの命令じゃない!
なに変な事考えてるの!
ただ、さらっと口に出せばいいだけじゃない!
きっとちぃ姉様だって同じ事をやってたはずよ!
さあ、勇気を出して!

「おち…んち…」

自分で自分を励ましながら最後まで言葉を繋げようとする。
なんかいろいろ振り切ったせいか、逆に開放感さえ感じてくる。
そして、なけなしの勇気を振り絞り言い切ろうとした瞬間…!

「…ちなみに『お』は必要ないんだけど」
「ぶぅぅぅぅぅっ!?」
薔薇を咥えたまま器用に喋る闖入者によって、
声ではなく盛大に溜め込んだ空気を吹き出す羽目になった。


「何しに来たのよギーシュ! さては品評会のスパイね!」
未だに顔を赤らめたまま杖を侵入者に向けるルイズ。
恥ずかしい所を見られた借りを百倍にして返しそうな勢いだ。
それを落ち着かせながらギーシュは答える。

「何をやってるのか興味があったのは事実さ。だけどスパイとは人聞きの悪い。
第一、今やってる事なら他の使い魔全員出来る事だろ?」
「うっ…」
それを言われるとぐぅの音も出ない。
そもそも使い魔と主は一心同体。
主の指示通りにこなせて当然なのだ。

「大体、芸なんて仕込まなくても十分だろう」
「十分ってどういう事よ?」
「だって、君の使い魔は……」

口に出そうとした瞬間、ギーシュの脳裏に浮かぶ品評会の光景。

“では、次の方どうぞ”
“エントリーNo,17番、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。
私の使い魔の種族は犬、特技は変身。その妙技をとくとご覧あれ”
奇声と共に変形し怪物へと変貌する使い魔。
その異様さに観客達は逃げ惑い会場はパニックと化す。
咄嗟に姫殿下の護衛の者達が次々と魔法を放つ。
だが、それは逆に使い魔を徒に刺激するだけで終わってしまう。
一瞬にして怪物に引き裂かれる護衛達。
彼が振り向いた先に恐怖に慄く麗しき乙女。
“危ない!”
掛け声と共に疾風が駆け抜ける。
そこには姫を抱きかかえ怪物を真っ向から見据える勇者の姿。


“ああ、危ないところをありがとうございます”
“いいえ、王国に咲く一輪の花を守る事こそ貴族である我が誇り。
それに比べれば命の一つや二つ惜しくはありません”
“まあ、なんと勇敢で誇り高く美しいお方、是非お名前を…”
“名乗るほどの者ではありませんがギーシュ・ド・グラモンと申します”
“ああ、ギーシュ様。ここは危険です、早くお逃げください”
“なればこそ、お先に。ここは私が食い止めます”
“そんな…。私などの為に命懸けで”
“来い怪物! この『青銅』のギーシュ! 逃げも隠れもせん!”
バルバルバルバルッ!
“ぎゃーす!”

何を考えているんだ、僕は…。
骨も残さず溶かされた自分の末路を振り払う。
途中までは自信家らしい都合のいいサクセス・ストーリーだった。
だが、どんなに好条件が揃ってもルイズの使い魔に勝てる想像がつかなったのだ。
つくづく、あの決闘がトラウマになっている事を自覚させられる。


それはさておき、確かにルイズの事だ。
下手に使い魔の実力を知れば品評会で見せかねない。
そうなれば想像通りに大混乱が起きてもおかしくない。
それに良好な関係を変な事を教えたせいで崩したくは無い。
なら黙っていた方がいいとギーシュは判断した。

「ほら。君の使い魔は…その…愛らしいじゃないか。
うん、とってもチャーミングだと思うよ。僕のヴェルダンデには敵わないけどね」
はっはっはっと取って付けた笑みをしながら彼を撫でる。
褒められたのが少し嬉しかったのか、彼もギーシュの傍に寄ってそれを受け入れる。
対する彼のご主人様はじとーとギーシュを疑うような視線を向けて、

「…やっぱりアンタ、美的感覚おかしいんじゃない?」

そんな一人と一匹が傷つく事を平然と言い放ちやがりました。


そんでもって、いつもの通り暇を持て余したキュルケがタバサを連れ、
なんだかで縁のある四人が揃って歓談している最中にノックの音が響く。
扉を開けた先にはコルベール先生の姿。

「頼まれていた物が出来ましたよ。ミス・ヴァリエール」
「え? 本当ですか?」
「なになに? 何の話?」
ルイズの顔に笑みが浮かぶ。
買い物から帰ったその日の内に先生に頼んだ甲斐があった。
まさか、こんなに早く仕上がるとは予想だにしていなかった。
興味本位でキュルケも背後から覗き込む。
「はい。どうぞ」
差し出されたのは紐が付いた喫水の浅い船のような形をした何か。
予想外の代物にルイズの思考は停止し判断を止める。
「ソリ…よね」
「ソリ」
「どう見てもソリだね」
三者共に意見は一緒だった。
つまり見間違いとか錯覚とか幻覚とかじゃなく、
これは紛れも無くソリだという事だ。

「ふんっ!」
コルベール先生の手からソリを引っ手繰ると地面に叩き付ける。
よほど頑丈に出来ているのか、その程度では壊れもしない。
その事が逆にムカついてくる。


「こら! なんて事をするんだ!」
「私はあのオンボロを持ち運びやすいようにしてって頼んだんです!
てっきり短刀ぐらいのサイズに切り詰めてくれると思ったのに、
なんでいきなりソリが出て来るんですか!?」
「あのな…俺を殺す気か」
ひょっこりと無事だったデルフが口を挟む。
ちなみにデルフはソリの横に付けられた台置きに収まっていた。
あれだけ衝撃を受けても外れない所を見ると造りはしっかりしているようだ。

「それなんだが…インテリジェンスソードの扱いは難しくてね。
下手に折ったり溶かしたりすると二度と戻らないかもしれないからね」
確かにどこまでやれば喋れなくなるかなど判らない。
剣という形をしている以上、それが失われる事のリスクは大きい。
それは判る。判るんだけど…。

「でも、どうしてソリなんですか…?」
「とりあえず、君から頼まれたのは『持ち運びやすいように』という事だったろう?」
思惑が外れて涙目気味のルイズに、コルベールは落ち着いて答える。
「最初は車輪を付けようかと思ったんだが、それだと階段で引っ掛かってしまうし、
それに坂道で止まった場合、どこまでも下って行ってしまうだろう?
そこで考案したのが、このソリでね。
一方行には進みやすいが逆側には滑り止めが付いていてね。
これなら坂道で牽引索を離してしまっても大丈夫。
緩やかに坂を下っている最中に止められるという寸法で…」


否。全然落ち着いてなどいなかった。
自分の研究とは無関係ながらも彼の技術に対する信仰は厚い。
そりゃあもう得々と必要あるのか判らない機能についてまで語りだす。
逃げようにもコルベール先生は扉の前。
止むを得ず、いつ終わるとも知れないソリの説明を聞く事となった。
巻き添えを食った三人の白い目を背に感じながら、
“こんな事なら頼まなきゃ良かった”と彼女は後悔したという。

後に、このソリは彼のお気に入りとして扱われ、
厨房に出入りする度にソリに満載される料理を揶揄し、
“使い魔のトレイ”と呼ばれる事となるのだが、それはまた別のお話。


そして彼等がそうこうしている間に、
多くの者たちの思惑が絡み合う品評会は間近に迫っていた…。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー