ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

シュトロハイムの野望・将星録

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
⊿月⊿日
どうやら俺が呼び出されたこのハルケギニアは全くの異世界らしい。
しかも召喚したルイズという小娘が言うには元の世界に帰る方法は無いという。
だが俺は諦めん! 今は甘んじて小娘の下僕という屈辱も受けよう!
我が使命、ドイツによる世界統一を果たすために!

⊿月×日
ここに来て天啓! 我、逆転の発想を得たり!
ハルケギニアは異世界。故に連合軍やソ連軍の妨害も及ばないのだ。
ここでドイツ軍の軍備を拡張し、次々と部隊を送り込めば戦局を打開できるのではないか?
……出来る、出来るのだ。
そうと分かればこうしてはいられない。
即座に行動に移す事にした。

シュトロハイムの野望・将星録


⊿月○日
絶対服従の演技をし続けたのが功を奏したのか、
なんとか図書室への出入りの許可を得る事に成功した。
表向きの口実は字が読めないと不便だからという事だが真実は違う。
世界を制するのは情報だ。
あいにく俺にはこの世界の知識が不足している。
それを補い、国家間の情勢さえも把握したならば勝利は揺ぎないものとなる。
自分より遥かに年下の少女に、絵本の内容を教わる事も屈辱ではない。
これは栄光へと続く道の一歩なのだ。

⊿月◇日
平民と貴族の格差に愕然とする。
これほどまでに虐げられて何故、民衆は蜂起しないのか?
いや、それも無理もない。
知識は上流階級に独占され、一般に伝わる技術も甚だ低レベル。
そして彼等にはリーダー足りえる存在がいないのだ。
これではメイジである貴族ども相手に勝ち目はない。
ようやくハルケギニア統一の糸口が掴めた気がする。
まずは彼等に技術と知識を与える、その為の公算を練る事にしよう。

⊿月☆日
自身が学んだ経験を元に『トリステイン基本識字教育』を編纂。
だが、これだけでは何の意味もない。
とはいえ、これ以上の単独での作戦続行は不可能だ。
誰か現地の協力者が必要となってくる。
そこでコルベールという男に話を持ち掛けた所、向こうから協力を申し出てきた。
我がドイツの技術に興味があるというのだ。
やはりドイツの科学力は世界一ィィィィ!
ドイツの製紙技術をこちら側に応用し、原始的な活版印刷の機械も製造。
大規模な工場ともなると不可能だが、現状ではこれで十分な筈だ。
さっそく『トリステイン基本識字教育』の印刷作業に入る。
後はどこで配布するかだがメイドのシエスタという女の実家がタルブ村というド田舎にあるらしい。
そこならば貴族どもの目も向くまい。
事情を適当に説明し印刷した『トリステイン(略』と数冊の絵本を持ち帰らせた。

×月⊿日
タルブ村での試験的な教育の成果が出た。
予想外の……大成功だ!
今やタルブ村を中心に周辺の村での識字率は80%を越えている。
続けて出版した『トリステイン基本算術教育』も浸透し取引に役立つと好評だ。
本の最後のページに書いた俺の似顔絵と名前も民衆に伝わっただろう。
ここからだ! これは第一歩に過ぎない! 慢心する事無く次の段階へと移行する!

×月×日
タルブ村の民衆を集め、工場の建設を開始する。
この村を選んだ理由は気取られにくい事に加え、俺に対する信頼が厚かったからだ。
マニュファクチュアをすっ飛ばし、機械制手工業を取り入れる。
幸いコルベールは原始的な蒸気機関に対して知識があったし、石炭も存在した。
創めたのは製鉄と鉄工業。
これからは何を作るにせよ鉄は欠かせない。
それも錬金に頼るのではなく、技術による大量生産が必要なのだ。

×月○日
小銃の試作型が何丁か完成した。
我がドイツの技術を取り入れているとはいえ、とても戦線に送れる代物ではない。
だが、この世界ではオーバーテクノロジーの塊。
弾丸も丸から錐へと移行し、銃口付近には照準も取り付けた。
さすがに実包一体型には出来なかったが速射効率は従来の二倍だ。
……機は熟した。
もはや貴族の目から逃れ片田舎に隠れる必要などない。
逆にこちらから出向いてやろう。

×月◇日
ルイズのコネでアンリエッタ姫殿下との面会を取り成して貰う。
まずは平伏の意を表し、自分が異世界から来た事を告げる。
向こうの素晴らしさを誇張たっぷりに伝え、国民の教育の重要性を訴えた。
そして『トリス(略』『ト(略』の二冊を見せ、その成果を仔細漏らさず報告した。
いずれ技術が発達するにつれ、平民とメイジの戦力差が無くなればメイジに頼るトリステインの衰退は必至。
平民に知識と技術を与え国民のレベル全体を引き上げる事でこそ繁栄はある。
俺の熱弁に感動したのか、アンリエッタ姫は全面的な協力を約束。
渋る軍人連中には新式の銃を渡し準備さえ整えば兵士全員に配備が出来ると告げ、
他のお偉方には工業生産による税収入の増加を謳った。
……そして誰も反対する者はいなくなった。

×月☆日
予想以上のスピードで公営工場の建設は進んでいった。
なんでも隣国アルビオンに不穏な気配があるという事で軍備拡張を急いでいたらしい。
なんという好機! やはり、これは天の思し召しか!
現場監督も兼任しつつ他の業務も兼任。
ここで重要なのは政に口を挟まない事だ。
下手に政治闘争に巻き込まれて困るからな。

○月⊿日
時は来た。もはや特権階級による支配の時代は終わったのだ。
朝焼けに紛れ、武装した民衆が一斉蜂起を開始する。
以前からの計画通り、軍の武器庫を襲撃。
配備されたばかりの新式の銃の扱いに戸惑う衛兵を一蹴し、
最新の武器を調達し、さらに侵攻を開始する。
極秘裏に訓練された特別コマンドー部隊『ドノヴァン』が王宮を襲撃し、
アンリエッタ姫殿下を拘束、拉致する事に成功。
突然の反乱に加え、命令伝達系統が破壊された貴族どもは混乱し、
兵力を結集させる事も出来ずに次々と撃破されていく。

ついに王宮の頭上に掲げられる鉤十字の旗。
長かった支配の終焉もたったの数日。
栄枯盛衰というべきか感慨深い気持ちになるが、そうもしていられない。
民衆のリーダーとしてやるべき事は多い。
まずは腐敗した貴族を公正な裁判の上で銃殺刑に処し、
品行方正であった者にはある程度の財産を認め地方へと飛ばした。
特に民衆の人気が高かったアンリエッタ元・姫殿下には、
ドイツ領トリステインの象徴的シンボルとして王宮に残って頂く事になった。
新たに政治制度の枠組みや軍の再編など気が遠くなる作業だ。
だが! まだ終わらない! まだこれは始まりに過ぎないのだ!

○月×日
アルビオン貴族派連合から使者が来る。
即座に開戦してくるかと思ったが違うようっだ。
連中も王党派を相手にしている最中で対立は避けたい様子。
また民衆の多くを味方に付け、腐敗した王家を打倒した俺は同志という事で迎えられるらしい。
受け入れれば貴族派の配下。
断れば簒奪者という大義名分で戦争を仕掛ける気だろう。
使者を丁重にもてなし土産を持たせ、いずれ近いうちに挨拶に伺う事を告げる。
それに気を良くしたのか使者は国賓気取りで高笑いしながら帰って行った。
……バカめ。俺を舐めた報い、必ず受けさせてやろう。

○月○日
アルビオン貴族派連合旗艦『レキシントン』にて会合が行われた。
そこに丸腰、それもお供も付けずに現れた俺に騒然となったが、
『獣が降参する時に自分の腹を見せる』ように降伏の意だとして嘲笑に沸いた。
だが、それも一瞬。奴等の笑いは重機関砲の唸り声に掻き消された。
奴等の油断! それは魔法に対する警戒を強める余り、
全く未知の技術による襲撃を想定していなかったのだ!
胴に隠されたこのシュトロハイムの機関砲を前にしては不意を突かれたメイジなど赤子同然。
その場に集まった貴族派連合の幹部どもが『レキシントン』を彩る塗料へと変わっていく。
連中がそうしたように単独で『レキシントン』を制圧、鉤十時の旗を掲げる。
同時に地上に隠した制圧部隊がアルビオンを総攻撃。
頭を失った貴族派連合に抵抗する術は無かった。
ドイツ領トリステインに続く、ドイツ領アルビオンの誕生である。
頭上の憂いは絶った! だが安心するのはまだ早い!
急速に版図を広げた我々を見過ごす各国ではない!
これより先は今まで以上の激戦を覚悟せねばならないだろう!
だが我々は負けない! 何故ならドイツは世界一ィィィィだからだ!

……そうして俺はここにいる。
『レキシントン』……いや、今はドイツ領ハルケギニア旗艦『グラーフ・ツェッペリンⅥ』の甲板の上に。
どこまでも見渡す限りに広がる空。
そして、それを埋め尽くす我がドイツの大艦隊と、周囲を哨戒する竜騎士に偵察機。
なんという壮観な眺めだろう。
今やハルケギニアの技術力は祖国に匹敵し、魔法や竜などのハルケギニア独自の戦術部隊も構築された。
もはや我が国に死角は無い、連合軍なにするものぞ。
「総統閣下」
掛けられた声に振り向くと、そこには俺にかしづく桃色の髪。
皮肉な物だ。かつての主従の立場が逆転するとはな。
「こんな所にいてはお風邪を召してしまいます。中にお戻りを」
「いや、構わん。それにその呼び名も今日限りだ。
今日より俺はドイツ領ハルケギニア総統ではなくドイツ陸軍大佐シュトロハイムだ」
「はっ!」
甲板を歩き、船首へと上り詰め叫ぶ。
「全軍に伝えよ! 我々はこれよりベルリンに向かう!
世界中の人間に我らの威容を示せ! 栄光は諸君らと共にある!」
「ウオオオォォォオーーーー!!!」
俺の飛ばす激に全軍が鬨の声を上げる。
甲板には俺の雄姿を見ようと兵士たちが詰め掛ける。
竜騎士たちも小銃を掲げ、偵察機も羽を振る。
そして、ついに『第一次ベルリン上陸作戦』が開始された……!



「か……完璧だッ!!」
 羽ペンを机に置き、感動に打ち震える。
 砂漠の狐と恐れられた、かの名将とてこれほど完璧な作戦立案は無かっただろう。
 何故、これ程の才能を秘めた自分が統合幕僚本部に招かれなかったのかは甚だ疑問だ。
 文字の習得や主との信頼関係の構築などにスケジュールの遅れが出ているが問題はない。
 これを実践できれば勲章どころではない、ドイツに10m級の銅像が建つ!
「なにギャアギャア騒いでるのよ! もう夜遅いのよ!」
「あ……ああ。どうもすみません」
 起きてきた主に謝罪すると計画書を後ろ手に隠す。
 どうせドイツ語で書かれているのだから分かる筈も無いのだが、
 見られて良い気分はしない。
 ふと計画に必要な項目の確認を忘れていた事に気付く。
「あの……ご主人様」
「なに?」
「アンリエッタ姫殿下とは幼少の折、懇意にされていたそうですが、
 今でも面会などは叶いますでしょうか?」
「は? そんなの、無理に決まってるでしょう」
「なんだとォォォオーーーー!!?」
 にべもない返答に、根本から瓦解する計画。
 ついでに今までの努力とか人間として大切な物とか一緒に崩れ落ちていく。

「何故だ!?」
「何故って……無理な物は無理。
 常識で考えれば分かるでしょう。姫様がそうそう下々の者に会う訳ないじゃない」
 肩を掴み揺さぶるシュトロハイムの手を払いのけると呆れるように答える。
 その目には『なに言ってんの?コイツ』といった冷たい物が混じっていたが、
 シュトロハイムには気付くだけの余裕さえなかった。

「お……俺を騙したのか!? 騙して利用したのか!?」
「騙し……って、人聞きの悪い事言わないでよ!
 ただ子供の頃、仲良くしていたって話しただけじゃない!」
「だが、それでは俺の計画が……」
「計画?」
 咄嗟に口元を押さえる。
 だが勘のいいルイズはそれだけで何かを悟ったのか、背後に隠した計画書へと目を移す。
「なるほど……道理で最近、やたらと不気味なぐらい従順にしてると思ったら」
 声が震えている。
 顔にはハッキリくっきり浮かぶ青筋。
 振り上げられた杖にシュトロハイムの全身が硬直する。
(か、勝てない! 今の俺の立場では! ルイズの横暴には勝てないッ!!) 

「また……何か悪巧みしてたのね……!」
「いや、違う! 誤解だ!」
「問答無用!」
 振り下ろされると同時に広がる爆風。
 吹き飛ばされたシュトロハイムが廊下へと投げ出される。
 その上にひらひらと舞い落ちる黒焦げになった計画書。
 国家転覆の首謀者は倒された!
 大げさかもしれんがハルケギニアは救われた!

「ふん!」
 鼻を鳴らしながら倒れた自分に軽蔑の眼差しを向けると、
 そのまま自室の扉を閉ざしてしまった。
 どうやらここで寝ろという事らしい。
 夜風が吹き抜ける度に全身が震える。
 風邪引いたら治してくれる医者はいるのだろうか?

 連日続けられる、この奴隷以下の仕打ち!
 だが俺は負けん! この屈辱に耐え必ず帰還してみせる!
 それまで決して諦めたりはしないからなァァーー!!

「へくち!」




+ タグ編集
  • タグ:
  • 第二部
  • シュトロハイム
  • 短編

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー