ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのパーティ-20

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
予定していた風呂の補強が早く済み、暇をもてあました僕は、その時間を休憩へと当てることにした。
屯所から一時的に借りてきた机を件の風呂場の横に置いただけの休憩所で、僕はゆっくりと与えられた時間を過ごす。

ぼーっと空を眺めていた僕はふと、テーブルを挟んだ向かいに座る、意外な客人に目を向ける。いつぞやの青い髪のちびっ子だ。
僕と接点のない彼女が、何故今、この場にいるのかということは目の前にある、厨房から借りてきたポットに入った液体と関係がある。

僕は机に置かれた木のコップに、そのポットの中の液体をなみなみと注いでいく。
ポットから出、本来の鮮やかな色を露わにした液体は、僕にとって馴染み深い良い香りを放っている。
それもそのはず、コレは僕が入れたお茶だ。
普段はこういう事はしないのだが、たまにはと思って入れてみたのだ。

僕はその、お茶をそそいだコップを目の前のちびっ子……タバサというらしい……へと進めた。

「もう一杯飲みますか?」

目の前のタバサは、僕のその言葉に、こくんとだけ頷き、僕がテーブルにおいたコップを手に取って、グイィーっと飲み干した。
そして飲み干したコップの底を、じーっと見つめる。

「おかわりなら、まだまだありますよ」

そう言いながら、僕はポットを振って、まだ中に多量のお茶が入っているということを示す。
タバサはそれを聞いて、僕の方へとコップを渡した。
僕はそのコップを受け取って、再び、そのコップになみなみとお茶を注ぎ、またタバサへと渡す。
タバサは受け取ったお茶を、またもやグイィーっと一気に飲み干す。
そして再度、僕の方へとコップを渡す。

とまぁ先程から、そんな事を何度も繰り返している。
僕は何故、こういう事になったのか、その元となった『ムラサキヨモギ』のお茶を何故作ろうと思ったのか、それについて思い起こすことにした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

目の前にたんと積まれたムラサキヨモギを前に、これをどう処理するかについて、僕は悩んでいた。
捨てても良いのだが、何かに使えそうなので捨てるのは少しばかりもったいない。
まさしく鶏肋といった奴である。

「一応、香りはヨモギなんだが……」

最初に浮かんだ案は傷薬。
ヨモギはお灸などにも使われる植物だ。よく洗えば、消毒液にも使えるだろう。
しかしながら、調合するにしても、そのまま絞ったエキスを張るにしても、それだけでこの量を全てを消費するのは無理がある。
最悪、成分が違うかもしれないため、そういう効果は見込めない可能性もあるしな。

次に浮かんだのが料理の香り付けだが、僕らは料理を作る必要はないし、高級な食材を多く使う厨房に、こんな何処ともしれない所から摘んだ草を持っていっても、鬱陶しがられるだけだ。

ならいっそ、お茶にしてみるのも良いかもしれない。
香りはヨモギと同じで、非常によい香りだ。それに……

「水で薄めれば、飲める様になるかもしれないな」

思い立ったが吉日。
僕は颯爽とお茶を入れる準備を始めた。

今回は葉を乾燥させている余裕はないので、煎って水分を飛ばす。
僕はその間に、ポットを借してもらいに厨房へと向かう。
火元から離れる。今になって思えば、それが不味かった。

「……」

見事に酸化、もとい焦げた。
非常に香ばしい匂いがする。食べれば満腹度が下がってしまうのは間違いないだろう。
しかし、どうやら内側の方のヨモギは無事なようだ。

僕は無事な葉をかき集め、お湯を入れた。
お湯はこぽこぽと煙を上げ、少しずつ薄紫色の液体へと変化する。
そしてその液体に、もう一度葉を通し、さらに色を濃くしていく。

僕はその作業を十回ほど繰り返した。
結果、コップの底が見えぬほど濁った、紫色の液体が完成する。
その液体から放たれるヨモギの香りが、香水のようにしつこいほどに鼻につく。
これは下手な場所には捨てられないな。

正直、見通しが甘かったとしか言えない。
焦げてしまった分、味も元よりも苦いのではないのだろうか?

そこで問題だ、どうやってこの入れてしまったお茶を処分するか?

3択-一つだけ選びなさい
 ①ハンサムの花京院は突如、丁度いい捨て場所が思いつく。
 ②誰かがきて、犠牲になってくれる。
 ③飲むしかない。現実は非情である。

僕の理想は2だが、刻限になっても姿を見せない才人が、今すぐここに都合よく現れて、アメコミのヒーローの様にジャジャーン、『待ってました!』と犠牲になってくれるというわけにはいかない。
逆に、さらに厄介なことに僕を巻き込む準備をしているのかもしれない。
という事は1しかないッ!

「『ハイエロファント・グリーン』! コイツを捨てられる場所を探し出せッ!」

僕はハイエロファントを辺り一帯、100mもの距離に渡って張り巡らせる。
と決闘の時、才人の身体を洗い流した洗い場があったな。
彼処なら捨てても問題はないし、今更、匂いの一つぐらいたいした問題にもならないだろう。
それで良いのかという気もするが。

答え― ①  ①   ①

僕は早速ポットを持って、洗い場の方へ向かおうと立ち上がった。

「……この香り」
「……!?」

予期せぬ所から声を聞き、僕は思わず身構えた。
何時の間にか、近くにはいつぞやのちびっ子がいたのだ。
微妙に鼻をひくつかせ、このポットの匂いを感じ取っているようである。

ちびっ子は何度か辺りを確認して、匂いの発生源を僕と断定したのか、こちらへと近づいてくる。
念のため僕はスタンドを自分の守りに回し、相手の出方をうかがう。

「………」

ちびっ子が、僕の面前1mぐらいにまで寄ってきた。
そして彼女は、ゆっくりとその口を開く。

「ムラサキヨモギ」
「?」

唐突に、その香りの元である葉の名前を口にした少女は、僕の手にあるポットをじーっと見つめている。
ひょっとしてコレが、欲しいのだろうか?
処分に困っていた僕は、目の前の少女に勧めてみることにした。

「えっと……」

そういえば僕は、彼女の名前を知らない。
確かキュルケが名前で呼んでいた気もするが……

僕が彼女の名前を思い出そうとしている間に、彼女の方が自ら名乗り出た。

「タバサ」
「タバサさんですね。僕はノリアキです。……立ったままというのも何でしょうから、どうぞここに座ってください。お茶でも飲んで、話でもしましょう」

少女はこくんと頷き、僕とテーブルを挟んだ向かい側へと座る。
僕はポットのお茶をコップに注ぎ、それをタバサの前へと出した。タバサは黙ってそのコップを受け取る。

「…………!」
「どうしました? ヌルイから飲むのは嫌ですか?」

タバサはコップを顔にまで近づけた所で、思わず顔をしかめた。
おそらく、相当に匂いがきつかったのだろう。

僕は思わず心の中で微笑んだ。
彼女にはいつぞやのチェリーの恨みがあるからだ。

さて、どうする?
僕はタバサの方を眺め、彼女の次の行動を待った。

グイィィー

彼女はなんと! 意外なことに、それを一気に飲み干した!

「なァにぃイーーーッ!?」

そしてッ! 彼女は続けて机の上に置いてあったポットの蓋を、かちゃっとずらす!
コイツ、おかわりをする気だ……ッ!
コイツにはおかわりをすると言ったら、絶対にやる『凄み』があるッ!

「タバサ! 貴様、このお茶を飲み慣れているなッ!」
「答える必要はない」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

そういうわけでタバサと僕は今、同席をしているというわけだ。
ちなみに今、彼女は20回目のおかわりを飲み終え、僕に21回目のおかわりを要求している。

僕は初めと比べ、大分軽くなったポットを持ち、おそらくコレが最後になるであろうお茶をコップへと注ぐ。
彼女はその、最後のお茶を顔色一つ変えずに飲み干す。
そして、またポットの蓋をずらした。
しかし、既におかわりのお茶は切らしてしまっている。

「もうありませんよ」
「そう……」

彼女は少し残念そうに顔を伏せる。まさか、気に入ったのだろうか?

「美味しかった。コレはお礼のはしばみ草」
「……あ、ありがとうございます」
「多分、合うと思う」

そういって、タバサは僕になにやら見たことのない草を渡してくる。
そして僕の礼を聞くと、そのまま彼女は校舎の方へと戻っていった。
その彼女の後ろを6mはありそうな、俗に言う竜が追いかける。
僕はその一人と一頭の後ろ姿を、じっと眺めながら、渡された草を口に放り込んだ。


「………………!?」

ヤバイほどの苦みが、口内を襲った。
全く味わったことがないタイプの苦みだ。
しかも目一杯、一気に口にしてしまった所為ではき出そうにもはき出せない。
負けたよ…… 完全…… 敗北だ……

「大きな星がついたり消えたりしている…… 大きい…… 彗星かな? いや、違う。違うな。彗星はバアーッと動くもんな…」

僕はかろうじて意識を持ちながら、そんなことをつぶやいて、タバサの後ろ姿を見送るのであった。

To be contenued……

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー