ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

18 掌中の生死、掌中の破壊

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18 掌中の生死、掌中の破壊

収まることを知らない舌禍の応酬は、決闘を以って一旦その幕を下ろすことになった。
中庭に向かう三つの影。一人は怒気を孕み、一人は余裕の表情。情動を見出せない青い瞳で、使い魔を見上げる最後の一人。上空には竜が舞う。すべてを月が優しく照らす。
「……?」 中庭を囲む建物。そのなかで一際高くそびえる学院本塔、その壁面。何かがくっついており、そして地面に落ちた、ように見えた。
衝突音は聞こえない。タバサは思う。シルエットしか見えなかったそれは、人のようだった。

中庭で、キュルケと向かい合うルイズ。手には杖を構えている。
「いいわね? どっちかが『参った』というまで続けるのよ。負けたら……今後、私の使い魔に近寄らないこと。あとその剣も貰うわ!」青髪の少女に預けた二振りの剣をビシリと指差す。
暴利とも言える要求を受けながらも、未だ余裕ある態度を崩さないキュルケ。組んだ腕を解こうともしない。
「ええ、いいわよ。 私のほうは、そうね……。もし勝ったら、あなたの命を貰うわ」 うっすらと笑う。
ルイズは怯む。顔には出さないように努力したつもりだったが、キュルケの口角がさらに上がり、眉尻がさらに下がる。
落ち着け、落ち着くのよルイズ。どうせハッタリだわ。相手を動揺させるなんてさすがゲルマニア人、やることが汚いわね。大体、学院の敷地内で殺人なんて――
未遂ならあった。つい最近、ごく身近で。我知らず血の気が引く。ここには抑止力となる観客はいない。決闘を行うと知るものもいない。
少女を横目で見やる。彼女はなんだ? 一見して頼りになりそうもない。

返答のないルイズの様子を見て、己の優位を確信するキュルケ。生来の悪戯心が鎌首をもたげる。
「ふふっ。 ねえヴァリエール。 そんなに自信がないなら、ハンデあげましょうか?」 わずかに背を反らす。見下した目線。
「は、ハンデ?」 逡巡していた所に放り込まれた言葉。相手の態度にも気づかず、思わず鸚鵡返しに聞きなおす。
「ええ。 あなたが一度魔法を使うまで、私は何もしない。 動かないし、防御もしない。どう?」 破格の条件。それでも今のルイズには不十分。もちろんそんなことは言えやしない。
「そんな条件出したこと、後悔しないでよね!」 なめられていると知りながらも、粋がることを止められない。これも 貴族の サガか。

防御もしないの言葉は伊達ではないらしい。胸に挟んだ杖を取り出そうともせず、キュルケは悠然とその場に立つ。
それも当然だ。自分でもそう思う。だから確信できる。相手は本当に動きもしないのだろうと。ルイズは額に青筋を浮き立たせ、ルーンを紡ぎ始める。
チャンスを逃すわけにはいかない。失敗は許されない。確実な、基本的な魔法を。「ファイヤーボール」を使おう。
集中。自分の意識を探査する。どうにも空虚な感は否めない。だが呪文は唱え終わり、後は杖を振るだけだ。一世一代の気合を入れて、ルイズは杖を振る。

僅かな間が空き、天高く爆発音。何が起きたかわからないルイズは、音のする方を見た。
本塔の一部が爆発の残滓で煙っている。パラパラと落ちてくる、「固定化」の魔法がかけられたはずの石壁の破片。塔の壁にはヒビが入っている。
呆然とするルイズ。キュルケは……、腹を抱えて笑っていた。
「ゼロ! ゼロのルイズ! あんな所を爆発させてどうするの! 器用ね!」 笑い声の合間に皮肉を織り交ぜられ、ルイズは次のことも忘れ憮然とした。悔しそうに拳を握り締める。
一通り笑い転げたのち、キュルケはすっと真剣な顔になる。涙が拭われた目つきは狩人のそれに近い。
「さて、私の番ね……。 覚悟はいい?」 いいわけがない。
キュルケが杖を引き抜く。応戦だ、応戦しなければ死ぬ。歯を食いしばる。なんでもいい、魔法を。髪が恐怖で逆立つような錯覚。考えが纏まらない。使い魔はどこにいる?
キュルケの背後に山が湧き上がる。そうとしか形容できない場景。これがあいつの魔法……。

違う。まだ彼女は詠唱中だ。なにを使う気か、長々と呟いている。あの山はもうちょっと遠くに……。いや、山じゃない。大雑把な人の形。
ゴーレム!?こっちに歩いてくる! 無意識の内に体が跳ねる。


殺すつもりなんて、勿論ない。ほんのちょっとケガをさせるだけ。だって相手は「ゼロ」のルイズですもの。本気になったりしたら、こっちが恥をかくわ。
キュルケが杖を振り下ろさんと目を開ける。視界いっぱいに桃色がかった金髪。渾身のタックルをくらう。折り重なるように二人は横倒しになった。
「つっ! ちょっと、ヴァリエール! いくら魔法が使えないからって……」 言いかけるキュルケの手を、ルイズが全力で引っ張る。引きずられ、文句が口をつく。
月光が遮られる。上を見上げるキュルケ。次の瞬間、さっきまでの立ち位置に柱が打ち込まれた。柱は土で出来ていて、いびつなアーチを描いている。もう一端は中庭の隅、植え込みの中から屹立している。


「え、え? どうなってんの?」 間の抜けた声を出すキュルケ。それに頓着できる状況じゃないことが悔やまれる。
「今、ゴーレムの股下」 それだけ答える。それだけしか答えられない。キュルケを引っ張り、立ち上がらせる。あっちからここまでひとまたぎ。どれだけ大きいゴーレムなんだろう。そして、どれだけの使い手。
ルイズはとりあえず、寮への出口へと駆け出す。と、腕を掴まれる。
「何よ!」 振り返り、怒鳴る。キュルケは反対側を指し示す。見ると、あの青髪の少女が壁沿いに走りつつ、なにやら上空に向かって口笛を吹いている。
ゴーレムに命令しているのか? 違う。彼女の使い魔、ウィンドドラゴンに指示を出している。そうか、拾い上げて貰おう。二人は向きを変え、再度駆け出す。

しくじった、だが問題ない。結局は顔を見られなければ良いのだ。ゴーレムを使う手口は今に始まったことではないし、大体サインを残すのだ。目撃者の一人や二人、どうってことはない。
逃げ惑う少女達や、それをピックアップするドラゴンを眼下に、フーケは仕事を始める。
硬度×重量×スピード=破壊力。手首から先のみを鉄に変えた、巨大な土のゴーレム。それが学院の本塔、五階にある宝物庫の壁を殴りつける。
ヒビの入った壁に拳がめり込む。バカッと鈍い音がして、壁が崩れる。黒いローブの下で、フーケは微笑んだ。ゴーレムの腕を伝い、宝物庫に侵入する。

中には、その名に恥じない宝物が所狭しと並べられていた。
なにか動物の皮で、表紙(表皮?)を為している魔道書。吸い込まれそうな輝きを放つ、漆黒の多面体。
人間がかぶるには恐ろしく歪みすぎた、よく判らない金属で出来た王冠。微細な彫刻の施された、銀色に輝く大きな鍵。
タコのような竜のような、太った人のようなものがかたどられた石像。
それらの物を全て無視し、多数の杖が壁に掛けられている一角へと足を運ぶ。今欲しい物は一つ。
杖の中に異彩を放つ形状のものがあった。プレートが掛かっている。「破壊の杖。持ち出し不可」 フーケの笑みがますます深くなる。
手に取る。軽い。材質はなんだ? 今は考えている暇はない。杖を振る。壁に文字が刻まれる。
「破壊の杖、確かに領収しました。土くれのフーケ」 ゴーレムの肩に飛び乗る。
ゴーレムは敷地外に歩き出す。地響きが学院を揺らす。城壁をまたぎ、草原を誰憚ることなく歩み去る。

ウィンドドラゴンに乗った三人がその後を追う。ゴーレムは草原を越え、森へとその足を踏み入れる。木々が音を立ててなぎ倒される。数歩進むと、ゴーレムは突如崩れ落ちた。
三人は出来立ての森の跡地に下り立つ。ゴーレムの肩には人物は人が乗っていた。それは三人ともが確認している。今は森の木々に遮られ、どこへ行ったのやら。

「そういえば、決闘は?」 ぼんやりした口調でキュルケが聞く。
「無効」 青髪の少女短くが答える。月光に、土くれの山が照らされる。


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