ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

死にゆく使い魔

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匿名ユーザー

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「おお、ルイズが目を覚ましたぞ!」
「よかったよかった」
 目を覚ましたルイズの目に、ギーシュとマリコルヌの顔が飛び込んでくる。
「わたし……どうして?」
 思わず呆けた声を出してしまう。状況が全く理解できない。
「出航直前に、あのロマリオの神官が、眠っている君をこの船に連れてきたんだ」
「……ここ、船の上?そ、そうだわ!敵軍を止めなきゃ!」
 ギーシュとマリコルヌは、怪訝な顔でルイズを見つめた。
「敵軍を止める?」
「これはロサイスを出航する最後の船だよ。撤退は間に合ったのさ!」
「……え?」
 わけがわからない、迫ってくるアルビオン軍はどうしたというのだ?
「そうそう、あの神官、君が目覚めたらこの手紙を渡してくれって」
「手紙?」
 ギーシュから手紙を受け取ったルイズは、そこに彼女の使い魔の名前が書かれている事に気付く。
「……そうだわ、あいつはどうしたの!?」
「あいつって……君の使い魔かい?この船には乗ってないけど……」
マリコルヌの言葉に、ルイズはいいようのない不安を感じ、手紙を開く。

死にゆく使い魔


 ルイズ、お前がこれを読んでいるのは、撤退する船の上でだと願う。
 ルイズ、以前俺は不思議な『能力』をもっていると話したことがあったよな?
 お前は信じなかったが。
 無理も無いな、死んでから始めて発動する『能力』なんて。
 だがあれは嘘じゃない。
 俺の能力、『スタンド』というのは、その人間の精神と深くかかわっている。
 だからかな?俺が使ったことも無い『スタンド』の力が分かるのは?
 そう、俺の精神はその能力に相応しかった。
 世の中の全てを、自分自身をも憎んで、そして全てをぶっ壊したかった。
 そんな俺が犯罪組織に入ったのも、自然な事だった。
 その組織の入団テストで『スタンド』に目覚めた時、俺が何を考えたか分かるか?
 絶望?恐怖?
 いや、それは歓喜だった。
 嘘じゃない、思わず笑い出してしまったほどさ。
 自分の命と引き換えに、このクソったれの世界を壊しまくる力。
 これこそが俺の求めていた物だと、本気で思った。
 俺の力を知った組織のボスは、俺を切り札として温存させる事に決めたようだった。
 何もしなくても金が入ってきたからな。
 ボス自身、俺をどう使うか決めあぐねていたかもしれない。
 そりゃそうだ、俺自身、俺の『スタンド』の止め方が分からないんだからな。
 それで俺は、俺の『スタンド』の出番が何時来るか、楽しみにしながら待ってた。
 別に、勝手に力を使ってもよかったが、『スタンド』に目覚めさせてくれた『恩』を別に感じたわけじゃないが、俺の力を使えと言ったボスが、俺の『スタンド』に殺されるかもと考えると、愉快でたまらなかった。
 そんなことを考えるのは、俺にとってなによりも楽しい事であり、それだけしか俺の心は動かなかった。
 そして、ついにその『時』が来た。
 ボスから裏切り者を消せと指令が来た。
 最初で最後の指令。

 いざその時になって、俺は笑ったと思うか?それともやっぱり恐くなったか?
 いや、なんにも無かった。
 恐くもねえが、嬉しくもねえ。
 自分でも不思議だったが、とにかく待ちに待った瞬間なことに間違いない。
 俺は指令通り裏切り者達の所に行き、俺に鉛弾を打ち込んだクソ野郎を恨みながらスタンドを発動させ、死んだはずだった……
 しかしなんの因果か、次に気付いた時、俺はお前の使い魔になっちまってた。
 全く、ひでえ事になったと、思ったぜ。
 くだらねえ人生からおさばらできたと思ったら、しょうもないワガママ娘の世話をさせられるハメになったんだからな。
 何故俺が、小娘の下着なんぞ洗濯しなきゃならんのだ?
 何故あのマンモーニに、一方的に因縁つけられて決闘せんといかんのだ?
 何故勝手に意地を張るお前を、ゴーレムからを守る必要がある?
 何故お前を騙したあの馬鹿子爵に怒りを感じちまうんだ?
 数えあげたらキリがねえ……
 けどな、お前たちと一緒にすごすようになって、なんであの時、俺が何も感じなかったのか気付いたんだ。
 俺はこれまでの人生で本当の意味で『生きて』いなかった。
 そしてなんで俺が世界をぶっ壊したかったか分かった。
 俺は『生きている』奴らがうらやましかったんだ。
 俺は『生きよう』とすらしてなかったのにな。
 だが今はもう違う……俺は今『生きて』いる。
 おかげで恐くて恐くてしかたがねえんだぜ?
 なんせ今から7万の軍勢に立ち向かわんなきゃならんからな。
 たぶん、いや確実に俺はスタンドを発動させるだろう……

 ルイズ、お前に頼みがある。
 俺の『スタンド』を殺して欲しい。
 そのままにしておけば、俺の『スタンド』は全てを食い尽くすかもしれん。
 心配は要らない。
 なんでかわからんが、今の俺は無敵だと思っていた俺の『スタンド』の弱点が分かる。
 あと……お前の虚無でも、たぶんやれると思う。
 いや、お前にならやれる!絶対にだ!

 なあ、ルイズ。
 お前には礼を言っても言い切れない。
 俺は生まれながらの死人だった。
 たちの悪い事に、生者の輝きを憎む死人だった。
 でもな、俺はやっと生きるという事と、人生の素晴らしさを理解できたんだ。
 ありがとうルイズ。
 そしてさようなら、俺の愛しいご主人様

 君の使い魔だったカルネより



「なによ……これ?」
 涙で視界が歪む。
「なあ、その手紙は何が書いてあるんだい?ルイズ?
 ど、どうしたんだい、何を泣いて……」
「カルネ!」
 ルイズは絶叫すると、柵を飛び越えて、地面に飛び降りようとした。
「お、おい!死ぬ気か?」
「おろして!お願い!」
 半狂乱になって暴れるルイズを、必死で止めるギーシュとマリコルヌ。
「無理だよ!下にはもう、味方はいないんだ!」
「おろして……!」
 ルイズの絶叫が、遠ざかるアルビオンに向けて響いた。


「相棒が……相棒がいっちまった…」
 トリスタニア軍がいなくなったロサイスの郊外で、デルフリンガーが一人寂しげにつぶやいた。


 痛い苦しい熱い冷たい死にたくない今すぐ逃げてしまいたい
「そうはいかねえよな…」
 致命傷を何度も受けたカルネがつぶやいている間にも、次々と魔法が飛んでくる。
 伝説のガンダールヴの力といえども、もう限界らしい。
 もっとも適当に失敬してきたナマクラはとっくの昔にへし折れてるが。
「いよいよか……」
 一際大きい火球が迫り来る中、カルネはあらん限りの力で叫ぶ。
「ノトーリアス・B・I・G!」


死にゆく使い魔 ~完~


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