ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-18

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王都トリスタニア、その王城の目覚めは早い。
夜が明ける前から調理場では食事の仕込みが始まっているし、
夜通し警備をする衛士の交代に別の衛士も起き出してくる。

あくびを噛み殺して、そろそろ交代だなと考える衛士達の前に最後の仕事が帰ってきた。
その者達の一人が許可証を差し出し、姓名を名乗る。
確認が取れ、門が開いて入城が許可された。

「ああっ、皆さんよく帰ってきてくださいました!」
「遅くなっちゃいましたけど、ただいまです。アンリエッタさん」
コーイチ達が帰城した途端に、待ちに待っていたアンリエッタは皆を居室に通した。
三人とも生きて帰ってきてくれたことに喜ぶアンリエッタ。

「しかし皆さん服がボロボロです。本当に何処も怪我はないのですか?」
心配そうに三人の服装を見るアンリエッタ。
全員崩壊した小屋の瓦礫から這い出すなどして、一晩で随分と汚れ破れ、酷い有様である。
「問題ありません、姫様。一晩で色々あったものですから、少々見た目がくたびれているだけです」
アニエスが疲れを感じさせない口調で言った。

「色々…?」
真実の鏡でアニエスの変身を解いた後の行動は、アンリエッタには分からない。
一体この一晩の内にどんなことがあったのだろうか。
「コーイチさん、何があったのか………聞かせて頂けますか?」

康一はありのままを話した。
捕らえた男に案内させて、隠れ家らしき場所にたどり着いた後のことを。
突然の攻撃で男は死亡し、その殺した犯人達に隠れ家ごと生き埋めにされそうになったこと。
機転を働かせ脱出し、犯人達と交戦したこと。

そして全員何とかギリギリ生き残って城へ帰ってこれたことを。
「捕まえた犯人達は城の牢屋に押し込んどきました。
でも殺された奴はアンリエッタさんを殺しに来たから、自業自得といえばそうなんでしょうけど、
やっぱり、何だか後味がわるいですね………」

康一が苦い顔をして、自分の心を漏らした。
「そう、ですね。
わたくしも殺されそうにはなりましたが、やはり人が死ぬというのは好きにはなれません」
康一の心を汲み取って、アンリエッタは慰めるように言った。

「さあ!暗い話はここまでにしておいて、これからの行動を話し合いましょう。
そろそろマザリーニ卿も来られる頃です」
そう言うか言わぬか、タイミングを見計らったかのようにドアがノックされた。
「失礼いたします、姫様」

恭しく入室してきたマザリーニ枢機卿。
相変わらず骨の浮き出た面相が、どことなくプレッシャーを与えているような気がする。
「先ほど賊をそこなアニエス殿から引き渡されたときに、大方の事情は聞きました。
色々と予定外の出来事ばかりのようでしたが、上手くいったようで何よりですな」

同意するようにアンリエッタは頷いて口を開く。
「ええ、本当に。これも皆様方のおかげです。改めて、もう一度感謝を………」
深々と礼をするアンリエッタに、おのおの形は違うがそれを受けた。

「では姫様、これからのことを考えましょう」
「そうですね。ではミス・タバサ、先にコレをお受け取り下さい」
マザリーニに促され、アンリエッタは文箱を開けて一枚の書類を取り出し、タバサへと手渡した。

「約束の報酬の一部です。それは宮中内にある魔法書関連の蔵書閲覧許可証。
何か読まれたい蔵書がありましたら、その許可証を提示して下さい。
あと魔法学院の普段は読めない蔵書なども閲覧できるように、オールド・オスマンにわたくしからお願いしておきましょう。
内容に不備がないか一応確認して頂けますか?」

タバサは許可証の内容をスラスラと読み、内容に誤りがないと確認し終わる。
「問題ない」
「よかった。では残りの報酬は調査に時間が掛かりますので、また後日でも宜しいですか?」
確かに数日で水の秘薬に関係することを調査するのは時間が足りない。

それはタバサも分かっていたことなので素直に受け入れ、一つ頷き了承する。
「ありがとうございます、ミス・タバサ。
それでは全員で情報交換いたしましょう。枢機卿、何か進展は?」
「まだまだですな。捕らえた者どもから何か聞き出すのは骨が折れそうです。
宮中内部の調査も芳しくありません。極秘裏の調査ですから人手が足りませんので」

進展を問うアンリエッタに、あまり喜ばしくない報告をするマザリーニ。
「そうですね。そろそろ裏からではなく表に出て調査するのも考慮するべきなのかもしれません……」
つまり城の者などを動員しての大掛かりな調査だ。
敵に情報を知られる恐れがあるが、それも一つの手ではあろう。

そう考えるアンリエッタに小さく、しかし確かにタバサが呟いた。
「書類」
「え?」
「捕らえる前に、書類の処理が終わったと犯人が言ってた」
「確かですか、ミス・タバサ?」

コクン、と自信を持って頷いたタバサ。
確かにともすれば聞き逃すだろう。確かにその瞬間康一は隠れ家の瓦礫をスタンドで吹き飛ばす瞬間で、聞き取ることは出来なかった。
だが冷静沈着なタバサの鍛えられた耳が、その言葉を拾い取っていたのだ。
「それが本当ならば、何か大きな手がかりになりそうな気がいたしますな」
マザリーニがタバサの言を吟味して言う。

「僕もそう思います。とゆーか何となくキナ臭い感じがするんですよね」
「姫様、とりあえず調べてみる価値はあるかと思いますが」
康一とアニエスも同意して場の流れが決定する。

「では、その「書類」のことも調べて見ましょう。
枢機卿、その書類は現時点で何か絞り込めそうなことはありますか?」
アンリエッタがマザリーニ尋ねる。

「そうですな……あくまで可能性の話ですが」
と前置きしてマザリーニが語る。
「姫様を狙う賊にとって、その書類は何が不都合なことがあるのでしょう。
つまり姫様に目を通されては困るものであるのかもしれません。
故に姫様が接触する書類を調べれば、何か書類改ざんの痕跡などが見つかるやもしれませぬ」

即座に現時点で可能性の高そうなものを挙げるマザリーニ。
その瞬時に挙げた可能性には深い洞察と思慮を感じざるをえない。
「確かに、それならすぐにでも調べることができそうですね。
しかも、それが当たりなら敵へ繋がる可能性は大………分かりました。
では書類の件はマザリーニ卿に一任します。その方向で調べて見てください」

アンリエッタの命に、ゆっくりと礼をとりながらマザリーニは応えた。
「お任せください。数日中には調べ終えて見せましょう」
「期待しております。何か分かったら、すぐに知らせてください」

一段落したのを感じて、アンリエッタが皆を見回して言う。
「それでは、他に何もなければ解散といたしましょう。
皆さんお疲れでしょうから、休んでくださって結構です」
「そーですね。僕かなり眠いんで、そろそろ寝たいです…」
明らかに眠そうな顔をした康一に、アンリエッタが苦笑する。

だが眠らせないッ!
「へ?」
康一の学ランの裾を細腕の少女が、グイッと引っ張ってるからだ。
「タバサさん、どーかしたんですか?」

小さな体躯のタバサが、服を引っ張る姿は愛らしい。
だが引止められる理由がさっぱり思いつかない康一は、ただ困るばかり。
「ミス・タバサ、ひょっとしてルーンのことですか?」
「…ッ!そうだ、ルーンですよ!右手の文字が光って、シルフィードさんと話をしたんですよッ!」
アニエスの言ったルーンの一言で、康一はハッとして思い出した。

だが突然言われたアンリエッタとマザリーニには、何が何だか分からない。
言った康一自身もこんなこと、いきなり言われたら意味不明だ。
「コ、コーイチさん?何を言っているのか、よく分からないのですが?」

当然のことを聞くアンリエッタへ、興奮気味に康一は答えた。
「いや、だからシルフィードさんが喋ってッ、実は女の子らしくてッ、右手がピカッなんですよ!」
そして康一の頭が、グーで殴られた。
「アデッ!」

面倒くさくて、たまらず拳骨を落としたのはアニエスだった。
「もう喋るな、話がかみ合わん」
「それだけで拳骨落とすのは、さすがに酷い気がしますけど……」
そう小さく文句を康一が言った途端に、もう一発さっきより強めに拳が落ちた。


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