ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は刺激的-21

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 地面から生えた手の前で石像のように立ち竦むモンモランシーの視界に、突如、ジェシカが
 捕らえた男の一人に刺される場面が映し出された。
「な…なに?これって…」
 それに驚いているうちに、ジェシカが男を突き飛ばして頼りない足取りでどこかへと向かう。
 その方向は、今、自分がいる厩舎だ。
「い…いけない!」
『待て!行くんじゃない!!』 
 ジェシカの元へと駆け出そうとするモンモランシーをロビンが制止する。
(どうして?!ジェシカが危ないのよ!)
『落ち着くんだ。彼女ならまだ殺されない』
(なんでそんな事が判るのよ!)
『相手に殺す気があるなら彼女はもう死んでいる。もっと良く見るんだ』  
 ロビンは草むらに隠れながら二人の男達を見る。
 一人は鍵を使って詰め所の中に入り、もう一人がゆっくりとジェシカの後を追う。
(どういうことよ?なんで鍵を持ってるの?)
『君の精神力を疲弊させる為に、わざとあの娘を殺さず君の元へと向かわせたんだ。
 そして、おそらくは警備兵も奴らの仲間だ。街からモット伯の屋敷に向かうには
 この道を必ず通らねばならないからな。
 普通なら夜更けにこんな怪しい馬車が通るのを警備兵が見過ごす筈が無い』
(え…?)
 確かにロビンの言う事は正しい。それならば男が鍵を持っているのも不思議じゃない。
 だったら、この埋められた死体はいったい誰なんだろう?

『今がチャンスだ。逃げるぞお嬢さん』
 ロビンの言葉に思考が中断される。逃げる?ジェシカ達を見捨てて?
(いやよ!あんなの見せられて逃げられる訳ないでしょ!)
『ならどうする?残り少ない精神力であの娘を治して、男二人と警備兵を相手にする気か?
 間違いなく君は殺されるぞ。それか捕まえられて男達の慰み者にされてから売り飛ばされる。
 所詮あの娘は平民だ、放って置けばいい。平民など貴族の奴隷なんだろう?
 命を懸けてまで守る必要なんてないじゃないか』
(そうね…あなたの言ってることは正しいわ)
 貴族の常識に当て嵌めるならば、この使い魔の言っている事は正しい。
 そうだ、この私が平民なんかの為に命を懸けるなんて馬鹿げてる。
 そもそもマリコルヌ達の手助けをしようとした事が間違っていた。
 どうして貴族の私が名前も知らない平民の為にそんな危険を犯さなくちゃいけないのか?
 馬鹿馬鹿しい。
 メイドを救おうと躍起になっているマリコルヌと二人の使い魔は頭がおかしいんだ。
 平民一人の為に貴族の屋敷に乗り込むなんて狂っているとしか思えない。
 だけど…私は彼らとは違う。馬鹿じゃない。
 やりたい事だって山ほどある。私には未来があるんだ。
 こんなつまらない事で死ぬ訳にはいかない。

『良し、早く馬に乗るんだ。追われない様に他の馬は殺しておけよ』
 ロビンに促され、モンモランシーは歩き出す。
『ソッチじゃないぞ。厩舎は向こうだろ?おい…何を考えているんだ!?』
(本当、なに考えてるんだろ)
 自らの血で服を染め上げたジェシカがモンモランシーの腕の中に倒れ込む。
 それを優しく受け止め、地面に寝かせて治癒の魔法を唱える。
『馬鹿な真似をするな!早く逃げるんだ!』
(そうね…馬鹿よ。みんな馬鹿)
 ジェシカの腹部から流れ出る鮮血が少しずつ収まっていくが、少ない精神力がそこで枯渇する。
 制服の袖を破り、ハンカチと共にそれを傷口に押し当てて止血し、震えるジェシカの手を握る。   
「モン…モ…ラシ…さ…」
「解ってるわ。安心して」
 モンモランシーが手に力を込めて優しく微笑む。安心したジェシカはそのまま気を失った。
『自分が何をしているのか理解しているのか?』
 ロビンが建物の陰に隠れるようにして近づき、主を見上げて問いかける。
(自分でも解らないわよ。だけどね…ここで逃げたら私の中で何かが終わってしまう。
 平民の為じゃないわ。私自身の為に…やらなくっちゃあいけないのよ)
 主の独白に近い呟きと蒼き双眸に込められた意思を見て、小さな使い魔はケロケロと笑った。

『そうか…ならば君の思う通りにやるがいいさ。勿論、奴らを倒す方法は考えてあるんだろう?』  
(え~と…今から考えようかな…って)
 困ったように答える自分の主をロビンは呆れたように見詰める。
『君は馬鹿か?』
(うるっさいわね!仕方ないでしょっ!思いつかないんだから)
『参ったな…あの男達だけなら何とかなるが、警備兵も含めるとお手上げだぞ』
(その事なんだけど…)
 モンモランシーから埋められた死体の事を聞いたロビンが唸る様にゲロリと鳴く。
『それは間違い無いのか?』
(小手も着けてたし血も渇いて無かったから、たぶん…)
 喉をプクリと膨らませて何やら考え込む使い魔を、モンモランシーは心配そうな眼つきで見る。
『それなら何とかなるな』
(本当でしょうね?私、死ぬのも捕まるのも嫌よ?)
 疑わしげに見る主にゲロッと一声鳴き、ロビンが考えたばかりの作戦を伝える。
(上手くいくんでしょうね?)
 心配ではあるものの他の策も思い浮ばないので、モンモランシーは意を決して立ち上がる。
『それは君次第だな。さて、始めようか』


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