ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第零話

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匿名ユーザー

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「ただいま~」
元気よく帰還の挨拶をするが中から返事は帰ってこない。
「二人とまだお仕事かな~」
そう呟きながら女の子は履いていた靴を行儀悪くひょいひょいと脱ぎ捨てた。
しかし、玄関マットの上でくるりと体を反転させ、たった今脱ぎ捨てた靴を拾って踵を揃えて並べた。
この家に住んでいるのは、自分と、二人の保護者だ。
友達は両親だと思っているみたいだけど、実際のところはちがう。
でもあえて訂正するのも説明するのも難しいしめんどくさいから、女の子はその設定のままにしている。
ただ、若い両親というのは結構羨ましがられるので、そこのところはちょっと気分が良い。
とくに「おねーちゃん」は背も高くスレンダーで胸も大きくて髪がキレイでしかも美人。
一緒によくお出かけするし、親子に間違えられるけれども、全く気にした様子はない。
普通二十代前半なら「こんな大きな子供はいない」と否定しそうなモノなのだが。
女の子が一度不思議に思って尋ねると。
「いいえ、私とても幸せなのよ。彼と私とあなたとで、暖かな家族というモノを感じられるんですもの」
ちなみにおねーちゃんのお腹には、赤ちゃんがいるらしい。4ヶ月って言ってた。
『赤ちゃんってどこから来るんだろう?』という疑問を頭の上に浮かべながらも。
女の子は、片足で上手くバランスを取りながら靴下を脱いで、洗濯機の中に放り込んだ。


突然だが、女の子はカバンが好きだ。
保護者のカバンを勝手に持ち出して少し怒られたりするが、それでもカバンが好きだ。
しかし一番好きなのは登下校の際常に持つことになる、この赤いランドセルだ。
おねーちゃんからのお下がりをもらった。
教科書や縦笛、いろいろなモノがガチャガチャとはいる。
歩く度にその中で揺れていろんな音がする、楽器を背負っているみたいで好きなのだ。
そして女の子は、帰宅後もすぐにはそのランドセルを降ろさないのだ。
背負っていたランドセルを前に持ってきて、パチッとふたを開けて中をごそごそと漁る。
その奥から出てきたのは、給食の残りのプリンだ。
こっそり確保して持ち帰ってきたのだ。
「スプーン、スプーン」
食器棚に備え付けの引き出しから小さいスプーンを引っ張り出した。
「おてておてて」
いざ食べようとしたときに手を洗っていないことを思い出し、台所でじゃばじゃばと水洗いだけで済ます。
フローリングの床、ペタペタと裸足に気持ちいい。
ダイニングの椅子を引いて、姿勢を正して、プリンのビニールをいざびりっと開けようとしたところで。
「?」
いつの間にか隣に何か変な銀色に光る物体に気付いた。
「あれ?」
さっきまでここには何もなかったはずなのになぁ、と思いつつ、女の子は右手に持ったスプーンでその変なのをつついた。
するとその表面に小さく波紋が打つのがわかった。



けっこうおもしろい。
波紋が打つだけで何が面白いのか、それは好奇心旺盛な年頃だから仕方ないとしか言えないだろう。
ともかく、女の子は右手にスプーン、左手にプリン、そしてランドセルを鎧にして椅子を引いて立ち上がった。
今の自分は最強である、この家には今自分だけ。怒ると怖いおねーちゃんや、本気で怒るともっと怖いおにーちゃんも今は不在。
消去法で一番強いのは自分である、しかも大好きなプリンをコレから食べるという状況も手伝って女の子のテンションはまさに絶頂。
そして子供さながらの危険に対する無防備さでそれを更につつく。
無防備とはいっても、保護者からの教えに、よく判らない物に直接触れるのはやめろ、とある。
素手で触ろうとせずスプーンでつん、つん。
何度かやっているうちに危険は無さそうだと判断。
はむっとスプーンを口でくわえ、おもむろに右手を伸ばした。



もはや何度目かわからない爆発音。
日は既に落ち、二つの月は穏やかな光で草原を照らしている。
「もうそろそろ休んだらどうかね? ミス・ヴァリエール。使い魔召喚は明日にでもやり直したらいい」
「まだですっ、まだやれます! お願いしますミスタ・コルベール、納得がいくまでやらせてください!」
そう言って、月に照らされた人影はその手に持った杖を振り下ろした。
そして再度。何もない空間が爆発、轟音と爆煙を巻き上げる。
「また失敗……」
咳き込む少女、目尻に涙を浮かべながら、また杖を振り上げて呪文を唱える。
そして振り下ろす。
すると今度は爆発しなかった。
数え切れないほど呪文を唱え、数え切れないほど杖を振り上げ、杖を振り下ろし。
ただ一つだけ、使い魔を呼び出すことだけを考えて、一心不乱に。
そしていま、やっと『失敗』しなかったのだ。
視界を邪魔する土煙がうっとおしい、早く、早く己の使い魔の姿を見たかった。
どんな姿をしているのだろうか、美しいのだろうか、強いのだろうか、賢いのだろうか。
コレで、コレでやっと、誰にもゼロなんて言わせない!
両腕を目一杯に使って、煙を散らすと、そこには…………

「何コレ…………」

見慣れた、何処にでも有りそうなスプーンと、なんだかよく判らないモノが二つあった。

そしてそれ以外には、彼女の目には な に も み え て い な い。


少女が呼び出した使い魔らしき物を、その場にいたモノは例外なく目にした。
いったい何が起こっているのか理解できない彼女の背中越しに見えた物は、赤い何か。
きっかり九秒の沈黙の後、爆笑の渦が巻き起こる。
「アハハハハハ!流石『ゼロのルイズ』だ!」
「俺達に出来ないことをやってのける、そこにしびれるぅ憧れるぅ!」
周囲からの爆笑に、少女はプルプルと肩を振るわせ、コルベールへと向き直った。
「ミスタ・コルベール!再召喚させてください!」
ルイズのその言葉に、コルベールは首を振った。
「ダメです。ミス・ヴァリエール。召喚したのだからそれが君の使い魔なのですよ。それに最後にあなたが振ったときには爆発しなかったで

はないですか。もう一度振ったとしても何も起こりませんよ」
「しかし! あんな!あんなモノが使い魔だなんて、聞いたことがありません!」
「………ん……あふ………んぁ………」
ルイズは呼び出した物に背を向けていた、コルベールはルイズに視線を向けていた。
そして誰もがルイズとコルベールに注意を向けていた。
だれも、ルイズが呼び出した赤いモノには注意を向けていなかった。
「………ぁ……ん……んんぅ………んぁ……」
背後から聞こえてきた声にルイズも気付くと、ゆっくりと振り返る。

「………ウソ………なんで、どこから………?」

その視線のさきには、自ら呼び出した赤い使い魔が、まだそこにあった。
しかし一体いつの間に、どこから現れたというのか。
自身よりも、それどころかこの学園の誰よりも幼い。

そう、子供が、女の子が、赤い使い魔の下敷きになっていた。

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