ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-8

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匿名ユーザー

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「うーん……絶対捕まえてやるわ……むにゃ……」
「いい加減起きなさい、ヴァリエール」
 うるさいわね、今フーケと戦っている最中よ、だいたい何でこいつが
「フーケはどこよ!他のみんなは?」
「フーケなら、あなたの横に簀巻きにされて転がってるわよ。
 セッコは隅で寝てる、タバサは馬を引いてるわ」

 気づいた時には、全てが終わっていた。
 紆余曲折あって結局セッコが仕留めたらしい。

「わたしも、もう少し強くなれないものかしら」
「強いかどうかはあれだが、役には立ってるぜ。
 おめーが見張りしてなかったら、全員ゴーレムに踏み潰されてたろうよ」
 デルフリンガーが珍しく私を擁護する。
 言ってくれるじゃない剣の癖に。ちょっとだけ嬉しいわ。

「そういえばミス・ロングビルはどこへ?」
「あなたの横に簀巻きにされて転がってるわよ」
「何言ってるのよツェルプストー」
 ついに脳まで熱にやられたかしら。
 けれど隣をよく見たら納得できた。

「ああ、そういうことだったのね」



 学院長室で、オスマン氏は戻った四人を呼び報告を聞いていた。
 セッコはよほど疲れていたのか全く目覚める気配がなく、仕方なくルイズの部屋に置いてきたので実質三人ではあったが。
「ふむ……ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……
 美人だったもので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」
「いったい、どこで採用されたんですか?」
 側に控えていたコルベールが尋ねた。
「町の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」
「で?」
「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」
「なんで?」
 ほんとに理解できないといった口調でコルベールが尋ねた。
 オスマン氏が突然真面目な顔になる。
「おまけに、魔法も使えるというもんでな」
「それって、決定的に怪しいですよね、オールド・オスマン」
「怪しい」
「怪しいわね」
「怪しいってレベルじゃあないわ」
 全員の視線が、汚い物を見るような目つきに変わりつつあるのを悟り、オスマン氏は照れたように咳払いし、話題を変えた。

「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ、[破壊の杖]を取り返してきた」
 誇らしげに三人が礼をする。
「フーケは、城の衛士に引き渡した。そして[破壊の杖]は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」
 オスマン氏は、一人ずつ頭を撫でた。
「君たちの、シュヴァリエの爵位申請を、宮廷に出しておいた。
 追って沙汰があるじゃろう。と言っても、ミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」
 三人の顔が、ぱあっと輝いた。
「本当ですか?」
 キュルケが、驚いた声で言った。
「ほんとじゃ、いいのじゃ、君たちは、そのぐらいのことをしたんじゃから」
 その言葉に、ルイズの顔が曇る。
「オールド・オスマン。わたしは……」
 オスマン氏が力強く言い返した。
「問題ない」
 ルイズの表情が少し戻った。
「さてと、今日の夜は[フリッグの舞踏会]じゃ。
 このとおり、[破壊の杖]も戻ってきたし、予定どおり執り行う」
 キュルケの顔が更に輝いた。
「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」
「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。
 せいぜい、着飾るのじゃぞ」
 三人は礼をするとドアに向かった。

 タバサは、二人が出て行ったのを確認して立ち止まり、オスマン氏に向き直った。
「何か、私に聞きたいことがあるようじゃな」
 タバサは頷いた。そして、無表情なりに表情を険しくする。
 オスマン氏は、何か察したのかコルベールに退室を促した。

 コルベールが退室したのを確認して、タバサが口を開いた。
「オールド・オスマン」
「何かね」
「セッコのルーン。単体では意味のない破壊の杖」
 タバサの脳裏に、嬉々として自分を試し、死地に送り出す上司の姿がちらりと浮かんだ。どこも似たようなものか。
 少し考え直しその嫌な発想を振り払う。今回は志願だし。
 しかし、もし志願者が私とキュルケだけだとしたら、オスマン氏は果たして許可しただろうか?
 オスマン氏は、少し深刻な、何か言葉を捜しているような表情になった。

「……オレも聞きてえな、校長先生よォォォ」
 地の底から響くような声がし、部屋の隅から、寝ていたはずのセッコが現れた。
 手に、不思議な金属の杖のようなものを持って。
 オスマン氏の顔が更に険しく真面目になり、そして口を開いた。
「順番にじゃ、ゆっくりとな。それと、分かっているとは思うが他言無用じゃ」
「「……」」
 無言で頷く。
「ミス・タバサ」
 頷く。
「そのルーン文字については、まだまだ謎が多いのじゃ。じゃから、今は何も言えん。
 それで[破壊の杖]じゃが、確かにそれだけでは役に立たん。じゃが、これだけは言わせてくれ。
 教師が生徒を信用して、悪いことでもあるのかね?」
 これ以上は、話す気がなさそうだ。

「ありがとうございます、オールド・オスマン」
「すまんの、ミス・タバサ」
 セッコの話も興味深い。しかしオスマン氏の視線が、“出ていかなきゃ無理にでも退室させる”
 凄みを放っていたので、仕方なく礼をして部屋を出る。
 フリッグの舞踏会(で出される料理)を想像すると、少し心が安らいだ。



 タバサが出て行くのを確認し、ヒゲジジイがこっちに向き直り口を開いた。
「質問に答える前に、それをどうして持ってきたか聞いてもいいかのう?」
「宝物庫に入って探して来た。正しく質問に答えて貰う為によお」
 鋭い目でオレを見る。
「そうではない。私が聞きたいのは場所や理由ではなく、手段じゃ」
 糞、食えねえヒゲだ。
「フーケと戦ってる間に思い出した、オレは地面や壁に潜れるってな。多分[左手]とは関係ねえ」
「思い出したとな?」
「オレは、自分についての記憶があいまいなんだ。理由は知らねえ」
「なるほどの。じゃが、その力は余り人に見せん方がいいのう」
 んなこたあ言われんでも分かる、基本だろうが。
「てめーボスだろう。だから教えた」
 ヒゲが妙に嬉しそうだ。
「そうかそうか、では質問を聞こうかのう。できるだけ力になろう」
「校長先生よお~、[破壊の杖]とこの[弾]の使い方を知ってんのかあ?」
「ああ。それがどうかしたかね?」
「オレは多分、ここじゃねえ場所の人間だ。それはオレが昔居た所の武器だ」
 ……多分な。

「本当かね?」
 多分な。

「それのことを知ってんだよな?なら、オレの記憶や居た場所についての手がかりも、何か教えてもらえるんじゃねーかと思って」
 ヒゲがため息をついた。
「残念だが今は無理じゃ。それを私にくれたのは、私の命の恩人じゃ。
 使い方を教えてくれたのもな。だから直接は知らんのじゃよ」
 当てが外れたかなあ。
「そいつはどうなったんだ?」
「死んでしまった。今から、30年も昔の話じゃ」
 畜生、結局振り出しか。

「うう……」
「すまんのう。だが、これなら知っておるよ」
 ヒゲが俺の左手を掴んだ。
 そう知りたいわけではないが、一つずつでも疑問が解決するのは気分がいい。
「ガンダールヴの印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」
「伝説ぅ?」
 伝説だから光るのかあ。確かにモグラやシルフィードの印は光ってなかった。
「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる[武器]を使いこなしたそうじゃ。[破壊の杖]について細かく分かったのも、そのおかげじゃろう」
 推測かよ。
「うー、むぅ……」

「どうしてそうなったかは分からん」
 ヒゲがきっぱりと言いやがった。知ってるつって形だけじゃねえか。
 結局、オレは一体何なんだ。
「力になれんですまんの。ただ、これだけは言っておく。私はおぬしの味方じゃ、ガンダールヴよ」
 ヒゲはそう言うと、オレの手を強く握った。
「よくぞ、恩人の杖を取り戻してくれた。改めて礼を言うぞ」
 どいつもこいつも、何であれが杖に見えるんだあ?
「わかった」
「おぬしがどういう理屈で、ここに現れたのか、どうして記憶が抜け落ちているのか、私なりに調べるつもりじゃ。でも……」
「でも?」
「何も分からんでも、恨まんでくれよ。記憶を消す魔法や壊す薬はあっても、取り戻すものは現状存在しとらんしのう」
「……」
「なあに。ここだって住めば都じゃ。嫁さんだってさがしてやる。
 あと、今日は[フリッグの舞踏会]がある。まあパーティじゃな。飯もうまいぞ」
 それはいい。早速食いに行こう。ルイズに怒られる気はするが、正当な報酬だ。
 ヒゲの目が再び鋭くなる。
「それとな、そいつを、[弾]をちゃんと元に戻しといてくれよ。こっそりとな」

 このヒゲに逆らうのはやべえ、ルイズの次ぐらいに。本能が告げてやがる。
「……わかった」


 食堂の上の階が、大きなホールになっている。舞踏会はそこで行われていた。

 テーブルにつき、目の前の料理を貪る。
 あれ……?甘くねえのにうめえ。
 何故だろう、味覚が少し回復している。
 何かがオレに起こっているんだろうか?
「お前、さっきから食いすぎじゃねえのか」
 背中からデルフリンガーが話しかけてきた。
「あいつに比べたら普通だぜえ」
 斜め向かいに視線を向けてやった。
 黒いパーティドレスを着込んだタバサが、それにも拘らずオレと変わらない勢いで料理を平らげている。化け物か。

「おでれーた……」

 その時、ホールの扉に控えている呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げる声が聞こえた。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」
 随分と遅かったなあ、何やってたんだあ。まあ飯の方が大事だ。
 テーブルに向き直り、食事を再開する。

 少しすると、白いパーティドレスを着たルイズが声をかけてきた。
「楽しんでるみたいね」
 いきなりだったのでちょっと料理がむせる。
「うおっ、おっ」
 えーと、あれはどういう表現だったっけなー。
「胡麻にも衣装、じゃなくて……猫にも衣装、……は違う……うぐぐ……独楽にも衣装でもなくて、巫女の衣装……」
「何意味わかんないこと言ってるのよセッコ」
「ハハハ、[馬子にも衣装]だな、ちげえねえ相棒」
 デルフリンガーが聞いてもないのに助け舟を出しやがった。知ってんだよお、ちょっと忘れてただけだあ。
「失礼ね」
「ヴぇ」
 デルフリンガーが殴られる。正確に思い出せなくてよかったぜ。
「あんたもよ、セッコ」
「……いてえ」
 全く、この体のどこにそんな力がありやがるんだ。
「ま、今回は許してあげるわ、セッコ、わたしと踊りなさい」
 こいつ何言ってやがるんだ?
「オレはこの料理があればそれでいいんだがなあ」
「いいから」
「何でだよお、踊る相手なんていっぱいいるんじゃねえのかよ」

「あのね、ありがとう」
「はあ?」
 わけがわからねえ。
「その……フーケのゴーレムに潰されそうになったとき。
 助けてくれたんじゃないの?キュルケから聞いたわよ」
「それが仕事だってルイズオメーが言ったんじゃねえか」
「いいから。踊りなさい、命令よ!」

 なるほど、ルイズなりの礼のつもりなのかあ。まあ腹ごなしに付き合ってみるか。
 本当は飴の方が嬉しいんだけどな。
「わかった。……だがよお、オレは踊りなんてわからねえ」
「わたしに合わせてくれればすぐ慣れるわよ、あなたなら」
「わかった」
……たまには悪くねーなあ。

 そんな様子をテーブルに立てかけられたまま眺めていたデルフリンガーが呟いた。
「おでれーた!」
 二つの月がホールに月明かりを送り、ロウソクと絡んで幻想的な雰囲気をつくりあげている。
「相棒!てーしたもんだ!」
 踊る相棒とその主人を見つめながら、デルフリンガーはおでれーた!と繰り返した。
「主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、初めて見たぜ!」

 料理を胃に流し込みつつ、一部始終を見ていたタバサは思った。
 使い魔的教育が一段落したら、シルフィードにダンスを教えてやろう。と。




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