ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第一章 死と再生

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「見事だリゾット・ネエロ…。『誇り』は失わずに命を絶った…」
ボスの声が遠く聞こえる。
だが、リゾットには立ち上がることができなかった。手も足もスタンドも、もう動かすことはできない。
(すまない。俺は結局、お前たちの仇を討つ事も、ボスの打倒も果たせなかった)
激痛の中、薄れ行く意識で、リゾットは死んだ仲間たちを思い出していた。
ソルベ、ジェラート、ホルマジオ、イルーゾォ、プロシュート、ペッシ、メローネ、ギアッチョ。
みんな、死んだ。みんな死んでしまった。
(結局、俺は何一つなし得ず、ただ世界に死を振りまきながら死んでいくのか…)
覚悟はしていた。だが、寂しいような、悔しいような思いが胸の内に駆け巡る。
どこかへ落ちていくような感覚がした。
(死後の世界があるならば地獄へ、仲間たちの所へ行くんだろう)
懐かしい仲間たちに会うことを期待しながら、リゾットは意識を手放した。

第一章 死と再生


明るい光を感じ、彼はゆっくりと目を開けた。
まず目に入ったのはこちらに注目する大勢の群衆、そして屹立する塔に城。
サルディニア島とはまったく違う景色だった。
(生きている…?)
負傷の感覚がなく、身体の傷が消えていた。
それどころか、ボスに切り飛ばされたはずの右足も元通り身体についている。
(まさか、夢だったのか?)
とっさにそう思ったが、なぜこんなところに横たわっているのか説明ができない。
全身を覆う疲労、そして何より全身を銃弾で貫かれる記憶の生々しさが夢の可能性を否定していた。
(一体、何が…?)
呆然とするリゾットを他所に、突然群集から笑いが巻き起こった。
「流石『ゼロ』! 平民を呼び出すとはな!」
「まったく、ここまで失敗しかしないと逆に尊敬するよ!」
その笑いには嘲笑がたぶんに含まれていたが、それは正確にはリゾットに向けられたものではない。
「うるさいわね! ちょっと間違っただけよ!」
「間違いって、ルイズはいっつもじゃん!」
「『ゼロ』のルイズは失敗が当然だからな!」
背後からの怒声と、それに向けられた嘲笑にリゾットはのろのろと振り向いた。

唐突に指が突きつけられる。
桃色がかったブロンドに鳶色の眼という見慣れない配色の少女がいた。
リゾットの眼を見ると一瞬ぎょっとしたようだが、それでも気を取り直して質問してくる。
「あんた、誰!?」
何を聞かれたか、気だるい今のリゾットの思考では理解できなかったが、ともかくリゾットは質問した。
「ここはイタリアではないのか?」
「質問を質問で返すとテストで0点になるって知ってる? 私が『誰?』と聞いてるのよ!」
「俺は生きているのか?」
「生きてるに決まってるじゃない。っていうか、名前を聞いてるのよ!」
「これはなんだ? 新手のスタンド使いの攻撃か?」
「……もう喋らなくていいわ。会話がかみ合わない…。ミスタ・コルベール、儀式の再挑戦を希望します!」
ため息をついて、少女はリゾットから近くにいた年嵩の男に会話の対象を移し、何事か抗議し始めた。
良く見るとここにいる人間はほとんどマントを着用している。
どうやら制服のようなものらしく、ここにいる人間はみな同じ所属ということらしい。

リゾットは周囲の観察を続けながら考える。
(新手のスタンド使いの攻撃を受けているのか?)
しかし、リゾットはその可能性は少ないと考えた。周囲の人々からは殺気は感じ取れない。
それに攻撃するつもりならば、今まで寝ていたリゾットをいくらでも殺すことができただろう。
(もっとも、今の俺に殺すほどの価値があるかどうかも疑わしいがな…。仲間を失い、ボスにも負けた俺に…)
そこまで考えると、リゾットは考えるのをやめた。
仲間を一人残らず失った喪失感が、ボスに敗北したという事実を再認識すると共に押し寄せてきたのだ。
暗殺を生業にしていた彼にとって、敵味方問わず、死は身近にあるものだ。
だから彼は最後の一人になっても行動をやめることなかった。
だが、その原動力は仲間の仇を討つという目的、
あるいはボスを倒し、パッショーネを乗っ取ると言う希望があったからだ。
しかし、今、組織を離反し、ボスに敗れた。
今のリゾットを戦いに向かわせる物は何もないのだ。
どうにでもなれという捨て鉢な気持ちがリゾットを支配していた。

漫然と成り行きに任せていると、先ほどの少女が寄ってきた。
そのせいか、少女は憮然とした顔でツカツカとリゾットに歩み寄ってくる。
先ほどからの侮辱に怒っているのか、顔がやけに赤い。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
「……?」
リゾットが黙っていると、彼女は予想外の行動に出た。
手に持っていた杖を構え、何事か呪文のようなものを呟くと、突然リゾットの唇を奪ったのだ。
「………」
だが、リゾットは動かない。
空虚な瞳で他人事のように成り行きを見つめている。
しかし次の瞬間、左手を中心に全身が燃え上がるように熱くなった。
(毒か!?)
リゾットは左手を抑えたまま、その場にうずくまりそうになったが、何とか耐える。
押し寄せる痛みの波は唐突に引いていき、左手の甲に文字のような印が浮かんでいた。

一方、少女は痛みに耐えるリゾットに突き飛ばされ、地面にしりもちをついていた。
「いった~~い! 何するのよ、使い魔の癖に!」
「何をするか、だと? それはこちらの台詞だ!」
「何って…『コントラクト・サーヴァント』の儀式よ。あんたは私に召喚されたんだから当然でしょう?」
「召喚? 何を言ってる。イカレてるのか…?」
「な、なんて口の利き方…! ご主人様に向かって!!」
言い争いをしていると、先ほどルイズが抗議していた
年嵩の男が近寄ってきて、リゾットの左手に刻まれた印を確認した。
「ふむ、珍しいルーンですね…。まあ、ともかく無事終わったようですね、ミス・ヴァリエール。おめでとう」
「ありがとうございます、ミスタ・コルベール」
「相手が平民だからなぁ!」
「そいつが幻獣だったら契約なんかできないって」
何人かの生徒がまた野次を飛ばす。
「馬鹿にしないで!私だってたまにはうまく行くわよ!現に使い魔だって呼んでみせたじゃない!」
「平民だけどな!」
またげらげら笑いはじめる生徒たちに、コルベールという教師(?)が嗜める。
「こらこら、貴族はお互いに尊重しあうものだ。ともかく、契約も無事済んだことだし、皆、教室に戻るぞ」
その声と共に周囲の群集…どうやら学生らしい…が空を飛んで散っていく。
(これが地獄というわけか?)
リゾットは混乱しながらそれを見ていた。

「がんばれよ、ゼロ」
「貴方にはお似合いの使い魔よ」
言葉だけは優しい、嫌味を言って去っていく者たちをにらみ付けると、少女はこちらに向き直った。
また何かまくし立てられそうだったので、リゾットは機先を制してみた。
わけの分からないことだらけだが、一つ一つ確認していく以外にない。
「お前は誰だ?」
自分の言を取られたことが不快なのか、少女はちょっと顔をしかめたが、
目の前の男の有無を言わせぬ口調に、しぶしぶ名乗った。
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあなたのご主人様よ。覚えておきなさい!」
「ご主人様はさておき…さっきの質問に答えてもらおう。ここは…どこだ?」
「ここはトリステインよ。ここはかの高名なトリステイン魔法学院。服装も変だし、田舎から来たのね、貴方」
「トリステインなんて名前は聞いたこともないな。次の質問だ。今、俺に何をした?」
「『コントラクト・サーヴァント』の儀式よ」
「それは聞いた。さっきのキスがそれなのか?」
リゾットの質問にルイズの顔が真っ赤になった。
「そうよ。あれはその儀式の一環で契約の証よ。感謝しなさいよね。その……私の……ファーストキス…だったんだから!」
「…………」
反応に困ったリゾットが黙っているとルイズはびしっ! と指を突き出し、命令した。
「さあ、今度は貴方の名前をご主人様たる私に教えなさい!」
名前を問われ、リゾットはしばらく考えた後、名乗った。
「リゾットだ。リゾット・ネエロ……」

「とても信じがたいが、お前の言うことは理解した」
「平民で使い魔で、おまけに田舎者の癖に、ご主人様をお前呼ばわり?口の利き方に気をつけなさい!」
それからしばらく後、ルイズの自室に連れて行かれたリゾットは自分が置かれた状況に愕然とした。
魔法使いが支配する世界に突然呼び出され、自分はこの小娘に使役されることになるというのだ。
リゾットは会話中、注意深くルイズを見ていたが、そこに嘘や演技を汲み取ることはできなかった。
(こいつはマジでいっている。少なくともこいつにとっては今の話は本当だ)
確かに、言われてみれば夜空には月が二つある。地球でないことは確かなようだ。
「とにかく、これから貴方は使い魔として私に誠心誠意、尽くすのよ。この私の使い魔になれることを光栄に思いなさい!」
「お前が俺のボスになるということか?」
「そうね。私に付き従い、命令には絶対服従してればまず間違いないわ」
「だが断る」
「何ですって!?」
ルイズは予想外の、しかしリゾットにとっては当然の反応に色をなす。

「助けてくれたことには礼を言おう。いずれ必ず命の恩は返す。だが、俺はもう誰かの犬に成り下がるつもりはない」
言うなり、リゾットは扉に向かって歩き出した。
「こら、ご主人様を無視してどこへ行くのよ!」
後ろから掛けられたルイズの声で、リゾットは思わず足を止めた。
どこへ行くのか?
もしも彼が異世界に飛ばされていなかったとしても、彼はこの問いに答えることはできなかっただろう。
一般社会からもギャング組織からもはじき出され、戦いに敗れた彼はもう、どこへも行く所はないのだ。
「イタリアに帰る」
それでも何とかそれらしい目的をひねり出し、リゾットは答える。
「無理よ。召喚した生物を帰す方法はないもの」
なければ探せばいい。だが、戻ってどうなる? 戻ってどうする?
元の世界に帰ってもボスに勝てる可能性は限りなく低い。
何より、仲間たちが残らず死んだ今となっては組織を乗っ取る事さえ虚しいように思えた。
「何よ、そんなに落ち込まなくたっていいじゃない」
「……わかった」
「え?」
「お前は命の恩人だ。受けた恩は返そう。返すまでの間、お前に雇われてやる」
『恩には恩を、仇には仇を』、それがリゾットの流儀だ。
やることがない以上、相手に雇われるのもいいだろう。
そして恩を返す間に今後のことを考えればいい。
少なくとも、この異世界にまでは追手はこない。
リゾットはそう結論していた。

「とりあえず、あんたの仕事は掃除洗濯雑用だから。平民は秘薬探しや戦いなんて出来ないだろうしね」
「わかった」
ルイズにはスタンドのことも自分が暗殺者であることも教えていない。
戦えないとルイズが思うならそれでもいい。
相手に自分を使いこなす器量があれば勝手に見抜くことだろう。
「いろいろあったから疲れちゃった。もう寝るわ。これ、明日になったら洗濯しときなさいよ」
ルイズはいうなりリゾットの目の前で着替え始め、着衣を放ってくる。
リゾットが黙っていると「いいわね?」と念を押した後、指を弾いて明かりを消し、さっさと寝入ってしまった。
残されたリゾットはため息をつく。
この雇い主はずいぶん我侭な子供のようだ。
(恩を返したらさっさと出て行くとしよう)
そう考えながら壁にもたれて座り込み、毛布をかけ、眼を閉じた。
(それからどうするか、が問題だな…)
答えのない自問自答を繰り返すうち、眠りに落ちたのだった…。


目次         続く
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