ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-35

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匿名ユーザー

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 珍妙な帽子を被った男が机のケーキを見て何やら喚いていた。
「なんで残り4個なんだよクソッ!なんて縁起悪ィんだ!」
「それなら最初から3個にしておけばよかったじゃあないですか、ミスタ」
「そうなんだがよぉーー……まだ、クセが抜けきらねーで、つい5個買っちまうんだよ……」
 ブチャラティ。アバッキオ。ナランチャ。フーゴ。
かつて5人だった仲間は、新入りの……現在、パッショーネのボスであるジョルノを除いて全て居なくなってしまったのだ。
「そうですね…ですが、彼らの意思は僕達が受け継いでいるんです。それに……フーゴだって時間が経てば戻ってきてくれますよ」
『サン・ジョルジョ・マジョーレ島』で組織を裏切った時、唯一その場に残ったフーゴだが、彼なりに協力をしてきてくれていた。
 ディアボロを倒し組織を掌握した際フーゴが戻ってきてもいいように体制を整えていたが、フーゴ自身がそれを許さなかったようで戻るには至っていない。
 やはりブチャラティ、アバッキオ、ナランチャが死んだ事に負い目を感じているのだろう。

「ミスタァーーーウエエエーーーンハラヘッタヨォ~~~~~」
「おいおい、だから言ったろうがよォ~~~4は縁起が悪りーんだ我慢しろって…!」
「モウガマンデキネーーヨミスタァーーーー!クレークレーーー」
 ミスタがピストルズ達をなだめているが、収まりそうにない。
 それを見たジョルノだが、薄く笑みを浮かべ言った。
「好きにして構いませんよミスタ。今日はもうやる事は特にありませんからね」
「お!?そうか、悪りーなジョルノ!」
「アギャギャギャギャ!メシ食イニイクゾーーーー!」
「何かスゲー美味いトマトを使った料理を食えるとこがあるらしいんだが、オメーも行くか?」
「そんな店ができたんですか?残念ですけど、トリッシュがこっちに来るらしいんで、一人で行ってきてください」
「出迎えってやつか。パッショーネのボスもトリッシュだけには敵わねーらしいな」
「そういう事です」
「日本でやってたクオーコ(コック)が里帰りしてきて、知り合いの店手伝ってる間だけらしいから、行くならオメーも早い方がいいぜ」
 そう言うとアギャギャギャギャと騒ぐピストルズ達を連れミスタがドアを開け外に出て行った。

「さて、店はこっちだったな」
 軽い足取りで歩くが、何かに正面からぶつかった。
「うぉぉぉ!いてて…なんだじーさんじゃあねーか。立てるか?」
「あ……ああ、スイマセンがああああ、手を貸してくれないかなあああああ」
 倒れている老人と、立っているミスタ。
 面倒だったが、状況的に見て放置すると色々と誤解を受けかねない。
「しょうがねぇな……ほらよ。俺は今から飯食いに行くんだから早くしてくれよ」
「それはそれは……」
 老人がミスタの手を両手でガッシリと掴み立ち上がるが…次に言った言葉はミスタをブッ飛ばすに十分だった。
「だが、お前は、もう何も食えないさ……ミスタ」
 あまりにも覚えのある状況と台詞。
 唯一自分が、何も出来ずに敗北した相手を思い出すが、ヤツはブチャラティに列車から突き落とされ死んだはずだ。
 だが、これは……!
「て、てめェーーーー!まさか!!」
 片手で銃を抜き老人に向けるが、あの時と同じなら間に合わない。
 そう思い、何とかジョルノに遺す術を張り巡らせたが、『それ』はやってこなかった。
「はて……?何か言いましたかなああああああ?」
「と、とぼけるんじゃねぇーーーーーッ!オメー今、確かに俺の名を言ったじゃあねーか!」
「ここ最近、曖昧になりもうして、よく覚えとらんのですよおおおおお」
 銃を突きつけられている事にも関わらず変わらないペースで老人がそう答える。
 周りも騒がしくなってきたようだ。老人に銃を突きつけている男。どう考えても分が悪い。
「チッ!」
 手を振り解くと、その場から逃げるかのように走り去った。

「ジョルノォーーーーーーーーーーーー!!」
「ずいぶん早かったですね。トリッシュならもう来てますよ」
 扉を蹴破らんばかりに入ってきたミスタに少し眉を潜めたが、まぁ何時もの事だと思い大して気にしていないジョルノだったが
 次にミスタが言った台詞には、さすがに反応せざるをえなかった。
「暗殺チームの……確か……そうだ!プロシュートが生きてたんだよッ!!」
「……それは無いはずですよミスタ。見間違えじゃないんですか?」
「いや、マジだって!」
「考えてみてください。ブチャラティから聞いただけですが、150キロの列車から突き落とされたんですよ?万が一生きていたとしても再起不能なはずです」
 なおも食い下がるミスタに少し辟易したのか、ジョルノが何があったのか聞き出す事にした。
「とりあえず、落ち着いてください。何があったんですか?」
 さっきあった事をミスタが説明をするが、当のジョルノは何かこう…何時もと変わらない表情だったが、何かを諦めたような顔をしている。
「つまり手を掴まれて、あの時と似たような事を言われたからそうだって言うんですか?」
「オメーは直にあいつを相手にしてねーから分からねーだろうが…!ありゃマジで本人だぜ!?」
 必死になってミスタがそう力説するが、ジョルノは醒めた目でミスタを見ている。

「……ミスタ。確かに僕はパッショーネに入団する時ブチャラティに『やるのは個人の勝手』と言いましたが……貴方が手を出すとは思っていませんでしたよ」
「……?何が言いてーんだ?ジョルノ」
何かこう、ガッカリしたような口調だ。
「腕を見せてください」
「お、おう」
 腕を見せるが、ジョルノは腕の真ん中あたりを凝視している。
「……痕はありませんね。吸引系ですか?」
「ジョルノ…オ、オメーまさかとは思うが……!」
「マリファナかコカイン……どのルートを使って手に入れたんですか?僕が組織を乗っ取ってから麻薬チームは解散させたはずです」
「薬じゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 その日最大の叫びがその場に響いた。

「大声出して何やってるの?」
 奥から出てきたのは、ディアボロの娘、トリッシュだ。
「ええ、ちょっとミスタが麻薬を…」
「違うっつってんだろーがッ!!」
「……違うんですか?」
「たりめーだ!」
「何があったのよ」
 状況を知らないトリッシュにさっきあった事を説明したが、似たような反応だ。

「いいですか?さっき手を両手で掴まれたと言いましたよね?」
「ああ、そうだぜ」
「ブチャラティが言うには、もう一人のスタンドを利用してスティッキィ・フィンガースを叩き込み、彼の右腕を切断して突き落としたんです」
「ブチャラティは嘘を見抜いても嘘を付く理由は無いから、そのとおりなんでしょうね」
「時速150キロで地面に激突したんです。生きていたとしても
 僕のゴールド・エクスペリエンスで部品を作ったのならともかく、そんな手が無事にくっつくはずがありませんよ」

「で、でもよォーーーー!確かに『だが、もう何も食えないさ…ミスタ』って言ったんだよそいつは!
 銃を抜いちまって騒ぎになったから、それ以上追求できなかったけどよォーーーー」
「……それだけの情報なのに街中で銃を抜いたんですか?…しかも老人相手に」
「スタンド使いに襲われたんだから当然だろうがよ」
「……トリッシュ」
「……ええ、分かったわ、ジョルノ」
ジョルノに促されトリッシュが電話を取り、どこかに掛け始める。

「……どこに電話してんだ?トリッシュ」
「ミスタ、ちょっとそこに座っててください」
 ミスタが椅子に座ると同時に、ロープを持ってきたジョルノがスタンドで手早くミスタを縛った。
「な、なにすんだてめェーーーーーー!」
「じっとしててください。時間がかかるかもしれないんで」
「ト、トリッシュ!オメーも何か言え……」
 トリッシュの方を見るが、その話し声を聞いて愕然とする事になる。
「……ヴェネツィア総合病院ですか?……ええ、そうです。精神科のベッドの予約を一つ……名前は『グイード・ミスタ』でお願いします」
「な、なにやってムゴォ!」
 そう叫ぶミスタをジョルノが手早く猿轡で黙らせる。
「心的外傷後ストレス障害……PTSDですね。さっさと入院して良くなってくださいよ」
「ウンガァァァァァアアア(違うつってんだろーが!)」
「何です?聞こえませんよ。そんなに不安なら氷でも持っててください」
「ウンゴォォオオオオ(オメーが話せないようにしたんだろーが!)」

グイード・ミスタ―ヴェネツィア総合病院 精神科に強制入院
             スタンド名『セックス・ピストルズ』

 簀巻きにされ、どこかに運ばれるミスタを建物対面のオープンカフェに座った壮年の男が薄く笑いながらそれを見ていた。
「ああはなるとは思ってなかったが…ま、恨むなら信用されてないテメーを恨めってこったな」
 そして机の上の紅茶を口に運ぶが、一口飲んで顔を顰めた。
「…………不味い」
 どうにも合わない。以前ならそうでもなかったろうが、『向こう』に居たせいで味覚が変わったらしい。
 貴族用の茶の葉。ネアポリスのある意味淀んだ水とは違う天然水。
 どう見ても、味に格段の違いがある。
 金を払わずに店を出るが、その時『青年』になっていた男は誰にも気付かれる事無く外に出ることが出来た。

 再び自身を多少老化させ懐からサングラスをかけ街を歩く。
 髪も結構伸び、それを降ろしているため見知った顔に見られたとしてもバレる事は無いだろう。
「さて……どうすっかな」
 ミスタにちょっかい出したとは言え、現在のボス―ジョルノを相手にする気はさらさら無かった。
「まさか、あの新入りがボスを倒してるとはな」
 この5日間、組織の事を調べたが、ボス―ディアボロが倒されジョルノにパッショーネが乗っ取られている事を知る。
 ディアボロが相手なら何があろうとも暗殺を慣行するが、ブチャラティの新入りがボスの座に収まっていると知りそんな気は雲散していた。
 まして、暗殺チームは壊滅しているのだ。結末を知り心に納得する事はできたが、やる事が無くなっていた。
 良く言えば自由。悪く言えば暇。

 ちなみにゼロ戦は発見された後、日本に運ばれたらしい。
 大戦中の戦闘機が稼動状態で見付かったのだ。ニュースにもなっている。
 気付いた時は燃料ギリギリでルーンも消えていたため危うく墜落しそうになったのだが、操縦法は辛うじて覚えていた事で何とか建て直し着陸を慣行する際にメローネが「後輪からディ・モールト優しく着陸するんだ。前輪から着陸すると教官に怒られるからな!」と言っていた事を思い出し、何とか墜ちる事無く戻る事ができた。
 航空機の着陸の基本だそうだがゲームの受け売りだ。タイトルは『パイロットになろう2』

「国外(そと)に出るか」
 イタリアでは見知った顔が多すぎる上に、それなりに襲われる理由もある。
 金はあった。ポルポの隠し財産ではないが、ソルベとジェラードが殺された日から緊急用としてチーム全員が出し合い貯めた金が一括され隠されていた。
「悪りーな、オレ一人で使っちまう事になりそうだが……先に逝ったオメーらには必要ないだろ?」
 納得させるようにそう呟くと、さっそく行動すべく動き出していた。


 草原に立つのは桃赤青の三色。後、太陽光を反射するのが一つ。
「まだ一週間しか経ってないけど…ホントにもういいの?ルイズ」
「もちろんよ、神聖で美しく、そして、強力な……あいつに負けないぐらいの使い魔を呼ばないといけないんだから」
 二日程引き篭もっていた事を知っているため、それなりに心配し聞いたキュルケだが、そう答えるルイズを見て、結構成長したわねと素直に感心していた。
 かくいう本人も帰ったと聞かされた時は小一時間ほど呆然としていたのだが、立ち直りは早かった。
 学院に戻ってきたシエスタにも話したのだが、ゼロ戦が日食の中に消えていく様子を見て、もうスデに知っていたようだった。
 何時もと変わらない笑顔だったが、どこか寂しそうに見えたのはルイズだけではあるまい。
 表情を崩さなかったのはタバサぐらいか。
 ちなみにコルベールはゼロ戦が消えた事にもんのスゴイショックを受け徹夜の影響もあり3日程寝込んでいた。

 ストレングスが沈黙した後、戦意喪失したアルビオン地上軍であったが、『レキシントン号だッ!』やストレングスの砲撃でトリステイン軍も一杯一杯だった。
 両軍疲弊の半ば引き分けのような形だったのだが、帰る手段を失ったアルビオン軍が降伏するという形で終結した。
 戦勝パレードの後に戴冠式も行われアンリエッタの婚姻も消し飛んだらしい。
 なにせ、トリステイン単独で精強なアルビオンを破ったのだ。何もしていないゲルマニアに対し強気に出る事ができるのは当然だ。

「では、ミス・ヴァリエール。サモン・サーヴァントを」
 コルベールがそう促すとルイズが一歩踏み出し詠唱を始める。
 あの時とほとんど同じだが、ただ違うのは指に嵌めた水のルビーと虚無の使い手であるという事。

「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよ
 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よ!わたしは心より求め、訴えるわ…我が導きに、答えなさい」
 杖を振り下ろすと……爆発が起きた。

『イタリアで発見された、旧日本海軍所属『佐々木武雄少尉』が登場していたと思われる零式艦上戦闘機が、修復を終え展示され……』
 街頭テレビのニュースがそう伝える街を、髪を整えスーツでキメたプロシュートが歩いていた。
 言葉は分からないが、映像を見る限りあのゼロ戦だと判断したようだ。

 二日経ち場所は、ある者は魔都と呼び敬遠し、またある者は聖地として崇める混沌の地。かの有名な秋葉原。
 外国人ですら知れ渡っているため、外人は珍しくはないが…どう見ても場違いというか、ぶつかったりしたら狩られそうなので皆避けていた。
「メローネのヤロー……よくこんな場所に入り浸ってたな……」
 つくづく感心する。訪れた理由は、ただ単にメローネが入り浸ってた場所に興味があったからだ。
 訪れてから結構後悔したが先に立たず。

 メイド喫茶なるものを発見した時なぞ、敵スタンドに襲われた時よりブッ飛んだ。
 元ギャングと混沌の街『秋葉原』。カルチャーショックを通り越してデカルチャーである。

 当面の定住先として日本を選んだのは幾つかあるが、入国関連の審査が甘い事と簡単に身分を偽造できるからだ。
 その気になればイタリア語講師で食っていけるだろう。

「なんでメイドが居るだけで、あんな馬鹿高い金取られるんだ?理解できねー」
 まぁ店先で立っていた、セミロング黒髪メイドを見た時、シエスタを思い出したのだが。
「ま……もうオレの関われる事じゃあねーな」
 行ける場所なら、する事が無くなった以上、ペッシようなあいつらの面倒見てもいいとは思うが、もう関わりの無い事だ。
 金はまだまだあるとは言え限りがある。とりあえず食っていかねばならない。現実的な問題は山積みだった。

「う~~~~パソコン、パソコン」
 今、修理が終わったノートパソコンを求めて全力疾走している俺は高校に通うごく一般的な高校生
 強いて違うところをあげるとすれば出会い系に興味があるってとこかナ―――
 名前は『平賀才人』
 そんなわけで秋葉原にあるPCショップにやってきたのだ

 修理が終わったパソコンを受け取り、ウキウキ気分で家路に着く途中、思いっきり人にぶつかった。
「いってぇな……前見て歩けよ……」
 余所見していたのは思いっきり彼である。だが、せっかく修理したパソコンが壊れては洒落にならないという考えからそんな言葉が出た。

……出たのだが正面を見て後悔した。
 外人だ。それもこんな場所にも関わらずブランド物っぽいスーツでキメている。
 彼の貧弱ゥな想像力は場所に関わらずスーツ装備=マフィアor某機関の工作員という結論に達したのだった。
 そして次に取った行動は――


 軽くデカルチャーを感じながらモーゼの如く街を歩いていたのだが、人にぶつかった。
 前を見ていないわけではなかったが、デカルチャーを受けていたため気付けなかったようだ。
 もっとも、相手も前を見ていないようだったが。
 現役時代なら、蹴りが飛ぶとこだがここは日本。入国管理はザルだがイタリアと違い警察は優秀な方である。賄賂も効かない。
 ベイビィ・フェイスとは違うが携帯用のパソコンを庇うようにして少年が倒れていたので手を顔の前に差し出すと…恐ろしい速度で土下座された。

「スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!」
 必死だった。なにせ謝まるために起きようとした瞬間、腕が伸びてきて目を指でえぐろうとしてきたのだからッ!
 17年生きてきてヤクザな世界の方々とは一切関わった事が無いので、ちょっと勘違いしているご様子。
「目はホント勘弁してくださいッ!いや、できる事なら全部勘弁してくださいッ!」
 相手が外人であるという事も忘れ日本語で言いながら、『組織の工作員』だの『殺し屋』だの『血も涙も無いマシーン』だの色々な想像をしながらなおも地面に頭を打ちつけるかのように土下座をする。ハッキリ言う。スゲー目立っている。
 ギャラリーも出来始めているが誰も助けようとはしない。東京砂漠だ。この時ばかりは馴染んだこの街を恨んだ。


「なんだ?このマンモーニは……」
 目の前には叫びながら思いっきり土下座する少年。
 日本語でなにか言っているが、ポーズと照らし合わせると謝っているのだろうと思う。
 当然の事だが、目をえぐる気なぞ無い。ただ単に手を差し出しただけだが、勘違いされたようだ。

「腑抜け野朗がッ!なんだ?そのザマは!?ええ!?」
 ボギャア!ドカッ!ボゴッ!ボゴッ!ボゴッ!

(ペッシならこうだな…)
 少年を踏みつけていたようだが、どうやら想像だったようだ。
 説教したい衝動に駆られていたが、その姿が同じ黒髪のもの凄い勢いで人に謝り倒すメイドと被った。
「日本人ってのは皆こうなのか?」
 ちょっとばかし偏見だが、出会った二人がこうなのだから仕方あるまい。
 ギャラリーも出来てきたので面倒ごとになる前にカタを付ける事にした。

「スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマはぐぉ!」
 土下座していると、頭に衝撃。なんだ、凶器か、凶器で殴られたのか。
 バールのようなモノ。という凶器名が思い浮かんだが、よくよく考えれば衝撃が軽すぎる。
 恐る恐る顔を上げると、その外人が呆れたような顔で犬を追い払うかのような手をしながらこっちを見ている。
「い、行っていいって事ですかね……?」
 当然日本語だから返事は無い。
 恐る恐るその場を離れる。走らない。走りたいけど走ったら逃げたと思われ何か追われそうだったからだ。
 ゆっくりと歩きながらその場を離ようとした時『マンモーニ』という単語だけよく聞こえたのだが
 イタリア語なんぞ知ったこっちゃあないし怖かったので気にせずその場を離れる事にした。

「このマンモーニが」
 恐る恐る、背を向け歩き出した少年に向け、そう言い放つ。
 歳は分からないが、10代後半といったとこだろう。
 その時スデにギャング世界に片足突っ込んでいたオレ『達』に比べてなんっつー平和な世界だと思ったのだが本来これが正しい世界なのだろうとも思う。

 スーツのポケットに手を入れると何かある感触。
 取り出してみると少しばかり驚いた。
「ヤッベ……そのうちオレが渡すと言ってたが……返すの忘れてたな」
 手にするは大きなルビーが付いた指輪。風のルビーだ。
 こちらの世界では盗品というわけではないから裏で売ろうと思えば、かなりの高値で売り捌ける。これからの事を考えるとそうしてもいい。
 だが、そうする気は無い。
「持ってきちまったもんは仕方ねーな」
 手で弄びながら歩く。さっきの少年と同じ方向だ。
 しばらく歩いていると、正面に光る鏡のような物体を見た。
「……マン・イン・ザ・ミラー、イルーゾォか!?」
 暗殺チーム、鏡の中のスタンドと本体の名前が出る。
 戻った時、新聞を漁ったりして仲間の墓は確認したのだがイルーゾォだけ確認できなかった。
 もちろん状況的に見て、その可能性は低い。
 実際、パープルヘイズでドロドロに解けて死体が残らなかっただけだが、一瞬でもそう思わせるには十分だ。
 思ったらなら行動する。スデにそちらに向け走り出していた。

 先ほどのウキウキ気分から一転。かなり凹んだ感じで歩いていると何か嫌な予感して後ろを振り向いた。
「ok。これはドッキリだ。ドッキリテレビだな?皆して俺をハメようとしてるんだ。だからさっき誰も助けてくれなかったんだ」
 言うまでも無いが軽い現実逃避である。
 だって後ろを振り向けば、さっきの才人の中では『工作員』『殺し屋』『殺戮マシーン』と認定された外人が後ろに┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨という文字が浮き上がらんばかりにこっちに走ってきたのだから。
「最近ネタが無くてまた始めやがったな!カメラはどこだ!?」
 必死こいてあたりを見回すが当然そんなものは無い。
 だが、前方の光る鏡のような物体に気が付いた。
「カメラはアレだな!」
 そう思った瞬間走り出す。これがカメラじゃなかったら死ぬ。
「もうホント、今時ドッキリなんて流行らないからやめろって!」
 そういう思いに支配されていた彼は迷うことなく、その物体に触った。

「あのマンモーニ……!鏡に半身を…やはりイルーゾォか!」
 あの少年をイルーゾォが襲う理由は分からないが、元暗殺チームだからそういう仕事を続けているのだろうと思った。
 別段、かれこれ言うつもりは無かったが、自分より先に死んだと思っていたイルーゾォが生きている。
 鏡の中の世界は許可された物しか通る事はできないが、向こうからでもグレイトフル・デッドかこちらの姿を見れば分かるはずだ。
「グレイトフル・デッド!」
 スタンドを発現させ少年の腕を掴もうとする。
 そんなもので止まらないというのは当然承知の上だ。
 これで少なくともグレイトフル・デッドの存在には気付く。
 だが、腕を掴もうとした瞬間、どこからか虹のような光が出ているのを見た。
 腕を掴み発生源を確認すると発生源は握っていた右手の中だ。
「なんだ……?こい……つ……がッ!」
 向こうで喰らった『ライトニング・クラウド』程ではないが似たような衝撃を受け意識が遠くなる。
「なん……だ……!?マン・イン・ザ・ミラー……じゃあ…ねぇ……!」
 迂闊だったと思うが、スデに遅い。
 ただ、意識が途切れる瞬間、前にもどこかで似たような感覚を受けたと体が覚えていた。

「……なんでまた爆発なのよ」
「ま、そう簡単にいかないってことよ」
「臥薪嘗胆」
 虚無に目覚めたのに、またハデ爆発を起こした事に凹むルイズと、虚無に目覚めたことを知らないキュルケとタバサが何時の事という感じで流すが煙が薄くなるとコルベールがちょっと『ハイ』になりつつそっちを見ていた。
 見覚えのありすぎるシェルエット。この世界では届くことの無い技術の塊。
「また、これを再び見れるとは思ってもいませんでしたぞ!ミス・ヴァリエール!」
 ゼロ戦がそこにあった。

「なんで……?プロシュートと元の世界に戻ったんじゃ……」
 そこまで思ってハッとした。
 元の世界に帰ったはずのモノが再び現れたなら、乗っていた本人も居るのではないかと。
 ゼロ戦の周りを捜すと影に脚が見える。
 期待と、また呼びつけた事に殴られるんじゃないかという二つの思いが交錯する中、その脚の先を覗き込むと黒と白の見た事の無い服を着た、自分と同じぐらいの歳の少年が倒れていた。
「……また平民かしらね」
 キュルケがルイズを覗き込む。声の調子がちょっと下がっているあたり期待していたのは同じらしい。

 以前のルイズなら、ただの平民と判断しロクな扱いをしなかっただろうが、今は違う。
 奇妙な事だが……
 悪事を働き、法律をやぶる『ギャング』、その中でも特に忌諱されるべき存在の『暗殺者』がルイズの心を成長させたのだ。
 もう、『ゼロ』などというイジけた目つきはしていない…
 ルイズの心には、まだ少しだけだがさわやかな風が吹いていた……
 自分のやった事には後悔せず前向きに受け入れていこうという気持ちが多少なりとも目覚めていた……

 だから、この少年が目を覚ました時も見下したような目はしていない。もちろん使い魔にする気ではあったが。
「あなた、名前は?」
「ってぇ……俺?……俺は平賀才人」
 その瞬間、黄金のような風がその場に流れた。

←To be continued



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