ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第一話「痛くて甘くて優しくて」

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匿名ユーザー

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真っ暗な闇の中、女の子の側から逃げていくモノがある。
「まって………逃げないで……」
女の子は懇願するが、それを嘲笑うかのようにドンドン離れていってしまう。
「……し…し。…へ……ん………………………た……いです!」
遠くから、別の声が聞こえる。
正直言って邪魔だった、プリンが追いかけられない。
「ダ……す、ミス・……リエ…ル。ど…に隠れ…いたか……わ…らないが。…が呼び出…た以上は、その…は君の……魔になって……わなければなり…せん」
「そんなぁ………」
うるさいなぁ………ぷりん、ぷりん………、待ってよぉ、まだ食べてない開けてない匂いもまだ嗅いでないのに……。
「……わかり…した。我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
掴まないで、どいて、おいかけられない、つかまないで、どいてったら、どいて、プリン、どいて、プリン、プリン。

「プリンッ!!!」

契約の口付けをしようとしていたルイズは、急にぱっちりと目を覚ました女の子の頭突きをもろに喰らった。


第一話「痛くて甘くて優しくて」



「いっ………たぁーーーい……」
額の鈍痛に手で押さえ、瞳に涙を浮かべつつ、目覚めた女の子はきょろきょろと視線を巡らせた。
「あ、あった」
言葉尻にハートマークが付いているような、そんな錯覚を受けてしまうほど幸せそうな「あった」だった。
むくりと起こした体を入れ替えて、まるで赤ちゃんがハイハイするように、転がっているプリンを拾った。
そして次にスプーンを探す。
スプーンが無くても食べれないことはないが、おねーちゃんにお行儀が悪いって言って怒られる、だからスプーンが必要。
「あれ、さっきまで持ってたのにどこいったんだろ……」
右手にプリンを持ったまま、女の子はパタパタと自分の体をさする。
どこかポケットに入れたとか………全部確認したがない、じゃぁそこらへんに………あれ?
「さっきまでお家にいたのになんでこんなところに………」
気付くの遅いんじゃ無かろうか?
しかし、そんな些細なことを気にする様子はあまり無く、女の子はそれよりもプリンの方が重要だった。
「ちょっと………ご主人様になんて事するのよ」
そんな声が聞こえてきて、女の子はプリンのふたをカリカリする手をピタリと止めた。
「……………? あっ!」
女の子の、何かに気付くような顔と声にルイズは満足げに胸を張った。
(そうよ、あなたを呼び出したのは私なのよ。だからあなたは使い魔で私はご主人様なのよ)
「しずかのスプーン、そこにあったんだ」
しかしルイズの思考とは裏腹に、女の子はルイズの手に握られたスプーンをもぎ取るだけだった。
「ぷりん、ぷりん、ぷりん」
作詞作曲:私、のプリンの歌を口ずさみながら、女の子は一口目を味わった。


軽く無視されたことにルイズは怒り、女の子からプリンを奪った。
「ちょっとっ、ご主人様を無視するなんてどういう事よ!」
ぺたりと草原に座っている女の子を、ルイズはきっと怒りの形相で見下ろす。
「ごしゅじんさま? ってなに? プリンかえして」
女の子が腰を浮かしてプリンを取ろうとするが、ルイズは意地悪にもそれを遠ざけた。
「ご主人様はご主人様よ。ここ王立トリステイン魔法学院で、二年生にあがるときにみんな使い魔を召喚するの、そしてあなたが呼ばれたの、だから私があなたのご主人様よ」
「とりすていん? ってなに? つかいま? ってなに? かえして、プリン、まだ食べるの」
しかしプリンはルイズに持ち上げられて女の子の手では届かない、仕方なく立ち上がって腕を伸ばす。
すると、座っていたときにはわからなかった事実にその場にいた全員が驚愕した。
女の子は、ルイズより頭一つ分以上背が低かったのである。
「トリステインはトリステインよ。知らないの?あなたどこの平民?」
プリンを右手に持って頭上高く掲げてしまえば、背の低い女の子ではどう頑張っても届きはしない。
ルイズにすり寄るようにして、つま先立ちで精一杯のバスが、一向に届かない。
「………なんで意地悪するの?」
「意地悪じゃないわよ。まず私の質問に答えてくれたら返してあげるわ」
ルイズの言葉に女の子はぷうと頬を膨らませるが、返して欲しいのは確かなので言うことを聞くことにする。
「で、なぁに?」「あなたどこから来たの?」
「どこからって。杜王町だよ? あ、元々はイギリスに住んでたんだけどパパとママが日本で生活しなさいって。知り合いのおにーちゃんちで、おねーちゃんと三人で暮らしてるの」



「モリオーチョー? ニホン? イギリス? 聞いたこと無いわね、どこの田舎よ」
「田舎なの? しずか他の所行ったこと無いからよく判らない」
「しずか? それがあなたの名前なのね?」
言葉の中に出てきた固有名詞を捉え、ルイズが確認すると女の子は頷いた。
「静・ジョースター。ジョースターは片仮名だけどしずかは漢字あるよ、でも書くの難しい」
「カタカナ? カンジ? ってなによ」
「カタカナは……カタカナじゃないの?」
怪訝そうにする静の表情に、ルイズは思わず背後を振り返る。
誰か知ってる?と言った意思確認による動作だ。
たまたまそこに立っていたキュルケと忌々しくも目があったが、キュルケは困ったように肩をすくめただけだった。
「えっと………それじゃ、早速なんだけど。使い魔の契約をしたいんだけれど……」
「もう訊くの終わり?じゃぁかえして」
差し出された女の子に手にプリンを返してやると、満面の笑みを浮かべた。


ぷるんとした独特の感触を味わいつつ、静は思っていた。
なんでみんな魔法使いみたいなかっこうしてるんだろう、と。
みんなで魔法使いごっこして遊んでたのかな? 邪魔しちゃ悪いかな、そう言えばなんで自分はここに来てるんだろう?
そう言えば、使い魔って言ってた気がする。使い魔………黒猫みたいなモノかな?
使い魔の契約って何するのかな。魔法使うときは杖を振ってテクマクマヤコンって言うだけだったけど……ちがったっけ?
静が視線を目の前にいるルイズに戻すと、杖を振り上げて何かしらとなえている。
「それが杖?」
「え? えぇそうよ、メイジはこの杖を振って魔法を使うの」
「うっそだーーーーーー」
静から飛び出た否定の言葉に、一同は言葉を失う。
「だってしずか知ってるもん。魔法使いの杖はもっと大きいもん」
静のその言葉に、ようやくみんな否定の理由がわかった。
「あのね、杖にはいろいろの大きさがあるのよ。あなたが見たことがあるのはああいうのじゃない?」
そう言ってルイズは杖で別の方向を指す。
それを静も追い、その視線の先に興味なさそうに本を読んでいる青髪の少女がいた。
そしてその手には少女の背丈よりも大きく無骨な杖が握られている。
「うんうん、あんな感じ。そっかー、杖いろんな大きさあるんだ、てっきりみんなあんな感じかと思ってた~」
女の子が感心したように笑顔になる、納得出来たようで満足しているようだ。
ただ、その右手に持ったプリンをちまちまと食べる手は止めていないが。
そして丁度、コモンの詠唱が終わり、ようやく使い魔召喚から、使い魔契約へといたる。
「ちょっと……ちょっと……ちょっとっ」
きょろきょろと視線を動かしていた静の頬をぐいっと掴んだ。
「なぁに?」
そうしている間にも、静はスプーンでプリンをすくってぱくりと頬張る。
「いい、動いたらダメよ。私も初めてなんだから」
「初めてって……なにが?」
静の質問にルイズは答えず。
その小さく桜色の唇に、己の唇をそっと触れた。
(あ……甘い……)

ファーストキスは甘い、と言う噂が本当だったことにほんの少し感動しつつ、ゆっくりと唇を離す。
静は、何をされたのか未だに理解できていないような顔でじいっとルイズの顔を見ている。
一瞬、その真っ黒な瞳にルイズは吸い寄せられるような錯覚を受けたが、すぐに振り返ってコルベールに告げる。
「終わりました」
「ふむ、サモン・サーヴァントは何度も失敗していたが。コントラクト。サーヴァントは一回で出来たね」
途端。呆けていた静の左手に激痛が入る。
「ひぃっ…………ぎ………ぃ………やっ………やっ、やぁあぁあああぁぁっっっ」
両手に持っていたモノを半ば放り捨てるようにして落とし、激痛の元、左手の甲を右手で力一杯押さえた。
しかし痛みは…………すっ、と消えた。
「………………?」
「使い魔のルーンが刻まれただけよ、もう痛みはないでしょ」
そう言いつつ振り返ったルイズの目に映ったのは、双眸に涙を目一杯湛え、嗚咽を必死で堪えている静の姿だった。
「ふぅ……えぇ~~~~~~ん」
膝が砕け、草の上にぺたりと座り込んで静は泣く。
突然の仕打ちに。何もしていないのに、自分は何もしていないのに、あんなに痛い思いをされた、ただそれが悲しくて。
「あぁ~ん。あんあんあん。あ~~~~んあんあんあん」
「どいて」


突然泣き出した静に、為す術もなく固まっていたルイズを押しのけてやってきたのはキュルケだった。
「ひっく………ふぇええん」
「しずか……って言ったっけ………大丈夫? いたいの?」
キュルケの言葉に静はふるふると首を振った。
コントラクト・サーヴァントはルーンを刻む際に激痛が走る、その痛みに耐えかねて泣いているのかと思ったのだが、ちがったようだ。
誰も、静がなぜ泣いたのか理解できない。
「ルイズ。あんたなにやってんのよ!」
「えっ、えっ、だ、だって、コントラクト・サーヴァント」
キュルケからの叱責にルイズは狼狽する。
「そんなこと分かり切ってるわよ。あんたが狼狽えてどうするのよ、この子はあんたの使い魔でしょ」
キュルケが叱責したのは、狼狽していることに対してだ。
コントラクト・サーヴァントは必須の行為。それを叱責するわけがないというのに。
「あなた。名前は?」
落ち着かせるため。穏やかな声でそう尋ねた。
「………っく。静」
「そう、しずか……あなた、歳は?」
「………七歳」



しばし、沈黙。

「えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!???」

スタンドも月までぶっ飛ぶ衝撃。


生徒どころか、この学院内の誰よりも年下の女の子。
スタンド『アクトン・ベイビー』をその身に宿す、未成熟の女の子。
静・ジョースター。
異世界より出でた、人生の酸いも甘いもしらない。小学一年生。
しかし、彼女の持つその力が、このハルケギニアという世界全土を揺るがすことになることは、誰も予想だにしていなかった。

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