ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

空条承太郎の新しい事情 ――(1)

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匿名ユーザー

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(朝か)
閉じた瞼に突き刺さる陽光と鳥の声に、承太郎は目を覚ました。身に纏う毛布を脱いで立ち上がる。
身体の節々が軽く痛む。硬い床で寝ていたせいか。

あれから結局、承太郎は床で寝た。
とっとと出ていっても良かったが、状況を考えるとそうも行かなかった。
とにもかくにも、この世界と承太郎を繋ぐ点はルイズしかない。
昨日はあんまりにも高圧的なのでつい逆らってやったが、ある程度の情報や自活手段を得るまでは、ある程度譲歩して従ってやる必要もあるだろう。
無論、へこへこ言う事を聞いてやる義理もないが。

それに――
承太郎は昨晩最後に見たルイズの顔を思い返す。
あれは怒りの顔だったが、それだけではないようにも思えた。
どこか張りつめた、ギリギリの顔。負荷がかかれば折れてしまうつっかい棒のような脆さ。

こちらに召喚された直後の心ない罵声を考えるに、恐らく彼女は魔法が得意ではないのだろう。
『失敗で喚ばれたらしい自分』が『ふさわしい』と嘲笑われるのだから。
その悪意に、彼女は折れそうになりながらも耐えていた。

自分が迂闊な行動を取れば、多分あの時のようにルイズが嗤われる。
自分の行動で自分が貶されるのは構わない。それは『自業自得』だ。
だが、

(俺の行動でこいつが貶されるのは俺自身の心に『後味が良くない物』を残すぜ)

この女の事は気に入らないが、それとこれとは話が別だ。
行動には今まで以上に気を遣う必要がある。
自分らしからぬ人の良さだとは思うが、まあ悪くはないだろう。

と、ルイズのベッドがごそりと蠢き、ピンクの頭が顔を出した。

「ん、あ……おはよう……」

しょぼしょぼの寝ぼけ眼でルイズが言う。
朝には弱いのか、心ここにあらず、と言った様子だ。

「用事がある。しばらく出てくるぜ」
起きたルイズにそう言って、承太郎は部屋を出ようとする。
それを、ルイズは寝ぼけ眼のまま呼び止めた。

「その前に、着替えさせて」
その言葉に、承太郎は顔をしかめた。いきなりそれか。
「自分でやれ。その程度の事は」
「あによ……使い魔の仕事の一つよ、洗濯だって……」

床に放りっ放しの洗濯物を見るルイズの瞳が徐々に焦点を取り戻していく。
言う事を聞かない承太郎に怒りを覚え初め、それが回らない頭を再起動させていく。
起動しきると面倒な事になる。その前にさっさと済ませてしまう方が『賢い行い』なのだろう、多分。

「やれやれだぜ……」

承太郎は深くため息をついてから呟き――次の瞬間、その身体が白金色に輝いたッ!

ドオォ
    ̄乙_
       ンッ!


一瞬、何かが煌めく。小さな旋風が巻き起こる。
煌めきがルイズの瞳から消えた頃――時間にして3秒ほど――には、ルイズはブラウスとスカート、ローブまでもを身につけていた。
そして床の洗濯物とネグリジェは、丸まって承太郎の手の中にある。
実に不可解!それだけの仕事を承太郎は一瞬のうちに、『その場から動かずに』やってのけたのだッ!

「終わったぜ。いいか、俺は行くぞ?」
「んあ……あ、そう……いってらっしゃい」

言質を取った承太郎は、踵を返して部屋から出ていった。
部屋には1人、寝ぼけたルイズが残される。
たっぷり十分ほど、ぼぉっと過ごしてから、彼女は

「勝手に何処行くのよッ!あの『使い魔』はァァ~ッ!」

正気に返ってから思いっきり怒鳴った。


   ■----------------------------------------------■


部屋を出た承太郎は、まず手の中の洗濯物の処理の仕方を思案した。
この朝は自分にもやるべき事があるので、これを洗っている暇はない。

彼は手近な窓に歩み寄ると、外を見た。
広がる中庭、蒼い空、ゴミゴミした日本では見つけづらい美しい景色。
それらからは取りあえず興味を外して、瞳を凝らして中庭を見つめる。

承太郎と繋がっていながら承太郎の物ではない、異形の視力が中庭を観察し――そして見つけた。
向こうの壁の近くの木陰に積んである、洗濯籠の山。
あれに突っ込んでおけばいいだろう。

承太郎は洗濯物を持った手を振り上げた。再び身体が白金色の光を帯びる。

「オラァッ!」
ぶうん、と腕を振るう。白金色の光がその腕から伸びたように、一瞬見えた。
洗濯物が手を放れ、飛んでいく。
だがそれは尋常な速度ではない!
野球の『ピッチャー』の投球よりも早く、鋭い!

洗濯物は空気抵抗で減速しながら中庭をほぼ横断し、洗濯籠の中に突き刺さった。
仕事、終わり。
承太郎は心おきなく、己の用事を済ます事にした。


   ■----------------------------------------------■


朝の学校は静かだ。
ことに今は朝も早く、校舎棟は殆ど無人だった。
承太郎は中庭から見た光景を参考に適当に場所にあたりを付けてから、そのあたりを散策して回る。
ありそうなのはここらなのだが――。

本塔のドアを一つ開け、二つ開け、三つ開け……そこで目当ての場所を見つけた。
本の壁、壁、壁。一目で分かる。ここは図書館だ。
本棚の高さと数は少々常軌を逸しているが。

――ルイズの部屋に積んであった本と、ここに来るまでに見た教室の表札を見て、承太郎は一つの事実に気づいた。
自分は、この世界の字を読む事ができない。
言葉は通じるというのに、多少の理不尽を感じるが、そう言う事になっているのなら憤慨しても無駄でしかない。
ならば、早急にこの世界の文字を理解出来るようになるべきだった。
帰る方法を探るにも、まず必要なのはこの世界の『知識』だ。

広い、ひたすらに広い図書館をぐるっと見回す。
……いた。人がいた。
歳はルイズより少し下だろうか。眼鏡をかけた、水色の髪の少女だ。

「すまないが、ちょっといいか」

近づいて、話しかける。
少女は無言で、こくりと頷いた。
どうやら拒絶される、と言う事は無さそうで安心した。
自分は威圧感があるせいか、子供に好かれるタチではないのだ。

「簡単な辞書と、適当な本を一冊読みたい。
 本は子供が読む絵本みたいな物でかまわねぇ」

そう言うと、少女はこっちを向いて、小さく首を傾げた。
何故?とでも言いたげだ。

「貴女は、ミス・ヴァリエールの」
少女が小さく口を開いた。使い魔か?と聞かれたのだろう。
「ああ、そうなる」
誤魔化す意味も無いので、承太郎は素直に答えた。

「ちょっとした理由で、学が無くてな。字を覚えたい」

理由は適当にでっち上げた。
いちいち「異世界から来た」なんて説明するのも面倒だし、不要な警戒を呼ぶ恐れもある。
必要がなければ、黙っておくのが無難だろう。事情を知るルイズがどうでるかにもよるが。

少女はこくりと頷くと立ち上がり、本棚の摩天楼へと消えていく。
程なく、2冊の本を持って戻ってきた。

「ありがとうよ、む……」
承太郎は礼を言おうとして、まだ少女の名前を知らない事に気づいた。

「タバサ」
「空条承太郎だ」

名乗りあい、小さく頭を下げる。
条太郎は挨拶を終えると席について本を広げた。
辞書の言葉と絵本の字を見比べ、絵から書いてある内容を推測し、文節で分け、辞書を探し――
そうして気の遠くなるような作業を続けていると、図書館の扉が開かれた。

「タバサ、居る?」

入ってきたのは女だ。長身で赤い髪、褐色の肌。
スタイルはルイズやタバサと比べれば段違いと言っていい。多分だいぶ年上なのだろう。
足下に奇妙な生物を連れていた。承太郎が両手を広げたくらいの体長がある大蜥蜴だ。
鱗は赤く、僅かに熱気を放っている。

女はこちらに気づくと意外そうな顔をして近づいてきた。
「貴方、ジョータローね?ルイズに名乗ったのは聞いていたわ。
 私はキュルケ。この子は使い魔のフレイム」

女が名乗る。承太郎は「よろしく」とだけ返事を返すと作業に戻った。
キュルケはしばし辺りを見回すと、首を傾げてこちらに問いかけてくる。

「貴方、ルイズの使い魔でしょう?ルイズは?」
「俺は勝手にここに来ただけだ」
「ふうん、でも気をつけた方がいいわ、ここは平民は立ち入り禁止。
 朝早くはタバサしか居ないから、あの子が見逃してくれるならこの時間に来るといいわね」
「ああ、そうするぜ」

本と辞書を指でなぞりながら、条太郎は生返事を返した。
その様子を見て、キュルケはしばし思案し――妖艶ににやりと笑った。
『チャンス』だ。これは『チャンス』に違いない。

「『字の勉強』?それなら手伝ってあげるわ。
 読みながら、ならずっとわかりやすいでしょう?」

そう言って、キュルケは承太郎の背後に回ると、背中にその大きな胸をぎゅっと押しつけてきた。
承太郎の腕に腕を絡め、耳元で絵本の内容を音読する。もどかしい吐息が、耳を撫でた。
普通の男ならば、この時点で完全に舞い上がっていただろう。
実際それを狙っているのか、キュルケの目は熱を帯びとろんとしている。
今にも彼の唇を奪わんばかりの勢いだ。

だがあいにくのところ承太郎はそう言う「ウットーしい女」は完全に好みから外れていた。
迷惑そうに横目でみながら、いまにも「うっおとしいぞ!」とでも一喝しそうな表情だ。
それを見たキュルケはちぇっ、と小さく舌打ちすると、身体を承太郎から離した。

(ちょっと『マイナス印象』を与えちゃったかしら。
 でもまだ『リベンジ』は可能よ。いつかこのダンディなジョータローを『籠絡』してやるわッ!)

キュルケは唇を舐めながら小さく笑う。
彼女の二つ名は『微熱』!熱にうかされるような『愛』こそが彼女の求める物なのだ!
その彼女は今!承太郎にその微熱を帯びた思いを向けていたッ!
始めて話したのが今日である事は問題にならないッ!『恋』とは目と目があった瞬間に始まる物なのだッ!

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「それじゃあ……タバサ、悪いけど手伝ってくれる?
 二人で教えた方が理解が早いと思うもの」

そのむせかえりそうなフェロモン臭を何とか押さえながら、キュルケはごく自然にタバサに協力を求めた。
こういうタイプは最初は下心を見せないのが大事。
勝負はある程度親しくなってからだ。それまでは他の友人も巻き込んで『友好的な雰囲気』を作る方がいい。
『二人きりのお楽しみ』は後日の楽しみだ。

タバサはしばらく本を読んだままの姿で固まり――多分、どうしようか考えていたのだろう――しばらくしてから唐突に立ち上がって、
承太郎の席に歩み寄った。

実際、二人の協力もあり、承太郎は思っていたよりスムーズに字を覚えていく事ができた。


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『空条承太郎の新しい事情 ――(1)』 終わり

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