ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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「ねぇ~……。どぉこぉぉぉ~~」
また一つ、焦げ朽ちた木が倒れる音が響き、その向こうから、キュルケが現れる。
「ふたぁりぃともぉおぉぉ~~~……。どぉぉこぉぉぉ~~……。あたしさぁみしぃぃいぃぃぃ~~~」
意中の二人を求めながら、邪魔な木を次々と燃やし尽くす。声が段々と近づいてきて、ルイズは思わず、しゃがんだまま後ずさりしたくなった。
だが、傍にいる才人に腕を掴まれ、物音を立てないように目で訴えられる。
今、不用意に動いて気付かれては、水の泡なのだ。ここは、黙って我慢しないといけない。
ますます近づいてくる足音。キュルケの声。そして、木がまた一つ、崩れた音。
首筋から冷たい汗が流れたルイズが、思わず呻いてしまいそうになった時。
「みぃつぅけたぁ♪」
冷たく、はしゃぐキュルケの声がして、ルイズと才人は、心臓が止まりそうになった。
彼女は……、ルイズ達とは真逆の方を向いて、目を輝かす。そこに……、ジャイロが立っていたからだ。
「嬉しいわ……。遭いにきてくれたのね」
唇に指をあてるキュルケ。その足元から、再び、勢いよく炎が燃え上がる。
ジャイロは答えず、黙ってキュルケの左腕を見た。
さっきより腕の同化は戻っていたが……、まだ少し、ずれて浮き上がっている。ルイズの魔法の効果は、まだ生きているらしかった。
「もう一人がいないのは寂しいけれど……、まずはあなたからね。……心配しないで、髪の毛一本だって、無駄にしないから」
唇からゆっくりと離れた指先に、炎が集まっていく。
「悪りィな。オレはオメーに丸焦げにされるつもりも、料理される気もねェ」
不敵にそう言い放って。ジャイロは右手に掴んだ、ギーシュに創らせた青銅の球を持ち上げた。
「ふーん……。それなら、どうするの?」
当たり前のように、キュルケが問う。逃げる以外の選択肢など、一つしかないと言いたげに。
「オメーを倒す」
ジャイロが、利き腕を振り上げた。
「できるものなら」
キュルケが、一層強く、炎を吹き上げた。
「やってごらんなさい!」
回転された球体がジャイロの手を離れるよりも早く、キュルケの炎がジャイロを包んだのだ。

違和感があった。
キュルケの炎が、包んだジャイロを心地よく燃やす感覚が、伝わってこない。
ゾクゾクするような絶頂感が、まったく来ないのだ。
その理由を――、キュルケは、すぐに理解する。
炎に包まれたはずのジャイロが、焼かれもせず、焦げもせず、炎の中にいる!
何故、と思った。どうして、とも思った。
その理由もまた、すぐに彼女は理解した。
ジャイロの後方、そこにいた、青い髪の少女。
「タ……タァバァサァァァァッ!」
タバサが残る魔力を使い、ジャイロと自分の周りに、風の壁を創り出していた。
「あ、……あなたまで! あなたまで邪魔するの!? どうして!? 友達でしょ!? 友達なのにぃぃっ!」
悲壮な顔をして、キュルケは炎を強める。タバサは僅かに苦しそうな表情をしたが。
「キュルケ」
短く、彼女の名前を呼んだ。
「間違ってるのは、貴方のほう」
「う、……嘘よ。そんなの嘘よおおおぉぉぉっ!!」
烈火の炎は怒りと共に強くなり、タバサの風を食らっていく。
だが、これが、これこそが彼らの作戦だった!
ジャイロが、そしてタバサが命をかけて囮となることで……切り開いた勝利への道筋!
その先に向かって、ジャイロが渾身の力で放ったのである!
青銅の球体は、業火の渦巻く隙間を潜り抜け、そしてキュルケの横を盛大に、通り過ぎた!
「外した!?」
それに驚いたのはキュルケだ。何故外したのか。その理由が分からない。断末魔の如く、雄雄しく散ろうとでもいうのか!?
「違うね! 行ったぜェェェ! 才人ォォォッ!」
青銅の球が熱帯を突き抜けた先に――、駆けつけた才人がいた。

「う、おおおおおおおりゃあああああ!!」
球をしっかりとキャッチした才人が、キュルケめがけて、それを投げつけた!
キュルケはジャイロに炎を浴びせていたのだから、才人がいる背中は全くの無防備、そこを突いた攻撃だ!
空気を切り裂く音を発し、弾丸は疾走する!
だが、逆転の手を打たれたにもかかわらず、キュルケの顔からは、微笑は消えない。
「甘いわね!」
ジャイロに左手を向けたまま、キュルケは右腕を才人に向ける。その瞬間、彼女を覆うように、炎が円陣を組んだ!
「な、なにぃ!?」
才人が素っ頓狂な声を上げた。自分達の秘策が、破られることなんて、想像もしていなかったからだ。
「……う」
タバサが、がくりと膝を落とす。魔力の限界が近い。
「……燃えちゃえ。みんな。……みんな燃えてしまえばいい!」
紅蓮の魔女が、底知れぬ力を見せつける。
「く……くそぉ……。ジャ、ジャイロォォ!」
成す術なく、万策尽き、刀折れた才人が、がっくりと膝をついた。
その炎の中で、荼毘に付されるはずの、ジャイロは。
「……ギーシュのヤローが創った、あの青銅の球は、酷く歪んでてよォ。完璧に回転なんてかけられねーんだ」
「……何、を?」
キュルケは、きょとんとする。
ジャイロの表情は、末期を迎える表情ではない。むしろあれは、……勝利を、確信した者の。
「だがよォ。それがいい。むしろ歪んでいたほうが、この場合は特に具合がいーぜ」
異変が起きた。再び、風が巻き起こったのだ。キュルケはタバサを見るが、彼女は汗を流したまま、ぐったりと顔をうつ伏せている。

「竜巻って知ってるか? 竜巻はな、ありとあらゆるもんを巻き込むんだ。渦を巻いた中心が真空になって、すべてを吸い寄せる」
炎が、消えていく。いや、それは違う。炎は――吸い寄せられていた。
キュルケの隣に、突如として発生した竜巻に!
「不完全な球体で竜巻を生み出すには、相当の“パワー”が必要だ。人間の腕力じゃどーにもならねーほどのパワーがな。だがオレにはそれだけのパワーがねェ。頼りは才人だが、あいつは竜巻を生み出す回転をかける技術がねェ」
そこでよ。と、ジャイロは再び、不敵に笑う。
「囮としてオメーの注意を引き付けたオレが、球体に竜巻を生み出す回転をかけた。才人のトンデモねェパワーがかかったとき、確実に竜巻を起こすように調整してな。
才人は真っ直ぐ投げたつもりだったようだが、歪んでる球が真っ直ぐ飛ぶわけがねェ。球はオメーの手前で地面に落ち、炎を避け、竜巻を生み出したってわけだ。……まー、賭けみてーなもんだったが、これだけできりゃ上出来だぜ」
ニョホホ、と笑った声が、勝利宣言だった。
「さって……、だがよォ、人が造った竜巻なんて、十秒も持たねェ。止めは、キッチリ刺さねェとな……」
ザッ、と土を踏みしめる音が、キュルケの背後から聞こえた。
振り向く。そして、キュルケは、大きく目を見開いた。
呪文を完全に詠唱し終えた、ルイズがそこにいたからだ。
「おチビ! フィナーレだ! ドカンとぶちかませ!」
キュルケは、自分を狂わせた異形の腕を、最後まで、抱えるように守った。
ルイズの杖が、キュルケの足元に向いた。
再び、爆風は巻き起こる。
強烈な衝撃が、キュルケの全身を突きぬけ――、炎が全て、剥れるように消えていく。
爆風が、キュルケの体から、悪魔を解き放つ。
才人が、宙に舞う腕を、駆け寄って掴む。
どさり、とキュルケが倒れた。タバサが近寄って、マントをかける。
キュルケは静かな寝息を立て、不安のない赤ん坊のように、眠っていた。
「終わった……の?」
恐る恐る、ルイズが尋ねた。
「ああ。……これで決着だ」
安堵感で、才人とルイズは、同時にその場にへたり込んだのだった。


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