ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-4

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召喚された日から数日。
彼の生活のスタイルは固まりつつあった。

早朝、まだ日も昇りきらぬ内に起床する。
あくびをかきながら寝藁の上で背筋を伸ばす。
ついでに身体を振るって張り付いた藁を落とす。
自分の支度が終わった事に満足すると、今度は彼女へと視線を移す。
ベッドの上には未だに起きる気配の無いご主人様。
彼女の体を前足で揺すり、それでも起きないようなら顔を舐めて起床を促す。
吠えるのは最後の手段だ。
一度それをやって寝ぼけたルイズの魔法によって、
寝起きの目覚まし時計よろしく破壊されそうになった経緯があるのだ。
その時のトラウマは未だに残っている。

彼女の支度が終了すると共に中庭へと出る。
そして投げた棒を取ってきたり、埋めた物を探し当てたりと一通り訓練を終える頃には、
他の生徒達も朝食を取りにぞろぞろと姿を見せるようになってくる。
それに合わせて彼女たちも食堂へと赴く。
たった数日、されど数日。誼を深めた使い魔仲間たちとの楽しい朝食の時間である。
それをぺろりと平らげると足早に井戸へと向かう。
大抵、この時間にはシエスタが洗濯をしている事を知っているのだ。
その合間に訓練で汚れた身体を洗ってもらい馬用のブラシで身だしなみを整えてもらう。
あまりの気持ちよさに、つい眠気に誘われてしまうがそうもいかない。
彼女が食堂から出た時に自分がいないとひどく不機嫌になるのだ。
名残惜しそうにシエスタの方を振り返りながら、食堂へとひた走る。


授業が始まると今度は退屈との戦いである。
なにせ犬なので内容がさっぱり分からない。
言葉は分かっても意味が全然理解できないのだ。
他の使い魔は主の傍に居られれば満足なのか大人しくしている。
だが彼は遊びたい真っ盛り。
出来れば外に飛び出して駆けずり回りたいのだがそうもいかない。
騒げば勿論烈火の如く怒られる。
寝息を立てていると凍りつくような凄い殺気が向けられる。
どうすることも出来ず、彼は銅像のように不動の姿勢を保つのであった。

授業の合間の休憩時間。
この時ばかりはさすがに彼にも自由が与えられる。
走り回りたいのは山々だが心身ともに疲労した彼にその余裕はない。
寝心地のいい日陰を求め歩き回り、そこでしばし横になる。
大抵、先客がいるのだが読書に夢中なのか、こちらに気を向ける事はない。
寄るでもなく離れるでもなくお互いがお互いの時間を過ごしているだけなのだが、
彼はこの時間が何故か好きだった。


ふと今日は疲れていたのか、深い眠りに落ちていた彼を誰かが揺すり起こす。
先客である青い髪の少女。
彼女が指差す先には自分を探す主の姿。
視線だけで礼を述べると一目散に主の元へと駆け戻る。

一日も終わり、彼は寝藁の上で横になる。
初めて召喚された日に受けた衝撃に比べれば刺激的とは言えない日々。
だが、この穏やかな時間は彼がいた世界に無い物だった。
きっと『幸せ』とはこういう物を言うのだろう。
変わらぬように見えて日々変わっていく世界。
明日はどんな楽しい事が待っているのだろうか。
未知の期待を胸に彼は穏やかな眠りに付いた。


「クソッ!」
自身のやり場の無い衝動を壁へとぶつける。
それでも抑えきれぬ苛立ちに身体が震えていた。
その男は食堂でルイズに突っ掛かってきた生徒だった。
上級生でもある彼はルイズの最近の素行に怒りを感じていたのだ。
ルイズが吹き飛ばした上の教室は三年の教室であり、
事故とはいえ本来ならば上級生に詫びの一つもいれるのが筋だ。
それをあろうことか今度は食堂に使い魔を連れ込む始末。
学園の規則など何処吹く風。
自分の家柄をいい事に完全に自分勝手に振舞っている。
彼はそう思っていたのだ。

「だけどよー、相手はヴァリエールの三女だぜ」
「うるせえな! それぐらい分かってんだよッ!!」
取り巻きの苦言に興奮気味の男が反発する。
階級社会というがそれは貴族の間でも変わる事はない。
ヴァリエール家の持つ絶大な権力の前では並の貴族など平民に等しい。
卒業後は父の後を継いでいくというのに、この程度の事で目を付けられては堪らない。
下手をすれば出世の目が全て絶たれてしまう事だってある。


「魔法も使えないくせに、ただ生まれだけで……!」 
食い縛った歯からギリギリと音が洩れる。
前々から気に食わなかったが、それも後少しの事。
『サモン・サーヴァント』に失敗すればここには居られなくなる、
その間までの辛抱だと耐えていたのだ。
だが彼女は自身の使い魔を召喚し、何の問題なく契約を成功させた。
あの召喚さえ失敗していれば……!

「……ああ、そうだ。本人じゃなければ別に問題ないだろう」
そう呟いた彼の顔を取り巻きが覗き込む。
そして初めて見る彼の表情に寒気が走った。
憎悪に身を委ねた彼の顔は歪に笑っていたのだ。

彼が夢見た平穏な日常。
それが心なき者達によって踏み躙られようとしていた…。


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